かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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31、NPCバンドなど

「岩沢の奴、また作曲のし過ぎで死んでんじゃねーよな……?」

 

 ギターの自主練を一旦終えて、腹ごしらえに食堂に向かっている途中、私は何気なしに独り言をつぶやいていた。

 

 今日は珍しいことに、いつも練習に使っている教室に岩沢が来なかったのだ。実は、毎回の練習は約束をして行っているわけでもないので問題はないけど、岩沢には作曲に熱中しすぎて餓死しかけた前科があるので少しばかり心配だった。

 

「腹でも満たしたら、一応部屋行ってみっか」

 

 そんなことを考え、食堂に入るとなかなか珍しい光景が目に入ってきた。岩沢と愛上が二人で飯を食っていたのだ。

 岩沢が生きていたことへの安堵と、私をほったらかしてなんでこんなとこで飯食ってんだという怒りが訪れた後、私はかすかな疑問を覚えた。

 

 あいつら二人ってどんな会話してんだ?

 

 そういえば、3人で話すことはあっても、あの二人が話す場面というのは見たことない。

 3人で話すときも、音楽の話でないときは岩沢はあまり話を聞いていないので、適当な返しをして場を余計に混乱させているし、音楽の話をしているときはお察しの通り音楽キチってるだけだ。あいつに日常会話ができるとは思えない。

 

 てか、そもそも岩沢が私以外と1対1で会話してるのすら見たことないわ。

 

 私は興味本位で、二人の近くの席にこっそりと腰かけ、聞き耳を立てた。近づいて初めて分かったが、愛上の右肩に重力に逆らった逆さの風鈴が付いていて、涼し気な音を鳴らしていた。無視した。

 

「だから、私はお前とやりたいんだよ」

 

 岩沢の声で聞こえてきた爆弾発言的なものに、私は思わず吹き出してしまったので、急いで口を塞いだ。

 

 まさか、そんな爛れた関係だったとでもいうのか⁈

 

「つってもさ。隊長はガールズバンドを組ませたいわけなんだし、やっぱ素直にドラムとベースを探したほうがいいって。暇なときにセッションにでも呼んでくれたらいいからさ」

「お前がそれでいいって言うなら無理強いはできないけど、少しもったいないな」

 

 あぁ、なんだ。バンドの話か。一瞬焦ったぜ。

 まぁあいつらに限ってそれはないわな。というか二人とも誰かと色恋関係に発展するイメージが湧かなすぎるぜ。

 

 岩沢はモテはするだろうが、そもそも会話を成立させられる人間がほぼいないだろ。そういう意味では愛上は可能性はなくないんだろうが、まぁアレと付き合いたいなんて思うやつはいないだろ。

 

 そんな失礼なことを考えを頭から振りほどいて、二人の会話に耳を戻した。

 

「そもそもNPCに音楽できる奴なんているのか?」

「いるぞ。お前ら以外にもバンドがあるんだよ。前にそいつらと話したけど、多分アレはNPCだな。俺が目の前でおくすり手帳にケチャップかけて食ったら目玉ひん剥いて驚いてたし」

「なるほど。にしても、それは食べ合わせが悪そうだな」

「まぁさすがにそんなことはしてないけど、あいつらがNPCなのは間違ってないと思うぞ。実は一回だけ、一緒に演奏したことがあるんだけどさ」

「おお! その話、ぜひ聞かせてくれ」

 

 相変わらず、岩沢はツッコまないんだな。愛上もそれに慣れてきたのか、ボケを自己完結させるようになってるじゃないか。お前はそれでいいのか。

 

 私が脳内でツッコミを入れていると、何やら窓の外が騒がしいことに気が付いた。周りの生徒たちと一緒に私もつい反射的にそちらに目を向けた。

 

 そこには巨漢の相撲取りが警察二人に取り押さえられていた。横には飲食店の大将みたいな人がその光景を睨みつけていた。

 

 なんだこれ?

 

「出来心だったんだー! 力士の名に懸けてー!」

「うるさい! お前のしでかした罪は重い!」

「そうだ! 創業以来継ぎ足してきた秘伝のタレを『雨季が来たぞー!』と言いながら田んぼに撒くなんて、力士の風上にもおけないぞ!」

「そうでガンス。うちのタレをよくもダメにしてくれたでガンス。代わりにお前から『祭り』という概念を奪ってやる。キェー!!」

 

 なんだこれ?

 

 ……なんだこれ。

 

 店主が手からビームみたいなのを出して、警察官ごと力士を攻撃したと思ったら、ビームを喰らった3人が鶴になって飛び立っていった。目で見たことをそのまま脳に伝えたはずなのに、脳の方から拒絶反応が出ている気がする。これが防衛本能ってやつか?

 

「これもまた、時代でガンスか……」

 

 何やらしみじみと語っているが、絶対に違うと思う。

 

 そうだ、こんな意味不明は奴らはどうでもいいんだった。

 私は意識を再び愛上らの席に向けて、耳に神経を集中する。

 

「そこで、くちぱっちは闇歯医者に行ったんだけどさ。そしたらあいつ、奥歯が考える人の形になってたんだよ」

「やっぱりそうか。話の流れ的にそんな気はしていた」

 

 あれー⁈ NPCのバンドと演奏した話をしていたんじゃないのか⁈

 なんでいつの間にたまごっちの話をしてるんだよ。多分たまごっちの話でもないけどさ! それに闇歯医者なんてあるのか? 闇医者ならわかるけど、歯医者に闇は不要だろ。

 

 私、30秒も目を話してないのに、その隙に一体何があったんだ?

 

「結局抜歯はしないで矯正することにしたらしいぞ」

「長期的にみたらそっちの方がいいかもしれないけど、よくそんな金あったな。あれって結構金要るんだろ?」

「145万ごっちポイントもしたらしい」

「日本円に直すと……、なるほど。確かに高いな」

 

 なるほどじゃねぇよ。レート知らねぇわ。

 なんだこれ、くちぱっちの歯を無免許歯医者が矯正する回をアニメでやってたみたいな話か? 子供が泣くぞ。

 

 くちぱっちの奥歯の形が考える人になっているのを想像していると、また外が騒がしくなっていることに気が付いた。私はもうあんな光景は見たくないので、近くにいた男子生徒に状況を聞いてみることにした。

 

「なぁ、なんかあったのか? また外が騒がしいみたいだけど」

「え、あ! あのバンドのギターの方じゃないですか!」

「ん? まぁ、多分そうだけど。それより外だよ。どうしたんだ?」

「ええ、なんでも、男子生徒がハルバードを振り回してたら近くにいた別の生徒に突き刺さったらしいですよ。ほんとか知りませんが……」

 

 身内じゃねーか!

 その犯人、戦線に所属してる野田とかいうやつのことだろ。さっきみたいなヤバい展開かと思ったら今度は状況が容易に想像できちまったわ。

 

 私は見に行くかどうか少し逡巡したが、やがて決心を決めて、現場が見える場所まで移動した。すると、頭にハルバードがぶっ刺さった日向を野田と藤巻?がせっせと他所に運んでいく姿を丁度見ることが出来た。

 

 日向の奴、いつもあんな目にあってるな。

 

 私は日向に黙祷を捧げ、先ほどまでいた席に戻ると、再び愛上と岩沢の会話が聞こえてた。

 あぁそうだった。こいつらの会話を盗み聞きしてたんだった。でも、どうせまた意味わかんない話をしてるんだろうし、私は戻ろうかな。

 

 そう思いつつ、一応会話に耳を傾けた。

 

「その時のあいつのギターフレーズがかっこよくてさ。すごい熱量感じて。だからもしかしたら人間なんじゃないかと思って『死んだ記憶ある?』って聞いてみたけど、どうもないらしい」

「NPCだろうが、人間だろうが、分け隔てなく音楽を楽しむことができるんだな。だからこそ、私たちの音楽も、きっとあいつらに届くんだろうな」

 

 なんでNPCバンドの話に戻ってんだよ!

 ほんの30秒前までくちぱっちの矯正の話してたじゃねーか!

 まさか、その話もすべて繋がってたとでもいうのかよ! どんな状況なんだよそれ、スゲー気になるじゃねぇか!

 

 負けた。

 

 何にかは分からないが、私は負けてしまった気がする。

 

 私はがっくりと項垂れて、机に突っ伏した。

 

「ん? おい愛上。あれひさ子じゃないか?」

「ほんとだ。ひさ子せんぱーい!」

 

 その声に反応してゆるりとそちらに顔を向けると二人が笑顔でこちらに手を振っていた。私はそれを無感情に眺めていると、ある生徒が愛上達に近づいているのが見えた。

 

「愛上君」

「ん? あれ、会長? どうしたんすか?」

 

 天使だ。

 そういや、愛上は天使と仲いいって聞いたことある気がするな。そんな奴が戦線と仲良くできてんのが不思議でしょうがないな。

 

「屋上で大きなイカが干からびてるって報告が入ってるんだけど、あなたの仕業?」

「大きなイカ? もしかしたら俺のルームメイトかもしれません。悪い岩沢先輩、俺ちょっと行ってくるわ」

「おう、元気でな」

「ありがと。ひさ子先輩も、元気でやるんだよー!」

 

 まるで都会に引っ越す少女を見送るくらいのテンションでこちらに声をかけてくる愛上。

 恥ずかしいからやめてくれないかな。

 

「あとコレうるせぇな!」

 

 愛上は肩についていた風鈴をちぎってゴミ箱に投擲すると、駆け足で食堂から去っていった。

 

 その後岩沢と正式に合流した私は、いつもの教室で午前の分まで練習をした。夜になったあたりで大きなスルメをかじりながら愛上が現れるまでは、それはそれは楽しい時間だったとさ。

 

 めでたしめでたし。

 




脳が勝手に小説を書いているので、描き終わって見返したときに「なんだこれ?」ってなってしまうことが多いです。
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