かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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37、副会長など

「悪いね大山君、わざわざ付き合ってもらっちゃって」

「気にしないで。僕もこっちの方に用事があっただけだから」

 

 僕は現在、愛上君と一緒に廊下を歩いていた。別に約束したわけでなく、つい先ほど偶然出くわしただけだ。僕は図書館、愛上君は生徒会室(というか天使)に何か用事があるみたいで、その二つは同じ方向にあるので、こうして肩を並べて歩いているわけだ。

 

 愛上君は僕と同じくらい背が低いので、この学校の男子では珍しく、僕と真の意味で肩を並べて歩けるのもポイントが高い。

 

「それにしても天使に用事って?」

「ああ、これを作ったから会長にあげようと思ってさ」

 

 そう言うと、愛上君はどこからともなく雑誌を取り出した。同じサイズくらいの箱も付属しているが、おそらくそれは付録だろう。

 

「これ何?」

「週刊『豆腐』だ。毎週これに付属する白い四角いブロックを組み立てると、最終的に豆腐の模型になるんだ。ファンにはたまらないぞ」

「たまったもんじゃない、の間違いじゃない? 豆腐の模型を欲しがる人なんているのかなぁ?」

「会長は麻婆豆腐好きだし。いけるかなって」

「それは麻婆が好きなのであって、豆腐が好きなわけじゃないんじゃないかな」

「ちなみにお値段は788円で、全108号を予定してる」

「普通に豆腐を買ったほうが安く上がるよ!」

 

 そこまでして、毎週白いおもちゃを買うなんて、相当だと思うよ。前回のオペレーションで僕が騙されやすいみたいな感じになってたけど、さすがにこれはどんなにプレゼンされても買わないと思うな。

 

「あれ、大山君、これに魅力を感じていない顔だね。じゃあ俺が解説してあげるよ。まず、このパーツには視力を回復させる効果が……」

「大丈夫! 間に合ってるから解説はなくて大丈夫だよ! もし、口車に乗せられてほんとに定期購読する羽目になったら僕は死んでも死にきれないよ!」

「それを言うなら……って、おっと、そんなことをしてるうちにもう生徒会室だ」

 

 僕の死んだ世界ギャグに対する返答は少し気になるが、目的地に着いたことは事実だった。あっという間だったね。

 

「じゃあ俺は会長にこれを売りつけてくるけど、大山君はここで待っとく?」

「あ~、うん、そうさせてもらおうかな」

 

 あと、売りつけるって言っちゃってるよ。

 

 僕は愛上君の言葉に甘えて生徒会室の前で待ってることにした。だって、天使と同じ空間にいることがもう怖いんだもん!

 

 愛上君が生徒会室の中に入っていくと、すぐに誰かと話しているのが分かった。

 

『あれ? 会長は?』

『会長はお出かけです。あなたは、えっと?』

 

 どうやら天使はいないようだ。僕はそのことにほんの少し胸をなでおろした。愛上君はおそらく他の生徒会役員と話しているのだろう。彼もきっと頻繁に来ているのかもしれないが、そのわりには役員に顔を覚えられてなくて、ちょっとおもしろいね。

 

『愛上って言います。じゃあこれ、会長に渡しておいてもらっていいですか? ついでに788円をもらって……』

『愛上、だと……?』

 

 ガタリと言う音と共に、先ほどまで話していた男の役員の声色ががらりと変わった。先ほどまでは人当たりの良さそうな落ち着いた声だったが、今はドスの利いた声だ。

 

『え、っと。あ、あ~! あの人か! 魚の活け造りが趣味で、川魚を釣っては造り、釣っては造りをして生態系壊したあの人!』

 

 え、そんな人とお友達になってたの愛上君。流石に人付き合いは考えた方がいいよ。活け造りが趣味って、地雷臭しかしないよ。

 

『誰と間違えているんだ? 僕は魚の活け造りなんてしたことがないぞ』

『え、じゃあキリンの活け造りが趣味なの?』

『そんなわけないだろ! そんなの誰が食べるんだ。そもそも僕と君は初対面だ』

 

 愛上君、初対面の人をほんの1分で怒らせるって、ある意味才能なんじゃないかな? 僕には到底マネできないよ。色んな意味で。

 

 それにしても初対面って、ほんとなのかな? さっきの口ぶりからして、知らないわけないと思ったけど

 

『あ、やっぱ初対面だったのね』

『……、愛上と言うやつがこの学校をしっちゃかめっちゃかにしていると聞いていたから、それに反応したまでだ。深い意味はない』

『うわ、絶対これ伏線だよ~。こっから怒涛の展開があって、最終的に魔王になった先輩を俺のかめはめ波で殺すんだ~』

『意味不明なこと言うな。んで、用は何だ?』

 

 愛上君の態度に辟易としたのか、その役員の人はあしらうようにして本題を促した。

 

『この本を会長に渡してほしいんだけど。っていうか会長今どこにいる? 直接会長のとこ行くわ』

『職員室にいるはずだ』

『ありがと! じゃあまたね~』

 

 愛上君の用事は終わったみたいだ。僕もちょっとだけ体を伸ばして、出発の準備を整えた。といっても彼はこの後、図書館とは反対方向にある職員室に行くだろうから、僕が待ってる意味はなくなっちゃったんだけどね。

 

『おい、ちょっと待て』

『どうしたの? 逆立ちなんかして?』

『してないだろ!』

『え? でも、ここに膝があるよ』

『ぶわっ! おい、人の顔をべたべた触るな! どう見ても膝じゃないだろ!』

『あ、なんだ。てっきり、膝っぽい顔かと思ったわ』

『顔っぽい膝、だろ。いや、別に僕の顔に膝の要素はないけれど!』

 

 どうやら、まだ少し時間がかかるようだ。それにしても、僕は廊下にいるため教室内の彼らの行動は見えていないのだが、何をしてるか手に取るようにわかるね。

 

 やがて、何か柔らかいものに何かぶつかったような鈍い音がして、会話の声が止まった。おそらく、愛上君が蹴り飛ばされたのだろう。まだ顔すら見てないからわからないけど、意外とすぐに手が出るタイプなのかな? ゆりっぺみたい。

 

『お前、この学校にいる奴らのことをどう思っている?』

 

 なんだろう、この質問? まるで、この学園の生徒たちが()()()()()()()()に気が付いているみたいな、そんな質問。もしかして、彼ってNPCじゃなくて人間? でも生徒会の役員をやっているくらいだし、きっと違うよね。

 

『「パエリア売」とかならありそうだよね。「フラメンコ怖い」とか』

『ん? 何の話だ?』

『ああ、ごめん。質問の意味を取り違えてたわ。別にこの学校の生徒たちは、生徒たちだなぁって思うけど』

 

 質問をどう取り違えたのだろうか?

 

 今の答え方になる質問って『スペインにありそうな落語はどんなの?』以外にないと思うんだけど。どのみち、愛上君のちゃんとしたほうの回答も大したことは言っていないので、生徒会の彼からしたら、結果何も得られなくて残念だろう。 

 

『生徒たちだけじゃなくて、全てをひっくるめて聞いたつもりだったんだが。まぁいい、質問を変えよう。何か気が付いたことや気になる人はいるか?』

『お、恋バナ? いいねいいね、テンション上がってきたよ!』

『恋バナなどしていない。お前はまともに質問に答えられないのか?』

『俺はね、A組の「始まりの女」が気になってるんだ』

『誰だそいつは! そんな奴がいたら誰でも気になるだろ!』

『あ~、やっぱり先輩も気になってたんだ~。始まりの女、モテるからな~』

『そういう意味じゃない! もういい!』

 

 どたばたと争うような音が聞こえてきて、それが徐々に扉の方に近づいている。愛上君が生徒会室から追い出されようとしているのだろうか。

 

『じゃあね、山田君』

『僕の名前は直井だ! 適当に呼ぶな!』

『ねぇ、質問の意図を色々考えて思ったんだけどさ。先輩ってもしかして、姉貴の知り合い?』

『いいから出ていけ!』

 

 直井君の言葉と共に生徒会室の扉が開かれ、愛上君は蹴りだされて、そのまま廊下に倒れこんだ。

 

「大丈夫?」

 

 大丈夫だとは思うけど、一応声をかけた。ほとんど癖みたいなものだ。扉がぴしゃりと勢いよく閉められると同時に、愛上君は少し呻きながら起き上がった。その目には涙が浮かんでいるのが見て取れた。

 

「そんなに痛めつけられたの?」

 

 酷い目にあっても仕方ないくらいには愛上君も酷いことをしていた気もするが、目の前で友達が泣いているのだから、さすがに僕は少し心配になった。

 

「ううん、違うの。嬉しくて」

「嬉しくて?」

 

 はて、今の直井君とのやりとりに嬉しい要素なんてあっただろうか?

 愛上君がドMでない限り、アレを嬉しい出来事を解釈するのは難しいように思うけれど。

 

「うん。みんなが俺のために寄せ書きしてくれて……!」

「え? あ、ほんとだ! なんで寄せ書き持ってるの⁈」

 

 愛上君はカラフルな文字がたくさん書かれている色紙を持っていた。中央には「愛上君、元気でね」と大きく書かれており、その周囲を放射状にいろんな人がコメントを書いてあった。

 

「直井君に至っては『卒業しても、俺とお前は死ぬまでズッ友だからな』って書いてくれてるよ。俺はもう嬉しくてうれしくて」

「絶対本人じゃないでしょ! 初対面って言ってたよね⁈ あと、絶対直井君はズッ友とか言わないと思うな」

「始まりの女からは『食わねば』って書いてもらったし」

「そんなヤバい子が人気なの⁈」

「あれ、でも知らない名前もいっぱいあるな。もしかしたら色紙を渡す人を間違えたのかな? 会長宛に変えとこ」

 

 そう言ってポケットから手のひらサイズの消しゴムとペンを取り出した愛上君は中央の文字を『愛上』から『立華かなで』と書き換えた。なんでペン字が消しゴムで消えるのかは考えなかった。

 

「よし、じゃあ俺は会長にこれ渡してくるけど、大山君どうする?」

「僕はこのまま図書館へ向かうよ」

 

 僕は愛上君と別れて図書館へ向かった。

 天使があの寄せ書きを受け取ってどんな反応をするかは少し見たかったが、自己保身のため、僕はそそくさと図書館へ向かった。

 

 

 本当かどうかは定かではないが、その後一冊の冊子と1枚の色紙を持った会長が嬉しそうに生徒会室に入っていくところが目撃されたとか、されていないとか。

 

 世の中には、まだまだ謎が多くあるね。

 

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