かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
「そういや、俺も思い出したことがあるんだけどさ」
「お、どうした、藤巻」
次は藤巻か。このメンツの中なら妥当だな。せっかく俺が嘘の物差しを作ってやったんだ。頼むぜ。
「Wikipediaって今では色んな用語の解説をしてるサイトだけど、最初の方はごく狭い範囲の解説しかしてなかったんだ。知ってたか?」
「へ~、そうなんだね。そりゃ最初からあんなにいっぱい書いてるわけないよね。」
大山は信じてるみたいだが、ウソが弱くないか? てか、多分それほんとのことだろ。
「で、何について書いてるサイトだったの?」
「え゛?」
あ、大山から更なるツッコミが入って藤巻が困惑してるぞ。あいつ、マジであれだけで押し通そうとしてたのか。まぁこの調子なら俺の負けはなさそうだな。
俺はそう確信していると、藤巻が言葉を絞り出して大山への嘘を重ねた。
「し、シマウマの図鑑だったんだ」
「シマウマの図鑑⁈」
用途せっま!
なんだシマウマの図鑑って! 哺乳類とか、せめて馬系の動物の図鑑ならまだわかるが、シマウマって! シマウマはシマウマしかいないだろ。
「そうそう思い出したぜ。やっぱりシマウマの縞にも個体差があるからな。それをまとめるサイトだったんだが、いつの間にか縞模様以外にもその手を広げることになったんだ。この場合は前足を広げたと言ったほうがいいのかもしれないがな」
いや、うまくねーよ! なにドヤ顔で変な注釈してんだよ!
これは大山でも信じないだろ。シマウマの図鑑がまず意味わかんねーし。
「そうだったんだね! 流石藤巻君! 物知りだね!」
「へへ、照れるぜ」
満面の笑みで頷いて大山に、俺は少し引いてしまった。お前まさか、シマウマを知らないとかないよな?
最近の大山は藤巻に構ってあげたい期だから、そういう効果も相まって信じたのかもな。あいつ、別に嘘つくようなタイプでもないし。
「そ、そういえばだな」
藤巻に続いたのは、なんと野田だった。この流れならいけると思ったのだろうか。野田はああ見えて純粋なやつだから嘘つくのは苦手なんじゃないかなって考えてるが、一体どんな嘘をつくのだろうか。
野田は普段の自信のありようとは打って変わって、慎重に言葉を紡いだ。
「チーターって全然速くないらしいぞ」
曖昧だな! なんだそのしょうもない情報。小学生でももっとましな嘘つくぞ。あとそれ、絶対シマウマに引っ張られて思いついただろ。見え見えだぞ。
ちらりと大山のほうを見るが、いつもと何ら変わらない普通の表情をしていた。信じているのか否かの判断はまだできない。
「チーターって地上で一番早いんじゃなかったっけ? じゃあほんとは何が一番速いの?」
先ほどの藤巻の時のように、嘘を掘り下げてきた。まだ少し懐疑的なのかもしれない。頼むぜ野田。お前の返答次第で、この作戦はここで終了しちまうかもしれないんだ。
野田は目をきょろきょろと動かしながら小さなうめき声をあげていたが、やがて意を決したように話し出した。
「う…」
「う?」
「ウニだ!」
アウト! アウトです!
これはいくら何でも無理だろ! 陸上でチーターより速い生物がウニって、文章全部イカれてんじゃねーか!
撤収準備でも始めるか。あーあ、こりゃ罰ゲームは野田に決定だな。
そう思っていた。しかし、相手は大山。常に俺たちの想像の遥か上を行っていたのだ。
「ウニ? ウニか~。そういう生き物がいるんだね。知らなかった、後で調べてみよ~」
「う、うむ。そうしろ」
まさかのウニを知らなかったパターン!
助かったと思う反面、言葉の響きで察しろよとも思うぜ。あの野田もちょっと驚いてるじゃないか。ゆりっぺが以前「戦線の男はアホしかいない」とか言っていたが、こう比較すると俺は全然アホじゃないだろ。
そう思いながら何となく周囲を見回すと、椎名っちが興味深そうに頷いているのが見えた。おい、まさかお前も信じてるんじゃないよな?
俺が戦線メンバーに戦々恐々としていると、ようやく真打である愛上が口を開いた。
「そういや動物繋がりで思い出したんだけど」
その声で全員が愛上の方を向いた。
こいつは俺らとは違って常に意味不明なことを言っている。それがこの勝負において有利になるか不利になるかはまだ分からない。ちょうどいい塩梅の嘘をつけるかもしれないが、反面、狼少年的に疑われてしまうかもしれない。
どっちが出るか。
「新しく生徒会の副会長に任命された直井って奴がいるんだけどさ」
「生徒会?」
今度は大山じゃなく俺が反応してしまった。別に深い因縁があるとかではなく、動物の話から生徒会には話が飛びすぎなような気がしたからだ。
てかこいつ、生徒会の新メンバーまで把握してんのかよ。生徒会に入るってことはNPCだろうに、よくそこまでするな。
「そうだ。んでだ、これを見てくれ」
そう言って愛上はA3くらいの大きさの写真を見せてきた。
「これが一体どうしたの?」
「これ何に見える?」
「なんだっけ? マリオに出てくる、トンカチ投げてくる亀だよね? ハンマーブロスだっけ」
大山が不思議そうにそう答える。もちろん俺にもそう見えている。何の変哲もない、普通のハンマーブロスだ。直井ってやつだどういうやつかは知らないが、ハンマーブロスと生徒会の関係性なんて、俺には一切関係ないようにしか思えなかった。
「そうです」
愛上はただ肯定して写真を折りたたんでポケットに仕舞った。
??
「異世界の滋賀県あるあるを200個言います」
「なんだったんだ、今のやり取りは⁈ 俺たち全く無意味な1分を過ごさなかったか? あと、空気に耐え兼ねて変なあるあるを言おうとするな!」
「異世界の滋賀を知らないから、あるあるなのか分からないしね」
こいつ、ルール把握してんのか? 嘘をついて大山を騙す作戦であって、決して謎行動をとって困惑させる作戦じゃないぞ? それとも、これは何かの布石なのか?
「ちなみに異世界の滋賀あるあるって何?」
「足の数がダンゴムシくらいある、とか」
「異世界の滋賀県は移動式なの?!」
大山はまた律儀に愛上に構ってる。こいつは結構面倒見がいいよな。藤巻のこともかなり気にかけてるし、俺もかくありたいものだぜ。
「最後は私だな」
今まで黙っていた椎名っちが急に名乗りを上げた。
椎名っちの嘘ねぇ。
こいつは野田と違った意味で嘘がつけなさそうだよな。でも、くのいちだし、人を騙すことには長けてるのか? 何とも予想が出来ないぜ。
大山は純粋に椎名っちの言葉に耳を傾けようとそちらを向いているが、他のメンバーは椎名っちがどんな嘘をつくのかをハラハラドキドキで待っていた。
「私は実は、くのいちじゃなくて、一国の、その、姫だったのだ……」
尻すぼみに小さくなっていく声で言い終わった後、少し照れた様子でマフラー(?)に顔をうずめた。その光景を見て、おそらく俺らは同じことを思ったのではないだろうか。
なんだ! この可愛い生き物は!
くっそ、普通の女子高生みたいな振る舞いをしやがって! それは本当に騙すつもりでついた嘘なのか? 希望が混じってないか?
あと、お前が姫だったらそれはそれで怖いわ! 姫がダンジョンのボスとして人を殺しまくってるとか嫌すぎるだろ!
でも、今回に限ってはこのツッコミを声に出すという野暮なことはしない。
「椎名さん、それほんと?! 椎名さんきれいだし、実はそうだったりしてなんて思ってたんだよ!」
大山の前のめりのその発言に椎名っちは更に顔を赤くして俯いてしまった。お前、そんな恥ずかしいことをよく本人に言えるな。神経が図太いのか純粋なのか。きっと後者だろうけど、それはそれで天然タラシみたいだな。
大山がそんな主人公みたいな属性を持ってたら、戦線が大山ハーレム軍団になってしまうぞ。それだけは絶対に嫌だな。
そんなありもしない未来について思いを馳せていると、教室にチャイムが鳴り響き、俺の意識はこの場に戻された。そういやここは学校だったな。授業に出てないから、気を抜くと忘れそうになるけど。
チャイムが鳴って1分もしないうちに、教室の扉が開けられ、ゆりっぺが入ってきた。タイミングがいいのではなく、俺らを監視していたのだろう。
「みんな、色々と情報交換をしていたみたいで何よりだわ」
「ゆりっぺ、全然大した情報交換はしてないよ」
大山がゆりっぺに少し申し訳なさそうにそう言った。お前、あんなにいいリアクションをとりまくっていたのに、大したことしてないって思ってたのか。
「そう? じゃあ、大山君。今回得た情報の中で一番驚いたものだけ、教えてもらっていい?」
「え? 一番か~」
大山が上を向いて少し考えだした。頼むぜ大山。俺の情報が一番食いつきが良かっただろ! 俺はお前を信じてるぜ!
「とりあえず、日向くんは適当なことを言ってたから選択肢から除外するね」
「はぁぁあ⁉ 何言ってんだよ大山! お前あんなに驚いてくれてたじゃねーかよ!」
「あれはその場のノリだよ。僕の奥底に眠る芸人魂が、僕のリアクションを大きくさせるんだ」
「そんなもん、日常生活で発動させんな!」
俺のビリが確定した瞬間だった。
「一番驚いたのはやっぱり椎名さんがお姫様だったってことかな。他はよくわからなかったし」
「そんなことだろうと思ったよ!」
その後、大山に今回の企画の種明かしをすると、半泣きになりながら俺をぽかぽかと叩いてきたので、良心がかなり痛んだ。最終的には大山もわかってくれたので良しとしよう。
しかし、それから1週間ほど、大山は俺らの話全てに疑り深くなってしまった。どうやら100か0かしかないようだな。
ちなみに俺と野田、藤巻は罰として腕立て伏せ1万回が課せられた。愛上はなんか普通にボコられてた。今回の件に関してのみ、あいつは少しかわいそうだった。