かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
むずいです。やっぱり芸人さんて凄いです。
今日は特に戦線での活動もないので、気晴らしがてら久しぶりに自分の教室にやってきた。体感だともう1年以上来ていなかった気がするけど、全然そんなことないんだよなぁ
。
戦線に入ってからの時間が濃密すぎるのかな。
何となく自分の席でぼーっとしていると教室の前の扉から見慣れた顔の生徒が入ってきた。
「あ、大山君じゃん。珍しいね、教室来るなんて」
「あはは、すっかり授業にでなくなったからね。少し前までの自分に教えてあげたいよ。きみ、将来不良になってますよって」
「授業をさぼる以上に悪いことしてるだろうに、何をいまさら」
「それもそうだね。ていうか、愛上君、いい加減自分のクラスで受けたら?」
そうやってしばらく、愛上君と取り留めのない話をしていたが、ふとした瞬間に僕はあることに気が付いてしまった。
愛上君が、全くボケない。
いつもは不条理マシマシドデカ盛りボケキャノンをかましてくる愛上君が、今日は何ともおとなしい。
もしかして、偽物なんじゃないか。
いや、そうとしか思えない。もしくは、何かとんでもなく壮大なボケの伏線なんじゃないか。考えるだけでもおぞましい。
「ね、ねぇ。今日なんかいつもと違くない?」
「あ、そういえば言ってなかったっけ? 今日は、俺にとって大事な日なんだ」
そう言って、彼は窓の外に目を向ける。その目はどこか遠くを見ているようだった。
でも、僕は知っている。彼がこの顔をするときは、大抵何かの振りなのだ。
一応優しさで乗ってあげよう。
「もしかして、生前に何かあったの?」
「お、なかなか踏み込んでくるねぇ、このインチキ手長エビが!」
そういってにこやかに僕の背中に張り手をしてくる。インチキ手長エビってなに?
少しいつもの調子に戻った気もするけど、いつもならここで相撲取りの格好で僕にツッパリをしたうえで不知火型の土俵入りで窓から落ちるくらいはするので、やはりおかしいと言わざるを得ない。
「13歳の時の今日な。大事な人に恩返しをするチャンスがあったんだ。でも俺はその人に何もしてあげられなかったんだ。すごい色んなものを与えてもらったのに、俺はそれを返すことが出来なかった。俺はそれを、今日こそ返したいと思う」
「返すって何を? もし僕でいいなら力になるよ」
「いいの? ありがとう!」
僕の手を握ってブンブンと振る愛上君。
「じゃあ、なんか適当にボケてよ。ツッコむからさ」
「あ、返すものってそういう掛け合い的な感じなのね。面白い返しが出来なかったことを悔いていたのね」
「え、そう言ったじゃん?」
「言ってないよ!」
「で、でも、いきなりぼけてって言われてもなぁ」
「まぁそれもそうだよな。でも、俺は朝起きた時からツッコミスイッチが入っちゃってるからどうしようもないし。じゃあ、適当に雑談してくれたらいいよ。俺が隙を見て勝手にツッコむからさ」
「そう? じゃあそれでお願いしようかな」
僕は頭をひねって考える。
いざ適当に雑談を振ってと言われると、出てこないものだ。いきなりボケろというハードルに比べたら幾分跳びやすいが、それでもやはり一般人間である僕にとってはなかなかに難しい。
あ、そうだ。せっかく戦線じゃない生徒と話す機会だし、僕が心の隅っこで思っていた疑問について聞いてみよう。
「あのさ、僕ちょっと気になることがあってさ」
「どうしたのよ。そんな神妙な顔して。おばあちゃんが実は9つ子で、そのうち一番のブスが自分のばあちゃんだったとか?」
「いや、超えてこないでよ! いや、実は下回ってるのかもしれないけど! ていうか、それだとしても別に問題ないよ!」
「確かに、9つ子は言い過ぎね。多くて5だよね」
「話進めるね」
僕は咳払いをして愛上君のペースをリセットする。
「実はさ、僕、天使が本当に天使なのか疑問でさ。戦線の仲間にはなかなか相談しにくくて」
「まぁ、メンバーには中々言いにくいよなぁ。天使を目の敵にしてる手前、思っていても口には出せないよねー」
愛上君は深々と頷いてくれた。どうやらちゃんと聞いてくれるみたいだ。この話を選択してよかった。
「天使ってさ、あまり感情も動かなくてどこかロボットみたいで人間味がないよね? それでみんなが、彼女を天使だって思い込んでるんじゃないかって」
僕が何気なく思っていた不安を吐き出すと、愛上君は目をキラリと輝かせた。え、なんかチャンスワードでも言っちゃったかな。
「そりゃそんな奴は明らかに天使だからな。漫画やアニメでは感情の起伏が少ないキャラってよくいるけど、実際にいたら不気味の一言だし。AIBOどころか、最近の自販機だってもう少し楽しそうにできるくらいなんだから、本当に感情がない奴なんていたらそりゃ人知を超えた存在ってことよ」
あれ、別にボケもツッコミもしてこなかった。さっきの目の煌きは何だったんだろう。まぁいいや。
「でも、彼女、結構天然で可愛いところもあるんだよ。この前なんてブレザーの下にパジャマで学校来て、しかもパジャマも裏表逆だったらしいんだ」
「そりゃ、人間じゃねぇか。ヤラセのドジっ子に出来るのは、言い間違えしてコッツンコ程度なんだし。完全な存在はそんな最果てのドジっ子みたいなことはしないんだよ。絵画とかで見たことあるか? 歌舞伎メイクしてるのにナイトキャップ付けたまま来ちゃった神様の絵とか。有史以来存在してないんだよ、ドジっ子超越者なんて!」
すこしだけ語調を荒げる愛上君。少しだけ風向きが少し変わったような気もするが、きっと気のせいだろう。
「ま、まぁ、それもそうだね。確かによく見たらすごいかわいいし、髪もサラサラできれいだもんね。そんな彼女が天使なわけないよね」
「そんなもん、天使に決まってるじゃねぇか! 神様とか天使はみんな美男美女なんだよ。髪もさらっさらのつるっつるで、お肌すべっすべなんだよ。髪ぎっとぎとの三つ目ブスがニキビ潰しながらいきなり店先にやってきて『やっほい、おいどんは天使なり』って言っても誰も信じてくれないだろ。あぁやって、人間の枠にとらわれないかわいらしさがあるってことは、そりゃもう天使で決まりって理屈よ!」
「えーやっぱり、天使なのかなぁ。まぁ、規律を重んじて制服の着崩しすら行ってないしね。きっと天使なんだよね」
「お前、そりゃ逆に人間ってもんよ。そもそも服着てるって時点で人間よ。天使は全裸か事故物件のカーテンみたいな布を巻いてるだけなんだから。羞恥心はマイナスから発露する特有の感情なんだから、超越的な存在が持ってるわけないんだって」
おやおや、いったいどっちに転ばせたいんだ?
彼の目をちらりと見ると黒目の中に『続けろ!』と書いてあった。しっかりとヒラギノ明朝で書いてあった。
仕方ない、もう少し付き合ってあげることにしよう。でも、本当にこんな会話で満足するのかなぁ。何か元ネタでもあるんだろうか。
「でも、本当に天使なんだとしたら、もっと威厳ある感じなんじゃないかな? 彼女、見た目は確かにかわいいけど、威厳はないよ?」
「そりゃ天使だからにきまってるじゃんけぇ。天使は往々にして子供なんよ! ロリなんよ! ツルペタなんよ! 天使の感情と同じくらい体の起伏もないんよ! でっかくてばいんばいんの天使さんがいたとしても、きっともう偉い天使さんなんだからこんな辺境の学校で一人で働かされたりしないんよ。もっと空調の効いた部屋で仕事をしてると見せかけてマインスイーパーに一喜一憂して役員報酬だけ貰ってるんだよ」
そんな限界天下りマンがいる死に際大企業みたいな感じなんだ、天使の労働環境。だったらむしろ、逆らわないであげたくなってきたよ。
「確かに、言われてみれば、ここの労働環境ってかなり酷だよね。だから、ストレス発散のごとく食堂であの激辛麻婆豆腐を食べてるのかな?」
「いいや、それは人間じゃないの! きっと彼女がべらぼうに人間だから食べてるんよ! 同じものを食い続けるなんて、きっと生前の後悔が関与しているに違いないね! もし彼女が天使だとしたら、もっとシンプルで栄養バランスのいいものを食べるか、そもそも飯を食わないだろ! でもわざわざ激辛の麻婆豆腐を食べている。そこには、何か人間ならではの美しく儚い感情が秘められているにちがいないっけぇのぉ!」
何やら話し方がおかしくなってきてない? どこのものでもない謎の方言みたいなのを使いだしている気がするぞ。きっとそれくらい気持ちが乗っているんだね。
なかなかここまでずっとテンション高い愛上君を見るのも久しぶりだからちょっと楽しいな。
「そういえば、当たり前すぎて触れてなかったけど、天使って力もすっごい強いよね。ゆりっぺなんて片手で20m以上も投げ飛ばされたことあるらしいよ」
「それはお前、男の子だからだよ……。男と女では筋肉の付き方にそもそも差があるんだから、力を出すなら男でいたほうが都合いいんだよ。ほら、彼女、いや、彼の肉体の起伏がそこまでなのも、彼が男の子だとしたら納得いくよ、って天使は両性具有やないか! じゃあなおさら天使は天使じゃん!」
両性具有って、あれだよね。あの、男の子と女の子のやつがどっちもついている人のことだよね…? ってことは…?
「えー!! じゃあ、彼女にも、その、あ、アレがついてるってこと?」
「可能性はある。いや、可能性は無限大だと言い換えてもいいね」
「でも、確かめようがないよ。 流石に彼女にお願いするわけにもいかないし」
恥ずかしい。顔から火が出そうだ。思わず両手を合わせてもじもじしてしまったよ。
「そんなん、君らんとこの女子メンバーにお願いしたら解決でしょ。ちょっと天使の風呂を覗いてくれって。女子寮も男子寮みたく、共同のでっかい風呂場だろ?」
「そうだろうけどさ……」
「そうと決まればさっそく総長のところに行ってみよう」
「えー……」
気乗りしない僕を引きずって、彼は校長室へを足を運んだ。総長ってゆりっぺのこと?
僕は恐ろしくて校長室に入ることは叶わず、入り口で待っていたが、室内からゆりっぺの怒号と銃声、それに切ったり伸ばしたり、何かが正解したような音までして、最終的に何かが溶けるような奇怪な音が鳴り響いたと思ったら、ゆりっぺが笑顔で出てきた。
それ以降、誰も校長室からは出てこなかった。
漫画 Angel Beats! Heaven's Doorなんですが、7,10、11巻を持っていないので、そのあたりまで行くと話が飛ぶと思います。
現在書き溜めが6巻中盤まで行ってしまったので、早くなんとか手に入れたい。