Girl’s blade   作:Lilito

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第二話は綺羅ちゃん、およびその周辺のコミュニティの顔見せになりますっ
前回でエリが体術を使っていましたが、あーいう【攻撃に魔力を込める】スペルウィザインってものには「資格」が必要です!



Girl’s blade II

私はシオン。姓はアラクノフォフィア。風妖精族のカタナ使いで、妖精の国「アヴェイロン」の中央にある闇妖精インプの騎士団に入っている。

ここは主にアヴェイロン全域の守護防衛を目的に作られた場所で、立地がいいのと、となりに妖狐の街があるからという理由でここが本拠地になっている。

もちろん支部は風妖精の元にもあるけれど、地元だけ守るなんてわがままなことは言いたくないからここにいる。

「シオンっ。時間あるー?」

騎士団では好きな武器を一つ選び、それを使って国を守ることを誓う。武器は大型のものが多く携帯には難があるため、護身用のナイフを使いこなせてから鍛錬することになってるの。

そのナイフは、護身の他に騎士としての証明代わりにも使われる。

「ダメ。今無理。」

と反射的に答えてから、茶髪をヘアピンで固定する。

少し長い前髪は目が見える程度に分けて、もみあげや耳元を軽く止める。

私の髪は茶色というより、黒っぽい赤って感じだ。

「ダメって言っても…、隊長から立会いの訓練って指示されたし…。」

それを終えてから、黒い女性用の正装…、セーラーと呼ばれるものに、私は赤いスカーフを結び直した。

セーラーは白もあるそうだけど、私は黒い方が好み。

「ん…。わかったよ。剣抜いて。」

さっきからの声の主はキラ・ウカノミタマと言って、人族の双剣士だ。

私は剣メインと多少の風魔法だけど、彼女は双剣を振り回しながら雷と土を操る。

その器用さから魔術じゃあ厳しいけど、単純な剣術なら私とて彼女に負ける気はない。

「剣何本?」

彼女の双剣は小さなカタナ、あるいは大きな脇差で、大きさは包丁以上鉈未満ってとこだ。

二本の剣が、左肩から覗くようにして揺れる。

もちろん1本なら余裕だけど、2本程度じゃあ手数と破壊力で勝てる。

「3本。」

「えーっ! 予備はあるけど…、3本目どうやって持つの?」

彼女の仕草にニヤニヤと笑いながら、私は護身用のナイフを口でくわえてみせた。驚いた様子のキラに、ついナイフを落として笑ってしまう。

「もお! シオンひどいよお!……2本でいいよね?」

「ふふっ。良いよ。魔術は?」

2本の剣を構えたキラが、私にそれを構える。

左に握った剣が前で、後ろで支えるようにしてもう一本が私に刃を向ける。

「スペルウィザインだけ。」

同時に私は、両手で持った刀を、真っ直ぐに立てて彼女へ向ける。

東洋の剣術の構えは、どれも率直で清らかだ。

「りょーかい」と呟いてすぐ、カタナを右脇腹まで引き絞る。

そのまま駆け出そうと腰を下げると、カタナが鮮やかな炎に包まれる。

キラは逆に、左手の剣を鞘にしまった。左肩から覗く剣が、いやらしく笑ったような気がした。

「お願いしますっ」

右手の剣を真っ直ぐに私に向け、かちゃりと音を立てて左肩の剣を握る。

同時に、黒紫の光がキラの右剣を淡くきらめかせる。

「そうね。お願い。」

それを待ってから、私は駆け出していた。

炎の覗く剣を振り上げながら、彼女の刃に目を向ける。

真っ直ぐ向けられた剣が、そのまま飛んできていた。

直剣の「デサイシブ・ピアーシング」に似た動きだけど、それより少し身軽な動きだ。

「……すぅ…。はっ!」

息を吸って、小さく気合い。

カタナを振り上げると、同時に彼女の剣も突き出される。

振り上げを続けながら、私はスペルウィザインの許す限り身体を右へそらした。

「らぁっ!」

闇属性の刃が左肩をかすると同時に、キラの左手が振り下げられる。

右と同じ禍々しい闇をまとった剣が、真っ直ぐに降りてくる。

刺突と縦切り…と言った2段構えは、双剣特有の剣技だ。

「星王月華」闇属性突進2連撃

それへカタナを当て、そのまま弾き返さんばかりに力を込める。

「ぐっ…シオン、2連撃ってよくわかったね…!」

だけど私のカタナは、片手のキラに押し込まれてしまった。

それはどうやら、下から振り上げるカタチのせいみたい。

だけど、そんな駆け引きはナイフの時にやりあきている。

「……っ……いつも使ってくるもん…っ」

ーーあと少し…、あと少しだけ振り上げさせて…!

ーーあと少し、刃を上へ!

「…はぁっ…。……キラ。……私たち、ずっと一緒だよね。」

キラは人一倍、時間の話に敏感だ。

なぜだかわからないけど、待ち合わせは時間きっかりだし、彼女の剣撃はいつもテンポが一緒だ。

機械的というわけではないのに、なぜだか精密で…、そして暖かい。

「………どういう…。…はわっ?!」

さっきの一言で、彼女の力がほんの少し緩まった。

つまり、私のカタナが少しだけ上がったということ。

「…ニヤリ。」

そしてそれは、剣術の完了を意味する。

振り上げの際、この剣技は一瞬だけ隙ができる。

地面をするような動きのせいだ。そのせいでキラに受け止められたわけだけど、この動きこそこの剣術の特徴。

「……気づいたね。でも、ちょっと遅すぎるよ。」

キラも察したみたいで、彼女も大きく飛び退った。

だけど、もう私のカタナの方が速い。

地面が真っ赤に赤熱すると同時に、火山の噴火みたいな爆発が断続的に起こる。

「煉獄刃」火属性切り上げ

「ひっ…はぇっ?!」

それは順番に爆発していって、最後の1撃がちょうどキラに届いた。

双剣をクロスさせて防御の構えを取っているけれど、爆風はそれじゃあ受け止めれない。

そのまま後ろへ吹き飛びながら、剣を支えにして一回転、着地。

「はぁ…。シオン! そーいうのずるいよ!」

「別に。」

私も速やかにディレイを終えると、カタナを右手で持って突き出した。

左手は軽く開いて、後ろへ。キラの方へ向けたカタナは、右手で少し強く握る。

「勝負はここからだよ。……あなたの本気、見せてよね。」

「そうだね。……剣術はシオンのが得意かもしれない。

だけど…、私だって! シオンに負ける気はないから!!」

もう一度、今度は両方の剣が私を指す。

そして次に、ハサミみたいに組み合わされた。

クロスした双剣が、キラとともに腰を下ろす。同時に、その双刃が白金に輝く。

「じゃあ…そうね、今回は。」

私も両手で剣を握り、左手を上に。カタナは右肩まで引き絞り、右手は添える程度で力を抜く。

そこで、白っぽく私のカタナが輝く。

「つまらないものにはならないでね。」

「それは無理。……切ることだって、させてあげないから。」

ここからは、不毛な掛け合いは無用だ。

ツルギで語る。それが私たち、騎士の掟。

「「行くよっ!」」

私が肩の力を抜いた一瞬、彼女の長髪は残像になっていた。

すぐさま剣を下に振り下げ、何かを引っ掛けてすぐ上へはね上げる。

キラの小さな気合いは、遅れて聞こえてきた。

「シッ!」

刃が引っ掛けたのは、彼女の双剣だった。

ハサミのように構えた光の双刃は、私を咥えんと真っ直ぐに閉じられている。

下段突進2連撃「天光挟撃」光属性。

「ふっ!」

そのまま剣を振り上げると、否応なくキラの刃が弾かれる。

「わわっ…何するの?!」

この剣術は受け身専用で、少し時間のかかる構えのあとにノックバックの強いきり払いを行う。

攻撃力は低めだけど、相手の剣を必ずはじき返す優れものだ。

「相対断裂」単発反射斬撃。

「攻撃するの。」

すぐさま駆け出し、剣を左肩まで掲げる。

力ではなく鋭さを乗せるイメージで右下へ振り下ろすと、競技用ながら凄まじい衝撃がキラに襲いかかった。

「そんなことは…。」

すかさず右足を前へ出し、ついでに大袈裟な足音を出して彼女の口を閉じる。

最後に1歩の踏み込みで軸を合わせ、私は構え直した剣を真上へ振り上げた。

「まだ終わってないんだけど。」

そう呟いて、さらに小さく息を吸う。

そのまま振り上げの勢いで身体を一回転、私は反時計回りに剣を振り払った。

空気が乱れるような爆音に続いて、キラの身体が大きく吹き飛ぶ。

彼女はまた剣を支えに受け身を取って、私もまた剣を向けた。

「次は負けない!」

「期待してる。」

さっと構えをとった彼女へ、私も剣を向ける。

両手で持って、真っ直ぐに。「受け止める」という意思を、刃へこもらせる。

「……やっ…!」

同時にキラの右の剣が引かれると、彼女はそのまま駆け出して来た。

剣は銀色、属性無しの光を帯びている。

左手の剣は光っていないから、どうやら片刃剣の剣術みたいだ。

「………っ!」

私はカタナをそのまま、少しずらした。

彼女の剣が振り払われると、そこへ小気味良い音を立ててぶつかる。

突進切り払い「騎馬烈」

「なんでわかったの?」

キラの問いには、少々呆れた。

というのも、私のカタナが使う剣術は同じ【片刃剣用剣術】だからだ。

「片刃剣用剣術、【騎馬烈】。前後の隙も少なく、適度な威力と扱いやすい軌道を持った突進技。私もよく使う。」

キラの瞳が一瞬にしてまじめになったところで、この子は違うなぁと実感する。

「……なるほど。私のことよく見てるんだね。」

「意識して察してるだけ。」

ぐっと剣に力を込めると、彼女が少し苦しそうに歯をきしませた。

さらに力を込めると、音が出るほど歯を食いしばらせる。

「どう?」

いいや、歯を食いしばってるんじゃない。

この挑戦的な瞳は、苦しくて力んでいるんじゃないんだ。

彼女が感じているのはーー

「……楽しい!」

ーーという感情だ。

「だと思った。」

キラの左手の刃が輝いたのを見て、私はすぐに飛び退った。

冷めた水色、氷属性だ。それを右肩まで引き絞って、大きく振り払う。目に見えないほどの今までの連撃に比べて、残像の見える少しゆったりした動きだ。

「やぁっ!」

もちろんその剣の軌道に私はいないけど、空色の残像が一つに固まる。

それはたちまち剣を形作ると、私の方へ飛んできた。

刃投げ「飛車撃」氷属性

「だから! 片刄剣術は当たらないって…言ってるでしょっ!」

氷の刃をカタナで打ち返してすぐに、剣戟の構えに入る。

そこで一瞬、キラの姿を見失った。少し周りを見渡してもいないし、距離をとってるわけじゃない。

「私を見失った時はすでに…。もうこの世にはいられない!」

背後からその声が聞こえてすぐに、私は剣を振りながら振り返った。

けれどその動作は、頭の中で行うに終わった。

「?!」

背中を競技用のナイフが突いたからだ。

それと同時に、もう一本のナイフが私の体を打ち上げる。

空中でさらに4回叩かれて、私は上へ跳ね上がった。

双剣6連撃「終末告剣」無属性

「ふふっ。どう? しゅーまつこっけん。結構ビックリするでしょ!」

受け身を取る間も無くお尻から着地すると、キラに手を差し出される。

「いてて…。キラ、なんか今日強くない? 動き速いし1撃が重いし。」

それを握って立ち上がると、キラははにかむようにしていつもの仕草を見せた。

キラは右手に握った剣を2度か3度ほど空中へ投げてキャッチを繰り返すと、左手で大きく振りかぶって受け止める。

二本同時に肩の鞘に入れると、嬉しそうに頬を赤らませた。

「えへへ…。さっき大事な人にね、ウィンクしてもらえたんだよ!」

「ふーん。誰?」

私が尋ねると、少し困ったような顔を見せる。

どうせ「えー? 言わなきゃダメ?」とか言ってくるだろうから、先にスカーフを掴んで問いただす。

こんなに他人のことが気になったのは久しぶりだ。

「言って。誰?」

「あ…あの、剣戟部隊のリリ…って言ったらわかる?」

そういえば、こないだキラと間違えて話しかけた女がそんな名前だったはずだけど。

片手直剣を使ってて、やけに魔術を使いたがらない女だった。

「………あの女、やけに魔術使わないよね。こないだ風魔法使ったら剣で相殺して来た。」

「………あの子、すごい剣技上手かったでしょ?

私も全然敵わなくってさ、魔術使って怒られたんだよね。」

……キラは規律を守る人だし、剣術の修練で魔術が使えないんだったらそんなことしない。

彼女が怒られるって、多分「していいけどやるべきじゃない」ことだったんだ。

ってことは、魔術よしの修練で魔術使って怒られた。

つまり、リリは魔術が使えない…?

「ねぇ、へんな推測しないでよね。リリは私のなの!」

その一言で気づいた。

私は、人にそんなに興味を持たない人だ。それはわかってた。

なのにあいつのこと考えて、何気に結論まで出して、キラに言われるくらい表情も出てたはずだ。

私は…、私は。

「キラ。あなたは?」

私は、この子のことが好きだ。

この子のことが好きになっちゃったんだ。

「ふえ?」

スカーフを掴んだまま、ロッカーまで押し付ける。

彼女の左手を握ると、少し戸惑ったような鼓動が感じられた。

私が追い詰めてなんだけど、「安心して」という風に指を絡める。

「あなたは、誰のものなの。」

怖がるような吐息は徐々に薄くなって、今度は驚きが顔に書かれた。

窮屈そうに身体を揺らしながら、「ひっ…あ…。」と小さな声を漏らす。

「…じゃあさ、私のものになってよ。」

つい焦ってそう囁くと、キラは恐る恐るというふうに首をかしげた。

体勢が落ち着いたのか、揺れと嗚咽もなくなった。

「…ん…。うん…どういう意味?」

キラの言葉に、私は少しイラっとした。

いつもいつも、私が答えにくいこと、やりにくいことを勧めてからかってくるからだ。

だけど、こればっかりは言わなきゃいけない。きちんと、何を望んでいるのか…って。

「……どーいうって…。だから、私に、キラのこと支配させてほしいって言ってるの。」

「うん…いい…、けど、私…何すればいいの?」

キラの問いには、「ううん」と首をふる。

彼女の唇を抑えると、不思議とキラも落ち着いたようだった。

「私のものでいて。それだけ守って。」

「………う…ん…。」

唇を抑えていた指を滑らせるようにして、彼女のあごに指をあてる。

ゆっくり手前に引くと、引きつっていた彼女の表情が少し融けたような気がした。

そこで焦ってしまったからか、ぐいっと彼女の顔を引き寄せてしまった。

「や…! ダメ!」

落ち着いていたようなキラの顔も崩れて、私は突き飛ばされて尻餅をついてる。

立ち上がってから彼女に手を差し出すと、やっぱりどこか迷うような表情。

「……キラ。」

キラの申し訳なさそうな表情は、今年に入って初めて見た。

それくらいに彼女はそんな顔をしないし、私もさせない。

だけど今回は…、きっと、私もすごく残念そうな顔をしてるんだろうな。

「うん…。」

キラは躊躇うようにゆっくりした動きで、私の手を握った。

そのままくいくいと引っ張ると、私たちの部隊の旗まで歩く。

キラのもの悲しげな表情は、とても見ていられなかった。

一瞬だけ目があっても、彼女の瞳は鏡でも見るみたいに私を向いていなかった。

「……別に、私のものでいてとしか言ってないよ。

………あれは契約外だから、貴女の判断は間違ってない。」

私がそう微笑んでも、彼女のどこか気だるそうな顔は変わらない。

……キス拒まれて、泣きたいのはこっちなのに。

「………すまなかった…。君の気持ち…無駄にしちゃって…。」

「………そんな顔するんだったら、無理にでもしちゃうけど。」

……そういうと、彼女はガバッと顔を上げた。

私よりいくらか背が高いのに、どこか頼りなさそうな姿だ。

いつも優しくて、強くて、よく笑ってる彼女の姿じゃない。

人形みたいにぎこちない笑みを浮かべたキラは、やっぱりどこか頼りない。

「そんなのは……れ…じゃないよ…。」

「………?」

 

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「ガブリエル。紅茶飲まない?」

軍の修練が終わってすぐ、ボクはお姉様に顔を向けていた。

こくこくと頷きながら、彼女の隣を見る。

「ついてくけど…、なんでリュウくんがいるの?」

気になったのは、小銭を念入りに数えているリュウくんの姿だ。

競技用の両手斧は持ってないけど、この熱い雰囲気は変わらない。

「おごってくれるらしいのよ。」

お姉様がいたずらに笑ったところを見て、どうやらリュウくんが一肌脱いだのを悟った。

「えと…ギリギリ足りる…よな…。40、41、42…。」

「り、リュウくん。あの…足りなかったら、ボクも出すからさ。」

ボクがそう手を出すと、彼は「いいや」と言うふうに両手で被りを振った。

「ダメだ。女に出させるのはサラマンダーの魂が泣くぜ。」

ーーボク男だもん!

と言っても彼の気は変わらなそうだったので、とりあえずお姉様についていくことにした。

「じゃあ…、えっと、どこ行くの?」

外食とは聞いてなかったけど、リュウくんが小銭を数えるってことは少なくともカフェくらいには行くはずだ。

「紅茶館よね?」

お姉様がふっと横をむく。すると、リュウくんは今から世界が終わる…みたいな哀しい顔を見せた。

すぐに汗ばんだ笑みを見せると、もう一度財布を見直す。

「…?! あ…ああ。いや、多分だいじょう…」

ボクは一旦彼を歩かせようと、そのサイフをぎゅっと握った。

小銭がやけに多いみたいだけど、多分足りる。

「行けるって。ボク、レモンティーがいい。」

「お…おう。そうだな! 行くぜ!」

リュウくんに手招きしてお姉様の手を握ると、ボクはカフェへ駆け出した。

筆で書いたような和風のフォントの「紅茶館」という看板を見るて、少し速度を落として扉を開ける。

お姉様が人差し指と中指、親指を立てて見せると、ウェイターがすぐに席へ案内してくれた。

「えっと…ボクはレモンティーと、タマゴサンドのセットで。」

いえっさー…とは来なかったけど、ウェイターがこくりとうなづいたのを見て隣に座ったお姉様が口を開く。

「ロイヤルミルクティー。単品。」

こくりとうなづいたウェイターへ、リュウくんが「以上で」と呟く。その顔は、またも「3秒後に世界が終わる」というような顔だ。

ボクは軽く笑いながらも、お姉様の手をぎゅっと握っていた。

なぜだか、この手を離しちゃいけないような気がしたから。

「ガブリエル。………どうしたの?」

ピクッと驚いて手を緩めると、お姉様の手に赤い跡がついていた。

柔らかく微笑みながら、「ごめんなさい」とつぶやく。

「なんか…不安なの。お姉様が、もうすぐいなくなっちゃうみたいに思えて。」

お姉様が驚いたような顔を見せた。それもそうだ。

ボクだって「もうすぐ貴女がいなくなっちゃう」だなんて言われたら驚く。

だけど、その顔にはどこか…手品を見抜かれたマジシャンのような、違和感を感じた。

「………何? 驚かせないでガブリエル。

私がいなくなるなんて、世界が終わってもリュウの小銭が無くなってもありえないわ。」

落ち着いたような顔を見せると、お姉様はそう言って笑ってみせる。

だけど、やっぱりどこかぎこちない。嫌味にキレがないというか、口調が毒々しくないというか。

「くくっ」という笑い方も、わざとらしい。

「そ…そうだぜリリ! 俺はクリシアに一発当てるだけでもかなり手間取ったんだからな!

隕石が落ちるだとか、宝くじが当たるとか、そんなの比にならねぇくらいありえねぇぜ!」

リュウくんはただ驚いてるだけだ。ボクにもわかる。

けれど、お姉様のあの顔は普通じゃない。

「…………そうだよね。ありえない。」

「そうよ。絶対無いわ。」

ボクがこくこくとうなづいたのを見計らったみたいに、ウェイターがやってきた。紅茶二つとタマゴサンドを持ってくると、お辞儀をして厨房に戻る。

「あの人、やけに喋らないね。」

ボクがそう呟くと、お姉様が考え込むようにうつむいた。

人差し指を唇に当てて、紅茶の波紋を見つめる。そして、窓も何も無い、彼女の右側の壁に目を向けた。

「……いいえ、多分何も無いわ。無口なだけよ。それか人見知りね。」

「ふーん」とつぶやいて、ボクはレモンスライスの乗った紅茶へ口をつけた。

さっぱりした酸味に混ざって、ほんのり甘さが広がる。

紅茶の風味と合わさって、よく言えないけどおいしかった。

「リュウ、あなたは何も頼まないの?」

お姉様がそう聞くと、リュウくんがにやりと不敵に笑う。

同時にサイフを、さっと机の下に隠す。

「ああ。今はそういう気分じゃねぇぜ。」

「お客様、コーラやラムネといった炭酸飲料はいかがでしょう。

紅茶とまた違う喉越しや味わいで、当店でも非常に人気なのですよ。」

ウェイターの言葉に、リュウくんが少し黙った。

どうやら所持金の確認をしてるみたいだけど、ウェイターは微笑みを浮かべたままメモ帳を構えている。

「……こ…。」

リュウくんの絞り出すような声に、ウェイターが首をかしげた。

「こ?」

「コーラ! コーラ一つ!」

リュウくんが「覚悟はできた」という風にそう叫んだ。

ウェイターがメモへさっと書き記すと、「かしこまりました」と踵を返す。

すぐにやってきたコーラを飲み干すと、リュウくんは財布を机の上に放り投げた。

「………3。3ゴル足りねぇ。」

「………3ゴル、ボクが出すよ。」

そういって3つ金貨を出すと、ボクはレモンティーを飲み干した。

お姉様もミルクティーを飲み干して、ウェイターへ「勘定」と呟く。

ウェイターがメモを持ってきて計算している間、リュウくんは顔を隠していた。

「お会計、134…」

ウェイターの言葉が途中で途切れたのは、聞きなれない警報音のせいだ。

時々やばい人が軍へきて返り討ちにされる時の警報音じゃなくて、ホントのホントにやばいのが来る警報音。

ててて ててて てん…という簡素なピアノに加え、合間合間にジャーンという重低音の響くおどろおどろしい音色だ。

「お姉様、どうする?」

「私たちが守るわよ!」

うなずいてからボクは寮へ駆け出し、お姉様は軍の倉庫になっている豪邸へ。

リュウくんはテントまで駆け出し、各々の武器を握りしめる。

空を見上げれば、赤黒い雲が所々で太陽を隠していた。「やばいの」がやって来るゲートだ。

寮からほど近い場所に衛生兵のテント、そしてお姉様が走っていった豪邸がある。

まずはそこでお姉様と合流しようと、ボクは剣を背負って駆け出していた。

「お姉様ぁーーっ!」

叫んでも返答はなかった。けれど、紅い舘の一部屋に明かりがついていたのに気付く。

じっと見ていると、2人の少女が見えた。窓に押さえつけられている一方は赤紫のツインテールを揺らしているけれど、顔は見えない。

そしてもう一方の少女は、よく知っている顔だった。青いセミロングの髪は、紛れもない闇妖精族のモノだ。その釣り目は、いたずらな笑みは、間違いなく姉...クリシアの姿だった。

「お姉様?!」

少女の肩を掴んだまま、窓に押し付けるようにして何かを囁いている。

しばらく赤紫の髪の子に囁いてすぐ、その視線がボクに気づいた。

そして、一瞬だけ強く唇を揺らす。きっと舌打ちしたんだ。

もう一度少女に何かを言うと、そのままフレームアウトしてしまった。

少女も後を追うようにフレームアウトしてから、舘の大きな扉が開く。

「何しに来たの? 街を守るわよ。」

ボクは少し驚いてから、首を横に振った。

肩の剣に手をかけると、声音を変えて問いただす。

「あの子、誰?」

「貴女は知らなくていい。ここでベラベラしてる場合じゃあないわよ。」

お姉様のその反応は予想してたけど、やっぱり歯をきしませずにはいられなかった。

もう一度問いただそうと口を開くと、今度は火が焼けるような爆音が邪魔をする。

「チッ...。来たのね! 返り討ちにするわよ!」

「....わかった! ボクが突っ込むから、援護して!

舘の少し上にゲートが開くと、そこから巨大な龍が降りてきた。

まるで泳ぐみたいにこっちへ飛んでくると、少し迷うような仕草。

「あいつらは魔力の高いものを優先して狙うわ! 貴女へは来ない!」

そう聞いても身体の緊張は抜けず、つい剣を構えてしまう。

龍もその動作で確認したみたいに、ボクの方へ飛んできた。

歯をきしませてから、ギリギリまで待ってから飛び上がる。

「なんで貴女に?!」

「し…知らない! でもやらないと!」

そのまま縦に回転しながら、ボクは空気を転がりながら龍へ突進していった。

龍の体へ届いても、まだ回転は止めない。そのままその身体を転がるようにして、剣を突き立て続ける。

「はぁーーっ!!」

「---ッ!!!」

音に出せないような声を上げた龍が、大きく体を暴れさせた。

バランスを崩して地面に転がると、こいつもそれを待っていたらしく突進してくる。

「いいよ。かかってこい!」

それに合わせて剣を逆手にもって掲げると、その刃がボクの身体ごと黒く輝いた。

しばらく龍の動きを見つめていると、輝きがひときわ大きくなって..、消える。

同時に、ボクの身体がほとんど自動で動かされていく。

理屈を言うと、闇属性の魔術で増幅された「本能」が最も効率のいい動きをする...らしい。

「.......。」

言葉は知能で発するものだから、本能に任せているこの剣術の発動中は使えない。

というかしゃべる気がなくなる。殺意ってやつが身体を支配するからだ。

向かってくる龍へ歩みだすと、その速度がとてつもないことを理解する。

この歩行、下手な軍人の走行なんかよりよっぽど速い。さっと近づいてサクッと貫く...確かに効率がいいなと感じる。

「------ッ!!!」

声にならない咆哮も、今はうるさいだけに感じる。

それくらいにはこの剣術、危険だ。

近づいてくる龍の目玉に、振り上げた剣を突きつける。ぴったりと瞳孔を貫いた刃を抜くと、はっと我に返った。

「ーーーーーッ??!!」

心なしか驚いたような様子を見せて、龍が崩れていく。

空色のヒビを広げながら、大ぶりな動作で暴れると、龍は不自然な姿勢で停止した。

ヒビがビキビキと音を立てて広がり、即座に龍の身体が破片になって粉砕、消滅する。

「あ...。ああ。はあ。」

しばらく刃を見つめていると、いきなりの殺気を感じた。

振り返ったころには、その爪が振りかぶられていた。受け止め刃剣を構える間もなく、それはボクへ降りかかるはずだ。

「ひっ...! いやぁ!」

そう叫ぶ少し前には、闇が空気を何度も切り裂く音を聞いていた。

けれど、ボクはその爪と牙に視界が吸い取られていた。

「ガブリエルぅぅーーーっ!!」

ボクの斜め後方から飛んできた彼女が、その獣を斜めに断ち切る。

その刃には、闇属性の小刻みな刃がいくつも付いていた。ノコギリのような刃が、回転するようにして直剣の刃を獰猛に唸らせている。

「お姉様?!」

さらに上空からドロップキックを食らわせると、彼女はもう一度ソーサーのついた剣を振り下げた。

獣の上に乗るような状態から、さらに追い打つようにして剣を叩きつける。

直剣3連撃「デッド・ヒルビリー」闇属性

「いいから追撃しなさい! ヒルビリーは後隙が長いのよ!」

「わ…わかった! お姉様はそいつを抑えてて!」

お姉様の言葉で、ようやくボクは落ち着きを戻した。

剣を肩に担ぐようにして構え、風が刀身を鋭く尖らせる。

「はぁっ!」

気合いを大きめに駆け出すと、刃の輝きがさらに増した。

そのまま叩きつけるようにして獣の顔を切り裂き、風でさらに傷口をえぐる。

風属性上段突進「ロスト・ルナライト」

「ぐぅぁぉっ!」

この獣は、ギリギリ文字に表せる咆哮をあげてくれた。

木の枝みたいに分岐したツノ、細いながらたくましい四肢。

家畜の鹿を思わせる姿だけど、その蹄についているおぞましい爪はとても飼おうとは思えない。

「らぁっ!」

剣術のディレイを、左手のパンチでどうにか止める。

銀色の光をまとったパンチが、鹿の額を力強く叩きつけた。

無属性拳撃「ピリオド・ストライク」

「ゔぅるる……。」

その押さえつけられたような鳴き声は、とても見慣れたものだ。

ボクはすぐに両耳を抑え、その声を和らげる。

「ーーーーッ!!」

咆哮、それも鼓膜をやすやすと破くような大音量だ。

口が閉じてもしばらくは続くから、それが収まったのをそーっと確認して剣を握る。

右上、右下。左上、左下。炎を纏った剣を貫かせると、4つのデジャブ感溢れる傷ができる。

これは、鷹の足跡だ。転がってる鹿やネズミみたいな草食動物についてる、鷹に襲われた痕。

「……ふっ!」

お姉様が、声に出した気合いを漏らす。

ボクが剣を大きく振りかぶった時、一瞬だけ鹿が顔を上げた。

お姉様は獣の動作を予想していたというふうな仕草を見せると、にやりと笑った。

その場で飛び上がった直後、大ぶりな動作で縦に切り裂く。

お姉様はそのまま、空中で回転、切り裂くという動きを2回続けた。

「今よ!」

巨大な獣の爪のような残像が、鹿の胴体を抉り出しす。

闇属性3連撃「イーヴィル・クアルム」

「わかってる!」

お姉様の言葉を待たずに、ボクは振りかぶった剣をそのままに突き出した。

赤く輝いている剣が鹿の額を、再度貫く。炎の残像が、鷹のくちばしのような動きを見せる。

「キョォォーーーン!?」

鹿がそう叫ぶと同時に、その身体を空色のヒビが広がっていく。

そのまま後ろへひるむ様子を見せて停止、破片を散らしながら消滅した。

「はぁ…はぁ…。お姉様、あそこ!」

ボクが指差した方向には、首の長い草食動物が暴れていた。

蹄に爪はないけど、その身体からは炎が上がっている。

長い首の上、小さな口から炎を吐くと、あたりの建物が一気に焼き焦がされた。

「…………あれは……えっと…、東洋の動物よね。……名前は…き……き…。」

「キリン、だね。さっきと同じ感じで!」

そう叫んで駆け出すと、ボクはキリンの周囲を見渡した。

あたりには密集した電線くらいで大きな建物はなく、キリンの頭を狙うことは容易じゃない。

さっきすぐに始末できたのだって、頭を狙って致命傷を与え続けれたからだ。蹄や胴体を切り続けるんじゃ、時間がいくらあっても足りない。

「お姉様、飛べる?!」

背後からの足音を聞いてそうたずねると、落ち着いた…それでいて熱を感じる声が響いた。

「ええ!」

少し減速して背中を輝かせると、そこから木の枝のような棒が伸びる。そこから、魔力の結晶である宝石ラピス…に似たものがいくつも垂れる。

お姉様の背に輝く虹色の翼は、ボクも綺麗で美しいと感じていた。

「ガブリエル、あいつが向かう先! 送電所があるわよね!

そこから攻撃してちょうだい!」

頷きながら、お姉様が指差した塔へ駆け出す。

非常階段はギリギリ残っていて、お姉様がやつを引きつけていてくれればそこから頭を叩ききれるはずだ。

「わかった! お姉様はヘイト取って!」

階段を駆け上がる間、お姉様の高らかな咆哮が頻繁に聞こえた。

どこまで続いてるんだと思いそうなほど長い階段を上りきると、お姉様も最後の1撃を与えるようだった。

「行くわよ! [[rb:奪命妃 > エクステンス・クイーン]]!」

お姉様の声をスイッチとして、巨大な爪が彼女の指から伸びて吠える。

黒っぽい紫をした、3つ連なった爪。

「…引き裂いてあげるわ!

……[[rb:尖爪による死 > デス・バイ・クロウ]]!!」

片手直剣に爪のような刃が連動して、巨大な爪がキリンの頭を叩きつける。

イーヴィル・クアルムの強化版のような剣戟は、お姉様の研究剣術だ。

まるで抉りとったみたいな巨大な傷が、キリンの首を赤く染める。

駆け上がったままの勢いで、ボクは塔の屋上から飛び上がった。

お姉様が引きつけてくれたキリンの頭が、ちょうどボクの方を向く。

けれど、何か危険な気配を感じる。熱気…殺意ではなく、全てを焼こうとする熱気だ。

「いけない! ガブリエルぅぅーーーっ!!」

すぐにお姉様がその首へ、もう一発の爪を浴びせる。

キリンの口の中で炎が爆発して、ボクも命からがらというふうに剣を構えた。

左手に握り直すと、それを右腰まで引く。それを左上へ振り上げ、右下へ。真横へ薙ぎ払うと、刺突に繋げて上、下、上。

「やぁーーっ!!」

今度は5回、キリンの右目へ剣を突き出す。全て当たったのを確認して、なびかせるようにして右上へ振ると、全力の刃を流れるように左下へ叩きつけた。

合計13回、直剣にしては多すぎる連撃を受けたキリンはヒビを受け止める。

片手直剣用剣戟「ハンティング・ブレイド」無属性13連撃

「お姉様!」

ボクは飛べるわけじゃないから、剣術を終えると落ちちゃうことは確実だ。

お姉様へ叫びかけて、飛んできた彼女に抱きしめられる。

「うぅーーっ…。私のガブリエルっ。よくやったわ! すごくカッコよかった!」

やっぱりこの人のテンションは、よくわからないや。

それでも褒められるのは嬉しいし、ちょっぴりにやけちゃってるのは自分でわかってる。

「ん……。うん…、ありがと…。えへへ…。」

頭をしばらく撫でてもらってから、ボクは地面に足をつけた。

あたりはまだ破壊が続いてて、救護部隊と衛生兵が市民を連れ出してる。

町は炎で焼かれてたり、正体不明の破壊で亡くなってたり、大洪水で水没してたりごちゃごちゃだ。

「お姉様…、やつらの侵略が滞ったよ。」

はぁはぁと息をつきながら、心臓を抑えて鼓動と呼吸を抑える。

手首を触れて落ち着いたら、もう一度剣を強く握る。

「………その様子、わかってるみたいね。」

「はぁ……はぁ…。うん…。」

剣を大きく空振りさせて、一度体勢を整える。

お姉様も落ち着いた様子で剣を振ると、夕日を刀身に映すようにしてゆっくりと構えた。

「「本隊が来る。」」

重々しい音を立てて、またも赤黒い闇が膨れ上がる。

そこから、まるで這い上がるみたいにそれは出てきた。

機械の化け物。

鉄やコードでできた姿は、顔だとか指だなんて装飾はない殺意の塊のような容姿だ。

騎士団では、「ドール」と呼んでいるけれど、いくつかの型を元に毎回改良されて送られてくる。

「お姉様は魔術で追い込んで! ボクが捌く!」

「…わかったわ! 逃がさないようにね!」

今回のは人形型のもので、右手にソーサー、左手にはアームを装備している。九〇式と呼ばれるドールだ。大きさはボクより少し大きい程度だけれど、そんなのが100以上も群れで襲ってくるんだから圧力はキリンの比じゃない。

「受けてみなさい! [[rb:豪雨による死 > デス・バイ・ダウンプアー]]!!」

お姉様が高々と掲げた左手から、黒っぽい紫をした魔法弾が次々と放たれた。

雨のように降り注ぐ光弾は、機械を巻き込む度に力をましていく。

それは何体ものドールを吹き飛ばすと、全て1箇所へ集めてくれた。

「今よ!」

「わかった!」

お姉様へ叫び返した時には、ボクも剣術を発動していた。

左手を掲げたと同時に、右手の剣は肩まで引き絞る。

雷の魔力が刃を鳴らすと、ボクはそれを待たずに駆け出した。

集まったドールの一体に、全力を乗せた剣を突き刺す。

即座に左手で左隣を殴り、飛び上がる。

直剣単発刺突「デサイシブ・ピアーシング」

体術単発パンチ「ピリオド・ストライク」

「ふっ…! はぁっ!」

空中で右足を突き出し、ドールを足場にしてもう一度跳躍。

左足で蹴り払うようにして一体を転しながら、ボクは右足はカカトでもう一体を踏みつけた。

「やっ!」

すぐさま左足を引いて、反動をつけつつ真っ直ぐに蹴り飛ばす。

上位空中体術「ラビット・テリトリー」

今のでだいたいは吹き飛ばしたけど、6体ほど動けそうなのがいる。

けれど、お姉様ももう動けそうだ。ボクが倒さなきゃいけないのを尋ねる。

「お姉様! 残りは?!」

「あと4体!」

そう聞いてすぐ、ボクは剣をさやにいれ、左手を差し出した。

右手はさやの剣を握ったまま、大きな円を空中に描く。

その中にさらに、縦に細長い楕円を描くと、指が描いた軌跡が青く光る。それは、動物の瞳を模した魔方陣だ。

最後に、その魔方陣を左手でぎゅっと握りつぶす。

この予備動作はいくらか短縮できるんだけど、ボクはあえて大方を行った。

「スカーレット・バスター…!」

ドールを引きつけるためってのが1つと、鞘に入れてから時間が経てば経つほど、この剣戟は射程と威力が上がるからだ。

「…だっけ。」

駆け出したりはせずに、剣を抜いて真横へふり抜く。普通は直剣の当たらない距離だけど、ある程度溜めたおかげでドールの一体を叩ききれた。

「まだまだぁーっ!」

左へ振り切った剣を右へ反転、ボクの右肩を狙うドールをきり飛ばす。

そのまま一回転してその斜め後ろのを叩くと、大きく引いて左へ切り払う。

4回の斬撃でちょうど4体を吹き飛ばしたあと、剣をもう一度鞘に収める。剣術の一部だから、どこかカッコつけたような動作で。

「………えっと…おやかまっさん。」

すると、剣戟を受けた4体がまるで内側から爆発するみたいに散った。

直剣最上位剣戟「スカーレット・バスター」爆炎4連撃。

この剣術はかなり最近のもので、片刃剣の動きなのに西洋剣でしか扱えないってところが研究途中だ。

予備動作の長さも。そもそもスペルウィザインは強烈な想いを剣に込めるから「[[rb:within > 内に秘めた]]」なわけで、それをコピーした「剣術」なんて型にするのはとてつもなく時間がかかる。

「お姉様!」

剣をしまったまま振り返ると、お姉様がドールの攻撃を全て剣に受け止めているのが見えた。

お姉様なら剣で受けたとしても、流すようにして受けて剣へはダメージを与えないなんてことは造作もないはずだ。

「すでに始末した! 」

「?!」

それなのに、あの刃は明らかに食らっている。

いいや…違う。食らってるんじゃ…ううん、食らってるのは確かだけど、それはダメージでは…ううん、ダメージで合ってるんだけど…。

ーーーじゃなくて!

ーーー食らったダメージを受けるのは、お姉様の剣じゃない!

「………[[rb:捕食による死 > デス・バイ・プレデイト]]!!」

お姉様の宣告によって、その刃がいやらしく笑った。

まるで、遊びたい犬の首輪が千切れたみたいに。

彼女が大きくそれを掲げると、剣先から白銀の刃が大きく伸び上がった。

光属性のようで、その魔術はどこかで見たようなモーションだ。

「………はぁぁっ!!」

ボクの知ってる技は…ううん、スペルウィザインは、光の剣を伸ばしたすぐあとに叩きつけるものだ。

それの名は「ブレイク・ライトニング」。光属性の叩きつけだ。

けれど、彼女の握る剣はそれよりいくらも輝かしくて…、美しかった。

「何を見ているの? ドールはあらかた殲滅したでしょう。」

彼女が剣に溜め込んだダメージは、10倍以上になってドールへ返って来ていた。

すでに光の刃もドールの姿もなく、お姉様の黒っぽいドレスが揺れるだけだ。

技後の彼女の仕草から、振り上げからさらに振りかぶって大きく振り払う…っていう動きだったのがわかる。

「あ…ああ、そうだよね。ごめんなさい。」

闇妖精の色黒な肌も、黒いドレスとよく似合っている。

肩から伸びる半袖はふわりと膨らみ、赤紫のリボンを結んで二の腕を隠す。

腰に結んだリボンはそれよりいくらか明るい赤で、後ろに大きな結びを覗かせていた。

ワンピース状ドレスのスカートは、少し短めで細い太ももがはだけている。

ハート型に開いた背中は…魔術の翼のためだろう。鎖骨や胸、四肢を大きく出した寒そうな意匠だけど、首元に巻いたアッシュグレーのマフラーや白い手袋、ブーツと黒いストッキングがそれをなんとか…してるのかな?

「はぁ…。ガブリエル、貴女ってそっちなの?」

「あっ…ち、違う! 違うの! 似合ってて綺麗だなって思っただけで…。」

そう両手で被りを振る間も、お姉様の表情はいかがわしさを増すばかりだ。

ふと左目を閉じたと思うと、右手を無造作に振り上げた。

「ガブリエル。」

「だから違…」

ボクの斜め後ろを指差すと、そこから炎の弾丸が飛んでくる。

「いやぁっ?!」

すぐに後ろへ仰け反って、それを回避する。

機械的すぎる熱気は、多分スペルウィザインじゃなさそうだ。

となると、ドールあたりのものと思われる。

「やっぱり…ガブリエル。貴女…実は女の子の方が好きだったりして?」

ーーだって男の子だもん!

……と言うことは、叶わなかった。

お姉様がいきなり飛び退ったからだ。ボクは尻餅をついてあたりを見渡す。

「お姉様?!」

という叫び声に被せるようにして、何かを破壊するような爆音が響いた。

その方向には衛生兵の仕事場である、病院も兼ねたドームがある。

そのちょうどど真ん中に穴が空いてるのを見て、ボクは歯をきしませた。

周囲にお姉様の姿は無く、ボクの脳裏をいやな想像がよぎる。

「………なんで…?! お姉様がそんな簡単に…。」

そう言葉を尽かすと、ズシンという重たい足音がボクの耳を突いた。

そこを見上げると、ボクの3、4倍くらいありそうなサイズの大きなドールがいた。

さっきの人形型に似た四肢のついた容姿だけど、人形というより人間みたいな形をしている。

少し長めの両手には巨大で威圧的な槍を構えていて、その穂先は間違いなくボクを指していた。

フードのついたマント状の鎧が、風に揺れてなびいた気がする。

「え………? な……なに…?」

そして、更に驚いたことがあった。

人形型は、せいぜいセンサーが顔の場所にあっただけだ。どちらかというと、四肢と胴体の上にセンサーがついただけ。

だけど、こいつのは違う。明確な顔だ。

「何なの…このドール…。顔…顔が…ついてるじゃんか…。」

マント状の鎧の中は、関節の多い軽装鎧の身体。

口部分には排気ガスを排出するファンがついていて、紫の光がボクを見据える。

ググググゴ…という重々しい音を立てて、その顔がボクへ近づいた。

紫の光が横に細まると同時に、マフラーから漏れるガスが多くなる。

「え…今…お前は…? ボク…を……笑った…というの?」

そうたずねると、まるで「そうだ」とでも言わんばかりに槍を振り上げた。

そのままボクめがけて降ってくるランスを後ろへ飛びすさって避けると、アスファルトの破片がボクへ飛んでくる。

「ひっ…ふぁっ…!」

着地して剣を構えると、またも槍が飛んでくる。

今度は上から叩くんじゃなくて、前から突進してくる動きだ。

重槍は真っ赤な輝きを見せていて、それがスペルウィザインであることを宣言する。

「えっ?! なんで…なんでドールが、【剣術】を使えるの?!」

横へ転がるようにして避けながらも、ボクはそう叫ばずにはいられなかった。

炎をまとった重槍が、ボクがいた場所を爆破するみたいに破壊しする。

「い…いや、このままじゃダメだ! 上…上に! 避けなきゃ!」

ボクはそう叫ぶと、剣を肩に担いだ。そのまま飛び上がるようにして真上へ飛ぶと、顔のついたドールのマスクへ剣を叩きつける。

直剣上段突進「ロスト・ルナライト」風属性

ドールへの1撃は、惜しくもその肩を切り裂くにとどまっる。

しかも同時にドールの槍が、さっきまでボクがいた場所を振り払った。

重槍2連撃「ミラージュ・クラッシュ」火属性

だけど、ボクはこいつの槍術をまだ1撃も受けていない。いずれこの1発の差がなにかを産むはずだ。

「ふぅ…。やぁっ!」

後隙が終わると同時に剣を引き絞ると、その勢いで左足を突き出す。

少し軽めの蹴りはドールのマスクをうまくホールドし、そこへ引き絞った剣を振り払う。振り切ってすぐに反転、右へ斬りはらい。

「はっ…!」

少し振り上げて叩きつけ気味に左へ斬りはらい、右へ切って左へ戻す。

合計5回の剣戟は、ドールの顔をずたずたに引き裂いた。

片手直剣用多重連撃の筆頭、「デッド・〜〜」系の基本。

「デッド・チャックルズ」だ。蹴りを含めると、合計6連撃。

「なんで…?! 排出機構に、5回も剣を受けたのに!!」

そうたずねたのは、ドールのニヤついたような表情が消えなかったからだ。

もちろんドールが答えるはずもなく、後ろへ仰け反ったあとに槍を支えにして体勢を整える。

「莉里、あいつ! 多分闇雲に切っても倒せないよ!」

代わりに、とても聞き慣れた声がボクの問いに答えた。

少し低くて落ち着いた声なのに、どこか高らかで透き通った音色。

「え?! 綺羅! なんでここに!」

「そいつみたいなドール全部狩ってたらここに!」

「なるほど!」と叫びながら、ボクはチャックルズの長い後隙を終えて着地した。

ドールはもう一度ニヤつくと、重槍を大きく引き絞った。

ビリビリと張り詰めた魔術が輝くと、即座に重槍が突き出される。

「ひゃぅ…!」

綺羅はなんとか避けたみたいだけれど、余裕がないことが声に漏れてる。

2回目の刺突はボクに来て、ボクも横にステップして避ける。

重槍が引かれたのを見て、ボクはもう一度綺羅の方に目を向けた。

ーー次はボクが守らなきゃ!

「莉里!」

一瞬目線が合ったと思うと、綺羅がボクの名前を呼んだ。

それも、とてつもなく不安そうな顔を見せてだ。

「安心して! 綺羅のことはボクが…」

「違う! 莉里が危ない!」

その声を聞いて、ボクはドールの重槍をもう一度睨む。

それはもうボクの脇腹まで来ていて、横へのステップはおろか、剣で弾き返すことも敵わないだろう。

「ぅぁっ…! いや!」

掠れ掠れの声で叫ぶと、すぐ後にガギン…という重々しい音が響く。

恐る恐る目を開くと、黒い双剣士がドールの重槍を弾いていた。

黒いストレートヘア、そして肩や鎖骨を覗かせる少し薄めの青い洋服。

スカートにはボクみたくフリルはついていないけれど、短めの丈がとても可愛らしくて美しい。

「はぁ…。莉里は…。」

小さな片刃の剣、それも一本だけを振り切った姿は、守りたいだなんて厚かましいと思うほど頼もしかった。

右手を振り払いながら、左手の剣に魔術がこもる。

スペルウィザインとは質感の違う、少し茶色っぽい魔術の輝き。

土属性だ。それも、自前のもの。

「………莉里は、オレが守る!」

ドールは槍を弾かれた驚きを見せているけれど、その顔が見えたのはほんの一瞬だった。

すぐに気味の悪い笑みを戻し、綺羅の剣を睨みつける。

「……え?」

同時に綺羅の左手に握る、剣の輝きがさらに綺麗になった。

それも、金属や泥、岩とはまた違う【生きた】美しさだ。

手の中でその剣を反転させると、それをしゃがみこんで地面に突き立てる。

「咲け…白百合! リリー・メモリーズ!!」

掛け声を合図に、地面に突き立てた剣から明るい緑色をした縄がいくつも伸びてきた。

それは真っ直ぐに伸びてすぐ、顔のついたドールを縛りつけるようにして絡みついていく。

「綺羅…その技は…?」

緑色の縄は、ピヨっと跳ねた楕円形の刃を一つ、全ての縄に連ねている。子葉だ。それはたった一つ…単子葉類だと思われる。

「頑張って練習したんだよ。……君を守るために。」

そこから、更に細長い葉を連ねた。鋭そうな葉は、まるで刃だ。

更に伸び続けると、今度は白い花を咲かせた。ドールの無機質な身体を、垂れ下がった大きな花が強く拘束する。

「……綺羅……。」

風に揺れる大きな白銀の花は、どこかボクと近しい雰囲気を感じた。綺羅の右に握った刃に映る、ボクの長髪がそれを裏付ける。

「莉里、立って。君の剣技だって頼りにしてるんだから。」

突き立てたままの剣を離すと、その左手をボクに向けた。

それを握って立ち上がると、ボクは剣を再度強く握りなおす。

「………ありがとう。…綺羅、君のことはボクが守るから。」

そう囁くと、彼女は…彼女? ああ、違う。綺羅は、嬉しそうに微笑んで頷いた。

地面に刺したままの片刃剣を抜くと、ボクの斜め前に向ける。

「………じゃあ、莉里のことは私が…。 違う、オレが守るよ。」

ボクも微笑みを浮かべながら、その刃へ直剣を重ねる。

カチャンという軽やかな、それでいて頼もしい金属音が、ボクらの耳を強く通り抜けた。

「………あいつを片付けたら…、教えてよね。」

そう囁いて、ボクは剣を左腰まで引きしぼる。

剣を光属性の魔力が覆うと、綺羅も刃を鞘にしまった。

剣術の構えだ。左手の剣はしまいつつも、右手に握った片刃剣はドールへ向ける。それも、殺意を固めたような闇属性をまとった刃。

「……もちろん。」

綺羅の答えを合図にして、ボクらはすでに駆け出していた。

綺羅が右の片刃剣を突き刺すと、一瞬遅れてボクが直剣を振り払う。

「やぁっ!」

綺羅が差し込んだ闇の刺し傷に、ボクは光の斬りはらいを突きつけた。

ボクが振り払った剣を追うようにして、綺羅が鞘から抜いた剣を叩きつける。

「う……らぁっ!」

光と闇、二人で3回の剣戟が、白百合の拘束を抜けたドールへ追い討ちをかける。

すると、相反し合う属性特有の現象がドールをさらに追い込んだ。

爆発だ。光と闇が食い合うことで、その間に大げさな爆発が起こる。

「綺羅! 一歩引く!」

そう叫びながら、ボクは剣をしまって綺羅の手を引いた。

魔術の爆発は煙幕とかはなくて、ただ食い合うだけだけど…、それでも、巻き込まれたら足の一本はすぐ吹っ飛ぶ。

「あ…う、うんっ!」

引っ張った綺羅の背後で、爆発が一瞬引いた。

直後に、巨大な【虚無】がドールを喰らう。

光と闇が喰いあった結果、互いに全損してブラックホールが広がるのだ。

酸性とアルカリが混ざったときの、中性みたいなもの。

「流石にあれを食らったら、かなりのダメージは与えたと思うんだ。あとちょっと!」

綺羅が呟いた。ボクも「うん、あとちょっと!」と頷いて、鞘にしまった剣を持ち直す。

ブラックホールが消え去ったあとには、ドールの身体がボロボロになって立っていた。

そのいやらしい微笑みの中に、少しの怒りが混じったような気がした。それも、すぐに消えて笑みを浮かべる。

剛鉄の身体を持つドールといえども、ブラックホールに食われちゃあ耐えられないだろう。

「………どう?」

綺羅に尋ねると、文字にできない答えが帰ってきた。

剣を、もういちど強く握る…、それは、「まだ足りない」のサインだった。

「わかった。なら……、もういちどズタズタに削いでやるだけ。」

ボクがドールへ剣を突きつけると、綺羅が腕でそれを制した。

きしませていた歯を開くと、双剣をクロスさせるみたいに構える。

「………うん…ただ、あいつ。何か隠してるんだ。あれだけの攻撃を受けたのに、あざ笑うみたいな仕草が消えない。」

それは、受け身の動作だ。双剣は軽やかさを武器とした剣だけど、こうして強く構えることは受け止める…という意思に他ならない。

「……わかった。なら…、まずは、あいつの能力を確認するべきだよね。」

ボクもそう答えながら、剣を受け身の構えに直す。

右手は軽く掲げて、そこに握る片手直剣を軽く垂らす。

「そーいうこと。」

綺羅がそう呟いてすぐ、彼女の構えている剣のちょうど交わった部分に、黄色の魔法弾が作り出された。

ビリビリと唸る金色は、雷属性の光弾だ。

「サンダーボルト…!」

綺羅の言葉を合図に、その光弾が一直線に駆け出していく。

ドールの身体へ飛び出した雷が、その機体を撃ち抜いた。

「莉里、やっぱりあいつ何かある。雷属性って食らうと一瞬動きが止まるんだよ。」

隣で構える綺羅は、あくまで真剣。けれど、その表情にはどこか挑戦的な色が見える。

綺羅の言葉を切るようにして、ボクはそれに続けた。

「なのにあいつ、そんな仕草しなかったもんね。」

こくりと頷いた綺羅へ、ボクは剣を構え直すことで答えた。

受け身を取っていても、あのドールは動いてこない。それは、きっと自分から攻めるような能力じゃないからだ。

魔術が全然効かないのも、それを認識するとわかってきた。

「じゃあ…、綺羅、無属性の技ある?」

同じく構えを解いた綺羅が、右の刃をドールへ向けた。

剣術の構えとかではないけれど、その刃には彼女の決意が目に見えるほどこもっていた。

「うん、いくらか。………莉里も気づいた?」

ボクが頷くと、綺羅も一層力を込めて双剣を握る。

直剣を振りかざしながら、ボクはもう一度彼女と目を合わせていた。

「「魔術反射能力。」」

二人で呟いて、少しクスクスと笑ってから、ボクらは同時に駆け出していた。

ドールが射程範囲に入ってすぐ、ボクが剣を無造作に突き出す。

すぐさま右に引き戻し、左へ振り払う。反転させて右へ振り払って、最後は真上から叩きつける。

「ふ……やぁっ!」

無属性の4連撃、「デッド・スピリット」だ。デッド系は高火力中手数っていう技の特性から直剣で使うのが主だけど、色んな武器で使えるのがメリットだ。

少し長めの後隙が気になるけど、それは高火力技だからしょうがない。

「綺羅!」

後隙が始まってすぐ、ボクは相棒へ声をかけた。

どうやらドールの後ろへ回り込めたらしく、機械の化け物の後ろから声が返ってくる。

「うんっ!」

もちろん巨大なドールの影の後ろは見えないけれど、綺羅が背後に回るってことは行動は限られる。

剣を突き出す音、続いて何度か連続して切り裂く音。

最後に、上へ無理矢理に切り上げる音。

合計6回、金属が引き裂かれる音がボクの耳を突いた。

おそらく「終末告剣」。無属性6連撃。

「ナイス!あと1発当てたら下がるよ!」

ディレイが終わったのを確認して、綺羅へ叫びかける。

すぐに右手の剣を肩ごと引いて、そのまま体全体で回転をつけて左へ振り払う。

ドールの身体を、横の一線が赤く染める。

「わかった!」

その一撃を当てて、ボクは後ろへ下がった。綺羅もすぐに戻ってきて、剣を構える。

食いしばられた歯が、さらにきつく噛まれるのを隣で見つけてすぐに、ボクは熱い喉を鳴らした。

「………やっぱり。魔術をバリアみたいなので受けて、それを周囲に放散してるんだ。だから、無属性だと比較的当てやすい。」

綺羅に囁いてすぐ、ドールがランスを振りかぶった。

それを突き出しながら駆け出すと、背中についたジェット機構の推進をつけて重槍をボクらに叩きつける。

「くっ…いっ…」

綺羅が声を漏らしながら、横に跳んでそれを避けた。

それでもアスファルトの破片が彼女の頬を裂いて、苦しそうな表情を見せる。

「ひぁっ…うぅっ…」

ボクが守らないと…そう思っても、綺羅と反対の方へ跳んでしまったから無理だ。

せめて自分の身体を守ろうと、両手で顔を抑える。

着地してすぐに顔を見上げると、ドールが空中に飛び上がっているのがすぐに見えた。

その視線はボクじゃなくて、10、20ヤードほど離れた場所の黒い剣士を狙っている。

突進刺突に続いて、飛び上がっての叩きつけ。

フルージュ隊長も使っていた、重槍の上位剣技「ダブル・スラスター」だ。属性は無し。

「綺羅! 危ない!」

叫んだ時には、ボクは駆け出していた。

剣を構えるのももどかしく、彼女のそばまで駆け寄って剣を振り上げる。

直剣に闇属性のノコギリ刃がいくつも連なり、回転するようにして刃を覆う。

「莉里…?!」

振り上げた直剣は、狙い違わずドールのかざした重槍に直撃した。

直剣強化振り上げ「デッド・カニバル」闇属性

ガリガリとノコギリ刃と重槍がせめぎ合うと、ボクの剣が跳ね上がる。

重槍をはじき返したみたいだ。ドールの槍を見ると、側面に大きな傷がついてる。

「………綺羅、今度は君のこと。守れたよね。」

彼女は驚く様な顔をすると、今度はぐっと歯を噛み合わせる。

軋ませていた歯を緩めると、綺羅は再び不敵に笑ってみせた。

それにつられる様にしてボクも微笑むと、もう一度駆け出して剣を突き出す。

「はぁーーっ!」

すぐに引いて、また貫く。ボクにすら視認できない速度の刺突の連打が、金属で出来た鎧を何度も貫く。

同時に、ボクのすぐ横で綺羅が双剣を振り回していた。

コマのように回転しながら、その遠心力を乗せた連撃をドールの身体へ叩きつける。

「りゃぁーーっ!」

コンマ数秒2人で切り裂き続けてボクらは、最後に全力を乗せた1撃を見舞った。

真上からの直剣による叩きつけ、差し込んで切り開く双剣の1撃もとい2刃。

「「らぁっ!!」」

直剣重連撃「エンダリング・シャウト」。

連撃数、測定不能。

双剣上位剣戟「輪廻双刃」26連撃

シャウトの方は高速連撃な分、1発1発の威力はあんまり。輪廻の方は26発限定なだけ、一発威力も充分だ。

「莉里、さっきはありがとう。」

綺羅にそう囁かれて、ボクは嬉しい半分、胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちを強く感じた。

それが何なのか予想はついたけれど、確証を得る前にドールの槍がうごめいた。

「綺羅! しゃがんで!」

腰を下げて槍を低く。その穂先は、ボクらのちょうど90度横、ドールから見た右側を指している。

その状態から、低空へ大きく飛び上がった。

背中のジェット推進器を右側だけ噴射させ、左回りに大きく回転。

その動きに重槍を乗せて、左へ2度切り払う。

「うわっ…!」

綺羅の髪を数本、重槍が切り裂いた。

飛び上がって上段を二度切り払う、重槍の中位剣戟だ。

「クラウド・スラッシャー」水属性上段二撃

「綺羅、大丈夫?!」

立ち上がりながら叫ぶと、綺羅も息を整えて答えてくれた。

上段の水平切りはしゃがめよ、出来ないんなら膝ついて落ち込めよ...騎士団の教えだ。

図体の巨大な顔つきドールなら、尚更しゃがめよ落ち込めよ...だ。

「う、うん! なんとか!」

綺羅が目をそらした気がしたけど、それでも彼女は剣を握って笑っている。

どこか引きつっている顔をしているけれど、ボクは彼女の言葉を信じることにした。

「おっけー、すぐに...。」

すぐに反撃しよう……と言おうとしたのも待たず、綺羅が叫んだ。

「莉里、危ない!!」

綺羅がボクの言葉を区切ったのは、ドールの突進技がボクを狙っていたからだ。

綺羅に押し倒されたすぐ上を、10分の1インチもないほどスレスレで重槍が突き進む。

雷属性の刺突は「デサイシブ・ピアーシング」のそれに似てるけれど、重々しさや威圧感は直剣の比べ物にならない。

「綺羅…?! だ…大丈夫?」

地面に抑えられる形のボクと違って、上に乗っかる形になった綺羅は直撃する恐れだってあったはずなのに…。

ボクがそうたずねると、綺羅は怒ったような、悲しむような表情でこう答えた。

「莉里、オレのことはいいから! 自分の身を守ってよお!!」

ドールの大きめの後隙を横目で見て、フルージュ隊長の剣技を思い出す。雷属性の高威力突進刺突「デサイシブ・バスター」

「わ…わかった! あいつ…いくら叩いても、ダメージみたいなのが入ってないんだよ。このままじゃあ追い込まれる…!」

剣を拭きながら、ボクはドールを見据えた。

綺羅のことを信じる…だなんて言いながら、【ボクが守る】なんて矛盾もいいとこだ。

本当に彼女を信じられるのなら、今見るべきは彼女じゃない。

「きっと、あの装甲の内側の内側、何重にも重なった鎧の1番内側に弱点があるはず!

仕草には露出したそれを守ろうって意志も、逆に【弱点ないから余裕】なんて感情が見えない!」

ドールだ。それも、つい気になってしまう顔じゃあない。

腰や肩、そして腕とそこから伸びる重槍だ。

やつの仕草の一つ一つに、攻撃の死角…それか、ドールの弱点が見えるはず!

「………ううん、一つだけ見えたことがあったよ。」

そう呟くと、綺羅が驚いたように息を吸った。

まだ確証は得てないけど…、少し推測が立った。

「な…何?」

剣を大きく振りかぶって、ドールの顔を刃で指す。

紫の光が二乗、ボクを警戒したのを感じる。

「あいつ、さっきまでのあざ笑うような顔が少なくなってる。

ダメージは入ってないのに、なんでだと思う?」

綺羅も同じように左手の剣を構えて、ドールの顔を刃で指した。

ドールの顔が、さらに険しくなった気がする。

「もしオレだったら…、きっと焦ってるな。

ダメージを受けないのに、そんな顔をするってことは…そっか!」

綺羅が何かを気づいた。ボクも微笑みながらこくりと頷いて、彼女の唇に動きを合わせる。

「時間制限があるんだ!!」「時間制限があるんだよ。」

一度お互いを見交わすと、「えへへ」とお互いに微笑みを浮かべた。

だけどボクらが答えを出すのを待っていたみたいに、ドールが槍を振り上げる。

ボクがつけた傷を隠すみたいに側面で薙ぎ払う、大ぶりな動作だ。

もちろん、それは二人同時に飛び上がって避けた。

空中でボクは剣を肩まで引きしぼり、綺羅は左手の剣を同じくらい引きしぼる。

「「はぁーーっ!!」」

同時に突き出した剣は、狙い違わずドールの両眼…っぽく見える紫の光を貫いた。

剣術の後に少しふらついて、お互い支え合ってすぐに着地。

直剣高威力突進刺突「デサイシブ・ピアーシング」

片刃剣高威力突進刺突「悪鬼解」

双方雷属性。

「ふぅ…、でも莉里、それだったら逃げ続ければいつか時間切れで…」

「そんなことしたら、あいつボクらを諦めて他の人を切りに行くと思うよ。だから、少なくともヘイト取るくらいのダメージは必要。」

そう囁いて、ドールへもう一度振り返る。

だんだん焦るような仕草も大きくなってるみたいだ。もちろん隙は一切ないけど、それでも焦りが嫌でも見えちゃう。

「そっか。……じゃあ、時間切れまで切りながら待つしか…」

「綺羅、避けて!」

ドールが、とうとうボクらへ駆け出してきた。

もうやけくそになってるのか、スラスタも最大出力。

槍は綺羅を狙っているから、彼女を信じてボクは剣を構える。

だけど、それがまずかった。重槍の剣戟は恐ろしいけど、あの巨体があれば槍なんかいらないことに気づけなかったからだ。

「ふぅ…ぐっ…ぁあ…いや…!」

ボクが捕まっていた。綺羅はドールの剣戟を避けられたようだったけど、空いていた左手に気づけずに捕まるなんて…。

「いやぁ!! 離して?!」

剣を振り回してもどうにもならず、腕を切り落とす前に右手を掴まれてしまった。

喚くように叫びながら、ボクはひしひしと魔術が使えたら…と感じていた。

「綺羅! 綺羅ぁ!!」

そう感じたのは、助かりたいからじゃなかった。

彼女の名前を呼んだのは、助けて欲しいからじゃなかった。

彼女を守りたかったからだ。この状況から、彼女を守りきることを果たしたかったから。

「莉里! 今助けるから…」

そこで、その願いに呼応するようにして右目がうずいた。

視界の右半分に、ここから少しだけ移動した場所の視点が映る。

ボクは地面に倒れるようにしてこのドールを見ていて、そこから少し離れた場所にお姉様が転がっている。

ドールはボロボロの槍を脇にしまうと、その鋭利な爪を振り上げた。お姉様が断末魔を上げて、それが振り下ろされる。

少し時間が跳んでドールが、後ろへ何かを投げたところで、その映像は見えなくなった。

「…?! 今の光景は…。」

意識が別の場所から戻されるみたいな気分を感じた直後、綺羅の言葉が続けられる。

同時に、遠くから重たい何かを無理矢理に飛ばすみたいな濁った風切り音。

「ーーるから、そいつの注意を引きつけて!」

「ガブリエルぅぅーーーーっ!!!」

風切り音に続いて、甲高い呼び声が耳を撫でた。

お姉様のものだった。右手に剣を、左手には巨大すぎるお椀のようなものを逆に持ってる。

お椀はお姉様の30倍くらいはあるだろうという、建物並みのサイズのもので、お姉様はそれの中央に空いた風穴の端っこを握っている。

「……妖精を! 狭間に住む人間を…! 」

「来ないでお姉様!! 来ないで!!」

そこで、ボクはさっき見た光景を思い出す。

お姉様が、あのドールに引き裂かれるところだ。

「食われるのを待つだけの餌と思わないでよねぇーっ!!」

そう叫んだお姉様は、直剣を真上へ大きく振り上げる。

光属性の魔力が剣を覆うと、お姉様はそれを真っ直ぐに振りかぶった。

さっきのデス・バイ・プレデイトに似た光の刃が、お姉様の真上へ真っ直ぐに登っていく。

「妹を!!離しなさいよ!!!!」

その剣を、そのまま真っ直ぐに叩きつけた。

光属性の巨大な光剣が、ドールの左手…ボクを握る腕を、肘から叩き斬る。

それでぼとりと落ちたドールの腕から、ボクは弾かれるようにして飛び出る。

光属性光剣撃「ブレイク・ライトニング」。

「……受け取りなさい! 」

さらにそのまま突進すると、お姉様はそのお椀をドールへ突きつけた。

その外側、網目状の窓を見て、やっとわかった。衛生兵のドームだ。お姉様が吹き飛ばされた場所の、屋根を持ってきてたんだ。

内側にドールを閉じ込めると、そのままとなりの民家まで押し込む。

とうとう追い詰めた一瞬、お姉様は剣をしまった右手から闇属性の光弾を放った。

「 [[rb:贈与による死 > デス・バイ・ギビング]]!!」

「逃げるんだお姉様!! 逃げるんだぁーっ!!!」

ボクの叫び声は全く聞こえてないみたいで、お姉様はドームの風穴から光弾を流し込んでしまった。

ドームの中で爆発するかと思ったけれど、そうでもなかった。

何も起こらなかった。その一瞬の空白が、ボクは恐ろしくてしかたない。

「?!」

お姉様の顔が、驚いたような表情に変わった。

すぐにドームの風穴から、お姉様の方へ闇属性の爆発が“反射”される。

お姉様はそれを受けて吹き飛んだ後、地面に大きく叩きつけられた。さらにバウンドして、さっきボクが見た光景の場所に転がる。

指先の角度や、絶望感溢れる表情、目線の動き…、それら全てが、さっきのおぞましい光景そのままだった。

ドールも闇属性を少し受けてしまったのか、重槍がボロボロだった。その傷の一つ一つが、さっきの光景と全く同じだった。

「ダメ…お姉様は! 今のが本当なら、お姉様は…!!」

ボクがそう叫ぶ間も、綺羅に繋がれた手は簡単には離されなかった。

お姉様へ向かおうと暴れても、綺羅に頬を叩かれて引き寄せられる。

「莉里、今は下がってて!」

「お姉様ぁぁあーーーっっ!!」

重槍をマントの内側にしまったドールが、その鋭利な指を振り上げる。

空中で狙いを定めるようにして動きを止めた、その姿がさっきの光景に似通っていた。

「いやぁ! やめてぇぇーーーっ!!!」

「きゃぁぅぅぅぅ--------ッ???!!!」

その爪が振り下げられる直前、お姉様が断末魔をあげる。

その声でボクは、この力がどうこうというよりある感情を抱く。

ドールは大きな動きで振り返ると、背後の湖にお姉様を放り投げた。

そこでドールはボクらを見据えると、目線を外して飛び上がる。

空中で形状を変えてスラスタを起動すると、ボクらの少し上を通り過ぎたあとにターン。湖の上に開いたゲートへ突っ込んでいった。

「貴様ぁぁーーーっ!!」

その感情とは、明確な怒りだ。お姉様を刺されたのはもちろん悲しいし辛いけれど、この未来を知って何もできなかった自分が腹立たしい。

綺羅だっていた。彼女に手伝ってもらうことだってできたはず。

「……莉里、クリシアのことはオレも悲しいよ?

でもね、クリシアが来ることも、あいつがあの人を攻撃することも…」

綺羅の言葉に、ボクは掴まれていた時の感覚を思い出す。

まるで時間が止まったような気がして、少し先の未来が目の前に見えるみたいだった。

「わかってた! ボクには見えてたんだ! それなのに…それなのに、防げなかった!! ボクは何もできなかった!」

ボクは綺羅の首元、チョーカーを掴んでそう叫んだ。

綺羅は少しうろたえた様子を見せたあとに、ボクのジャケットのえりを掴む。

「そうじゃない! どんだけ計算しても予想しても、もし…例えば未来が見えたって言っても、何の方法もなく誰かを救うなんて無理だよ! お前は!どこでどうしたっていうの?!」

綺羅の質問には、どうも答えられなかった。

ボクが考えていたのは【リリー・メモリーズ】でも使ってれば…ってことだったけど、こう叱られると綺羅のせいにはできない。

「ぅ……でも!」

「でもじゃない! オレに当たられてもどうもできないよ!!」

綺羅の瞳に、どこかか弱いものが煌めいたのをボクは見つけた。

それを見て、ボクが騒いでも仕方がないって、それよりもっとやらなきゃいけないことがあるって思い出した。

ーーーこの子は、ボクが守らなきゃ。

ーーー亡くなったお姉様と同じく、ボクが守るべき人なんだから。

 

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