魔銃使いは異界の夢を見る   作:魔法少女()

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 作品名『TSロリエルフが稲作をするのは間違っているだろうか』
 原作『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』
 作者『福岡の深い闇』
 https://syosetu.org/novel/212447/

 お米大好き過ぎて色々と抜けてる転生者がハイエルフになってオラリオで稲作する作品。

 作者様曰く、お腹いっぱいお米が食べたいTSロリエルフがオラリオで稲作する話だそうです。


TSロリエルフが稲作をするのは間違っているだろうか

 周辺を囲む植栽豊かな新緑の庭園、霧に包まれたその中央にある茶会用の席。

 軽い足取りで姿を見せたのは、腰の辺りまで伸ばした金髪を揺らす幼い少女。背丈は100C程の小人族(パルゥム)という種族の人物が姿を見せた。

 呆れというよりはうんざりとした表情の彼女は、ポツリと呟きを零す。

 

「夢、よね……全然目が覚める気配無いけど」

 

 彼女の視線の先には茶会の席。

 テーブルの上には茶器や茶菓子が用意されており、一枚の羊皮紙が置かれている姿が目に入る。

 何処へ行けども夢から覚める気配がないのに気付いてそれなりに時間が経ち、疲労感を漂わせた彼女は一休みと椅子に近づき、腰掛けた。

 高すぎる椅子に足を揺らしながら、彼女────ミリア・ノースリスはテーブルの羊皮紙に手を伸ばす。

 

「何々……『異界と交わる夢、語り合え、目覚めのその時まで』……痛々しい」

 

 羊皮紙に掛かれた共通語(コイネー)を読み取り溜息を零した瞬間、漂う霧の向こう側に人の気配を感じ取り、ミリアは椅子に腰掛けたまま其方を伺った。

 

 霧の向こうから現れたのは、一人のフードを被った怪しい人物だった。

 背丈はミリアより背丈は高いものの、大人というにはいささか低い。フード付きのローブは鮮やかな緑色に染め抜かれており、淡い光を受けて美しく輝く。

 顔はよく見えないが、横に広がったフードの形状からエルフだと予測できる。その人物もミリアに気がついたのか、少し身じろぎしてパサリとフードを取った。

 

「えっと……ここは、どこでしょうか」

 

 唐突に現れたエルフの幼子の質問に、ミリアは肩を竦めて応えた。

 

「さぁ? 私にもわからないのだけれど……見たところ、子供……かしらね?」

 

 ミリアからの質問返しに、唐突に現れたエルフの少女─────リリアは、一つ頷いて返答した。

 

「えっと、はい。まだ10歳です。……私と同い年ですか?」

「え? ああ……小人族(パルゥム)を見るのは初めてかしら。一応、じゅ……14歳、ね」

 

 若干視線を逸らし気まずげに返答したミリアは、気を取り直した様に咳ばらいをしてから空いた対面の椅子を示して口を開く。

 

「とりあえず、座って話をしましょう。ここがどこなのかわからないのは互いに一緒だし」

 

 ミリアからのその言葉に、リリアは驚いた顔を見せながらも彼女にとっても少し高めの椅子へと腰を下ろした。

 

「14歳!? ……はえー。世界は広いですねー……あれ、なんですかこの手紙。……『異界と交わる夢、語り合え、目覚めのその時まで』……うへえ、中学生の痛々しいポエムみたいでなんか身につまされます」

 

 そして、机の上に置いてあった紙を手に取ると、その内容に思わず眉を顰めた。

 目の前のエルフが放った言葉に違和感を覚えたミリアが目を細めて小さく吐息を零す。

 

小人族(パルゥム)なんて一見ただの子供だしね。…………それよりも『中学生』って概念を知ってるって事は。説明通りの年齢とは違うみたいだけれど」

 

 訝し気な視線を目の前に腰掛けたリリアに向けて警戒心を持つも直ぐに取り消し、小人族の少女は彼女が持つ紙切れに視線を向け直し、深い溜息を零してから肩を竦めた。

 

「まあ、夢に気を張っても仕方ないか。まずは自己紹介からさせてもらうわね。ヘスティア・ファミリア所属、第二級冒険者【魔銃使い】ミリア・ノースリスよ。『竜を従える者(ドラゴンテイマー)』の方が通じるかしら?」

 

 ミリアの言葉にピクリ、と眉を上げながらも、リリアは彼女の自己紹介を受けて口を開いた。

 

「ミリアさん、ですか。ヘスティア・ファミリア……釜戸の女神、素敵です。私の名前はリリア・ウィーシェ・シェスカ。ウィーシェの森からやってきたしがないエルフです。現在はニニギ様の下でお米を作ってます」

 

 そして、小首を傾げてこう続けた。

 

「……その、第二級冒険者とか、まじゅうつかい?とかって何ですか?」

「え? エルフの王族? その、第二級、冒険者……は……あれ、貴女オラリオに住んでるのよね」

 

 知識の無さに疑問を覚えたミリアが言葉に詰まり、彼女の仕草から感じられる育ちの良さとミドルネームから身分を想像して冷や汗を流し内心で呟く。

 ────うわ、箱入りのお姫様か。面倒な子だこれ。

 

「神の恩恵を授かって迷宮に挑む人を冒険者と呼ぶのは知ってるわよね」

 

 派閥に関する知識がある以上、最低限これぐらいは知っているだろうとミリアが質問を飛ばす。

 

「はい。今はオラリオに住んでますよ?千穂ちゃんたちと一緒に毎日楽しく過ごしてます」

 

 不思議そうな顔でそう言ったリリアは、少し考え込む様子を見せ、ミリアの方を向いた。

 

「迷宮っていうと……ああ、たまに伊那保くん達が言ってる場所の事ですね。へー、冒険者って言うんですか。危ないからそこには行っちゃだめだーって伊那保くんから言われてたのでそこらへんは知りませんでした」

 

 そう言ってニコニコと笑うリリア。「ひとつ賢くなりました」と呟き、先程の手紙以外に何も無いテーブルを見て口を開いた。

 

「それはそうと、茶会の席なら飲み物が必要ですね。……水の精霊さん、土の精霊さん。コップと水を二人分下さいな」

 

 その言葉と同時に、何も無かったテーブルの上に唐突に2つのティーカップが出現した。見ると、カップの中には透き通った清水が注がれている。

 

「……えぇっと、明晰夢だから好き勝手できる、とは違うかしらね。いや、私が夢を見て……あれ、本当に異界……うぅん」

 

 彼女の行動に頭痛を堪える様に眉間を揉み。ミリアは出されたティーカップを覗き込んでから、そっとティーカップを揺らす。

 

「説明を続けるわ。冒険者は経験値(エクセリア)を溜めて能力(ステイタス)を上げる事で強くなるのよ。それで一定以上の評価まで能力(ステイタス)を上げた状態で、偉業を成す事で器の昇格(ランクアップ)できるの」

 

 小人族の少女は毒を警戒して舌先を湿らせる程度に清水に口を付け、説明を続けた。

 

「恩恵を授かったばかりの冒険者を『駆け出し』、ある程度能力(ステイタス)を上げた人を『下級冒険者』、一度器の昇格(ランクアップ)した者を『上級冒険者』または『第三級冒険者』……二度目を迎えた人が『第二級冒険者』ね。つまりレベル3以上のステイタスを持つ冒険者を第二級って言うのよ」

 

 説明を終えて再度ティーカップに口を付け、目を細める。

 茶会というのにお茶ではなく清水。エルフが好む水を出す辺り、なんともズレてるなとミリアは心の中で呟いた。

 

「なるほど〜」

 

 ニコニコと笑うリリア。美味しそうに清水を飲むと、屈託の無い笑顔でこう言い放った。

 

「と言う事は、第二級冒険者のミリアさんはレベル3なんですね。……こうして聞くと、なんだかRPGみたいな仕組みなんですね、神の恩恵って。私も一応ニニギ様から頂いているはずなんですけど、やっぱりレベルは1なんでしょうか。少し残念です」

 

 少し残念です、と言いながらもそうは見えないリリア。まあ、彼女からしてみればレベルなんてものよりも米の方が遥かに大切なのだが。

 

「えっと、それで『まじゅうつかい』や『どらごんていまー』?でしたっけ?それは何でしょうか。……普通に考えれば二つ名なんでしょうけど……まさか、冒険者はみんな自分でそれを考えて名乗ってるとか?」

 

 リリアはそう言って何故かキラキラと目を輝かせてミリアを見た。どうやら彼女の頭の中からは完全に今の異常事態の事が吹き飛んでいるらしい。

 

「え、ああそうね。そう、RPGっぽいっていうのは同意なんだけど……二つ名、うぅん」

 

 純粋そうな輝きを宿した瞳に射抜かれ、気まずげに視線を逸らしかけ、すぐにリリアを真っ直ぐに見据えて訝し気な表情で呟く。

 

「【魔銃使い】も【竜を従える者(ドラゴンテイマー)】も知らない? 結構有名だと思うんだけど……っと、とりあえず前者は二つ名で合ってるわ。後者は……異名よ。どちらも自分から名乗った訳ではないわね」

 

 どうにも自身の常識が若干通じていないリリアの様子に、羊皮紙の『異界』という言葉がミリアの脳裏をちらつく。とはいえ、自ら名乗っている等と思われても困ると小人族は誤魔化す様にティーカップを傾けながら応える。

 

「前者は器の昇格(ランクアップ)した冒険者に対して神々が与えるモノね。神会(デナトゥス)で付けてもらうのよ……碌なもんじゃないけど。後者は都市の住民とかが勝手に着けたモノね。都市(オラリオ)でも珍しい(ドラゴン)調教(テイム)した冒険者って事で呼ばれ出したのよ……」

 

 どちらも好き好んで自ら考えて付けたモノではない。

 他に神会(デナトゥス)で挙げられていた【豪砲(カノン)】や【†聖竜†皇帝†(ホーリー・ドラゴン・カイザー)】【破滅過剰(スーサイダルディストラクション)】にならなくて良かった、と内心冷や汗を流しながら曖昧に笑った。

 

「……うーん、ごめんなさい、聞いたことがないです。でも、神様って、割と中二病チックな人が多いんですね。……うーん、二つ名ですかー。私も名乗りたいですね。【農業王(ファームキング)】とか、【米将軍(ライス・ジェネラル)】とか」

 

 お前の今世は女だろう。そう言いたくなるような異名をポンポンと出しながら、リリアはティーカップを傾ける。彼女の脳内では、金色の稲穂が地平線の彼方まで続く田園の中、積み上げられた多数の俵を背に威風堂々と仁王立ちする自分の姿が浮かんでいた。……はっきり言ってただの馬鹿である。

 徐々に被った猫が米いっぱいの俵へと変貌しつつあるリリアは、ミリアの言葉にハッとした表情を浮かべると彼女に向けてこう言い放った。

 

「ドラゴンを従えていらっしゃるんですよね、ミリアさん」

 

 目の前のエルフの幼子が口から零した名乗りたい二つ名の数々に若干引き気味のミリアが小さく頷く。

 

「え、えぇ……えっと、赤飛竜(レッドワイヴァーン)小竜(インファントドラゴン)、あとは……あ、まあ、その二匹だけね」

 

 曖昧に笑いながら返答しつつも、彼女が語った今までの単語(キーワード)から推測するに『米』になんらかの執着を持っているなと薄らと察したミリアが内心で米の話題は避けようと考え始めた。

 

「前者がキューイ、後者がヴァン……まあ、どっちも悪い子ではないわね」

 

 前者は勝手に性別が雌になったり、妙にドライな友人ではあるが。そう心の中で付け加えてミリアは眉尻を下げる。

 

「そうなんですか、二匹もいらっしゃるんですか!」

 ミリアの説明に驚いた様子を見せるリリア。それと同時に瞳の輝きは増し、ずい、と彼女はテーブルの上に身を乗り出した。

 

「あ、あの、どうやったらドラゴンを従えることが出来るのか、教えてもらってもよろしいでしょうか!?」

 

 そう言って鼻息荒くミリアにつめよるリリア。彼女の脳裏には、水が張られた水田の中を耕運機を引きながら歩くドラゴンの姿や、ドラゴンが口から吐いた炎で持っていたお握りを炙り、焼きおにぎりにしたそれをドラゴンと共に食べる自分の姿が浮かんでいた。

 

「えっへへ……」

 

 脳内の妄想ににやけるリリア。精霊の力をコンロや水道、耕運機代わりにするのに飽きたらず、ドラゴンを牛か馬かのように扱おうとするその精神は、まさに常人には理解できない米キチであった。……これはドラゴンが怒り狂っても文句は言えない。

 

「えぇ……」

 

 困惑の表情を浮かべ、対面の席から身を乗り出したエルフの幼子の分だけ身を下げたミリアは内心で焦る。

 立ち振る舞いに高貴さを滲ませている事、育ちの良さを感じさせる仕草。そういった要素をリリアから見出し、エルフの中でも高貴な身分の可能性を思い浮かべていたミリアだったが、時折見せる欲望を滲ませている表情にどう判断すべきか迷いだした。

 

「幼い子供だし、仕方ない? いや……でも、エルフって割と……でもウィーシェの森から来たって……」

 

 うんうんと唸り、もう一度目の前で妄想に耽る幼いエルフを見て、ミリアは溜息と共に悩みを全て投げ捨てる。

 幼い子供故に欲望を抑えきれていない、王族のエルフ。そう納得する事にしたのだ。

 ミリアは、彼女は異界の住民だと断じていた。少なくとも、彼女程優れた容姿なら噂の一つにでもなっているはずだが、そういった噂を耳にした覚えがなかったからだ。

 

「と、とりあえず私が竜を従えてるのは魔法の効力が大きいのよ。……まあ、あなたが竜を従えるのは諦めなさい。一番弱いって言われてる竜、小竜(インファントドラゴン)でも下手すると潜在能力(ポテンシャル)は第三級、レベル2に匹敵するわよ」

 

 ミリアは間違っても欲望に溺れている幼いエルフが竜を従えようと迷宮に挑む事の無い様に強く言い含める事にした。

 

「竜を従える魔法、ですか……うーん、珍しい魔法もあったものですね」

 

 お 前 が 言 う な。

 そういった突っ込みが入りそうな事をのたまった我らが米キチ(リリア)は、頭の中でぱちぱちと(とても雑に)計算機を弾き出した。一番弱いドラゴンのポテンシャルはレベル2だという。これがどれだけの強さを示しているのかはいまいちよくわからないが、話しているミリアの様子からきっと()()()()()のだろうと見当をつける。……実際は強いなんてものではなくリリア()()が相対すれば秒で消し炭になる程の絶望的な差があるわけだが。

 

「うーん」

 

 しかし、リリアには切り札がある。レベル差など些事にしてしまうほどの絶大な力をもった切り札達が。

 

「ミリアさん、そのドラゴンと精霊って、どっちが強いと思いますか?」

 

 普段からコンロや耕運機の代わりにこき使っている精霊達を酷使する気満々のリリアは、段々と彼女のヤバさに気がつきつつあるミリアにそう尋ねた。

 

「え? 精霊?」

 

 唐突な彼女の言葉に困惑しながらも、ミリアは小さく吐息を零す。

 かつて神々が地に降り立つより以前に迷宮に挑む冒険者達に今における『神の恩恵(ファルナ)』に近い古代版神の恩恵(ファルナ)であり『精霊の加護』を授けていた事。英雄譚において精霊の寵愛を受けた英雄が居たという話もある。共に肩を並べた精霊も居たとされる。しかし、現代においてはごく一部の精霊を残して殆どが姿を消しており、戦闘力を推し量る程の知識は得られない状況。

 強いて言うなれば決して弱い訳ではないだろう、程度の感覚でしかない。

 リリアの質問に答えようがないと結論を出し、彼女を見据えた。

 

「まず、私は精霊がどれほどの力を持つか知らない。その上で言うのだけれど、精霊に倒して貰った場合、竜が貴女に服従するかは不明よ。竜は己の実力のみで討ち果たした者にのみ服従するから」

 

 例えば上級冒険者が同行して共に戦う事は不可能。たとえ戦わずとも上級冒険者がいつでも助けに入れる状況で戦う事も不可能。人数にモノを言わせて押し潰す事も不可能。厳しい条件を満たさねば竜は主として認めず、従う事はない。

 いくつもの例をあげつつ、エルフとは思えない俗物的な思考のリリアに対し、しっかりと、念入りに忠告を行う。

 

「私も知ってる事はあまり多くはないから確定した事は言えないけれど、貴女の今の心構えだと本当に死ぬからやめときなさい」

「うぬぬ……ぬん。はい、わかりました諦めます……」

 

 ミリアの強い語調に気圧され、しょんぼりとした表情を浮かべてそう呟くリリア。

ミリアによって1つの命が救われた瞬間である。ウィーシェの森の住人がこのやり取りを聞けば感涙しながらミリアに感謝の言葉を述べるだろう。

良い案だと思ったんだけどなぁ……と呟き、肩口に切り揃えられた蒼銀の髪を小さな手で弄るリリア。割と本気で精霊にお願いするつもりであったリリアも、本気で死ぬと言われれば退かざるを得ない。ニニギの下で稲作を学ぶリリアは、その技術をウィーシェの森に伝え、根付かせるという(彼女にとっては)崇高な使命があるのだ。志半ばで命を落とすわけにはいかない。

とは言え、彼女の行動はその類い稀な悪運が無ければ今の時点で物言わぬ死体となっていても可笑しくはない非常に危うい綱渡りのようなものなのだが、そのことをつっこめる存在はこの不思議な茶会には存在しなかった。

 

「むーん、残念無念。……ん?と言うことは、ミリアさんは魔法があるとはいえ、その従えているドラゴンを一度倒したと言うことですよね?」

 

 そこでリリアは気付く。竜を従える条件は「その竜を自らの力で打ち倒すこと」。そして、竜のポテンシャルは最低でも第三級、レベル2相当で、ミリアのレベルは現在3だという。つまるところ。

 

竜を従える者(ドラゴンテイマー)の異名を付けられたのって、もしかして最近の事だったりしますか?」

「確かに、最近の事ね。少し前の怪物祭(モンスターフィリア)で知れ渡った訳だし。でも戦争遊戯(ウォーゲーム)で有名になってるだろうし、都市(オラリオ)のそこかしこで話題にはなってると思うわよ。ガネーシャファミリアも大々的に宣言してるし、何よりギルドが正式発表してるわ」

 

 リリアの疑問点に答えを返しつつ、ミリアは小さく納得して頷く。

 

「まあ、知らなくても不思議ではないわよ。この羊皮紙に書かれた『異界と交わる夢』って部分からの推測だけど、私と貴女の住む世界は別だと思うわ」

 

 もしくは時間軸が異なるか。詳細を語らい合えば差異からある程度の推測はできるだろう。

 

「例えば、私の所だとヘスティアとアポロンとの戦争遊戯(ウォーゲーム)で大差を覆して大勝利したりしてるけど……そっちではヘスティアファミリアの名を聞いてピンとこない辺り戦争遊戯(ウォーゲーム)前とかかしら」

 

 もしくは、目の前のエルフの少女が興味を持たずに調べなかった結果か。二つ名の基本知識も無い辺り特定の物ごと意外に興味を抱かずに過ごしている可能性もある。

 本当に異界なのだとしたら、そちらの世界に『ベル・クラネル』は居るのか。『女神ヘスティア』はどうなっているかなど気になる点はあるが、反応からして知らないだろうなとミリアは若干肩を落とした。

 

「あ、ヘスティア様なら知ってますよ。えっと、じゃが丸君?のアルバイトをしている女神様ですよね?」

 

 リリアは、少し落ち込んだ様子のミリアにそう答えた。神ヘスティアとであったのは正にリリアがオラリオにやって来た直後のこと。パエリアに全てを持っていかれていたが、今思い出せばかの女神からは割りと重要な助言をもらっていた気がする。

 

「オラリオに来たばかりでおのぼりさんだった私に、もっと胸を張って歩いた方が神にちょっかいをかけられずに済むよって教えてくれたんです。……良い神様ですよね、ヘスティア様って」

 

 かまどの神様ですし。リリアはそう心の中で付け加える。実際はそんな簡単な助言だけではなく、その後の身の振り方や情報の仕入れかた、行く当てがなかった場合のフォローまでしてくれた正に善神と言うべき行動をとってくれていたのだが、リリアの頭からはそこら辺の記憶は吹き飛んでいた。

 全部パエリアってやつが悪いんだ。

 

「あと、その《うぉーげーむ》っていう催し物は見たことも聞いたこともないですね。……もしかしたら、私はミリアさんよりも前の時間軸から来ているのかもしれません」

 

 そう言ったリリアは、ふと思った。ウォーゲーム、と言うのがどんな催しなのかは知らないが、ミリアが勝ったと言っている事からなにがしかの勝負事なのだろう。戦争(ウォー)の名を冠する遊戯と言うことで物々しい雰囲気を感じるが、この手の勝負事には必ずといっても良いほど「賭け」の要素が存在する。つまり、今目の前の彼女からそのウォーゲームについて聞いておけば、後々あるかもしれないその賭けに有利にたてるのでは?

 もちろん、彼女が自分のいる世界(こちら側)に存在するかどうかは分からないし、なおかつヘスティア・ファミリアが勝つとも限らない。しかし、こういう場合はある程度結果は同じように収束するものとリリアは日本人特有のアニメ脳で考えていた。そして、リリアは日頃お世話になっているニニギ・ファミリアの皆の役に立つかもしれないと思い、口を開いた。

 

「ミリアさん、そのウォーゲームについて、私に教えていただけませんか?こう、どうやって戦ったのかとか。気になります」

戦争遊戯(ウォーゲーム)は神々の代理戦争。神と神が争い合う時、神に代わってその眷属が戦い合うモノよ。形式によって規則(ルール)は異なるのだけれど、基本は殲滅戦ね」

 

 小さく吐息を零して彼の戦争を思い浮べ、小さく首を横に振った。

 

「まあ、そうね。勝てた今だからこそ言えるけど────始まる前は絶対に負けると思ったわ」

 

 ヘスティア側は総勢二〇にも満たない寡兵、対する相手は四〇〇人を超える大軍。

 勝負形式は『攻城戦』と『旗守戦』を合わせた『複合戦』。

 城に籠るアポロンの軍勢に対し、旗を守りながら戦わなくてはいけない絶望的な戦い。

 

「詳しく話すと能力(ステイタス)とかに触れる事になるから避けるけど、殆ど奇策が決まった結果よ」

 

 後はアポロン側の指揮系統が混乱しやすかったのもあるか。そう呟いた所でミリアが周囲を見回す。

 霧に包まれた庭園の中央に位置していたはずの茶会の席だが、彼女が気付くと植栽豊な緑色は霧に隠れて見えなくなっている。確実に濃くなってきた霧にミリアが眉を顰めた。

 

「ん、これは私の勘だけど……そろそろこの茶会もお終いかしらね」

「もう、ですか。時間が経つのは早いですね」

 

 リリアはそう言って、霧の壁を見つめた。不可思議な現象に、とりとめのない話。この茶会は正しく「夢」と呼ぶべきものだった。リリアはほう、と一つ息を吐くと、ミリアに笑いかけた。

 

「また会えるかどうかは分かりませんけど、これでお別れのようですね。もし次に会うことがあれば、今度は水の精霊様と頑張ってお茶を出せるようにしておきますね。……そして、一緒におにぎりを食べましょう!」

 

 そう言ってぐっと親指を立てるリリア。次もし茶会が開かれるときには、夢であろうと米を持ち込む所存であった。釜戸と水、炎は精霊に頼めばよい。

 

「もしかしたら現実の方で会えるかもしれませんし、ね?」

「現実で、ねぇ……」

 

 もし彼女の居る世界に自身(ミリア)が居たとして、会った時にどんな反応をするか。

 ヘスティア様に名を貰う前であれば、興味を示しもせずに適当にあしらうだろう。そういう意味では出会うのは遅い方が良い。

 

「まあ、もし私を見かけても戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わるまでは声をかけない方が良いわね。ほら、結果が変わったら困るでしょう?」

 

 それっぽい事を言って誤魔化したミリアは席を立つ。椅子に座って居る時はまだましだったが、やはり背丈の事もあり見上げる事になったリリアに対し軽く手を振った。

 

「夢から覚める時の別れの挨拶なんて知らないわね。さようなら、で良いのかしら。水、美味しかったわ。それじゃあね」

 

 互いに別れの挨拶を済ませた所で────霧は茶会の席を包み込んでいく。

 一瞬で視界は霧に包まれ、互いの姿を視認できなくなり、意識が遠ざかる。

 

 

 

 

 

 ゴツゴツと窓を叩く音で目を覚ました。

 そう認識したところで、シーツを押しのけて目を覚ました小人族の少女、ミリア・ノースリスは窓を叩いて朝食をせがむ赤飛竜(キューイ)を見て溜息一つ。

 ベッドから這い出てサイドテーブルの籠に入っていた林檎を一つ掴みとって窓を開ける。

 

「はい、これ朝食ね」

「キュイ!」

 

 口を空けて待つ飛竜を見て、ミリアは林檎を────全力で明後日の方向に投げた。

 吹っ飛んでいく林檎を追って飛竜が駆けていくのを見送り、ミリアは首を傾げた。

 

「なんか、久々に夢を見た気がするわ」

 

 少なくとも、糞女の悪夢でもなかったし。楽しかった父親との生活の頃の夢でもない。

 それこそとりとめもない、特段語る必要も無いような夢。そんな風に考え────溜息一つ。

 

「まあ、思い出せない夢の事よりも────着替えなきゃ」

 

 今日の朝食当番は誰だったかなと呟きつつ、ミリアは乱れた髪に櫛を通し始めた。

 

 

 

 

 

 目が覚める。寝起き特有のぼんやりとした感覚の中、リリアは呟いた。

 

「……変な夢みた」

 

 夢の中で誰かと話す不思議な夢。しかし会話の内容は思い出せず、煙を掴むような、そんな手応えの無い不思議な感覚がリリアのなかに残されていた。ふと外を見ると、空は青く、白い薄雲がキャンバスに絵の具を塗ったような淡いコントラストを描いていた。

 時刻は午前6時頃。完全に寝坊だ。

 

「うわっ」

 

 隣を見ると、当たり前ながらきれいに整えられて上げられた布団が。千穂はすでに目覚めているようだ。いや、この時間帯であれば既にファミリアのみんなが目覚めている筈だ。着替える時間も惜しいとばかりにどたどたと土間へ向かうリリア。

 

「あら、おはようリリアちゃん。そろそろ起こしに行こうと思っていたの」

「ご、ごめんなさい」

「大丈夫だって。誰も気にしちゃいねーよ」

 

 温かいファミリアの皆の声を聞きながら、第一王女(リリア)のわりと暇な一日が幕を開けた。




 作者:魔法少女() あとがき
 初めてのコラボ小説。舞い上がり過ぎて失礼な事してしまった気もしますがなんとか完成しましたー!
 まさか期待の新人の方に声をかけていただけるとは……その調子でダンまち×TSロリを布教して欲しいですな!

 夢落ちって便利よね(小声)

 コラボしてくれて感謝です。ありがとうございました。




 作者:福岡の深い闇様 あとがき
……あの、最初に誤解を招かないように言っておきますけど、声かけさせていただくとき指ブルッブル震えてましたからね!?

声かけは自分からだったからって、そんなバイタリティ溢れるようなキャラじゃないですから自分!?

読者の皆様、そこんとこよろしくですよー!?

偉大な先達とのコラボ……めちゃ緊張しました。でもダンまち×TSロリはいいぞぉ……もっと流行れ。

夢オチ本編でも使ってみるか(ボソツ)

魔法少女()様、色々と失礼しましたが、コラボしていただきありがとうございます!!
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