魔銃使いは異界の夢を見る   作:魔法少女()

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 作品名『初めて仕えた神様は』
 原作『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』
 作者『メイドさん大好き』
 https://syosetu.org/novel/246159/

 『メイドさん』に拘りを持つTS幼女が【ヘスティア・ファミリア】の元、完璧なメイドさんを目指す話。
 


初めて仕えた神様は

 地下という割には生活臭に満たされた小部屋。

 草臥れたローブに身を包み、金の長髪を揺らした平均よりも更に小柄な小人族(パルゥム)、ミリア・ノースリスはその部屋に懐かしさを感じながら、置かれている小物や器具等から自分の知るその場所、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)()()()『廃教会の隠し部屋』では無いことに気付いていた。

 

「久しぶりに見た夢ねぇ。今回もあの羊皮紙があるし」

 

 見慣れたようでいて、細部に違和感が残る部屋を見回したミリアは卓の上に置かれた羊皮紙に書かれた『異界と交わる夢、語り合え、目覚めのその時まで』という文を流し見やり。

 

「それで、今回のお相手は貴女な訳ね」

 

 ソファーに腰掛けた人物へと視線を向けた。

 

「そーらしいですねぇ」

 

 手入れされた赤い長髪と少しお腹に穴の空いたメイド服に身を包んだ世間的には小人族(パルゥム)として知られているローズマリーは力を抜いて背をソファに預けている。

 危機感はあまりなく、住み慣れた我が家を見回して目の前のお客様をどうもてなすかを考えていた。

 

「で、なにかいります?」

「……警戒心が無さすぎるわ。まずは誰何(すいか)すべきよ」

 

 軽く呆れた様に肩を竦めたミリアは、改めて室内を見回してから使用人(メイド)姿の少女に視線を向けた。

 

「はぁ、一応自己紹介しておくわね。【ヘスティア・ファミリア】所属、【魔銃使い】ミリア・ノースリスよ。短い間だけどよろしく。とりあえずお茶をお願いするわ、メイドさん」

 

「あなたがなにものかなんてどうでもいいので。わたしはろーずまりーです。ごらんのとおりめいどさんですよ」

 

 ミリアと名乗った少女の忠告はどうでもいいと切り捨てる。

 そしてミリアのご要望であるお茶、を入れようと立ち上がる。

 

「おちゃってなにがいいですか?ぜんぶとりそろえてますけど」

 

 少し、メイドさんと呼ばれたことに気分を良くしてなんのお茶にするかを聞いてみる。

 

「んん、あー……無難にストレートティーで良いわ」

 

 半ば冗談の積りで放ったミリアの言葉を受け流すでもなく、真っ直ぐ受け止めて行動を開始したローズマリー。

 そんな彼女の姿に面食らったミリアは気を取り直して肩を竦めると、空いた椅子を引き寄せて腰を下ろした。

 

「貴女が頓着しなくても私は気になるわね。……まぁ、悪意は感じないから悪人じゃないのはわかるけど」

「りょーかいです」

 

 ミリアの要望に答えてサクッとストレートティーを入れることにする。

 紅茶を入れるのは中々ないが、比較的簡単なので安堵した。

 

「なにをいわれてもわたしはめいどさんですよ。いっかいのめいどさんです」

 

 ミリア用のものと分けて自分用に緑茶を入れてソファに腰掛ける。

 

「随分と、まぁ……マイペースね」

 

 出された紅茶に視線を落としたミリアは片目を閉じて考え込み、考えを呟いた。

 

「この頃の【ヘスティア・ファミリア】に使用人(メイド)を雇う余裕なんか無かったと思うけれど……でも、この場所は本拠(ホーム)だろうし、雇われメイド? にしては……」

 

 動きや気配から恩恵はあるだろうと予測したミリアは目の前の人物に問う。

 

「雇い主は誰?」

「やと‥‥?そんなのいないです。あと、めいどさんですよ。にどとまちがえないでください」

 

 メイドとメイドさんでは確固たる違いがある。

 だから使用人(メイド)ではないとミリアを少し睨みつける。

 

「はぁ、それにどんな違いがあるのかわからないけれど、悪かったわね。気を付けるわ」

 

 参ったと両手を上げて謝罪しつつも、ミリアは内心で大きく首を傾げていた。

 だが、どんな違いがあるのかミリアには理解出来ずとも、対面している人物の中には明確な線引きがあり、同一視されるのが不愉快だというのは理解できる。

 

「じゃあ、貴女の所属派閥は?」

「まあ、つぎまちがえたらぶっころしますので」

 

 釘を刺しておいて、ミリアの質問を受け取る。

 所属派閥、というのは私の主君の名前でいいのだろうか。

 よく分からないが答えておこう。

 

「へすてぃあ・ふぁみりあ?です」

「……まぁ、予測はしてたけどやっぱりか」

 

 さらりと物騒な事を口にする少女にミリアは眉間を揉みながら溜息を飲み込んだ。

 第二級冒険者の自身から見ても彼女のステイタスでは叶う筈も無いとは考えるも、無意味に問題(トラブル)を引き起こしたい訳ではないミリアはその事には触れずに別の問いを放つ。

 

「じゃあ、ベル・クラネルも居るのかしら?」

「いますよー。めいどさんしゅぎょうちゅうです」

 

 ミリアの居るところにもベル君はいるらしい。

 少し心配になるがあの子ならなんでも乗り越えるだろう。

 そう思ってミリアから意識を外してあるべきものを探す。

 

「そう。ベルが居る、ね……それと……修行中、ねぇ」

 

 ローズマリーが何かを探し出したのを見やりながら、ミリアは紅茶に口をつける。

 【ヘスティア・ファミリア】でメイドの修行中。そう捉えた彼女は過去に夢で相対した者達を思い浮かべ、苦笑する。

 

「誰もかれも、個性的が過ぎるわ」

「‥‥‥こせいてき?」

 

 ミリアの呟きに首を傾げて、見つけたものを取りに行く。

 私に個性なんてないと思うので少しおかしい。

 そんな疑問を抱いて刀身だけでも自身の身長と同じくらいの得物、大太刀の【無銘】を手に取る。

 

「ひぞうのおちゃがしはぁ‥‥‥」

 

 私から見たら高くそびえ立つ棚の上にお茶菓子がある。

 

「おちゃがしいりますー?いりますよね?」

「……え、えぇ、いただくわ。…………その、得物で何をする気なのかしら」

 

 突然、不釣り合いな得物を手にしたローズマリーに対しミリアは僅かに表情を引き攣らせる。

 ミリアの返事を聞くことなく私は棚に意識を向ける。

 少し奮発したお菓子が入っている箱を取りたくて大太刀を使う。

 

「‥‥‥とれない」

 

 取れない、それが分かると突然大太刀を腹に突き立てる。

 そして詠唱らしきものを呟くと身体が大きくなった。

 身長190台のスーパー美人メイドさんである。

 

「取れた」

 

 ホクホクした感じにソファに座り、蓋を開ける。

 

「あー、そう。なるほど、うん」

 

 何の宣言も無く行われた行為に頭を痛め、ミリアはそっと眉間を揉んだ。

 

「とりあえず、そのお茶菓子は遠慮しとくわ」

 

 魔法の為に必要な事であろうと、何の説明もなく傍から見れば猟奇的ともとれる行動をとられれば食欲なんて消し飛ぶ。少なくとも、眼の前の『メイドさん』には『良識』や『常識』が欠如しているのだろう、とミリアは内心で溜息を零していた。

 

「血なんて見慣れてると思ってましたが、意外にピュアなんですね」

 

 輸血液を腹に打ち込んで傷を回復させる。

 箱の中は、クッキーだ。

 材料を奮発し、レシピも研究し尽くした逸品。

 

 まあ流石にいきなり腹に刀突き刺すのは反省した方がいいか。

 ミリアの疲れた顔は完全に私のせいだろう。

 

「見慣れてはいても、血を見て直ぐに食事を取れるほど擦り切れてはいないわよ……」

 

 むしろ血を見た後にすぐ飲食が出来るというのは狂人に片足突っ込んでいるのでは、とミリアは眼前の『メイドさん』の異質っぷりに辟易しながら、溜息を零す。

 

「はぁ……凄く疲れる夢だわ」

「お疲れですか。なら」

 

 懐にある【メイドさん殺法秘伝書】を取り出して机に置く。

 

「勉強はお好きですか? 好きなら気にいると思いますよ」

 

 【メイドさん殺法秘伝書】を指さして言う。

 素晴らしいものを見れば精神は癒えるものだ。

 

「……興味が無い、と言うと嘘になるけれど。此処で勉強しても目が覚めたら思い出せなくなるし、遠慮しとくわ」

 

 それに、夢の中でまで勉学に励むのは好きじゃない。と、ミリアは付け加えた。

 

「……むぅ。継続は力なりですよ?」

 

 覚えてなくても必ず現実に尾を引くものだとローズも付け加える。

 同時にメイドさんの沼に引きずり込めなかったことに分かりやすく落ち込む。

 

「夢で覚えた付け焼刃のうろ覚えで『継続』は出来ないでしょうに……」

 

 溜息を飲み込んだミリアは、卓の上に置かれた羊皮紙に恨めし気な視線を送った。

 

「語り合え、なんて書くぐらいなら普通に話が出来る相手を用意して欲しいものだわ」

 

 少なくとも、今までミリアが夢で出会った者達は常識的に雑談が出来た。が、此度の人物は自身のペースで話を進めようとしている。それは別にミリアからしても構わない。ただ、常識を逸脱していなければ、という条件はつくが。

 

「私の座右の銘は『マトモであることのなんとくだらないことか』なんです。人間ですらないんですよ」

 

 ミリアが自分に常識を求めていることは分かる。

 ヒトからは作られたが、ヒトとは根本的に違う。

 そもそもがヒトと違うからだ。

 

「まあ、質問には答えますよ。なんでも聞いてください」

 

 そう言ってクッキーをつまむ。

 

「はぁ、わかってて狂人ぶってる人ですか。信念があって結構……ただ、もし現実で会ったとしても関わりたくはないですね」

 

 肩を竦めて室内を見回したミリアは、ふむ、と呟くと問いを投げかけた。

 

「未だにこの教会の地下室暮らしって事は、【アポロン・ファミリア】とのゴタゴタはまだって事かしら?」

「【アポロン・ファミリア】ですか。まだですよ。どうせベルが見初められる感じなんでしょうね」

 

 鏖殺すればいいでしょう、と続ける。

 事実として【アポロン・ファミリア】程度は魔法を使えば鏖殺は容易い。

 

「あのクソ神、いつか殺す」

 

 ヘスティア様にしたことを思い出して呟いた。

 

「……『メイドさん』なんて可愛らしいタイプには見えないのよねぇ」

 

 何より口が悪い。とローブの袖で口元を隠したミリアがぼやく。

 

「まぁ、神なんてアポロンみたいなタイプの方が多いし。仕方ないわよ……ええ、ほんとに、アポロンみたいなのが結構居るのよねぇ」

 

「大抵が見る専だからマシはマシですね。フレイヤ様は‥‥‥本人は悪い人ではないはずです、うん」

 

 何故かフレイヤ様が思い浮かび、苦笑が浮かぶ。

 

「‥‥‥沸点低いからなぁ、あの人たち」

 

 何かを思い出してどこか天を仰いだ。

 

「まぁ、神々が最も多い都市だから仕方ないとは思うけれど……」

 

 神に苦労させられるのはどちらも一緒だろう。

 

「と、そういえば、貴女は……俗に言う転生者、って奴だったりするのかしら。私は、一応ソレなんだけど」

「転生 ?ああ、一応そうらしいですね」

 

 ミリアの質問に少し首を傾げて頷く。

 

「私には記憶ないですし、よく分かってないんですけど」

 

 記憶は封じられてるらしいですよ、と続けた。

 

「封じられてる……? それは、なんとも……まぁ……」

 

 眉を顰めつつも、彼女の言い方から幾つかの線を考えたミリアは直ぐに首を横に振った。

 

「まぁ、余計な詮索はしないわ」

 

 どのような理由であれ、()()()()()()()という事は何かしら不都合があると言う事に他ならない。目の前の『メイドさん』の記憶に関して下手に踏み込もう等とは思えなかった。

 

「他には、そうね……二つ名、はまだよね? ……異名はありそうだけど」

「どちらもありませんね。でもステイタスに称号ならありました」

 

 一時も忘れていない、メイドさんの称号。

 それを人前で話せるとはと自信満々に言い放つ。

 

「まだ相応しくはないですが、一つ。‥‥‥完璧なる(パーフェクト)メイドさんですッ! メイドさんの中でも最高位なんですよ」

 

 ムフー、と鼻高々に言った。

 

「あー、そう。うん、まあ……良かったわね」

 

 よほど嬉しいのか喜色に満ちたローズマリーの表情にミリアは僅かに頬を引き攣らせた。

 少なくともステイタスに関しては軽々しく口にするべきではない。とか、格上相手にも平然と喧嘩売る宣言をしてる辺り、『完璧なる(パーフェクト)』は過剰表現ではないのか。等、思わず口に出そうになった台詞の数々を溜息と共に飲み込む。

 

「羨ましいわね。そこまで……その、自信満々なのは」

「あら、もしかして格下に思われてます?」

 

 自分にとって最高の栄誉と言っていい称号。

 そんな称号に対するミリアの言葉が不本意であった。

 

「まあ、レベル3なら格上っちゃ格上でしょうね。私はステイタス書き換えでレベルは1にしてありますから」

 

 目立ちたくないので、と付け加える。

 

「格下に思ってる、というよりはわかりやすい指標の二つ名や異名が無い、っていう時点でね。色々と考察は出来るわ」

 

 胡乱気な視線を向けながら、ミリアは軽く肩を竦めた。

 わかりやすく二つ名や異名を得ているのであれば、神々に注目を浴びていない新米(ルーキー)。もしくは素性を隠した隠遁者。だが、どちらであったとしてもミリアからすれば目の前の人物にはおかしな点しかないのだ。

 

「目立ちたくないって言う割には平然と目立つ言動してる所とか、傍から見たら狂人のソレだし。神ですら弄れないステイタスに干渉してる所とか……キテレツ、というかまともじゃない、っていうのは本当みたいね。はぁ、ほんとに風変わり(エキセントリック)だわ」

「脳に瞳を宿したり、異世界転生してきた魂と魂を融合させれば可能ですよ。よく言うじゃないですか、主の為ならば鬼にもなろうって。私はその実行例なだけです。それに、あなたも種族変えられるでしょ、魂ごと。つまり、似た者同士ってことです」

 

 メイドさんの瞳は全てを見透かす。

 それに自分と同じ匂いがするのだ。

 

「多分、前世の境遇も同じようなものでしょ。奇遇ですね」

 

 こことは別の夢の中で深層意識にいる自分に教えられたことを思い出した。

 

「……なるほど、そうね。そうか、うん、気持ち悪いですね」

 

 不快感を隠しもせずに露わにし、ミリアは眉間に皺を寄せると両手を上げた。

 

「弁解しておきますが。私のその能力(スキル)は意図して手にしたモノ、ではないですよ。まあ、今となっては無くては困るモノですが。……それと、一つだけ、質問しとくわ。私を客人として歓迎してるのか、それとも……追い出したいのか、ね」

「私も望んで手に入れたものではありませんよ。メイドさんになったら突然ついたものです」

 

 不快感を表したミリアを気にも留めずにローズは言う。

 

「うーん、一応言っておきますけど追い出したかったら対面した時に首落としてますよ。その首が繋がってるのが歓迎してる証拠です。クッキーはいかがで?それとも珈琲でも入れましょうか」

 

 ヘスティア様も絶賛ですよ、とつけ加えて微笑む。

 人外なりのコミュニケーションだ、ヒトの機微など分かっても気にすることができない。

 

「……まぁ、神なら、別に気にもしないんでしょうね」

 

 女神の絶賛付き、と言われた事に関してミリアは僅かに表情を強張らせ、自分なりの解釈でソレを飲み干した。

 少なくとも、人にとって踏み込んで欲しくない領域、というモノが存在し、それを意識して慎重な話題運びを心掛けている訳ではないのは察する事ができる。が、それが不愉快ではない、等とは口が裂けても言えない。

 

「はぁ……えっと、そうね。貴女の言う『メイドさん』とは何かしら。今の貴女から察するに、禄でも無いモノとしか思えないのだけれど」

「えっ」

 

 ミリアの質問に目を剥く。

 

「……とりあえず一時間貰えますか。それくらいないと語り尽くせ、いやそれだと時間切れになる。でも一言で言い表せるわけもなし、いや、秘伝書に書かれてた」

 

 序文だけでも十ページはある。

 これを読めとは、言えない。

 少し頭を抱える。

 

「……メイドさん五箇条!其ノ壱 広く武芸を修め主に忠誠を誓うべし!其ノ弐 主を最優先にし守り抜くべし!其の参 一度メイドさんになったならば生涯身を捧げるべし!其の肆 周りを気にするくらいなら家族を守れ!其の伍 知識を世界に求め、永遠に研磨を続けるべし!よし、あと五時間は下さいね」

 

 そう言って秘伝書のページを捲り始める。

 

「あー、ストップ、ストップ。とりあえず、貴女の言う『メイドさん』と、私の考える『メイドさん』が次元そのものから別物だって言うのはわかったからもう良いわ」

 

 少なくとも、客人を不愉快な想いをさせても微塵も気にしない『メイドさん』だというのは良く分かった。と内心で呟き重い溜息を零す。

 

「というか、貴女の言う『メイドさん』って……騎士とかそんなんじゃないの?」

「騎士、まあ似てますね。そもそもの成り立ちは騎士とメイドが合わさったものですし。今となれば似ても似つかないですけどね、【メイドさん殺法】がありますから」

 

 暗殺から正面戦闘、そして家事から建築まで、なんでもこなすのがメイドさんだと話した。

 思っていることも察し、どう弁明をするかどうかを考える。

 

「……あぁ、なるほど」

 

 要するにゲーム等の空想上のトンデモ職であり、現実にある様な職業ではないのだろう。と納得したミリアが溜息を零した。

 

「教えてもらったんですけどね、私は【博士】って人に作られたらしいです。不老不死になった人なんですって。その辺は別の私がいれば説明できたんですけどね」

 

 夢ならば私が出てきてくれないだろうかと淡い期待を抱くがここまで好き勝手にやって現れないということはとため息をつく。

 

「あなたも災難ですね。常識がない方の私に当たるなんて」

「災難だと思うなら、少しは気遣いを……」

 

 出来ないから災難なのか、とミリアが更に深く溜息を零す。

 

「あなたも何も気にしないでいいんですよ? どうせ夢なんですし、常識なんて捨てた方が楽です」

 

 うろ覚えでは意味がない、とは本人も言ったこと。

 どうせ覚えていないのならはっちゃけた方が楽だ。

 

「生憎と、私は『常識』や『良心』を捨てるなんて出来ないわ」

 

 そんな能天気な生き方を出来る程、自分は力も無ければ強靭な精神も持ち合わせていない。少なくともミリア自身はそう考えている。

 ミリアの発言に少し驚く。

 

「やっぱりピュアな方だ。あなたみたいな人、好きなんですよねぇ」

 

 ベルに似ていて、いい。そう呟いた。

 必要とあらば常識など、良心などかなぐり捨てる。

 できる人間だろうに、そこは残念だ。

 

「生憎と、私は貴女みたいな人は大嫌いね」

 

 切羽詰まった状況でもない限り、ミリアには常識や良心を捨てる理由はない。

 現状の様に『夢の中であり』『後で思い出せない』という理由だけで常識や良心を捨てても良い、等と戯れ言のような事を口にする目の前の人物の事を、ミリアは決して好きにはなれなかった。

 

「ああ、うん。知ってた」

 

 ミリアの言葉に納得して言葉を吐く。

 

「あと、夢の中でくらいはっちゃけようぜ的な意味ですよ。美味しいご飯食べまくろうぜとかぁ、甘いもの食べようぜとかぁ、まあそんな感じです。あ、邪魔だったら別室でメイド服作って待ってますよ。もしかして私の料理センス疑ってます? 大丈夫ですよ、ミアさんに厨房任されるくらいには上手くなったんで」

「自分一人の夢ならわかりますよ。でも、誰かが居たら配慮ぐらいは、って話ですよ」

 

 少なくとも相手にとって触れられたくない内心の部分に躊躇なく触れる様な真似は、夢の中で思い出せないから、等と言う理由で行う事は有り得ない。

 

「それと料理のセンスは疑って無いわ。少なくとも、紅茶は美味しかったし」

 

 ただ、美味しい料理を作れる事と、相手を不愉快にさせない事はイコールでは繋がらないだけであって。とミリアは皮肉気に返した。

 

「………あっ。そういうことですか。またひとつ学びました」

 

 やっとミリアの不機嫌さと不愉快の理由を察した。

 そもそもローズは年齢としては二歳半くらいだ。

 赤ちゃんみたいなものである。

 

「申し訳ありません。無闇に人の過去には触れるのはいけないこと。覚えました」

「あら、そう。なら今度から是非その知識は活用して欲しいものね」

 

 ただ生憎と、この夢で覚えた事を現実で活かせるとは思えないけど、と付け加えたミリアは肩を竦めた。

 

「本当に申し訳ありません。お漬物でも食べますか?それともなにか簡単なものでも作りますよ。お茶もうないですね、何を入れましょうか」

 

 それとも小指でも詰めましょうか、冗談めいた口調でミリアに聞く。

 なんか流石に気まずくなってきた。

 それに自分のお茶もなくなってきたので欲しいのもある。

 

「……はぁ、じゃあ紅茶をお願い。ミルクティーで頼むわ」

 

 無遠慮に触れられたくない領域に触れられて機嫌が悪いのは事実だ。しかし、反省の色を見せた相手に冷たく当たり続けるのもミリアからすれば不毛だ。

 

「それと、冗談でも『小指を詰める』なんて言わない方が良いですよ」

 

 冗談にしても質が悪い、と肩を竦める。

 

「輸血液使ったらすぐに再生するんで大丈夫ですよ。ミルクティーですね、同じのにしよっと」

 

 サクサクとミルクティーを入れる。

 紅茶を入れるのには慣れていないが結構簡単なものである。

 こだわれば別の話だが、まだ紅茶は研究できていない。

 

「年齢聞いてもいいですか?私は一応七歳なんですけど」

 

 ミリアはその身体に見合った年齢ではないと思う。

 それから気になった、ただの興味だ。

 

「大丈夫かどうか、じゃなくてソレを見た相手が不快に感じるかどうか、で判断すべきだとは思うけれどね。で、年齢……そっちは、七……あぁ、子供、にしてはなんか……」

 

 成熟、と言うよりは精神構造が複雑だ、と口元に手を当てて考え込みはじめ、直ぐに首を横に振った。

 

「まぁ、考えても無駄か。で、私の年齢よね? 小人族(パルゥム)という種族で、年齢は一三、一四ぐらいよ」

「おー、十三歳。私の種族は‥‥‥何なんでしょうね。ヒューマンをモデルにしてるからヒューマンだと思います」

 

 小人族(パルゥム)ならば態度にも納得いった。

 転生者ならば年齢が曖昧なのも理解できる。

 

「あー、何か話題あります?それか何か作りましょうか?」

「……ぁー、さっきも言ったけど、今は何か食事をとる気じゃないから遠慮しとくわ。それで、話題、話題ねぇ」

 

 考え込んだミリアは、軽く頷くと顔を上げた。

 

「そういえば、前に貴女と同じ様に血で肉体の欠損まで再生する人と会ったわね。知り合い? ヴァハ・クラネルって名前で、ベルの兄だったらしいけど」

「むぅ、残念です。それでベルの兄ですか。知りませんね」

 

 ベル君の兄、ということはただの人間。

 人間が自分と同じような力を持っているということは多分それはスキルということになる。

 

「‥‥‥私は身体そのものが人ではないので、その方とは違うでしょうね。歳とらないらしいです。あと、その方と一緒にしないでくださると嬉しいですね」

 

 自分とは違う方向に異常であることは想像に難くなかった。

 予測を完了させると顔を引きつらせた。

 

「ぁー、悪かったわ。血液嗜好症(ヘマトフィリア)では無いのね。そういう意味では安心した」

 

 普通に雑談できた血液嗜好症(ヘマトフィリア)の男性と、どこかに常識やら良識やらを忘れてきたメイドさんの少女。どちらがマシかというと────ミリアは黙り込んだ。

 

「……他にも、色んな人とこういった夢で会ったわ。お米大好きで庶民的なハイエルフとか、力はあるのにお喋り好きの竜人とか、後はサイボーグも居たわね。一人は完全な異世界、仮想世界でゲームしてる人だったけど」

「げぇむ、ああ知ってますよ。ピコピコするやつですよね。それにお米に竜ですか。すごい方々ですね」

 

 ミリアが会ってきた人々を想像してほほぉ、と感嘆する。

 夢の中で精神的に他人と繋がる、その仕組みが気になるところではあるが、気にはしないことにした。

 

「私の夢は、私としか会ったことありませんよ。あ、きちんと別の私ですよ。転生してきた方の私です」

「ぴ、ぴこぴこ……随分とまぁ、古臭い表現ね」

 

 彼女の説明の仕方から、随分と複雑そうな状態なのは察する事が出来る。シンプルに死んで転生、等と言う簡素な自分とは違うか、とミリアは一つ頷いた。

 

「まぁ、貴女もだいぶ変わってるわよ。私も、普通とは程遠いけど」

「そりゃあ、私が異常じゃなきゃ世の中の大抵の人は普通ですよ。世の中に人に作られた不老の人形が蔓延ってたまるものですか」

 

 少なくとも目の前の少女は自分よりは異常ではないことは断言できる。

 

「でしょうね」

 

 肩を竦め、彼女の言葉に同意したミリアが紅茶に口を着けた所で、動きを止めた。

 地下室の入口、上階の教会へと繋がっているはずの階段から薄らと真っ白い霧が侵入し始めているのが見えたのだ。

 

「ふぅん、そろそろ目が覚めるみたいよ。あの霧が合図なのよね。此処は地下室だったから見えなかったけど、もうそんな時間なのね」

「そうらしいですね。眠くなってきました」

 

 また別の夢に誘われるような感覚。

 ミリアとは違い、まだ完全には目覚めないようだ。

 

「ご縁があればまた今度。次は常識を学んでいきますよ」

「一度会った人と再会した事は無いから期待はせずに待ってるわ」

 

 軽く手を振り、立ち上がった瞬間。入口から一気に霧が室内へと流れ込んでくる。

 瞬く間に視界は白に覆い尽くされた。

 

 

 

 

 

 小鳥のさえずりを聞き、ミリアは身を起こした。

 【ヘスティア・ファミリア】本拠の館の一室、ソファーで仮眠をとっていた彼女は不愉快そうに眉を顰めながら、卓に置かれていた水差しに手を伸ばした。

 

「結構、寝てたわね」

 

 深い溜息を零し、執務卓の上に乗せられたやりかけの書類に視線を向け、首を傾げた。

 

「……はぁ、なんか、紅茶が欲しいわね」

 

 春姫を呼ぼうかと頭の片隅で考えつつも、彼女は執務卓の書類に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

「ローズ?」

「‥‥‥んぅ、べる?」

「どうしたの?全く起きなかったけど」

「えっ?」

 

 ヘスティア様がいない、ベル君も既に着替えが終わっている。

 

「ねぼう?」

「そうなるかな」

 

 ベル君は少し考え込むと当たり前のように返事をする。

 机の上には私とベル君の分であろうお弁当と私の分の朝ごはんが見える。

 

「せっぷくしてくる」

「いや、しなくていいからね!?」

「けじめはとらなきゃ」

 

 寝坊などはメイドさんにあるまじきことだからケジメをとろうとする。

 ベルはそんなローズを必死に止めようとする。

 そんな二人はもはや日常になってきた。




 作者:魔法少女() あとがき
 コラボしていただきありがとうございました。
 久々のコラボ小説、良い感じの息抜きになりました。

 濃ゆいキャラと対面するとミリアの気難しい性格が裏目に出ますねぇ。

 順調にTS作品が増えて私としては嬉しい限りです。

 コラボして頂き、ありがとうございました。




 作者:めいどさん大好き様 あとがき

コラボ、ありがとうございました!
ウチのメイドさん、濃かったですよね‥‥‥。
ミリアは設定を決める際にお世話になったので光栄の至りでありました。
設定を色々複雑にしすぎたことを後悔しております。
ローズは、ヘスティア様とメイドさん以外に興味示さない子なのでこんな感じになりました。
しかも、精神年齢は赤ちゃん並みという。
この設定はきちんと使うのでよろしくお願いします。
改めて、コラボありがとうございました!
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