かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
「なにやってんだろ、私」
いつも練習に使ってる空き教室。端に避けられた机の上に寝っ転がって、窓から空を見上げていた。
いま教室にいるのは私と愛上だけ。
岩沢も新木も、いない。
辞めたとかさぼったとか、そういうのではない。あの二人は今めいっぱい遊んで仲を深めているのだ。
というのも、新木が間もなくこの学校から卒業してしまうからだ。
新木はNPCで3年生。ゆり曰く、卒業したNPCは消滅し、二度と会うことはない。岩沢はそのことにショックを受け、残り少ない時間を新木との親睦を深めることに使おうとしてるのだ。
それはいい。
立派な考えだし、私も賛成だ。
問題は、遊びにうつつを抜かし練習ができないことだ。
様子を見に行くと、あいつらはとても楽しそうに遊んでいた。それはもう、私には見せないような笑顔を浮かべる位に、だ。
私は、岩沢のあの笑顔を思い浮かべるたびに、正体不明の圧迫感に心が襲われるのを感じた。おそらく、満足に音楽が出来ないことに対する苛立ちだ。状況から考えたらそれが一番自然だ。
だからこそ、私はいま音楽がしたい。
にも関わらず、ここにいるのは何考えてんだかよくわからない愛上だけ。
はぁ。
「ロスパラとのセッション、楽しかったな……」
「ロスパラ?」
愛上のリアクションを聞いて、私は無意識に言葉を発していたことに気が付いた。
ロストパラダイス、通称ロスパラ。この学校のNPCバンドだ。
私はそこからギターに誘われていて、一回だけセッションに参加したのだ。
岩沢の曲を演奏できない辛さ、ロスパラでのセッションの楽しさ、いまいち腑に落ちない正体不明の感情の圧力の苦しさから、思わず口をついて出てしまっていたようだ。
「どうした? 何かあったのか?」
「……お前に言われたくくねぇよ」
お前もその悩みの種の1人だっての。
愛上はこのバンドをどうしたいと思っているのかについては結局聞けずじまいだ。ただでさえバンドの今後が危ぶまれているというのに、そういう輩がバンドにいることについて私は少し不満だった。
それに、こいつは今大きな紙に嘘のFIFAランキングを書いてる。1位はブラジル、2位は南アフリカ、3位は常温のミニモニらしい。そんなことをしてるやつに「何かあったのか?」なんて言われたくないと思うのは、人間としての正常な免疫反応だろう。てか、ほんとに何やってんの?
「まぁまぁそう言うなって。なにかあるなら話きくぞ。こう見えてもな、悩み相談に乗るのは上手いんだぞ。学校内で占いの館をやってて一時期人気だった程だ」
「占い? あぁ、もしかしてこの前摘発されてたやつか?」
先週位の出来事を何となく思い出す。
「そうそう。天使率いる生徒会と教師たちに物理的に破壊されたアレだ。あの時はマジでビビったな。よくわからない令状みたいな紙を目の前に提示されたと思ったら、目にもとまらぬ速さで俺ごと更地にされるんだもんな。」
「窓から見てたけど、すさまじかったぞ。天使もお前に対してストレスが溜まってんだろ」
「きっとそうに違いない」
私は当時の光景を思い出す。天使のあまりの早業に、教師も生徒会メンバーも野次馬達も目をぱちくりさせていた。
更地の中央にタコせんべいみたいに平たくなって白旗を振っていた愛上については、脳のキャパを超えたかのようにNPC全員が無視してた。
「タコせんべいで思い出したけど、岩沢の奴、タコせんべいのことを『タコの代わりにせんべいが入ったたこ焼き』だと思ってたんだよな」
「今どこからタコせんべいが出てきたの?」
愛上はそんなことを言いながらも、近くにあったカバンを足で手繰り寄せ、中からタロットカードの束を取り出した。
結局占いやんのかよ。いや、いいけどさ。
「それにしても結構本格的なんだな」
「まぁね」
愛上はカードを交互に重ね合わせる高速シャッフル(リフルシャッフルって言うらしい)でタロットカードを混ぜると、今度は鞄からすり鉢とすりこぎ棒を取り出して一生懸命に潰して混ぜだした。
……、雲行きが怪しくなってきたな。ほんとは一手前に「タロットカードをそんなマジシャンみたいな混ぜ方しないだろ」っていうツッコミもしたかったんだが、すり鉢に閉口していたらタイミングを失ってしまった。
いやいや、落ち着け。
ツッコミのタイミングを逃したことにショックを受ける必要なんてないんだ。
私はツッコミ芸人でもなんでもないんだぞ。
ちょっとした反省とその取消をしているうちに、粉末にし終わったタロットカードを教室脇に置いてあった金魚の水槽に入れた。金魚がそれをパクパクと食べるさまを見て、にこやかに一言発した。
「俺頭悪いからさ、今から言うことはもしかしたら全然間違ってることかもしれないんだけどさ」
「なんだよ、改まって」
「コレ、占いじゃ無くね?」
「占いどころか、何ものでもないぞ」
「さてと、本題に入るか」
「本題?」
「うん。岩沢先輩のことだろ?」
急にでたその名前に思わずドキリとした。
「……そんな嫌そうな顔すんなよ。なんかショック受けるから」
「別に嫌そうな顔をしたわけじゃ……」
こいつ、こういうところあるよな。何も考えてない感じを出しておいで、意外と人の機微に敏いというか、なんというか。
そのくせ、人の心なんて全然わかってないのはちょっとむかつく。
「最近楽しそうだよな。新木先輩も岩沢先輩も、」
「なぁ」
「ん?」
「あいつらがどうこうの前に確認しておきたいことがあるんだけどさ。お前はビューブラのことどう思ってんだ?」
私は単刀直入に聞いた。 岩沢の問題の前にまずはこいつのスタンスを確認しておきたい。
いや、そんな理性的な意図で聞いたんじゃない。今は真面目にあいつらの話をしたくなかっただけだ。それは自分でもわかってるつもりだ。
「お前はこのバンドに居たいのか? お前は岩沢に無理やり引き入れられたに近いし、学園祭も1人で演奏してたし、練習もたまに来ない。新木入ったときも、お前は辞めようとしてたんじゃないのか?」
私の言葉に少し驚いたような表情を浮かべる愛上。
話題を変えただけのつもりだったが、自分でも思っていた以上に言葉があふれ出てきた。
「……、俺は」
「てか、お前は何がしたいんだよ。戦線にも生徒会にもつかないどっちつかずの立ち位置で、いつも意味わかんねー事件を引き起こしてみんなを困らせてよ。お前は楽しいかもしれないけど、巻き込まれる私達の身にもなれよ」
一度吐き出した不満は、戻らない。
「そもそも、お前は何なんだ! なんで何もないところから木を生やしたり、物に変身したり、謎の生物を召喚出来たりするんだよ! あり得ないだろ! 天使でもそこまでしてないぞ」
遂に心の奥底に沈めていたものまで、表に出てきた。
「お前、ほんとに人間なのか?」
そこまで言って、私は久しぶりに空気を吸った。
一呼吸するたびに視線は愛上から逸れ、下へ下へ移っていくのが自分でも分かった。
自分がとんでもないことを言ってしまったんじゃないかというわずかばかりの不安が心のどこかから染み出してきた。
恐る恐る再び愛上の方に目を向ける。しかし、愛上に変化はない。少しの驚愕。それのみだ。
その表情からは、私の先ほどの発言をどう受け止めたかが図れない。しかし、その表情が、かえって私の頭の中をかき回す。
どうしていいか分からずただ静止していると、愛上の方が口を開いた。
「変な不安を与えちゃってたみたいで申し訳ないな」
私の目を見て言う愛上。
そんな大人な対応するなよ。私がバカみたいじゃないか。
「もちろん好きだよ、ビューブラ。最初はそんなに乗り気でもなかったけど、みんなで合わせてるうちにどんどん盛り上がっていくのを感じてさ。文化祭に一人で出たのも、ビューブラで演奏してるうちに湧いてきたインスピレーションを形にしてみたらバンドって感じじゃなかったからってだけなんだ。だからむしろ、ひさ子先輩達が割り込んできてくれた時、俺は感動したよ。1人での演奏だったら絶対に聞けなかったサウンドを聞くことが出来てほんとによかった」
愛上の音楽への気持ちを聞くほど、私の心は冷静さを取り戻していった。
いつの間にか自分が立ち上がっていたことにようやく気付き、私は手近な椅子に腰かけた。
「ただやっぱ、俺だけ男っていうのに引け目を感じててさ。元々ガールズバンドで行くつもりだったらしいし、だからあくまでサポートってスタンスでやってたしさ」
愛上はゆっくりと言葉を紡いでいたが、そこで一度言葉を切った。
おそらく言葉を選んでいるのだろう。今までの話でもそうしてるように感じた。もしくは、自分の中でもまだ整理しきれていないのかもしれない。
そういえば、こいつが何を考えて行動してきたか、私は初めて聞いた気がするな。
そして、こいつの考えを聞いたことで、私はふとあることに気が付いた。
愛上は、どことなくちぐはぐな存在であるということ。
小学生みたいなおふざけ、中学生みたいな身長、高校生みたいな趣味に、そして大人のような思慮。
どことなく感じていた違和感が、自分の中で初めて言語化された。
そんな時、愛上は私の思考を遮るかのように自分の手をパシンと叩いた。
「まぁ俺のバンドへの思いはそんなところだ! ちなみに、戦線と天使のどっちつかずで適当にやってたのも、変なことばっかりしてんのも、そういうのがかっこいいと思ってるからだ! 中二病の亜種だとでも思って受け入れてくれ。この通りだ」
愛上はそう言うと、どこからともなく現れたお地蔵さんの頭にチキンナゲットをこすりつけてから食べた。
私は愛上の言葉とこの光景に思わず吹き出してしまった。
「バンドへの思いに比べて適当な理由すぎるだろ。なんだ、中二病の亜種って。普通に中二病だっつーの」
私の笑いに共鳴するように愛上も笑う。そこだけ切り取ると青春の1ページみたいで感慨深ささえ感じるが、地蔵の表面の味でチキンナゲットを食っていながらなので普通に怖い。
「とりあえず今日はあの二人も来なさそうだし、学食でも行こうぜ。俺隠しメニュー考えたんだ」
「自分で考えただけなら隠しメニューじゃなくてただの妄想だぞ」
そんな話をしながら私達は教室を後にした。
教室を出た瞬間に頭が油でテカテカの地蔵が槍を持って追いかけてきたので、結局学食には行けず、普通に最悪だった。
そういや、こいつが何を目的にしてるかは、結局聞けずじまいだったな。
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そして重ねて申し訳ないのですが、今後も不定期の更新になるかと思います。隙を見て執筆はつづけていきたいと思います。
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