かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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7、バンド練習など

「さぁて、それじゃ椎名さん。練習を始めましょうか」

「そうしよう、ゆり」

 

 私が首からベースをかけ、椎名さんがスティックを持ちドラムの位置にスタンバイした。

 校内で人気のバンドである、――あー、そう言えばバンド名知らないわね―― ともかく、あの女子ギターユニットから戦線の仲間になる条件として「女子のバンドリズム隊」を要求されてしまったので、私と椎名さんがこうしてせっせとリズム楽器であるドラムとベースの練習をしようとしているというわけだ。

 

 今頃日向君とか野田君はアホみたいな面でご飯食べたりベッドで寝たりしてるのかと思うと腹立ってくるわね。まったく、たまには役に立ってみなさいってもんよ!

 

「ゆり、練習と言っても、そもそもどうやって練習すればいいのだ? 私は和太鼓の演奏なら見たことあったのだが、まさかここまで太鼓が多いとは思わなかった。やれと言われればもちろんやるが、勝手がわからない」

「む、それもそうね。私も詳しいわけじゃないし。確か、右手のスティックで左側に置いてる小さめのシンバルを細かく叩いて、足元の太鼓でビートを刻むんだったっけな?」

「しんばる? びーと? それはどれのことだ?」

 

 そうか、椎名さんにはそもそも外来語を教えるところから始めないといけないのか。

 さっき椎名さんが軽く叩いていた感じをみると、筋は悪くないと思うんだけど、叩くまでにこそ、時間がかかりそう。

 

 あー、せめて音楽プレーヤーでもあれば、バンドがどんな感じで叩いているのかわかるのに!

 

 てか、私だって、ベースをどうやって弾いていいのかなんて分かんないわよ!

 

「せめて、あの子たちに軽く教えてもらえばよかったわね。これじゃ、普通に三下り半をたたきつけられちゃうかも」

「そうか……」

 

 少し椎名さんが悲しそうにしてる! くっそ、心が痛む! せっかく椎名さんがドラムを叩きたがっていたのに、私は力になってあげることもできないの?!

 

 私が地面を殴りつけると同時に教室のドアが開いた。

 もしかして教師が来た? もう撤収しなきゃいけない時間なの? 

 

 そう思って扉の方に振り返ると、私の歴史上一番いかれた謎の存在Aが立っていた。

 しかも、髪の毛が上に異常にとんがっており、バンダナを額に巻き、革ジャンを羽織って、右手にはちくわを持っていた。見てくれだけなら昔のバンドマンぽいけど、なぜちくわ?

 

「ふっふっふ、お困りのようだね、お嬢さんたち。俺が手を貸してやろうか?」

「すみません、どちら様でしょうか? 大丈夫ですのデ、オヒキトリクダサイ」

 

 私は無理やり扉を閉めようとするも、謎の存在Aはどっかのホラー映画のパッケージのように、扉に顔を挟んでそれを阻止した。

 

「ぐぇっへっへっへ、そうはいかねぇぜ、総長さんよぉ。音楽と言えば俺、俺と言えば音楽、俺ならベースもドラムも教えられるぜ~ぃ。困ったときはタスケアイだろ? この俺のちくわ笛がアぁっ!!」

 

 私がドアを閉める手に力を籠めると、謎の存在Aこと愛上君の顔が取れた。

 

「ぎゃー!」

 

 女子とは思えない叫び声を上げちゃったじゃない! 

 

 お面が外れたみたいに、顔だけがそのまま取れ、元の体にはのっぺらぼうのような頭だけが残っていた。

 え? もしかして、私のせい? 私が扉を閉める力を緩めなかったから?

 

「……っ!」

 

 後ろから椎名さんの息を飲む音が聞こえてきた。さすがの椎名さんもびっくりしたのだろう。

 

「おい、俺の体! もうちょい右だ! 違う、行き過ぎ行き過ぎ! そう、そうそうそのままだ! そのまま進め!」

 

 件の愛上君は、体の方が四つん這いになって地面をまさぐっており、顔の方が体に自分の位置を教えていた。胴体の方は持っていたちくわをのっぺらぼうの口元に据えると、ちくわはそこに固定された。もしかして咥えているの? どうやって?

 しばらくして、顔をはめ直すと改めてこちらに向き直ってサムズアップをした。

 

「バンド、しようぜ!」

「嫌すぎるわ!!」

 

 私の叫びと共に、彼の額にクナイが刺さった。

 ぐっじょぶよ、椎名さん。

 

 

 

 

 

「まぁ冗談は顔だけにしておくとして、二人ともドラムとベースを習得したいんだろ。俺はほんとにどっちもできるから、結構教えられると思うぜ」

「冗談は顔だけにしてってセリフ、本人が言うパターン初めて聞いたわ」

 

 復活してみてくれも元通りになった愛上君は私たちにそう提案した。ちなみにちくわ笛は悪魔みたいな羽を生やし、その羽を使わず体をくねくねと動かしてどこかに飛んで行った。めちゃくちゃキモかったわ。

 

「せっかく同盟を組んだんだし、ここはお言葉に甘えておきましょうかね。というか、どっちもできるんなら、あなたにベースをやってもらおうかしら。それで、椎名さんにだけドラムを教えてくれればいいわ。その方が早いでしょ」

「いやいや、岩沢さんたちはガールズを所望してるんだろ? 俺には確かにうら若き純朴乙女のような一面があるが、さすがにガールズじゃないぜ」

「乙女のような一面? そんなもんないでしょ? 人間のような一面がまずないんだから」

「失敬な、これでも生前は男子からモテモテだったんだぞ! 俺も男なのに」

「何そのカミングアウト⁈ いらん情報放り込むな! しかも別に乙女の一面じゃないでしょ、それ!」

「ジョークジョーク、スパルタBLジョークだよ」

「乱暴なBLね」

 

 そう言いながら、彼はドラムの椎名さんの方に歩いていき、どっからともなくスティックを取り出した。

 そして、そのままポーカーフェイスの椎名さんに基本の8ビートを教えていた。

 

 ハイハットを叩いて、拍の頭でバスドラムとスネアを交互に鳴らして、とかそんなことを言っていた。よくわからなかったが。

 そうして、椎名さんが実践してみると意外にもすぐできていた。やはりセンスはあるようだ。きっと、手と足をばらばらに動かす訓練とかを生前にやっていたのだろう。

 

 次に彼は私の元に来て、ベースを貸すよう要求したので、私はそれに応じた。

 彼はベースをいろんな角度で見たり、試しに弾いてみたりしていた。

 

「へぇー、L2000じゃん。しかも日本製の。死んだ世界の割にはいいのあるねー」

 

 愛上君はまるで普通の年相応の男の子みたいに、ベースにテンションをあげていて、私は少し驚いた。

 

 きっと私は、彼がどことなく自分たちとは違う理で動いているものだと思っていたからだろう。

 

 普通はこういうギャップを見せられたらドキッとするのが定番なのだろう。けれど、びっくりするくらいそういうのがなくて、少し自分で面白かった。きっと彼は今後も誰ともフラグを立てないでしょうと失礼なことを考えた。

 

 その後、彼は私と椎名さんに交互に教えてくれた。NPCの教師が止めに来るまでの短い時間だったが、私たちは素人から初心者以上くらいにはクラスアップできていたと思う。てか思いたい。

 

 しっかし、教えてる間はほんとに全然ふざけなかったから逆にちょっと怖かったわ。きっと彼は二重人格に違いないわ。今の人格のままでいてくれたら、もう少し平和に過ごせるのに。

 

 

 

 

 

 

 そして、ライブ当日。

 

 ひさ子さんからのOKも出たことことで正式にサポートメンバーとなった私と椎名さんは、彼女たちと一緒にせっせとライブの準備をしていた。

 

 まだ音は鳴らしていないが、ちらほらと人が集まってきていた。今授業中なのに、NPCもやるわね。

 

 そんなNPCの中に私たちの音楽の先生の姿もあった。

 

「あら、愛上君。来てたのね」

「師匠、よくぞ来てくれた」

 

 椎名さんは彼を師匠と呼ぶことにしたらしい。

 くれぐれも音楽の師匠の範囲に留めておきなさいよ! バカの師匠とか、カオスの師匠にまでは絶対にならないでね!

 

「師匠って、あぁ、そいつか。お前らにベースとドラム教えたの」

「へぇ、話に聞いてた限りもっとヤバい奴かと思ってたけど、意外と普通だな。最低でも全裸だと思ってた」

 

 知り合いの変な生徒に楽器を教えてもらった、くらいしか言っていないはずだが、私の話からだと彼は服を着ていないことになっていたらしい。そんなおかしな伝え方したかしら。

 

「岩沢、あの話をどう聞いたら全裸の男子生徒が楽器を教えてる絵が浮かぶんだ? お前もしかして話聞いてなかったな」

「いや、ちゃんと聞いてたぞ。確かに、なんて言ってたかは思い出せないが」

「やっぱ聞いてねーじゃん!」

 

 仲良く掛け合いをしながらこちらに近づいてくる岩沢さんとひさ子さん。相変わらず百合百合しいわね。

 

 愛上君も少ない人垣のスキマをかき分けて私たちの方に近づいてくる。

 しかし、そうしたことで、先ほどまでは分からなかった彼の異変に気が付いてしまった。

 

「なんで犬に噛みつかれてんのよ‼」

 

 彼のお尻には大きな黒犬が噛みついていたのだ。犬はグルルと唸りながら首を動かし、愛上君の尻を食いちぎろうとしている様子だった。

 

 その光景に、先ほどまで普通の調子で話していたひさ子さんも岩沢さんも面食らったようで、言葉を失っていた。ひさ子さんはすぐに我に返り、愛上君の方へ駆け出した。

 

「お、おいお前大丈夫かよ⁈ こういうときってどうすりゃいいだっけか? 逆に押し込んだ方がいいんだっけ……! おい、お前らも見てないで手伝ってくれよ!」

「大丈夫よひさ子さん、そいつのことは放っておいて」

「そんな、つめてぇじゃねぇかよ! 師匠なんだろ⁈」

 

 ひさ子さんが私達の方へ助力を求めてきた。

 ほんとにやばい状況だったら助けに行ってもいいけど、あいつ痛みを感じてる顔をしてないし、汗の一つもかいてない。きっと大丈夫でしょ。ダメだったら、……まぁその時はその時ね。

 

「君がひさ子さんだね! ひさ子さん? ひさ子先輩? まぁどっちでもいいか。とにかく、心配しなくて大丈夫だよ。彼には日ごろからお世話になってるからね。尻くらいは喜んで差し出すよ」

「は? 彼、ってこの犬のことか? 学校生活で犬に世話になることってなんだよ。それに、なんで大丈夫って言えるんだよ?」

「だって、この犬は僕の養父なんだ」

「へ~、お前って犬に育てられたんだな~ってそんなわけあるか!? 犬に育てられたわけないし、もしそうだとしても殺気立ちすぎだし、そもそもここは死後の世界だから養父はいない!!」

 

 うわ、ノリツッコミだ。ちゃんとしたのは初めて見るわね。彼女も中々のやり手ね。

 

「本物のRockを、現代の子供たちは知らない」

 

 うん、昨日椎名さんに教えた口癖もしっくりこないから、やっぱり変更ね。全然Rockじゃないし。

 

「あ、信じてないな~。じゃあ、見ててみな。おーい、母さん、そろそろ飯の時間ですよ。離してくださいますか?」

 

 彼はそう言いながら尻に噛みついてる犬を優しく撫で始めた。

 

「父さんじゃなかったか? あと、なんで介護みたいなテンションなんだよ」

「グルるるぅ、ガァウ!」

「ぎゃあああああー!」

「わあああー!!」

 

 犬は愛上君の尻をズボンごと食いちぎってどこかへ消えた。ひさ子さんは今まで聞いたことないくらいの大声を出してびっくりしていた。岩沢さんは終始ぼけーっと一連のやりとりを見ていた。

 

「お、おい……、今、食いちぎられたぞ、大丈夫なの、か?」

「大丈夫大丈夫! まだ尻の残機が1機残ってるから。あー、二つあってよかったー!」

「普通は一つでも失ったら終わりなんだよ!!!」

 

 さーて、バカは放っておいて、準備準備~。

 

 尻がどうなったかなんて、絶対見ないぞー。

 




ゆりが使ってたベースがG&L L2000なのは見た感じあってると思いますが、日本製かどうかは知りません。適当に書きました。

なんであんなに初心者に弾きにくいベースがあるのか疑問です。
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