かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
「天使vs 死んだ世界戦線、チキチキ! 三本勝負~!!」
どんどんぱふぱふーとおめでたい音が体育館に響き渡る。
愛上に呼びつけられて集まっていた戦線メンバー達は、その音に合わせるようにステージの上でマイクを持って楽しそうに小躍りする愛上を呆然と眺めていた。大まかに何をやるかは聞いていたが、思った以上に緊張感のない感じだったため、つい呆れた感じになってしまったのだ。
俺らの10mほど先にはジャージ姿の天使もいるが、何を考えているかはいまいち読み取れない。
「ちょっと愛上君。私たちは、天使との勝負に勝ったらなんでも命令できるって言われたからわざわざ来たんだけど、こんな適当な感じだとは聞いてないわよ」
どうやらゆりっぺも同じことを考えていたようで、怖い顔で愛上に質問していた。
あと、説明ご苦労様だ。
「あんまり殺伐とした感じになっても怖いじゃん? だからちょっとマイルドな空気感を出しているだけだよ。そう怒らないでって」
まぁまぁとゆりっぺをなだめる愛上。こいつ、いつもゆりっぺをなだめているような気がするな。ていうか、こいつがいつもゆりっぺを怒らせてるだけなんだろうけど。
俺と大山でもゆりっぺを落ち着かせると、愛上が説明に入った。
「今から3つの種目、それぞれ一対一で天使と戦線に戦ってもらいます。2勝したほうが勝ちで延長戦はありません。勝ったほうは相手になんでも一つ言うことを聞かせられる権利があり、それぞれの願いは先に俺に提出してもらいました。倫理的にやばい願いとかだったらさすがにまずいからね。んで、天使サイドの願いは『一か月授業に参加すること』、戦線側の願いはというと、」
「あ、ちょっと待ちなさい。私たちの願いの発表は勝った時に発表してくれたらいいわ」
「え、でも」
ゆりっぺのその要望に愛上は少し困った顔を浮かべ天使の方に目を向けた。
「愛上君の審査は通ってるのよね?」
天使が愛上のアイコンタクトに答えるようにそうつぶやいた。
「ああ、とてつもなくひどいもんではないな」
「じゃあそれでいいわ。私が負けたら願いの内容を聞くわ」
愛上は未だに困惑の表情を浮かべている。なかなか珍しいこともあるな。
にしても『とてつもなくひどいもんではない』って、そんなに安心できる言葉か? それなりにはひどいんじゃないのか?
「ねぇ、日向君。ゆりっぺの願いってなんだと思う?」
背中をつんつんとつつかれ、大山からそんな質問が飛ばされた。
「普通に考えたら『神のもとに連れて行きなさい』とかじゃないか? 俺らの目的ってそれだし」
「そうだよね。僕もそう思ってたんだけど、愛上君の反応を見ると少し怖くなっちゃって」
「ゆりっぺさんのことですからね。もしかしたら『一か月私の椅子となりなさい』とかかもしれませんよ」
「流石にそんなことはないでしょう。というかそう信じたいです。
遊佐と高松までゆりっぺの願いには疑問があるようで、俺らの話に加わってきた。
遊佐、そんな発想が出てくるお前も相当だぜ? 俺はせいぜい『メイド服で一か月ご奉仕』くらいだと思っていたんだが。
「ちょっとあんたら、そんな好き放題言わないで頂戴。ちゃんとした願いよ。戦線のためになるような、ね」
きらりんと俺らに向かってウインクしながらそんなことを言うゆりっぺ。その快活さが逆に怖いぜ。
「じゃあ、どんなお願いなんだよ」
「それは聞いてのお楽しみよ」
教えてはくれないんだな。まぁゆりっぺが『戦線のためになる』って言ってんならきっとそうなんだろうし、信じるけどさ。
「それでは最初の勝負に行きたいと思います! 第一試合は『ポロリはないよ。チキチキ! ガチンコ相撲~!』」
愛上がそう叫ぶと、体育館の中央の床が盛り上がり、相撲の土俵が出現した。
しかも、きちんと土で出来ており、脇には撒く用の塩まで完備している本格派だ。
「おいおい、なんだよこりゃ……」
「彼は一体……」
俺や大山、椎名などの初期メンバーはこれしきのことでは驚かないが、最近入ったばかりの藤巻、高松、松下五段あたりは目をかっぴらいて唖然としていた。TKは楽しそうにくるくると回っていた。
「では、戦線チームは出場者を一人選んでくれ」
「よぉぉぉし! ゆりっぺ! 俺を選んでく」
「そうね。松下君、お願いできるかしら?」
「うむ。任されよ」
松下はゆりっぺからの指名に即答で返事をした。きっと本人も自分が選ばれるとわかっていたのだろう。自信満々に拳を突き合わせた後、ストレッチを開始した。
無視と選ばれなかったことがショックだったのか、野田は即刻ダウンしてへこんでいる。バカさ対決でもない限り、こいつの出番はないだろう。
別に選考に不服があるわけではないが、俺も一応気になったことくらいは質問しておくか。
「おいおい、椎名っちじゃなくていいのか? いくら松下五段が柔道五段だからって、あの天使に勝てんのかよ」
「相撲って結構狭いフィールド内での勝負だから、スピードタイプの椎名さんよりもテクニックと力のある松下君の方が適任だと思うわ。それに、あと2つの種目もわからないしね。温存の意味も含めて、ここは松下君にお願いするわ」
「なるほど、確かにそうかもな。松下は大丈夫なのか?」
「相手が誰であっても、俺は正々堂々叩きのめすだけだ。それに、」
松下は一息置いて俺らの方に振り返った。
「俺は、お前たちの一緒に戦えて嬉しいぞ」
「おいおい! 微妙な死亡フラグを言うなよ! 立てるならもっと立派なフラグを立ててくれ! 振りにもならねぇぞ!」
「何気に失礼だね、日向君」
大山のツッコミを聞き届けると、松下は土俵のそばに置いてあった回しをジャージの上から付けて、土俵入りを開始した。
天使も同じく回しを付けて、何やら仰々しい土俵入りをしている。あれはいったい何なのだろうか?
「おい、あれは雲龍型じゃねぇか…!」
「なんだそれ?」
「横綱の土俵入りの一つだよ。あのやろー、俺らなんて勝負にならねぇって言いてぇのかよ」
「なんで詳しいんだよ」
藤巻の謎知識が披露されているうちに、天使と松下がすでに見合っていた。
周囲にぴりっとした空気が漂っているのがわかる。さっきまでのおちゃらけた感じとは打って変わった。
「この勝負、長くなりそうですね」
高松がボソッとそんなことを言った直後、行司の愛上による「はっけよーい、のこったー」合図と共に取り組みが始まった。
「ぬおおおぉぉぉぉぉ……」
だが始まった瞬間、松下が天使にぶん投げられ、体育館の窓を突き破り、はるか遠くに飛んで行ってしまったが。
「「「「「松下ごだあああああん!!!」」」」」
俺らの魂の悲鳴は本人には届いていないだろう。
余談だが、松下五段は後日、森の最も高い杉の木のてっぺんにぶっ刺さっているところを発見され、救助された。本人はただひたすら「スモウ、コワイ」とだけ呟いていた。
「勝者! 天使の山~!」
愛上が天使に軍配を上げ、天使が「ごっつあんです」と言ったところで、俺は高松の方に振り向いた。
「おい高松! 何が長くなりそうだだよ! 瞬きする間もなく決着したじゃねえかよ!」
「いえ、誰かがああいうことを言うと、一気に雰囲気が出るじゃないですか」
「不要な気を回すな!」
「あちゃ~、やっぱ椎名さんだったかしらね」
「お前だけは健闘を讃えてやれよ、ゆりっぺ」
そんなこんなで第一戦は天使の勝ちという形で終了した。
しかし、こんな戦闘や運動系の企画が続くようなら、俺らに勝ち目はないぜ? 徒競走とかだったら椎名っちが勝てるかもしれねーけど、それでも1勝だけだ。
なんか作戦を考えねぇとな。
そんなことを考えていると、愛上が手を叩いて注目を集めた。
「第二回戦は『美しき心は和の心から! チキチキ! 俳句勝負~!』」
なるほど、そういう勝負もあるのか。どうやら、さっきまでの俺の心配は不要なもんだったみたいだ。
愛上がタイトルを宣言すると、俺たちのところに来て、筆ペンと一枚の細長い紙を渡してきた。実物を見たことないので知らないが、きっと俳句を書くアレだろう。
というか、さっきの演出とは打って変わって質素だな。力尽きたか。
「両チームの代表者には今から『紅葉』をテーマに一句読んでもらいます。ジャッジは俺が行うが、審査に不満があるようだったら俳句が趣味の校長先生に控訴できる仕組みにしましょう」
「それでいいわ。さて、うちからは誰を出そうかしらねぇ」
ゆりっぺがそう言って、腕を組みながら俺らを見回す。
この中で俳句が得意な人間がいただろうか? 椎名っちは時代的には合っていそうだが、あらゆることを血みどろに解決しようとする彼女にはとてもじゃないが風流な句が詠める気がしない。『血の池や 人突き落とす 水の音』みたいな句が限界だろう。
「hooo! Shake my soul!!」
ゆりっぺも迷っていたところでまさかのTKが躍りながらみんなの前に出た。あれが名乗り出ているという行為なのかはわかりにくいが、流石のゆりっぺの少し怪訝な顔でTKを見た。
「あんた、俳句詠めるの?」
「Hey! I kiss you!」
「そう。じゃあ今回はあなたに任せるわ」
「おい! いいのかよ! まともにコミュニケーションもとれねー奴が俳句なんて詠めるわけないだろ!」
「でも、別に得意な人がいるわけでもないでしょ? 天使はいつも本読んでるし、きっと俳句とかも得意よ。だったら、並みの人間をだすよりもTKに賭けたほうが勝つ可能性はあるわ」
「そういえば、TKはサヴァン症候群ってやつかもしれないって仮説もあったよね? もしかしたら俳句の才能があるのかも」
「それはそれでイメージとの違くて嫌だな」
大山からのフォローもあって、どうやら正式にTKが出場者として決まったようだ。
にしても、TKに俳句のセンスか。俺は目を瞑り少しか考える。
うん、ないだろ。
あったとしても、逆に今後TKとは俳句でないとコミュニケーションが取れないとかなっても嫌だしな。
TKがしばらくペンと紙を持った状態で静止しているかと思いきや、急に動き出して、何かを書き走った。この位置からじゃ内容までは見えないが、かなり流暢に書いていたぞ。
「それでは両者とも書き終わったようなので、まずは天使さんから発表お願いします」
ドドンと太鼓の音が響いた後、天使が句を開示しながら読み上げた。
「紅葉は 麻婆豆腐と 色似てる」
なんだそれ⁈
俳句なのか⁈ ただの事実を述べただけだろ!
幼稚園児でももう少しましな句を詠めるぞ。
「しまった、天使は天然が入ってるんだった……!」
「そんな悔しそうな顔で言われても」
ゆりっぺが拳を握りしめて悔しそうにしているが、今の状況でやってもコメディにしか見えねぇぜ。
でも、ここはラッキーと取るべきか。これでこちらの勝つ確率がぐーんと上昇したぜ。TKが少しでもまともな句さえ詠んでくれれば勝機は見える!
まともな句さえ詠んでくれれば!
「それではTK先輩、お願いします」
「Yeaaaaaah!」
TKの雄たけびと共に開帳された紙にはこんな文言が書いてあった。
『咳をしても1人』
「ちっがぁぁぁぁう! 何もかもが違うわ、TK! なんでよりにもよって自由律俳句なのよ! しかもパクリだし! ここは予想外に上手い俳句を詠むか、英語で変なことを言うの2択でしょ!」
「なんだよ、じゆうりつはいくって?」
「575の定型に縛られない句のことですね。咳をしても1人というのは尾崎放哉という方の句です」
「ゆりっぺもTKも遊佐も物知りだな」
「日向さん、自由律俳句くらいは語感で察してください」
「勝者! 天使!」
愛上が特に悩む様子もなく、即座に天使に勝利判定をした。
そのことにゆりっぺは、今までTKに向けていた怒りを今度は愛上にぶつけだした。
「ちょっと待ちなさいよ! TKの句の方が風流よ! なんであんな麻婆キチ俳句に負けんのよ!」
「だって、それ盗作だし紅葉も関係ないしで滅茶苦茶じゃん。選考対象にすらならない」
「こんの、馬鹿どもがぁぁあ!」
ゆりっぺのいちゃもんも意に介さず、淡々と理由を述べる愛上。
それについにキレたのか、ゆりっぺはTKにドロップキックをかまし、TKはダウンした。
「「「「「TK!」」」」」
なんで俺らだけデスマッチになってるんだよ。
てか、なんのドラマの無く、普通に2勝されて負けたんだけど、どうすんだよ、これ。
今回の話はAngel Beatsらしさをイメージして書きました。
でも、メンバーが多すぎて書くのが難しかったです。あと地味にTKが初セリフだ
【次回予告】
戦線vs天使 後編です。ついにゆりっぺと天使が直接対決します。