かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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41、ハムスター逃がしなど

「おい日向。ポスターは何枚だ?」

「あー、あと50枚くらいか。300枚の束を渡されたって考えるとだいぶ減らせたな」

「ふっ、これくらいで根をあげているようじゃまだまだだな。せいぜいゆりっぺのために頑張るんだな」

「言っとくけどお前よりは仕事してるからな。いい加減その邪魔なハルバードどっかに置いてこいよ」

 

 偉そうに語る野田に対して小言を言うも、本人は得意げな表情のままだった。俺の言うことを気にしていないのか、それとも馬鹿すぎて小言に気がついていないのかは定かではない。

 

 かく言う俺も、そうは言いつつ手は止めない。残り50枚の卒業ライブ告知ポスターを貼らなくてはいけないからだ。他の戦線メンバーも手分けして貼っていってるが、おそらく俺らが一番遅れている。このままでは、ゆりっぺに理不尽なお仕置きをされてしまうかもしれない。

 

 そのことを想像し若干身震いをすると校内にチャイムが鳴り響いた。どうやら授業が終わったようで、教室からもNPCの生徒たちがぞろぞろと出てくる。

 休み時間になったら天使の介入もあるかもしれないと思いポスター貼りの作業に戻ろうと思ったところで、俺はある一人の人物の存在に気が付いた。

 

 愛上が当然のように3年の教室から出てきたのだ。

 

 授業に出てることにも驚きだが、そもそもこいつは1年のはずなのでこの教室から出てくること自体が謎だ。

 そう言えば、こいつと大山の出会いは同じ授業を受けていたからだと以前聞いた気がするな。てっきり人間である(NPCではない)大山とコミュニケーションを取るためにわざわざ他学年の授業に出ているのかと思ったけど、そういうの関係なしに3年の授業を受けてるんだな。キモイな。

 

 そんな失礼なことを考えていると向こうも俺たちに気が付いたようで、右手で軽く挨拶をしながらこちらに歩いてきた。

 

「日向先輩に野田先輩じゃん。何してんの? ハムスター逃がし?」

「ない言葉を当たり前に使うなよ。そんなことするわけないだろ」

「そうだよな。野生のハムスターってちょっと嫌だもんな」

「そういう問題か……?」

 

 いつものように意味不明なことを口走る愛上に早くも疲れてしまった。

 こいつの相手をしてる時間ももったいないし、今度こそ作業に戻ろうと思ったところ、今度は野田が口を開いた。

 

「貴様、なぜわざわざ授業を受けているのだ?」

 

 うん、気になるよね。分かるぞ。俺もちょっとだけ興味あるもん。

 でも、別に今じゃなくていいだろ。お前のせいでポスター貼り遅れてるんだからな?

 

 心の中でそんな悪態をつきながら自分は作業に戻りつつ、耳はしっかりとそちらに傾けていた。

 

「んー? 別に深い意味はないよ。全然関係ないクラスで授業を受けてるのって面白いなって思ってやってるだけ」

「む。貴様、このクラスではないのか。やはり頭のおかしい奴だったか」

 

 いや、お前はそれをわかってて聞いたんじゃないのかよ。しかも頭おかしいとか野田に絶対に言われたくない言葉ベスト10だな。お前は愛上とは違うベクトルでおかしいってことを自覚してくれ。

 

「ん~、他にも先生目当てって言うのもあるけど、そっちは些細なもんだしな」

「先生目当て?」

 

 予期せぬ回答に俺は思わず言葉を繰り返して、手を止めて愛上の方へ振り返った。

 

「うん、今受けてた教科の先生がさ、俺の母親にちょっと似てるんだよね。だからなんとなく懐かしくて、ついここに来ちゃうんだよな。別にマザコンってわけじゃないけど」

「なるほど、そうだったのか」

 

 自分の親に似ている、か。

 

 そういえばこいつは事故で亡くなったんだっけか? そのことを聞いたのは結構前のことだからあんまり覚えていないけど、確かそうだった気がする。

 普段の会話でもたまにこいつの前世の事情とか垣間見えるけど、別段家庭内に不和があったとかでもなさそうだし、さすがに親に焦がれることもあるんだな。随分人間らしい一面もあるもんだ。

 

「しみじみするような話な気もするが、全然関係ないクラスで授業を受けてる男の話だと思うと雰囲気ぶち壊しだな」

 

 俺はボソッと独り言を呟いた。

 

 にしても、自分の親に似ている人間の存在ねぇ。

 

 それを聞いて俺はある人物のことを思い出した。

 俺の心の傷のひとつでもある、野球部時代のマネージャーだ。

 

 少し前のクリスマスダンスパーティーの際に、俺は彼女に似た存在に出くわした。仮面をしていたので本人かの確証はないが、声や話し方、背格好などはそっくりだった。

 松下五段によると、彼女はNPCだったらしい。もしかすると、ここを死後の世界だとわかっていないだけの可能性もあるが、今そこを疑っても確かめようがない。

 

 マネージャーに似た存在。そして、愛上の母親に似た存在。

 

 この2人には何か共通点があるんじゃないか?

 

 俺はそこまで、いや、その先まで考えると、全身から嫌な汗がにじみ出てきたのを感じた。

 この世界は、もしかして……。

 

「こらー君たちー、いつまで廊下で突っ立ってんのー。もう次の授業始まるぞ」

「うわっっ‼」

 

 ぽすんと頭を軽く小突かれ、俺の思考は中断させられた。

 考えに集中していたこともあり、その衝撃に過剰に驚きの反応を示してしまったのを自覚した。

 

 注意をしてきた人物の方へ素早く振り返ると、どこか見覚えのある女の人が少し驚いたような表情を浮かべていた。

 

「あっと、ごめんね、そんなに驚くとは思わなくて」

「え、あ、いえ、気にしないでください」

 

 そこにいたのはブラウンがかったストレートなロングヘアーに薄いベージュのジャケットとスカートの女性。年齢は30代後半くらいだろうか? ともかく、この人を見たら100人中99人が「女教師」というような、そんな見た目の女性だった。

 

 もしかしてこの人が例の愛上母似の教師か? そう言われてみると、少し面影があるような気もするな。愛上よりは少し厳しそうな顔つきではあるが、柔らかい話し方も相まって親近感は自然と湧いてくる。

 

「先生、気にしないでください。日向先輩はスケベなんで、女の人に触れられると横隔膜が痙攣して大きな声が出ちゃうんです」

「うぉおい! 変な設定をつけるなよ! 信じちまったらどうするんだ!」

「え、君私に気があるの? でもごめんなさい。私、中卒はちょっと……」

「ほらー、先生も信じちまってるじゃねーか。てか、普通高校生を中卒とは表現しませんから! あと教師とあろうものが分かりやすい差別をするの辞めてもらっていいですか⁈」

 

 なんだこの疲れる先生。ほんとに愛上の母親なんじゃないか?

 血のつながりを感じさせるぞ。

 

 にしても、この疲れる感じ、やはりどこかで見たことあるような?

 

「嘘嘘、冗談よ。ちょっとしたジョークのつもりだったんだけど、不快にさせちゃってたらごめんね。お詫びに手相を見てあげるわ。私、こう見えて手相占いが得意なのかしら?」

「いや、疑問形で聞かれても知りませんよ。まぁ別にいいですけど」

 

 俺は渋々開いた右手を差し出す。

 すると、教師は懐から虫眼鏡を取り出し、俺の手相をじっくりと観察する。

 

「ふんふん、ほほーう。えー! すごいすごい! その発想はなかったわ!」

 

 そのセリフに違和感を覚えたタイミングで先生は手相を見るのをやめてこちらに深刻な顔を向けた。え、何その表情。

 

「……どうでした?」

「面白かったわ。また見せてね」

「感想なんて求めてませんから! いや、どうせちゃんと見てないだろうとは思ってましたけど、せめて手相の診断結果っぽいものくらい提示してくれませんか⁈」

「そうね、私はまだ未熟だから相対的にしか評価できないのよね。誰かと比較しましょうか。ちょっとそこの武器持ったアホ錦、手相みせてもらっていい?」

 

 先生がそう言うと同時に愛上が野田の手を押さえつけ、先生の前に差し出させた。アホ錦ってなんだ? 悪口なのか?

 野田は訳も分からず抵抗するが、鬼戦車のごときフィジカルを持つ愛上の前には無意味に終わった。先生は先ほどと同様に虫眼鏡を取り出し、鬼のように抵抗する野田の手相を観察し始めた。

 

「ふーん、なるほどねぇ。おー! いけいけ、そこだ! 頑張れ! 君ならできる!」

「どうやったら手相でそんなに熱狂出来るんですかね」

「ゴォォォォル! バーレーンの決勝進出が決まったぁぁあ!」

「まさかのサッカー⁈」

 

 手相を見ながらサッカーWC観戦みたいな声援をしてる教師というものを見ることになるとは思ってもみなかった。一回くらい死んでみるもんだな。関係ないけど、バーレーンってサッカーでしか聞かないよな。どこにあるのかも知らないな。

 

 先生は一通り盛り上がって満足したのか虫眼鏡を懐に仕舞い、ちょうどその時にチャイムが鳴った。今のは始業のチャイムのはずなのだが、先生がこんなところで油を売ってていいのだろうか。

 

「うわ! 次の授業の準備してない! ごめんね君たちも巻き込んじゃって! それじゃまた!」

 

 やっぱりダメだったらしい。先生は速攻で踵を返すと、そそくさと早歩きで階段の方まで行ってしまった。

 

「……嵐のような人だな」

「うん。俺の家族もみんなあんな感じだったな」

「うらやましいような、死ぬほどうらやましくないような」

「もう死んでるってことは、相当うらやましくないみたいだね」

「おい! そろそろ解放しろ!」

 

 愛上は忘れてたと言わんばかりの表情を浮かべて野田を解放する。野田は数回咳をした後、ハルバードを愛上に向けて構えた。

 

「貴様、ただで済むと思うなよ」

「野田、多分それブーメランになるぞ」

「ふん、今までの俺とは違うと言うところを見せてやるぜ」

「あ、そうだ、愛上くーん」

 

 野田の無意味な意気込みと同時に、先ほど去っていった教師が遠くから声をかけてきた。その声に気を取られ、何気なしに俺も愛上もそちらに目を向けた。隙ありとばかりにハルバードを振りかぶっている野田を視界の端に捉えていたが、特に気にはしなかった。

 

「かめはめ波、撃てるといいね」

 

 その言葉と同時に野田のハルバードが愛上の脳天に振り下ろされたため、俺は愛上がどんな感情でその言葉を聞いたのかを確かめるすべはなかった。

 

 ちなみに俺は、少し気味が悪いと思ってしまった。

 

 

 

 余談だが、この後貼ったポスターは次の休み時間に現れた爆速天使の手によって全て剥がされてしまった。俺たちの3時間は一体何だったんだ。

 ゆりっぺからのお仕置きがなかったことで一瞬ゆりっぺを天使のようだと錯覚したが、そもそもポスター貼りをやらせたのがゆりっぺだと気づき、やっぱ普通に悪魔だなと思った。

 

 まこの戦線は天使、ひいては神に抗う組織なので、ボスが悪魔なのは何とも皮肉が効いていて面白いな。こんなこと口に出したら3回は殺されるので、絶対に言わないが。

 

 ギャグみたいな1日だっただけにゆりっぺに愛上と先生のことを報告することはできなかったが、さて、どうすべきだろうか。

 




コメントや高評価、本当にありがとうございます。
かなり好き嫌いを選ぶであろうこの小説に読者が付いてきてくださっているというだけで、非常に励みになります。


占いネタばかりやってすみません。占いの館の話を考えてた時に使いきれなかったネタがいっぱいあったので棚卸ししてます。

日向くんの生前の話はゲーム版で見れます。漫画「the last operation」でも多分そのうち見れると思います。
それを踏まえてユイとの関係をみると、うぅ……。
あ、別にその話を知らなくても問題ありません。
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