かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
愛上君の行動がキモすぎたので修正
生徒会室から出て、少し校内を見回りすることに。
時期的にまだ新しい人が来るタイミングではないけど、この世界では何が起こるかわからない。もしかしたらここに来たばっかりで戸惑っている人もいるかもしれない。
最近は少し物騒になってきてしまったから、怖がらせてしまうかもしれない。
えーと、死んだ世界戦線?とかいうグループのせいで、治安が悪くなって生徒のみんなも不安がってる。
とにかく大きな武器を持って歩くのだけは止めてもらいたいわ。
そういえば、あの人たちが来る前にも、同じようなことがあったわね。
……アレに比べたら、まだましな方なのかしら。生徒たちに迷惑はかけないようにしているみたいだし。
今は昼休みの最中ということもあり、生徒たちがいたるところで楽しそうに話している。私も微笑ましいわ。きっと、この中にも生前とても辛い思いをした人たちがいるのね。彼らが幸せな思いをできることを願っているわ。
そんなことを考えて歩いていると、目の前に一番の問題児を見つけた。
手には何やら分厚い辞書のようなものを持っている。きっとアレをどこかで爆発させたり、巨大化させて教師を挟んだりするに違いない。
どうしてあの人にもAngel Playerを与えたのかしら。
とにかく、今から何をしようとしてるのか吐かせないと。
そう思って少し近づくと、本のタイトルが私の目に飛び込んできた。
『麻婆豆腐事典』
私の頭の中に、鋭い雷がいくつも降り注いだ。
粋ね。
興味深い。
おもしろそう。
とても読みたいわ。
貸してくれないかしら。
ちょっとお願いしてみよう。
決心する頃には、彼はどこかへ行ってしまい、見つけることはかなわなかった。
……また明日になったら探しましょう。
次の日、朝一番で校舎の入り口のところで愛上君を待ち構えていると、彼はすぐに現れた。意外と早起きなのね。
私と目が合うと、笑顔を浮かべて、手を振ってこちらへ駆けてきた。
「ごめ~ん! 待った~?」
「確かにあなたを待っていたけど、別に待ち合わせはしていないはずよ」
なぜ私が彼を呼び出したみたいに言ったのかしら。奇妙ね。
「どうしたんですか? 俺、何かやらかしちゃいましら?」
「まるでやらかしていないのがデフォルトみたいに聞くのね。あなたが何をやらかしているなんて、直接見ていてもよくわからないのに、そんなこと聞かないでほしいわ」
Angel Playerを手に入れる前までは、校庭に大量のドムドムバーガーのロゴを描くくらいのかわいらしいものだったのに。
なんでこうなってしまったのかしら。
「いえ、今回は少し用事と言うか、貸してほしいものがあるというか」
「? あぁ、もしかしてこれですか?」
彼はそう言ってポケットから取り出したものを私の目の前に差し出した。
某野球チームのマスコット、ドアラのキーホルダーだった。
「動いていないドアラに価値はないわ」
「予想外の返答です。これがずらしツッコミってやつですか」
「ずらしツッコミって何?」
「ヤドカリの仲間です。炙るとレタスの味がして美味しいんですよ」
「そうなの? 初めて聞いたわ。どういう見た目なの?」
「体長は7mくらいあります。その大きさを買われて七武海に入りました。じゃんけんが趣味で、最近は第5の手を発見したとニュースになってました」
「そうなのね」
何を言っているのかはあまりわからなかったけど、きっと私をからかっているのね。
そう思いきや、彼の背後に半透明の変なカニみたいな生物が浮いていた。ハサミが京都の大山崎ジャンクションのような形になっている。
私が数度瞬きをすると、いつの間にかいなくなっていた。もしかしたら私は疲れているのかもしれない。さっさと用事を済ませてしまいましょう。
「あなたにお願いがあるの。昨日、麻婆豆腐事典という本を持っていたでしょ? それをぜひ貸してほしいの」
「麻婆豆腐事典? 持ってたっけな~そんな本。毎日結構な本を読んでるから、あまり覚えてないです」
「図書館に行ったら置いてあるかしら?」
「いや、多分俺の部屋の蔵書です。明日探して持ってきますよ。同じ時間にここでいいですか?」
「ええ、楽しみにしてるわ」
私たちはそこで解散し、各々のクラスにむかった。
訂正。彼は自分のクラスじゃない3年のどこかの教室へ向かった。なぜ、かたくなに自分の学年とクラスで受けないのかしら?
「会長、ありましたよ。これであってますか?」
翌朝、昨日のように校舎の入口へ向かうと、彼は既にそこで待っていた。
手には分厚い本を持っていたので、本当に見つかったのでしょう。
「ありがとう。とても嬉しいわ。昨日から楽しみすぎて、もう麻婆豆腐の目になっていたのよ」
「そんな、ラーメン食べた過ぎてラーメンの口になっちゃった、みたいに言われても。微妙に伝わりにくいですよ」
「気にしたら負けろよ」
「急に八百長をお願いされた⁉」
負けよ、と言いたかったのだけど噛んでしまったわ。まぁ意味はそこまで変わらないし問題はないわ。
まったく、彼と話していると本題に中々入れない。真面目に話す努力をしてほしい。
「それで麻婆豆腐
そう言って彼は私に、その手に持っていた本を差し出した。
表紙には『麻婆豆腐
あら?
辞典?
私が見たのは麻婆豆腐
そう思いつつも一応受取り、中をパラパラ見てみる。
すると、中には麻婆豆腐や材料の語句の意味や例文などがずらりと書いてあった。
「ごめんなさい愛上君、私がお願いしたのは麻婆豆腐事典、事に典の方の事典よ。これではないわ」
「あ~そっちか! いや、迷ったんですよ。写真とか絵がある事典とこっちで。明日また持ってきますね」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるわ」
そう言って私たちは別れ、私は授業へと向かった。
「あ、辞典回収しますよ」
「いえ、これも借りさせてもらうわ。せっかくだし」
翌朝、彼が持ってきたのは麻婆豆腐
開くと、中には麻と婆と豆と腐の漢字について、一字ずつ成り立ちから解説していた。
たった4文字の字典なのに、なんでこんなに分厚くなるのかしら? 木綿豆腐くらいあるわ。
「愛上君、昨日事典を正しく認識していたじゃない。なんてまた、文字ばっかりの方を持ってきてしまうの?」
「いやーすみません。探してたら、文字いっぱいの方を探すのか絵がいっぱいの方を探すのかわからなくなっちゃって。でも、今度はもう大丈夫だと思います! 辞典も事典も字典も他の種類のは持っていないので」
「それはそれで心配だわ。もっと見識を広げたほうがいいと思うわ」
「悪処します」
「善処をしなさい」
私は念のため麻婆豆腐字典も借りて授業へと向かった。
授業中に校庭をふと見ると、真っ白い字で大きく「ごめんね、会長」と書いてあった。
いやだなと思った。
「昨日はすみません、会長。僕の謝意が大きすぎて」
「心の中だけに留めておいてほしいわ。あなたに対する申し訳ない気持ちがどんどん薄らいでいってしまうから」
何度も分厚い本を持ってこさせているのも、さすがに悪いなとは思っていたのよ?
「じゃあ、今日こそありがたく借りましょうか。この2日で麻婆豆腐と言う字を見すぎたせいで、麻婆豆腐を正しく認識できなくなりつつあるわ。私の意識が正しく作用しているうちに読んでしまいたいの」
「それは重症ですね。僕の二の舞になりますよ」
「あなたの二の舞……。それだけは絶対に嫌だわ」
この人と同じと言われるのは、心が締め付けられて、とても苦しい気持ちになるわ。
彼でさえなければ、この気持ちを恋だと錯覚していたかもしれないけど、この人が相手だと確実に違うと断言できてしまう。
「はいどうぞ」
「ありがとう。あれ、こんな文庫本サイズだったかしら?」
そう思ってくるりと本をひっくり返すと、表紙には白黒の戦時中のような写真と『まぁ、暴動をしてん?』のタイトルが記されていた。
「ずっと麻婆豆腐の話をしていたじゃない? そのうえで今日こそ正解にたどり着ける日だったのに、なぜ横道にそれたの?」
「あれ? これじゃなかったでしたっけ? 確信をもっていたんだけどなぁ」
「麻婆豆腐事典よ」
「あぁ、そう言っていたのか! すみません、ずっと早口で何言ってるのか一切聞き取れなかったんです。だから毎回何となくで持ってきてしまってました。今度こそ大丈夫です! ではまた明日!」
そう言い残すと、彼はぴゅーっと走り去っていった。
小声とは言われたことあるけど、早口とは言われたのは初めてだわ。
きっと私も気が急いていたのね。落ちつかなきゃ。
胸に手を当てて深呼吸をしましょう。
……とりあえず、これでも読もうかしら。
「…ちょ…! かい……! 会長! 聞こえてますか!」
はっ!
目の前にはいつの間にか愛上君がいた。
昨日彼から『まぁ、暴動をしてん?』を借りてから試しに読んでみたものの、面白すぎて引き込まれてしまっていたわ。今すでに7周目に入っているわ。
思わず授業中も読んでしまい、初めて先生に注意されてしまったわ。
彼との待ち合わせをしているこの瞬間も時間が惜しくて読みふけってしまっていた。
……これ、続刊はないのかしら。今度作者のアイン・G・アミードさんに手紙でも書いてみましょう。
「会長、目の下に隈ができてますよ。もしかして、寝てないんですか?」
「えぇ、今は睡眠よりもこの本の方が大事だわ。せっかく死なない世界なんですもの。たまには不摂生もしても問題ないわ」
「……気に入っていただけたようで何よりです」
その後も毎日彼からいろんな本を借りていった。『マー坊と岐阜支店』『麻婆茄子超大全 4巻』『麻婆豆腐以外の全て』『孫と祖父のフラッシュ暗算物語!』などいくつもの本を借りたが、今のところ『暴動』が一番面白かった。次点で『まごそふ』が面白かった。まさか序盤のあのフラッシュ暗算の答えが伏線になっているなんて。最後に今まで倒した敵をフラッシュ暗算して合計する展開も熱かったわ。
明日はどんな本を貸してくれるのだろうか。
少し、わくわくするわ。
初めて愛上君がツッコんだ回です、多分。
天然には勝てませんね。
ちなみに、今回出てきた本はすべて愛上君が書いてます。
天使ちゃんが途中からボケに回ってしまったせいでやめるタイミングが見つからず、日夜頭をひねって次の本を書いてます。