かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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【Angel Beats! heaven's door未読者に対する補足】

前話までで戦線メンバーは2人の成仏に立ち会ってます。

1人は光村くん。高松の友人で、体育祭の最中に成仏。
2人目は名前不明の男子生徒。学園祭中に成仏。




34、人を疑う心など

 学園祭も終わり、本格的に冬が近づいてきた今日この頃。

 

 俺達は愛上に呼ばれ、とある空き教室に来ていた。

 

「なぁ藤巻。お前はどうやって呼びだされた?」

「あ? あぁ、道を歩いてたら突然目の前の壁に靴ベラが刺さってよ。何かと思って見てみたら手紙がくっついてて、それで呼ばれた」

「矢文的な感じか」

 

 そう。呼ばれたのは俺だけじゃない。

 

 俺と藤巻以外にも、野田と椎名がこの教室にいた。野田が大人しく来るなんて少し意外だった。もしかしたらゆりっぺの生写真とかに釣られたのかもしれない。

 

 そういや、生写真って何が生なんだろうな。

 生ビールと同じくらいわからないぜ。

 

「皆さん、よくぞ集まってくださいました!」

 

 俺がくだらないことを考えていると、教室の前の扉が勢いよく開かれ、件の愛上が登場した。俺らはその登場に特に驚きもせず、ただやる気なさそうに見ていた。

 

「今日君たちを呼んだのはほかでもない。大山君のことについてだ」

 

 そう言いながら、教卓の方へ向かう愛上。

 

 ああ、なんか手紙にも書いてあったな。ここに来ることを大山には言うなって。大山相手に何かいたずらでも仕掛けるのだろうか。流石にそんなことにまでは付き合えないぞ?

 

「大山がどうしたってんだ?」

「一昨日のことなんだがな」

「聞けよ」

 

 藤巻の質問は耳に入らなかったようで、そのまま話をつづけた。きっとあいつの想定ではまだ質問タイムじゃないんだろ。意外と融通の利かないところがあるかならな、愛上の奴。

 

「俺が何気なしに大山君に『人間の先祖って猿じゃなくてサメらしい』って言ったんだよ」

「ふん、意味不明だな」

「あさはかなり」

 

 野田と椎名というアホ2人に指摘される愛上だが、特に気にした様子はない。

 

「そしたら大山君がさ、『そうだったんだ! 確かにゆりっぺもサメっぽいよね。僕ゆりっぺの絵を描くとき、どうしても歯がギザギザになっちゃうんだ!』か言って、俺の話を信じちゃったんだよ」

 

 まじかよ、大山。いくら何でも純粋すぎるだろ。お前ほんとに高校生か?

 

「んで、それがどうしたってんだよ?」

 

 藤巻の疑問ももっともだ。別に今の話を聞いたことと、俺らが集められたことがつながらない。まさか大山に『人間の先祖はサメだ』と更に信じさせるために、俺たちにアザラシでも食えって言うんじゃないよな?

 

「いやな、俺は危機感を覚えたんだよ。このまま行ったら大山君はいずれ人に騙されてとんでもない目にあうんじゃないかって。だから、ここいらでいっちょ俺らが一肌脱いで、大山君にもう少しだけ人を疑うことを覚えてもらおうって算段よ」

 

 う~ん、言いたいことはわかるが、そんなことする必要あるか?

 

 ここが死後の世界じゃなけりゃ、そりゃ多少はそういうことをしたほうがいいと思うけど、ここではお金も命も大した価値は持っていない。別に騙されてもそんなに問題ないだろ。

 

「ふん、くだらんな。俺は帰るぞ」

 

 野田も同じようなことを思ったのか、愛上の話を一蹴して教室のドアに手を掛けた。

 

「大山君が消えてもいいのか?」

「なに?」

 

 愛上のその一言で場の温度が少し下がったような気さえした。

 

 消える。

 

 光村や学園祭で会った伊勢うどんの男子のように、大山もこの世界から存在を抹消されるって言うのか?

 

「消える条件は未だにちゃんとは解明してないが、もし『この世界で満足すること』だとしたら、巧みな話術があればそれだけで消される可能性があるってことだ。大山君の生前は知らないし、どうしたら満足するかなんて知らないけど、もしも悪意をもって君たちを消そうとする人に会ったときに対抗できるようにはしておいたほうがいいだろ?」

 

 うーん。そう言われてみると、確かに一理ある気がするな。

 

 今はこの世界の勢力図は戦線と天使、ついでに愛上の三者で構成されている。しかもその全員が大きな悪意を持っているわけではない。天使は知らねーけど。

 

 だが、もしも別の組織が現れて、しかも天使側についたらどうする? 俺らを実力で排除しようとした時に、あいつの言うような方法で消されることもあるんじゃないか?

 

 しかし、だからと言ってこいつに手を貸すのはなぁ。

 

『話は聞かせてもらったわ!』

 

 そんな時、今度は教室の後ろのドアが開いて、スピーカー越しのような声が聞こえてきた。振り返ると、そこには大きめのトランシーバーのようなものを持って立っている遊佐の姿があった。

 

 となると、さっきの声はゆりっぺか? あのトランシーバー越しに俺たちに話しかけてきたってわけか。

 

 遊佐はその場から動かず、ただトランシーバーを持って立ち尽くしていた。

 

『あなたたちにはこれから大山君を嘘情報で騙してもらうわ。ついていい嘘情報は1人一回まで。ただし、最初の嘘を補足するウソは何度でもついてOK。全員が嘘をつき終わった段階で、大山君に「誰の情報が一番驚いたか」を聞いて、選ばれなかった人以外は罰ゲームでどうかしら?』

 

 唐突な登場と唐突な作戦立案に俺らは返事もできずに呆然としてしまった。

 

「あぁ、俺のプランが……」

 

 愛上に関しては泣きながら机に突っ伏していた。当初の予定と大幅に狂ってしまったんだろう。

 

 まぁこいつに身を任せたらどんな目に会うかわかんないしな。ここはゆりっぺの方に乗っておくか。リーダー命令だし。懸念があるとすれば、罰ゲームが何かわからないことと、罰ゲームを受ける確率が高いことだ。前回の罰ゲームでやった飯抜きや水抜きはもうこりごりだぞ。

 

 俺は、周りのメンツの顔をちらりと見まわす。

 

 こんなことを仲間に言いたくはないが、こいつらにだったら勝てるだろ。俺が一番無難なウソをついて、他の奴らが自滅して終わりだ。

 

「俺はゆりっぺの指令とあらばなんだってこなすぞぉぉぉぉ‼」

「リーダー命令とあっちゃ仕方ねぇぜ。気乗りしねぇが、やってやろうじゃねーか!」

「うむ」

『うん、みんなやる気で何より。日向君は?』

 

 ゆりっぺが俺に話を振ってきた。ここで断るという選択肢はない。俺の命や尊厳的にもな。

 

「お前に従うぜ」

『そう。じゃあ愛上くんも入れて5人でバトってね。今から何にも事情を知らない大山君をそっちに向かわせるから、後はよろしく~」

「急だな!」

「てか、俺も参加なんだ……。別にいいけど」

 

 少しいじけたようにそうつぶやく。顔も少し溶けていて、ダレているのが目で見てわかる。記憶の固執みたいで、なんかキモイな。

 

 

 

 

 

 

「ゆりっぺにこの教室に行けって言われたんだけど、どうしたの?」

 

 しばらくすると、大山が何食わぬ顔で入ってきた。いざ本人を目の前にすると罪悪感がすごいな。今からこいつを騙すんだもんな。

 

 それにしても、ゆりっぺはなんも説明してないのかよ。ほんとのことを言えないにしても、適当に理由付けくらいしておいてほしかったぜ。なにかいい理由がないか考えていると、愛上の奴が口を開いた。

 

「戦線と俺とで情報交換だってよ。改めて、みんなが今までこの世界で生きてきて気が付いたことや疑問に思ってることを共有しようって腹だ」

 

 こいつ、普段から適当なことばっか言ってるだけあってアドリブが上手いな。この前提なら、話の流れで出まかせを放り込めそうだ。

 

「そういうことだ。まぁとりあえずこっち来て座れよ、大山」

 

 俺も愛上に同調して近くの椅子をポンと叩いた。大山が特に疑問も持たずこちらに来ようとしているときに、野田がその馬鹿な口を開いた。

 

「情報交換? お前らなにを言ってる? これは…」

「どぅぁぁぁあい! 野田! どうした! 喉が渇いたのか! この水でもたんまり飲んでくれ!」

「ごぶぉごぼぉぉ!」

 

 俺はとっさに野田の口にペットボトルを押し当てて、できるだけ小さな声で怒りを表した。

 

(お前はバカか! 大山自身がそれを知ったら企画が成立しないだろ! ゆりっぺの構想をぶち壊す気か!)

(あぁ、そうか。すまなかった)

 

 そんな俺らのやり取りを少し不思議そうに見つめる大山だったが、特に口をはさむでもなく、素直に椅子に座った。それに倣い、俺と野田も適当に座った。

 

「じゃあ、いきなり情報交換て言っても思いつかないだろうから、まずは適当にお互いの知らなさそうなことを言っていこうぜ。そこから派生して何か思いつくかもしれないし」

「そうだね、そうしよっか。あ、そういうことなら、僕から言おうかな」

 

 俺の提案に大山は同調し、なおかつトップバッターまで申し出た。意外な展開ではあったが、これでこいつが流れを作ってくれたら逆に俺らが怪しまれにくくなって助かるな。

 

「一体どんな話なんだ?」

「あのね。僕もびっくりしたんだけど、実は人間って猿じゃなくてサメから進化したらしいよ!」

「へ、へ~。そうだったんだな……」

 

 こいつ、マジで信じていやがったのか! しかも、誰かに教える位に感動してるぞ!

 

 これは思ったより重症だな。このままでいてほしい気もするけど、ここは心を鬼にして『人を疑う心』を教えてやらないとな。

 

「あとね、学校とかでたまに外部の人が講演会に来ることってあるよね? あの人達ってみんな偽物らしいよ。講演会をするためだけに作られた存在なんだって」

 

 偽物ってなんだよ! 確かにああいうので来る人って全然知らない人だし、話もなんとなく薄いしつまらないけど、別に偽物ではないだろ。

 

 あぁ、そういえば俺の高校にも来てたな。海外で慈善事業をしてたとかいうおっさん。40分くらい話してたのに、中身なさ過ぎて感想文全然かけなかったんだよな。あれはハズレ回だったぜ。

 

 生前にトリップしかけていた意識を何とか現実に戻し、俺は大山の話に乗っかることにした。

 

「あぁ、それってほんとだったんだな。俺も聞いたことあるぜ」

「俺も聞いたことあるぜ」

「やっぱみんな知ってるんだ~。僕だけバカみたいで恥ずかしいよ」

 

 藤巻も話を合わせてくれたおかげで大山はすっかり信じ込んでるようだな。大丈夫、お前はバカだ。にしてもそんな話誰から聞いたんだ? やっぱり愛上か?

 

 まぁいい。俺もそろそろ仕掛けようとするかな。

 

「そういや、偽物繋がりっていうか、予想外なもんで言えば、あれがあるな」

「あれって何?」

 

 俺が仕掛けたのを聞いて大山以外の視線が鋭くなった。先手を打たれたことに対する悔しさか、それともいきなり打って出た俺の無謀への憐みか。ともかく俺は話を進めることにした。

 

「ゆりっぺって実はもう一人いるって話したっけ?」

「「「な、なんだってー‼」」」

 

 ……、3人驚いたな。

 なんで野田まで驚いてんだよ。愛上のは演技だとしても、お前は絶対素で驚いてるだろ。

 

「ど、どういうことなの? 日向君!」

「あぁ。俺と会って間もない頃、ゆりっぺは『善のゆりっぺ』と『悪のゆりっぺ』に分かれてしまったんだ。二人は戦い、善のゆりっぺは敗北し、この後者のある場所に封印されている。俺たちが普段あっているあのゆりっぺは『悪のゆりっぺ』なんだ」

「ゆりっぺってそんなピッコロ大魔王みたいな感じだったの⁈」

「悪のゆりっぺがあんなに天使だということは、善のゆりっぺはとんでもないのでは……?」

 

 大山と野田がそれぞれ違った意味で愕然としていた。大山、信じるのはいいけど「だからゆりっぺは魔王みたいな感じなんだぁ」という納得の仕方はヤバいぞ。俺もろとも消されるぞ。

 

 結構突拍子もない嘘のつもりだったが、大山は信じているようだし、まずまずの出来だろう。自分で言うのもあれだが、いい塩梅を付けたと思う。

 

 さて、次は誰がいくか?

 





【次回予告】
大山君騙し、後編です。
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