かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
「てか、どうすんだよ。これで俺らの負け確定じゃねぇか」
「大丈夫よ。こういう状況から逆転するのがお約束でしょ?」
「でも、3本勝負で2敗してるんだぞ?」
「それなら交渉すればいいだけよ。愛上く~ん、ちょっと来てくれないかしら」
愛上はゆりっぺのぶりっこっぽい呼びかけにせっせと応じて、こちらまでやってきた。
「相談なんだけど、次の試合で勝ったほうが勝ちってことにしないかしら? せっかくあなた3試合分用意したことだし、全部やりたいわよね? あと、こういう状況で私たちが勝ったら番組的にも面白いと思うのよ」
「ふむふむ確かに」
愛上があごに手を当てて頷いている。
番組的に、ってなんだよ。そんなもん撮ってねーわ。
「じゃあちょっと会長と相談してくるわ。ちょっと待っててくれ」
そう言って今後は小走りで天使の方に向かった。あいつ、なんというか、小間使いが似合うよな。三下感あるからな。
しばらく天使と話したのち、愛上が少し笑顔で戻ってきた。
「会長と次勝ったほうが勝者ということにできないかって相談してきたよ。今までのはあくまで前座で最終対決で勝ってこその真の勝者と言えるのではないかって」
「ほうほう。それで?」
「そしたら会長も一理あるみたいなことを言ってたよ」
「ありがと。助かったわ」
よかった。とりあえずの延命はできるみたいだ。
危なかった、ただ松下とTKが死んだだけの会になっちまつところだったぜ。
「まぁダメだけどって」
「ダメなんかい! いける感じの流れだったじゃない! 一理あるんでしょ⁈」
ゆりっぺが怪獣みたいな形相で愛上にツッコんだ。よもすれば火でも吹きかねない顔だった。本人には言わなかったけど。
「まぁ最後まで聞けって。俺もさすがにそこで終わらなかったよ。その後もね、交渉したんだよ。じゃあ最終対決は、今まで会長が勝ってきた分有利になるように進めればいいんじゃないかって。そうすれば今までの勝負も意味が出るしって」
「あら、ちゃんと仕事してるじゃない。最初っからそっちをいいなさいよ」
よかった。てっきりあれで終わりだと思ったぜ。
こいつもこいつでもったいぶらせるなよな。変にビビらせやがって。
「それはダメだって」
「またダメなんかい! 一回目を捨て案にして、二回目でこっちの要望を通す交渉術かと思うじゃない! なんでダメなのよ!」
「もう帰りたいんだって」
「マイペース‼」
ゆりっぺがついに地団駄どころか、地面に穴をあけかねない勢いで床を蹴りだした。
「んで、結局どうなったんだよ? このまま続けるのか、終わるのか?」
藤巻がやさぐれた口調でそんなことを聞いた。
こういう時に空気を気にせず切り込める奴はありがたいぜ。
「ああ。次の対決では、勝負の時間を短くて済むようにハンデを組み込むからってことになったんだよ」
「折衷案を取ったわけね。それで、天使も早く帰れるしね」
「それも嫌らしいけど」
「なんなのよ! あいつわがまますぎるでしょ! てかあんたも何しに行ってたのよ! なに笑顔で戻ってきてんのよ!」
「はははははは」
「笑うな‼」
その後、なんやかんや愛上は天使と交渉を成功させていたということが判明したので、俺たちは最終対決の会場へ向かった。
「ここは、家庭科室か?」
「そう! 第三試合は料理対決だ!」
「ついにタイトルを言わなくなったな」
「考えんのがめんどうなんだろう」
家庭科室にはいくつもの食材と調理器具がそろえられていて、天使はやる気満々なのかすでにかわいらしいエプロンを装着していた。
「今から1時間でここにある具材を使って料理を作ってもらいます。審査員は俺。今回の戦いに勝ったほうが真の勝者ということになります。なお、戦線チームにはハンデとして、『調理時間が上限30分、かつ、天使が調理終了した時点で調理終了』が課されます」
「30分か~。長いようで短いよな」
「少なくともご飯は炊けないよね」
「天使がお手軽飯を作ってきたら、その時点で終了だしな」
「あさはかなり」
料理対決においてなかなかのハンデだ。特に後半の条件が厳しい。
相当の料理上手でないとそもそも調理さえできなさそうだぞ。
「仕方ないわね。私が行くわ」
そう言いながら、手近なとこにあったエプロンを着け始めるゆりっぺ。
「おまえ、料理なんてできんのか?」
「そうだよゆりっぺ! 見栄を張らなくていいんだよ! おにぎりくらいしかできないけど、僕が行くよ」
「ゆりっぺのエプロン姿……、ぐふっ……」
「ゆりっぺさん、ご無理をなさらず」
「あんたら、私をなんだと思ってんのよ。私だって料理位はできるわよ。これでも小さいころからよく妹達にふるまってたりしてたのよ」
その言葉に戦線メンバー全員が驚愕の表情を浮かべていた。遊佐は別だが。
粗暴を絵に描いたようなゆりっぺに繊細な作業がいる料理ができるわけないと思っていたからだ。てっきりカップ麺しか作れない系女子(野蛮)だと思っていたのに。
「日向君、この勝負が終わったら罰ゲームね」
「はぁぁあ⁈ なんで俺だけ⁉」
「失礼なこと考えてそうな顔してたから」
そんなセリフを残してゆりっぺはキッチンに向かい、合図と同時に調理に取り掛かった。意外過ぎるほどてきぱきと動き、完成品も決まっているのか食材の選定も一瞬だった。
「あいつ、本当に料理できるんだな」
「いえ、まだ油断してはいけません。黒焦げのダークマターが出てくる可能性だって捨てきれませんからね」
「出会って半月もしない高松に言われたらおしまいだな」
「俺はゆりっぺがどんな料理を作ったって食べて見せるぞ!」
「お前はゆりっぺを信頼してるんだかしてないんだかどっちなんだよ」
他方、天使はと言うと、作業スピードが遅かったり、途中で手が止まったりとで、料理が出来なくはないが慣れてはいないといった印象を俺に与えた。
これは、本当に勝てるんじゃないか?
開始から10分が経過した頃だろうか。天使が棚から皿など食器類の準備をし始めた。
「おいおい、天使の奴、もう終わりそうだぞ」
「大丈夫よ。私も1品できるわ。むしろあっちの完成に合わせてやるわ」
そこから1分もしないうちに天使は完成の合図をし、それに伴い調理終了となった。ゆりっぺと天使はそれぞれの料理をルームサービスが使うような銀の丸い蓋で隠し、愛上の前に準備されたテーブルの上に持ってきた。
「それではまずは戦線チームの料理をいただこうかな。一体何をお作りになったのかな?」
「私が作ったのはこれよ!」
そう言ってゆりっぺは蓋を取り払った。
そこには、大きな貝の乗った美味しそうなパスタがあった。
「おい、ちゃんとしたパスタだ」
「色もあるよ」
「匂いもおいしそうに感じる気がする」
「あんたら、マジで覚えときなさいよ」
戦線メンバーの思い思いの感想を睨みつけて封殺したゆりっぺは軽く咳ばらいをし、料理の紹介をした。
「ムール貝のパスタよ。味には自信があるわ。どうぞ召し上がれ」
その言葉と共に、愛上はパスタを少し小皿によそい、くるくる巻いて恐る恐る口に入れた。
するとピカーと顔を光らせたのち、貝も口に含んだ。
「すごい! 普通だ! にんにくの匂い通りの味の中にほのかにある白ワインの風味も普通だ! 普通に美味しいぞ!」
「なんか釈然としないわね。素直に美味しいと言いなさいよ」
「まぁ確かに美味いな。正直舐めてたわ」
「それでいいのよ。一応あんたらの分もあるけど、食べる?」
そう言って俺らに小皿と食器を渡すゆりっぺ。なんやかんや言いつつ、せっかく作ったものだから、俺らにも食べてほしいのだろう。
俺らはそれに素直に従い、パスタを貪り食った。
「普通だ! 見た目通りの味だ!」
「すごい、ちゃんと食べれるよ!」
「ちょうどいい昼ごはんですね」
「ゆりっぺの手料理。俺は消えるのか?」
「食事中じゃなかったら、あんたらを撃ち殺してたわ」
みんなが満足に平らげると、次は天使の番だ。
俺はそれに嫌な予感がしてならない。
というのも、蓋で料理は隠されているが、調理中もただならない刺激臭が漂っていて、それは今も継続しているのだ。
おれはてっきりゆりっぺがとんでも料理を作ってるからだと思っていたが、ゆりっぺの料理を完食した今、それの発生源はアレということになる。
「じゃ、じゃあ、天使さん、料理のオープンを……」
愛上は顔を引きつらせながらそう告げると、天使は何も言わずに蓋を開けた。それをみて愛上が小さく「やっぱり」とつぶやいていたのを、俺は聞き逃さなかった。
「私が作ったのは本格麻婆豆腐よ」
そこにあったのは、異様に真っ赤な謎の料理だった。
いや、麻婆豆腐とは言っていたけど、四川のマジの麻婆豆腐って黒かったイメージがあるんだが、アレはなんだ? 見てるだけで辛いんだが。ていうか、五感が全部辛い。
「では、いただきます…」
愛上が震える手でレンゲを持ち、麻婆豆腐掬って口に運ぶ。
口に入れた瞬間、愛上の動きが完全に静止した。しだいに顔は真っ赤に染まり、やがて堰を切ったように目と口から火を噴いて倒れた。本当に火が出た。引火はしなかったので問題はないが、俺らはその光景に言葉を失ってしまった。
大山は小さな悲鳴まで漏らし、野田は先ほどまでの幸せそうだった笑顔とは真逆の表情を浮かべ、藤巻は木刀をへし折らん勢いで握りしめていた。
「せっかくだし、みんなも召し上がってみて。人数分は作ってあるから」
天使はそう言って俺らに小皿とレンゲを押し付けてきた。
「い、いや、俺らは遠慮しておくよ。言っても敵チームなわけだしさ……」
「でも、審査員が倒れちゃったから、もうあなたたちに判断してもらうしかないじゃない? そちらの料理を食べたのはあなたたちだけなんだから」
しまったぁぁぁああ! ゆりっぺの料理を食べてしまったばっかりに‼
「でも、俺らに審査なんてできないぜ……。そうだ、愛上を起こそう。おい愛上、しっかりしろ」
俺は愛上の元へ駆け寄り、肩をゆすってみるが意識は戻らない。
しかし、よく見たら手元に何か文字が残されていた。地面に血で書かれているその様はダイイングメッセージを想起させた。
『赤麻婆 みんなで食べれば 怖くない』
「そんな標語を残すなよ!」
「審査員は起きなさそうね。それじゃみんな、口を開けて」
「え?」
結局愛上の意識は回復せず、俺らは天使に無理やり口に激辛麻婆豆腐を詰められることになった。当然全員意識を喪失し、この勝負自体が流れることになった。
俺たちの間に『打倒天使!』の心を強く残して。
高1の頃くらいから「3回見たら死ぬ絵」を何回見たかカウントしていたのですが、ついに100の大台に乗りそうです。ぼくが生まれ変わっても33回分の死は確定しました。
【次回予告】
書いた記憶が一切ありませんが、タイトル的にバンド回だと思います。
どうせまたひさ子さんがかわいそうな目にあうのでしょう。