かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
(今回で言うと、ゆり→ひさ子)
今後も使うこともあると思うので、一応書いておきます。
尻も再生し、なぜか制服も元通りになった愛上君はその後、機材の準備を手伝っていた。
ひさ子さんは何やらちらちらと不審者でも見るような目を向けていたが、愛上君本人に気にした様子はなく、むしろどこか面白がっている風でもあった。もしかしたらMなのかもしれない。
機材のことはよくわからないので、百合ギター二人と愛上君にほとんど任せていたが、セッティングもほとんど終わったあたりで彼が少し暇そうにしていたので話しかけにいった。
「ねぇ、なんで犬にかまれてたわけ? あれも天使の力で作ったやつ?」
「そうだよ。本当はケンタウロスみたいにしようと思って試行錯誤してたんだけど、後ろ足をうまいこと操作できなかったのと、下半身馬化を解いた時に一瞬丸出し状態になってしまうというのを解決できなくて、気が付いたらあんな感じになってた」
「途中で気が付きなさいよ。月とスッポンくらい完成図が違うじゃない」
「ことわざにならないかな。ケンタウロスと尻噛みつき黒犬」
「ならないわよ!」
というか、意外とちゃんと準備してやっていたのね。てっきり場当たり的に作っているのかと思っていたから少し意外。あまりそういう舞台裏は見たくなかった気もするわね。
「いやー、途中で一回思ったんだよ。なんで、わざわざ尻に犬を装備してるんだろうって。でも、もうすぐライブ始まる時間だったから、思わず来ちゃった」
「ふ~ん。そうなのね」
つまり、ケンタウロスの完成より私たちのライブを優先してくれたってわけね。
なによ、ちょっといいとこあるじゃ……、いや違うか。
むしろ、真っ先にこっちを優先しろよ。もし『すみません、下半身を馬にしようと頑張ってたら、犬っぽくなっちゃって、それを修正してたら来れませんでした』とか言われたら、マジでしめ縄を使って死より怖い目に会わせてやるところだったわ。
「やっぱり、二本足の馬の段階で止めておけばよかったなぁ。そうすればズボンも普通にはけるし。ケンタウロスのシルエットを求めすぎておかしな方向に行っちゃったなー。優先すべきは馬であることだったか」
「どうせだったら上半身を馬で、下半身を鹿にしなさいよ。あなたにピッタリよ」
「下半身だけ鹿って、わかりにくくない? 普通に二本足で立ってる馬みたいになると思うけど」
確かに!!!
こいつに、こんなバカの極み男みたいなやつに正論を言われた!! 悔しすぎる!!
私は血走った目で地面に拳を振り下ろし続けた。
すると、岩沢さんが私の腕を握り、それを止めた。
「今から演奏するベーシストがそんなことじゃいけないぞ。手を怪我したらどうするんだ」
「う、そ、そうね。ごめんなさい……」
確かに、ちょっと取り乱しすぎたわね。冷静にならなきゃ。
そう思い、深々と深呼吸し、落ち着いたころには、岩沢さんは愛上くんと話していた。
「それにしても、えっと、名前なんだっけ?」
「愛上です。好きな色はマリッジブルー。嫌いな枕詞はぬばたまの。特技はとっとこハム太郎に出てくるハム語を全部言えること。生前は悪いパンダを懲らしめる仕事をしてました」
今なんて言ってた? 自己紹介でおおよそ聞くことのない言葉が並んでいたけど。赤ん坊を寝かしつけるような声色で自己紹介をしている途中に、どこからか聞き覚えのあるゲーム効果音が鳴った。ドラクエだったかしら。
『てれれてってってってー』
「あ、いま自己紹介レベルがアップしたみたい。もうすぐで摂政になれるよ。これで将軍を
「そうか、よかったな。私の名前は岩沢だ。岩石の岩に、簡単な方の沢で岩沢と書く」
普通その字よ! いわさわって名前を聞いた100人がその漢字を思い浮かべるわよ! 沢の方の解説はともかく、岩の解説はいらねぇだろ!
「MondayのMonに、サンダー茶道の皿で
「いや、本名だ。変わってるって言われたのは初めてだな。新鮮な気分だ。この新鮮さを忘れないうちにライブを始めたいな!」
「そんな意味わかんねー名前の状態でライブすんなぁぁあ! おい、岩沢、ちゃんと訂正しろ!」
私がツッコむよりも早くひさ子さんがツッコんだ。うすうす気が付いていたけど、彼女、ツッコミ属性ね。日向君と同じ匂いがするわ。
え? 大山君? 彼はボケに片足を突っ込んでしまったわ。バカ化するのも時間の問題ね。
「訂正? 私の名前はリングネームじゃないし、訂正することなんてないだろ」
「その前だよ! お前の名前の漢字、変な風に解釈されていたぞ! あと、多分漢字じゃない表記も混ざってるし!」
「そうか? それはすまなかった。ライブのことを考えていて、会話に身が入っていなかったかもしれない。そんな状態で会話するのは愛上にも悪いよな」
岩沢さんがそう言って愛上君の方に体を向け直すと、彼はヘッドホンで音楽を聴きながら、パラパラを踊っていた。よく見ると、いつの間にか金色のどでかいネックレスもつけていた。
私たちの視線に気が付くと彼はヘッドホンを外した。
「あ、ごめ、俺っち聞いてなかった系だわ。もいっかいぱーどぅんしてくれる?」
「死に晒せ!」
「Critical Hit‼」
ひさ子さんの目つぶしがきれいに決まり、彼の頭上に「101ダメージ!」と書かれたギザギザの吹き出しアイコンみたいなのが浮かび上がった。
そして彼はゴロゴロと悶え転がりながらステージからはけてフェードアウトしていった。
やはり、正義は必ず勝つのね。
今の一幕を盛り上げるための前説か何かと勘違いしてなのか、観客からは小さな拍手があがっていた。
そういえば、ここは人前で、これからライブだったわね。普通に忘れてたわ。
ひさ子さんの目つぶしが無かったら、私が撃っていたかもしれないし、ある意味救われたわ。客を逃げさせるところだった。
ひさ子さんはぷりぷり怒りながら自分の立ち位置に戻り、ギターを構え、音の調整をしだした。
「全くなんだってんだよ、あいつは」
「そう怒ってやんなよ、ひさ子。きっと私達の、というかゆりや椎名の緊張をといてやろうというあいつなりに心遣いなんだろう。いい奴じゃないか?」
「なるほど、そういうことだったのか。だとしたら、ちょっとわるいことしたかなぁ」
岩沢さんのポジティブなものの見方に、ひさ子さんが頭に手を当てて反省の色を示した。
確かに、言われてみれば、緊張は少し緩和したけど……。
でも、彼女たちに負い目を感じさせるのは悪いので、ここはフォローしておこう。
「二人とも、そんなに気にしないで大丈夫よ。多分彼はライブ前とか関係なしに同じことしてるだろうし、それに、むしろひさ子さんの目つぶしのおかげで気合が入ったわ!」
「うむ、鋭い一撃だった。思わず見入ってしまった」
椎名さんも私の意見に賛同してくる。
てっきりドラムのセッティングに集中してこちらに意識が向いていないと思っていたが、そんなこともないようだ。さすがは椎名さんね。
「全員の準備も終わったようだし、そろそろライブ始めんぞ!」
「「「おう!」」」
こうして、私たちのライブがスタートした。
▼△▼△▼△▼△
私はライブを終えて、というか、いつものように教師たちに強制終了させられて、岩沢と一緒に半ば住処を化しているいつもの教室に戻ってきた。
愛するこのギターも無事でよかったぜ。
結局、ベースとドラムのサポートはこちらから遠慮させてもらった。岩沢は気に入ってたみたいだけど、あんな壮大な世界観のバンドになってたまるか。
お客さんも全くピンと来てなかったしな。
ペットボトルの水を飲んで一息ついた時に、近くから男の声がかかった。
「アンプ類はこの辺でいいか?」
「ああ、適当にライブのセッティングみたいに置いててくれ。ありがとな、助かったよ」
「気にすんなって、乗りまくった船だからな」
「乗りかかった、だろ。なんで常連なんだよ」
教師から逃げる際にこの犬噛みつかれ男こと愛上に機材の運搬を手伝ってもらった。こいつの方から自主的に運んでくれた、と言ったほうが正解に近いが、どのみちありがたかったことには変わりない。
いくらこんなやつが相手でも感謝するときは感謝する。それくらいはわきまえているさ。
でも、危ないから機材を巨大な唐草風呂敷にいれて運ぶのはやめてほしい。口の周りに円形にひげも生えてほっかむりも被っていて、どう見ても泥棒だったし。
……そういえばこいつ、逃げるときに「俺に任せろ」って言って巨大なフォークでパスタと一緒に教師たちを巻き取ってたけど、あいつら大丈夫なのかな。
私が遠い目をして、現実から目を背けていると、隅っこでギターを触っていた岩沢がふいに話しかけてきた。
「いっつもライブ止められるから、いまいち消化不良だな。そうだ、今から一曲だけ合わせないか?」
「いいぜ。私も似たようなことを思ってたしな。あいつら呼び戻すか?」
「いや。なぁ愛上、お前叩けるんだろ? ちょっとだけ頼むよ」
岩沢はそういって愛上をドラムの方に目配せした。
確かに、ライブするならメンバーは女子の方がいいが、今はライブじゃないしこいつでもいいか。
愛上はそれに了承し、ドラムセットの方へ行き、スティックを構えた。
「ちゃんと叩くのは久しぶりだなー」
そういって愛上は足でハイハットを刻みながらソロっぽくタムを叩き回してウォーミングアップをしていた。
ほう、なかなか、どころかかなりうまいな。こいつほんとに高校生か?
叩き方とリズムのとり方は何となくジャズっぽい。父親たちのやっていたバンドでしかジャズは聞いたことないが、きっとこの推測はあっているだろう。
「うまいじゃないか! そのリズムもスタイリッシュだし、かっこいいぞ!」
岩沢も私と同じことを思ったようで、声を出して本人に伝えていた。
「ありがと。まぁ小さい時からやってるからな。これくらいは叩けないと」
「そういうもんなのか。いいなぁ、私も小さい時にギターに出会えていれば良かったな~」
「せっかくだし、そのまま適当に叩いててくれよ。アドリブセッションしようぜ」
「あいよー」
そういうと、一旦バスドラムだけを鳴らし続け、ドラムを叩く手を止めた。肩を回しているところから見るに、気合をいれているのだろう。
その動作に満足したのか、スティックを構えて、叩くと
ポクポクチンポクポクポクチンポク……
木魚とお鈴の音が鳴り響いた。
「さっきまで普通の音だったじゃんか! なんで急に法事な音になるんだよ! 意味わかんねーよ!!」
せめてハイハットがチンで、スネアがポクだろ! 逆だろ逆!
「へー、そういう音も出せるんだな。ドラマーの腕次第でサウンドも変わるものだな」
「そんなわけねーだろ! 変わりすぎだ! なんで金属の板を叩いて木魚の音が鳴るんだよ! そんな奴は目指すべきなのはドラマーじゃなくてサーカスだ!!」
「でも、サーカスでそんな芸を見せられても、反応に困らないか? なんというか、地味で」
「おっしゃる通りだと思います!!」
くっそ! 岩沢に正論を言われた! なんだこの行き場のない悔しさ。今すぐ身投げしたい。
そんなことを考えていると、肩をちょんちょんと突っつかれた。振り返ると、愛上がドラムをやめて私のそばに立っていた。
「まぁ落ち着けって。お詫びと言っちゃなんだが、ひさ子先輩にいい戒名を付けてみせるよ!」
右手で親指をぐっと立てて、いい笑顔をしていた。
ちなみに、左手には鈴棒と木魚のばちが握られていた。さっき普通にドラムスティックで叩いてたじゃんか。なんで終わった後でバチが変わるんだよ。せめて逆であれ。
ウインクしてきた瞬間にこいつの目から星が二つ出てきたので、それを掴んで愛上の両眼球に差し込んだ。
「キャッチ&リリィィィス‼」
「T K O‼」
愛上の頭の上あたりに「612ダメージ!!」と書かれたギザギザの吹き出しが出てきた。
私の攻撃力も、メキメキと上達していた。
岩沢はずっとギターを弾いていた。
ニンゲン、キライ……。
僕の住んでいる場所では毎週火曜日に
PM 7:30~8:00 プロゴルファー猿
PM 8:00~9:30 忍者ハットリくん
がやっていて、録画等を駆使して毎週欠かさず見てます。
とても面白いです。猿の意味不明なシチュや動かなすぎる作画、ハットリくんの顔のサイコパス感やフィジカルでの解決(解決できてない)がたまらないです。