とくとご覧あれ!
「莉里?」
オレがそう喉を鳴らすのと、聞きなれた声が響いたのはほとんど同時だった。
「綺羅?」
はっと振り向くと、白銀の長髪がなびいているのが見える。鏡でも見てるみたいにシンクロした動きで、オレたちは同時に駆けて抱き合った。
「綺羅ーっ」「莉里ーっ」
あたりには見慣れない風景が広がっていて、どうやらテレポートに成功したみたいだ…と息を吐く。
同時に莉里も落ち着いたみたいだったから、唇が触れる程度のキスを交わした。その後に周りを見渡してから、彼の手を引いて歩き出す。
「莉里、そこの裏行こっか。上着脱いで。」
そう囁くと、莉里は顔を赤らめてかぶりをふった。
「えっ……外でやるの?」
「別にいいでしょ?」
莉里の肩に手をかける。すると、彼の顔をがさらに赤くなった。
やっぱりかわいい…そう思いながら、オレは左手を剣にかける。
けれど、それを抜いた途端に取り落としてしまった。
「?! やめて!」
莉里がオレの手を払ったからだった。メモリーズで拘束しようとしてたのがバレたみたいで、すぐさま手首を掴んで叫ぶ。
「ボクが迷ってるっていうのに、そういう無理矢理なやり方ひどいよ!! もっと雰囲気とか手順とかちゃんとしてよね!」
前にもこれはあった。こないだ首締められた時、オレの動きを読んでそのまま仕返ししてくるっていう。
だからまたそれっていう恐れもある。莉里の言葉には謝りながら、こう尋ねてみる。
「莉里、未来見た?」
「見たけど、今関係ないでしょ!」
ーーーやっぱりじゃん! 莉里のゴト!!
どう解決しようか…、そう悩んでいると、聞き覚えのない声が後ろから響いた。
女性の声だけど、少し幼いのに上品で、綺麗な響きを持った声だ。物理的には…、声質的にあんまり響かないけど。
「あー…二人、この人が迷子になってたんだけど…。」
オレは答えに迷っていたのもあってさっと振り向いた。だけど、莉里はどこかめんどくさそう。
周囲の雰囲気が一気に暑苦しくなったからかな?
「?」
「すまねぇ…。邪魔しちまって…! ごめんな!」
リュウくんだ! オレはさりげなく莉里の手を振り払うと、リュウくんに笑ってみせた。
「やっぱ来てたんじゃんかぁっ。 リュウくんのこと、みんな探してたんだよ?」
リュウくんも申し訳なさそうに頭をかくと、「いやぁーすまねぇ!」とそのまま頭を下げる。
オレはそれを見届けて「頭を上げよ!」と叫んでから、となりの女の人へ振り向いた。
「あの、リュウくんのこと…、ありがとうございます!
オレは隣の世界から来た…」
名乗ろうとしたのは、オレたちは監獄のことを全くわかってないし、ここの人間なんであれば案内してもらうってことができるからだ。
けれど彼女は、オレの言葉をさえぎって口を開いた。
「キラちゃんでしょ? で、そっちのがリリちゃん。中性的な見た目って聞いたけど…、全然そんなことないじゃん!
二人ともかわいいし美人さんだよー?」
自己紹介の手間が省けたのは良かったけど...、逆じゃん!
ただ、「圧倒的女の子な見た目」が中性的なんだから、オレらは男性って答えにならなかったのが良かったのか悪かったのか...。
「あ、ごめんね! まず私が名乗らなきゃだよね?
私はミオ、苗字はホウオウって言うんだけど...、君たちはここ来るの初めてでしょう?」
莉里と同時にこくこくとうなずいたのを見て、彼女…ミオさんがえへへと笑いながら手を差し出す。
「でしょ? このへん危ないからさ、良かったら案内するよ?」
そう聞いてすぐ、オレはやったぁ!と思いながらその手を握った。
ぶんぶんと振りながら、「ぜひお願いします!」と叫ぶ。
「綺羅ってテンション高いよね。」
ミオさんがにっこりと微笑んだのも気にせず、莉里が小さく呟いた。さっき魔術使おうとしたのを根に持ってるのかもしんないけど、タイミングってのを考えて欲しい。
「莉里がクールなだけでしょ?」
オレもほんの少し意地悪っぽく返して、莉里がにんわりと微笑む。
意地悪なさっきの表情じゃなくって、純粋に嬉しそうな笑み。
「「そーいうとこ好きだよ!」」
オレもそんな顔をしてたんだろうと思うけど、こうして毒を注いだらお茶を濁すっていう約束。
「じゃあキラちゃん、そこの剣拾ったら他の人と合流しよっか?」
ミオさんが首を傾げた。こくりとうなづくついでに、彼女の服装を凝視する。
ワンピースにベルトをつけた、不思議な様式のオレンジの服だ。
黒いおかっぱに巻いた同じ色のバンダナは、監獄の特徴的な雰囲気とよく似合ってる。
「え?」
けれど、彼女の言葉でほんの少し気になった部分があった。「合流しよう」なんて、まるでそばにいない事が当たり前みたいな言い方。
ミオさんは「あ、まずゲートの仕組みから言わなきゃだよね?」と慌てる素振りを見せて、こう説明を加えた。
「ゲートはそれがある場所と、ほとんど同じくらいの座標に同じゲートを開くんだ。ゲートに入ると、行き先は向こう側の同じ座標。」
莉里はこくこくとうなずくけれど、オレは少し考えてしまった。
すぐに理解して、「はい!」と慌てて答える。
「けど、体格の差で座標がかなり変わっちゃうの。2人は多分体格が全く一緒なんだと思うけど、基本的にバラバラ。」
オレはへぇ…と声にならない返事をしながら、莉里の身体を覗いた。
足から自分のと比べても、全然違いがない。
オレはつり目で莉里がたれてるってとこを抜いたら、色違いってので説明がついちゃうくらいだ。
「あ、そんな珍しいことじゃないんだよ?
体格は環境に寄るし、2人みたく決められた訓練をやってる感じなら多分一緒。」
そう聞いて、なるほどと思いながらも、運命ってあるのかな? と思ってしまうオレだった。
「それで、どうやって探すんですか?」
莉里がたずねる。ミオさんはほんの少し表情を引き締めると、オレの後ろにある光を指差した。
「みんな目指すのは街、あそこの灯台だと思うの。」
オレが「うんうん」と声に出してうなずくと、ミオさんが少し表情をゆるめる。
「だから」と続けて、彼女はオレの肩を掴んだ。
「あっち行くよ!」
この言い方をされると、騎士の返事はただ一つだ。
「「いえっさー!!」」
オレと莉里、リュウくんも混じってうなずく。
その声を聞いて、ミオさんがにっこりと笑った。すぐにリュウくんの襟を持つと、それを持ち上げて、担ぐ。そのまま歩き出すと、リュウくんが「うにゃぁぁーーーーっ!!」と騒ぎ出した。
「リュウくんだっけ、静かにしないと木の根に引っ掛けちゃうよ?」
ミオさんが呆れたように囁く。リュウくんには、自分の叫び声も相まって聞こえてないみたいだ。
「うわぁーーっ!! やめろぉーーっ! やめてくれぇーーっ!!」
「リュウくん。」
莉里が「ふふっ」と笑って、ミオさんがカウントしだす。
「ごー!」
「うにゃぁぁーーっ!! うわぁっ! あぁぁーっ!」
リュウくんは1秒間叫び続けた。
少しだけ声を大きくして、ミオさんがカウントを進める。
「よーん!」
「あぁぁーーっ!! ゔぁぁっ! うぉぉーーっ!」
そこからは泥沼だし、4秒だからどうもなってない。
最後の1秒を終えて、ミオさんがため息を吐く。
「はぁ…。呪詛・鳳凰のぉ…死角っ!」
リュウくんが何かを察して、一瞬叫び声を止めた。
すぐにミオさんが柳の木の下にたどり着くと、その中でちょうどいい枝を見つける。そして、そこにリュウくんを引っ掛ける。
「うわぁぁぁーーーーっ!!!!」
枝はリュウくんの右胸を貫くと、その身体をだらしなく垂らした。
すぐにミオさんが、笑いながらリュウくんを小突く。
「じゃ、リュウくんは柳が運ぶから歩かなくていいよ!」
………と言いながら、ミオさんは「アッハッハ」と大きな声で笑う。すぐに「ジョーダンだよ?」と被りを振ると、リュウくんを枝から外した。
「あはは…、リュウくん面白いね! 」
ミオさんがもう一度笑うと、リュウくんも軽く苦笑いして返す。
「ジョークにしちゃあ傷が深いぜ…。」
肺を枝で貫かれたんだから、騎士でなかったら即死でしょ…。
と思いつつも、リュウくんの胸から血が出てないのを見て左しかない目を疑う。
「あれ、ミオさん…リュウくんの胸、血が出てないじゃん!」
莉里がたずねると、ミオさんがこくこくとうなずいた。
すぐにリュウくんの胸をとんとんと叩きながら、左手に緑色の光を生み出す。
「うん、薬草混ぜといたし…、応急処置したもん。まだ飲む?」
「お……おう…。」
リュウくんがうなずき、ミオさんが光から草を生み出す。
オレにはそこらの雑草と見分けがつかないけど、なんか薬草らしい。
「呪詛・鳳凰の知覚……あ、これは病気用か。」
ミオさんが出したのはシナモンらしいけど、何を思ったのかそれをしまってしまった。
すぐに新しく光を生み出し、リュウくんに「ごめん、お薬間違えた!」と肩をすくめる。
「?! なんだよそれ!」
……とリュウくんが言った隙に、光が黄色っぽさを見せて来た。
ミオさんはちょうど、そこで止めて小さく呟く。
「呪詛・鳳凰の知略。」
すると、ミオさんが植物の種を生み出した。
それをリュウくんに見せると、無理矢理に口に放り込む。リュウくんがバリバリと噛み締めたところで、「治療完了!」とリュウくんの胸を軽く小突く。
「ふぅ…。そんで、その灯台ってのに向かってりゃあ会えんのか?」
リュウくんが光をにらみながらたずねると、ミオさんはこくりとうなずいてリュウくんの肩を叩いた。
「うん、結構それで会える。無理だったら考えよ。」
そうして歩き出すと、ミオさんが右手に緑色の光をまとわせる。
そこから赤っぽい黄色の何かを生み出すと、すぐにそれを手の中に収めた。
「鳳凰の知略・向日葵。」
そして、その手の中に植物の種ができる。
黒、白、黒と並んでいる縦線と、楕円形の形。ヒマワリの種だ。
「あ、ミオさん…、それさっきから気になってたんですけど!」
「うんー?」
首をかしげると同時に、そのヒマワリをボリボリと食べ始めた。
オレと莉里も1個ずつもらって、オレは質問を続ける。
「その植物を生み出す魔術、どういうのなんですか? 土属性じゃなさそうですけど…。」
ミオさんは、迷うような仕草を見せて答えた。
目を伏せたあと、しばらく黙り込んで目線を暴れさせる。
そうして口を開いたのは、2,30分歩いた後だった。
「答えれるとこまででいい?」
[newpage]
「答えれるとこまででいい?」
悩んだ末に、ミオさんは綺羅へそう答えた。綺羅が「ダイジョブですよー」と返して、すぐに続けて喉を鳴らす。
「私の家系がね、そういう魔術を使うんだ。植物を生み出す、鳳凰呪詛っていう魔術。双子葉類は全部生み出せるんだけど、単子葉類は限られちゃう。」
ボクもほーほーと前のめりで聴いていると、ミオさんが何かを思い出したように指を鳴らした。
そのままの指で綺羅を指さすと、こうたずねる。
「キラちゃんは魔術使うの? リリちゃんは?」
「私は土属性がちょっとと、雷属性です!」
綺羅が答える。こういう時、なんだか【なんでできないの!】って責められてるみたいな気分になるんだ。
そんなことは全然無いんだけど、やっぱり魔剣両道の綺羅のそばじゃあこういう気持ちだって感じる。
「あっ……そっか。リリちゃんは置いといて、キラちゃんさ、土属性でどういうことするの?」
ミオさんの言葉は、慈悲と気遣いに満ちた大人な返答だった。
だけど、そんなボクの仕草を読んでこうして話を逸らしてくれた時、さらに傷つく。
ボクにもっと力があれば…、そんなことを考えたのは、100回や1000回なんてもんじゃない。
「あんまり戦闘には使わないんですけれど、刺突系の剣術で剣を研いだり紙を作って雷で文字を書いたり…。」
どこかぎこちない綺羅の言葉で、リリー・メモリーズのことを隠していることを悟った。
きっと「単子葉類は限られる」っていうセリフを気にしてるんだろうけど、「別に気にすることないよ」と囁いておく。
「他には?」
ミオさんが首を傾げた。綺羅が悩むような仕草のあと、重そうに言葉をしぼる。
「えっと…、百合で拘束する…っていう技です…けど…。」
「けど?」
今度は引き戻してさらに首をかしげると、綺羅が苦しそうに胸を抑えた。
「けど、この技は…私の黒い部分、悪い部分をそのまま具象化したみたいで…、あんまり使いたくないんです。」
黒いファッションはよく着てるけど…、大変なとき、ホントに追い詰められたとき、綺羅の百合はすっごい頼りだと思うのに。
「って言うと?」
何を気にしてるんだろう?
ミオさんもどこか不思議そうだ。
さらにキツく胸を抑えると、喉を無理やりに鳴らす。
「相手を縛る、束縛するっていうこの技…、私の所有欲を突き付けられてるみたいで…。」
彼の顔は本気で悩んでいる、恐れている表情に歪んでいた。けれど、それがわかっていても、ボクはまだその感情に支配されていた。
「莉里には…、嫌味に聞こえるかも…知んないけどさ…。」
劣等感。綺羅の海のように澄んだ瞳が、羨ましくって、恨めしかった。
「ボクが守る」…そう言えないこの関係が、ボクは苦手だ。
「……綺羅。ボクはそうは思わないよ。」
「?」
綺羅が涙混じりの左目を向ける。
ボクはなんだか見てられなくって、そんな彼を無意識に抱きしめた。
「綺羅が大事に思ってる人、あともの。何にでも、それを傷つけようとするものはあるんだよ。そんな災厄から大事なものを守るのには、剣か盾を選ばせられる。」
抱きしめたまま、彼の耳に唇を当てる。綺羅はこくこくと頷きながらも、まだはてなマークを残したままだ。
体勢を直してから、また囁きを続ける。
「剣で守るのは、その災厄を傷つける前提になっちゃうんでしょ?
盾で守るのは、逆に災厄に対して手を抜きすぎる、容赦し過ぎると思うんだ。」
綺羅が、今度は小さくこくりとうなずく。
きっと、ボクが言いたいことの八割くらいはもうわかってくれてるはずだ。
「だけど、その災厄を拘束する…、【そこでやめろ】って言って、傷をつけずに大事なものから遠ざける…それって、綺羅の優しさを表してると思うんだ。」
綺羅が動きを止める。すると、ボクの首筋に暖かいしずくがこぼれた。数滴ほどだったけど、ボクが言った言葉で綺羅をなぐさめれた、それだけで嬉しい限りだ。
「………っ…、莉里、ありが…っ…と…っ」
綺羅が嗚咽混じりにつぶやく。本当はまじめに返さなきゃいけないんだけど、ボクは少しおかしくって笑いそうになった。
「ううん…って、そんな泣くことー?」
少ししてから、綺羅が離れた。眼帯の逆、左目が赤く腫れて、青い瞳孔を囲っている。
けれど、それを見つめた瞬間に鼓動が速くなった。
「………ううん、莉里に言われちゃったら何でも泣いちゃう。」
とかって綺羅が言うからだ。すぐに「もお!」と返して、ミオさんが小さくクスクスと笑う。
「二人とも仲良いんだね。女の子同士みたいだけど…、なんか、カップルみたい。」
?! なんて反応はせずに、「別にそんなんじゃないですよお!」と返しておく。綺羅も「そーですよっ!」と相槌をうって、ミオさんがまた「そーいうとこだよ!」と笑い始める。
すると、あっ…とミオさんが何かを思い出した。ボクらを指差すと、すぐにその背中に目を向ける。
「二人とも騎士みたいだけど…、武器は何でできてるの?」
「「ドラグライトです!!」」
そう声を合わせて答えると、ミオさんが「じゃあ…」と言ってカバンを漁り始めた。
中から懐中電灯を二つ取り出すと、それをボクと綺羅に一個ずつ。
「それ、ライトセーバーってやつ。正式名称はクレーアグラデフェンっていうんだけど、とりあえずスイッチ入れてみてくれる?」
そう言われても…と思っている間に、綺羅はそそくさとスイッチを入れていた。すぐにブオン…という小気味良い音が響いて、そこから金色の刃が出現する。
「綺羅ちゃんは問題なし! 莉里ちゃんもつけてみて?」
ミオさんが言葉を続ける間、綺羅はブンブンと光剣で素振りしていた。片刄剣用の剣術かな? 片手直剣と少し違う動きで、地味にスペルウィザインも付いてきてる。
「わぁ…莉里、これすっごい楽しい!」
綺羅の言葉は普通だと思うけど…、ボクが気にしてるのは、その刃の色だ。ビリビリとうなる金色は、雷属性に間違いない。
多分、自分の魔力を刃状にするっていう機械なんだ。だとすれば、ボクはスイッチを入れても剣が出ない。
「別に付けれなくても良いんだけど、やってみる価値はあると思うんだ。スイッチ入れてみたらいい。」
そう言われて、ボクはやっとスイッチを入れた。
ほんの一瞬、黒紫のオーラが出て…、すぐさま消えてしまう。
「あちゃー…。じゃあ、こっち使ってみる?」
ミオさんが残念そうに顔をゆがませた。続いて出してきたのは、焦げ茶色の片手直剣だ。ギラギラと輝く刃は、木製なのに鋭くて強そう。
「ん…、ありがとう、ございます。でも、なんでここで武器を変える必要があるんですか?」
ボクがたずねると、ミオさんがボクの後ろを指差した。
慌てて振り返ると、そこにはイノシシが這いつくばって寝ている。
「ここの生物とかドールは特殊でね、敵意を持った刃ってのが当たらないんだ。弾かれる感じ。
刃ってのは、【金属で出来た戦闘用の道具】が入るんだ。だからハンマーもアウトなんだけど、魔術や拳、あと木なら当たるから。」
ミオさんがちょっとわかりにくい手振りで説明し終えたところで、ボクは「なるほど」とつぶやいて剣を背負った。
鞘から抜いて振って、すぐに入れる。
「莉里、似合ってるよー!」
綺羅が言ってきた。「ありがとう」と返してすぐ、ミオさんへ彼がたずねる。
「なんか軽いんですよね…。もう一個ないんですか?」
ミオさんもほんの少し困ったような仕草を見せたけれど、すぐにカバンから武器を出した。
〇七式とかについてる遠距離武器だ。ボクらでは「アークス」って呼んでるけど、多分正式名称がある。
「これ、ゼータストロークっていう拳銃なんだ。拳銃はわかる?」
ミオさんが差し出したのは、少し湾曲したグリップの上に、円筒が乗っかったそれ。
すぐに綺羅がこくこくとうなずいて、嬉しそうに返事を返す。
「は…はい! えっと、〇七式の上に乗っかってるやつですよね?」
こうして武器の話をして、一緒になって盛り上がってたのはつい最近だ。まだお互い女の子だと思ってた時だけど、そもそもそれを教えて、確認…の話はやめとこっか。教え合ったのがこないだだから。
「そうそう。撃ち方わかる?」
ミオさんがたずねると、綺羅がこくこく頷きながら、グリップのちょっと上についてるスイッチを入れたか切ったか操作した。
すぐに円筒の後ろにある突起を下げると、そのまま首を傾げて狙う。ミオさんが、そんな綺羅の仕草を見て「大丈夫?」と顔をゆがませた。
「片目だから狙いにく……」
ミオさんの言葉を待たず、パァンという巨大な破裂音が響く。
反射的に耳を塞いでから、綺羅の唇の動きで彼の言葉を察した。
「えっと…、ここをこーして、それで…わっ?!」
綺羅の視線の先で、ガコッ…と重たい音が響く。すぐに木が崩れ始めて、根元から断ち切れる。
「うわっ……なにこれ…。」
綺羅が顔をうつむけた。拳銃…ゼータストロークっていうらしい武器を見つめる。そんなことは気にせずミオさんが嬉しそうに拍手を響かせると、綺羅の両肩をつかんだ。
「キラちゃんすごいね! 持ったばっかりなのにこんなに…。」
綺羅が勢いよく振り向く。すぐにミオさんの両肩を掴むと、ボクからは眼帯で表情が見えないけど…、嬉しそうに叫ぶ。
「すごいね! これすっごい楽しい! ミオさんありがとー!」
「でしょー? 最初に触った時ってすっごい楽しいよね!」
綺羅がこくこくとうなずく。すぐに二人で「えへへーっ」と笑うと、軽く拳を突き合わせた。
「じゃあ、キラちゃんはクレーアとストロークでいい?
リリちゃんもそれで大丈夫そう?」
ボクもこくこくと頷いて、背負ったままの剣を引き抜く。
少し刀身を見つめていると、銀色の長髪が目に付いた。赤いタレ目やなびかせる髪、そして褐色というらしい肌は、どれも綺羅が褒めてくれた大事な記憶だ。
すると、端っこに黒い長髪が映った。綺羅のものだと瞬時にわかるけど、次の瞬間またあれが起こる。
「莉里、試し切……」
そこで綺羅の言葉が止まって、ボクの右目に光景が映る。
少し暑い空気、きっと南の地方だ。そこで懐かしい鼻歌が聞こえると、手斧が飛んでくる。
「あら? あなたも来ていたのね。」
手斧はボクも見たことがある、リュウくんの技【ハント・レス】だ。綴りは【狩】ハントに、【足らない】レスがスペースで繋がる。
けれど、それ以上に気になったのは鼻歌だ。言葉の主も、とても信じられない。
顔は影で隠されているけれど、その歌は昔お姉様が歌ってくれていたものだ。ボクと同じくらいの褐色肌に、青紫のセミロング。
そして、背中の大きく空いたドレス。今回のは、赤だった。あの時と変わらない黒いドレスに、赤い装飾…返り血が輝いている。
「ーーし切りしたいな! あいつとかどう?」
綺羅の言葉は多分聞こえてなくって、ボクはその光景をもう一度考え直した。
声や歌、そしてそのドレスはどれもお姉さまのもの。身長はあれじゃわからないけど、右手には片手直剣、左手から黒紫の爪…【[[rb:奪命妃 > エクステンス・クイーン]]】がにぶく輝く。
「ミオさん、南の方に特徴的な建物ってあります?」
そうたずねると、ミオさんがこくりとうなずいた。
「んー、まず思いつくのはドラクレア家跡地かな。政府の建物で、そっち側だと…、多分、軍の倉庫とかと同じ見た目だと思う。」
「えっと…、それは良いんですけど、俺の分の武器は…?」
ーーよくない!!
けど、リュウくんに武器を渡されてないのも確かだ。ミオさんが「あ、ごめん!」と呟いて、カバンをあさりはじめる。
しばらく漁りながら歩いていると、巨大な門にたどり着いた。
「貴様! 何故ここを通らんとするか!」
門兵の1人がそう叫ぶと、ミオさんが首に下げていたメダルをかかげる。それを見ると、門兵が大袈裟なリアクションで驚いた。
「あ、これで入れてくれるんだっけ?」
顔の上半分が影になる、西洋のカブト。身体は関節以外を軽く覆う程度の軽装鎧だけど、それだけで十分な威厳があった。
「これは失礼、鳳凰のお嬢さん。入ってすぐに東の街、イーストタウンがあります、東洋の武具や食事等の文化を色濃く残す、ステキな街ですよ。」
驚いたのは確かだったけど、すぐに落ち着いた様子を戻したのがさすが兵士さんだ。
左手に持った長槍を軽く振り上げ、地面にコツンと当てる。
それを合図にカンカン…と鐘がなって、大きな門が開かれた。
「ありがとねー!」
ミオさんが手を振ると、門兵が軽くお辞儀を見せる。
門の先は東洋の純和風って感じな建物が並んで、街の人は着物や袴を来た和の顔立ちだ。
全員小さなカタナ…脇差と言ったかな、それを持っている。スペルウィザインは理屈がわかんないけど騎士やそういうのしか使えないから、多分自衛のためのものだと思われる。
「………。」
ミオさんが、カバンを漁る手を止めた。
少し不安げに首をかしげてから、もう一度あさりはじめる。
「あの…俺の分、無い…とか言いませんよね?」
つられてリュウくんの顔も、だんだん不安げに崩れてきた。
すぐにミオさんが「しょーがないか」と言って、右手に茶色い光を生み出す。
「呪詛・鳳凰の尖爪…、革包み!」
?! 何の技だろ?
ボクが驚いている間に茶色い光は四角い直方体に出来上がって、ミオさんがそれを地面に横たえる。
「えっと…、大型の武器とか、機械とか、そういうのはこっちに入れてるんだ。街では鳳凰家の呪術はあんまり使いたく無いんだけど、ちょっど両手斧あったと思うし。」
ミオさんが喋りながら、大きなカバンのロックを外す。勢いよく開いたフタは、近くにいたリュウくんのアゴを殴り飛ばした。
大袈裟に痛がるリュウくんも気にせず、ミオさんが「あった!」と叫ぶ。
「ほら、リュウくん。あ…殴打には冷たいのがいいよ。植物にはそういうの無いけど、こんなの持ってるし。」
リュウくんがまず受け取ったのは、保冷剤だ。それをアゴに当てつつ両手斧を受け取ると、それで「頼むぜ相棒!」と撫でて指を切る。
「もお、リュウくんってほんと不器用だよね。そこの草、薬草だから取って来て。摩り下ろしてお茶に入れたら皮膚の再生速度が13%上がる。」
なんでそんな中途半端な数字…と思いつつも、ボクはさすがだなぁと思っていた。
感心したのは植物の知識じゃなくて、そのすぐあとにこう聞いてきたからだ。
「リリちゃん、南に何かあるの?」
「えっと…、ドールに殺されたおねーさんがいるんですけれど、その人がそこにいるみたいなんです。」
ボクの言葉に、ミオさんが一瞬驚く顔を見せる。
そして、「わかったけど」に加えてこう聞いてきた。
「リリちゃん、苗字聞いていい?」
「ドラクレシュティですけど…。それが何かあるんですか?」
ミオさんがやっぱり…! と呟いた。
すぐにボクに近寄ると、右目を覗いてくる。
「リリちゃん、君って運命が見えるとかの能力ない?」
「運命…? 未来は見えるみたいですけど…。」
ボクがそう言ってすぐ、ボク自身が気づいた。今まで起こったこの現象、それがもし「運命」ってやつを見てたんなら…。
すぐにミオさんが「わかった?」と言ってきて、こくりとうなずく。
だけど、そう理解してすぐに、ボクの中の希望が薄れていく。
ーー運命ってことは、それは変えられるものなのかな…?
同時に、黒くてドロドロした感情がボクを襲う。
「ボクが見るのは、その…決定された運命なんですか?」
「………それは、起こるよ。」
それは徐々に増していくと、ギィィーーンといういびつな機械音に変わった。聞こえるというより、「あるのが確信できる」って感じ。
「?! 待って!!」
途端、ミオさんがボクの腕を掴んだ。ボクの中の闇は消えないけど、機械音は一瞬で消えた。それを見たのか聞いたのか、ミオさんがさっきの言葉に付け加える。
「ふぅ…。リリちゃん、それは起こるよ。けど、それは決定された運命なんかじゃない。」
その言葉が、ボクの闇を切り裂いていくけれど…、闇は無尽蔵に増えていった。
ミオさんの言葉では減らせず、そのままの量を保ち続けている。
「何もしなかったら、何も出来なかったら、こうなるぞ…っていう警告。警告だから、何もしなければ起こっちゃう。そして、これだけは覚えてて。」
彼女の言葉に、こくりとうなずく。すぐにミオさんがツバを飲むと、ボクの手を握った。
その手を、ボクに見せるようにして振り上げる。
「リリちゃんは、変える実力を持ってる。どんな悲惨な結果が見えても、君はそれを変えられる。だからこそ、君は悪い運命を垣間見るんだ。」
こくこくとうなずくと、ミオさんがさらに言葉をつなげる。
今度は、どこか力のこもった口調だった。
「見えたのなら、それは変えられる。だって、何もしないなんて君はできないから。そういう血筋だから。」
なるほど…と言いつつも、ボクは内心首をかしげていた。
だって、今まで何もなかったのにいきなりドールが攻め込んできて、お前はその血筋だ…とか言われて、どうしろって言うのさ。
「まあ…【どうしろって言うのさ】ってなると思うんだけど、今は君の思ったことをやればいいと思うな。その先に答えがある。」
こくこくうなずいて、ボクはリュウくんに目を向けた。両手斧も使いこなしてるみたいだし、多分あいつは大丈夫そうだ。
「…………多分、りょーかいです。」
そう言ってすぐ、綺羅の方へ寄りかかる。
綺羅も少し驚いてから、腕を絡めて引っ張り込んできた。
ボクがちょっと体勢を崩したのを見て、頭を撫でながら「大丈夫?」と呟くのも大人っぽくて素敵だ。
「綺羅、えっと…これから南の方に行きたいんだけど…」
「それはミオさんに言ってくんないと…。」
綺羅がそう言って、ボクの手を離す。綺羅がボクの背中を押すと、口を開くまでもなくミオさんが「わかったよ」と微笑む。
「じゃあ、ドラクレア家跡地に行くけど…、体力大丈夫? まだ何もしてないけど…、リュウくんはどう?」
ミオさんの言葉に、「大丈夫です!」と叫びながらリュウくんが血を吐く。ミオさんは多少不安そうに歩みを止めたけど、すぐに西へ歩き出した。
「とりあえず、あそこの灯台に行く。灯台の中心に、ここの皇主様がいるんだけど…、君達は何しに来たんだっけ?」
ミオさんの言葉に、ボクは言葉を詰まらせてしまった。
綺羅がボクの顔を泣きそうな顔で見つめるけど、そこで首を振って彼に答えてもらう。
「ボクらの街を襲った、ドールや神獣を操る当人に復讐…。」
「……なるほど。それはわかんなくもないけど…、多分ここの皇主様じゃないよ。ただ、皇主様が何かを知ってる可能性もあるから、どっちにせよ灯台…、皇家に行かなきゃいけないかも。」
ミオさんがそう言ってから、ボクらは彼女についていった。
しばらく歩いていると、灯台の門が見えてきた。そこには7つの動物が書かれていて、上から…と言いたいけど門を通ってしまった。
「貴様! 何故その門を通るか!」
「皇主様にお話があるの。直接話したいんだけど。」
ミオさんの言葉には、ほんの少しの怒りが見えた。ボクらに共感してくれてる…っていうのは、思い込みかも。
「要件を述べよ!」
「内密な話なの。皇主様と秘密で話せるならなんでもいい。」
ミオさんの言葉に、門番が言葉を詰まらせた。
すぐに鎧の内ポケットをさぐると、そこから小さな機械を取り出す。ミオさんが受け取って、簡単に名乗ってから話し出す。
「あっち側、オモテの方にドールと神獣が増えてるんです。原因の解明と解決をお願いしたい。」
そう言って少し黙ってから、「ありがとです」とつぶやいて機械を返す。
すると、ミオさんが何かをとなえた。
「起動、マイクロプロジェクタ。」
それに合わせて、ミオさんのすぐ前に何かが浮き出る。
手紙のようなマークの斜め上に、【1】と書かれたバッジが付いてた。ミオさんがそれを指で触れると、何かが展開される。
「あれ、そっちにはこういうの無いの?」
ボクの不思議そうな顔を見てか、ミオさんが首をかしげた。
すぐに綺羅が苦そうな顔をうつむけて、首を横に振る。
「まず銃から無いですし…。」
ミオさんが「なるほど」とつぶやいて、展開されたなにかを見つめる。
それを読み込んだ彼女は、ボクらに振り向いてこう答えた。
「………えっと、皇居は4つの支部と座標が一致してるから、そこの何処かから送られてると思われる…って。」
「じゃあ…どこから行きます?」
綺羅がたずねる。すぐにミオさんが街を向いて左側、北を指差す。
「北の洋館、アイシクルシュラインってとこへ行けって。そこに協力してくれる皇家の人間がいる…らしい。」
ボクはこくりとうなずいて、綺羅の手を引いた。
ミオさんが少し困ったような顔を見せた気がしたけど、すぐに微笑んで右手を挙げる。
「よし、北に行くよ! 寒いから上着持って行ってね!!」
「「いえっさー!」」
そうしてボクらは、北の門を目指して歩き出した。
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「うわー…寒いな…」
リュウくんが呟く。歩き出してしばらくすると、街の情景ががらりと変わってしまう。気温も格段に下がっていた。
体感で多分、10度あるかないかくらいだ。
雪の積もった木製の家屋が、雪に覆われた道路を囲うように連なっている。
「だねー…。場所によってここまで気温が変わるのは監獄だけだし…。」
ミオさんの言葉に、ボクらもうなずく。
リュウくんは騎士正装を3つ、その上にジャケット2つと、パーカーとコートをつけて上に同じジャケット。
「うへぇ…こりゃ火も凍っちまいそうだ…。」
ミオさんはさらに酷くて、さっきまでのシャツの上にTシャツ5枚、ジャケット3枚に、パーカー2枚、3重のトレンチコート。
「私のとこは暖かかったし…。」
ミオさんも呟く。すぐにボクらの方へ向き直ると、「そんな格好で寒く無いの?」と首をかしげる。
ボクは肩と鎖骨の空いたシャツに、黒いコートを羽織っただけだ。
スカートは思ったより短くって、膝より上に来てるはずのストッキングから太ももがはみ出てる。
綺羅も同じ感じで、黒いシャツと黒い半ズボン、シャツは半袖で黒いコートをかぶせただけ。黒い長髪も相まって、夜になったら見失っちゃいそうだ。なんでそんな格好でいられるかは、単純な話。
「莉里がいるからあったかいもんっ」「綺羅がいるからあったかいもんっ」
ってこと。ミオさんが「羨ましいなぁ…」とささやき、リュウくんが声も出さずに肩を震わせる。
そうしてしばらく歩いていると、門を通り抜けた。途端に気温が駄々下がりして、ほとんどゼロに近づいて行く。
「ひゃっ…っ」
ミオさんが身体をうずめる。すぐに綺羅が、「いっ…」と右目…眼帯を抑える。
リュウくんとボクは何もなかったけど、何かおかしいっていうのを感じた。
「初っ端から2人もうずくたぁ、ラッキーなんてもんじゃねぇなぁ! こりゃあ!」
「?!」
それはリュウくんも同じで、彼も巨大な斧に手をかける。声は前方の上から聞こえていて、渋いけれど低く無いおじさんの声だ。
巨大な影が爆音とともに振ってく来て、圧倒的な存在感でボクらを叩きつける。
「おい、オッサン! アンタ何しに来てんだこら!」
リュウくんが叫ぶ。すると、その影はグググ…と重そうな音を立ててボクらを向いた。
影は巨大な人型の機械、こないだの顔のついたドールと同じ種類だ。
「あー? 決まってんだろがガキぃ! お前らを神殿に行かせねぇためだ!!」
こないだの死神風なフードとマントのドールとは違って、今回のは全身に赤いコードを巻いた人間の男性って感じの姿だ。
筋肉っぽいモチーフの装甲がいくらか、そして間をコードが束ねる。左肩に何やら武器が挟まっているけれど、それよりその顔だ。
微笑んでいるような仮面。つぶらな瞳に、大きく開いた口。
それを被った筋肉質な男性…、身長は3メートルくらいか。簡単にまとめればそんな姿だ。
「なっ…ドールが喋った?!」
ボクがそれを口に出すと、ドールがその右手を振り上げる。持っている武器は大きな鉈みたいだ。
けれど、左肩のそれはまだわからない。肩を貫く一本の鉄棒の、前後に突き出た両端。
そこから上へ伸びる、湾曲した棒が肩を挟んでいる。二本の弓の間には、薄暗い青色の魔力が波動を発している。
「んなこたぁど〜でも良いわけよ。教えてやってもいいが…、お前らはもうすぐ死ぬぜぇ? ……全員な!!」
そう言ったドールの言葉には、とてつもない自信を感じた。その赤黒いコードも、それを裏付けるみたいに禍々しく輝いている。
「そうだなオッサン! てめぇをここでぶっ倒して、俺らが自分の目で知ってやるからなぁ!!」
「ガキぃ! 大口叩いてんじゃねぇぞ! オッサン呼ばわりしやがって、おらぁまだ50半ばも行ってねぇわい!!」
50半ば…って、ボクらと同じくらいの寿命と仮定すると…。
いや、合ってる…よね。むしろ思ったより上じゃんか…。
「なんだそりゃあ! 思った以上にオッサンじゃねぇか!!」
リュウくんが叫ぶ。あいつは結構そういうのを気にしないタイプだけど、こういう時はなかなかに頼もしいというか、減らず口というか…。
なんて考えてるうちに、綺羅とミオさんが唸り声をさらに大きくした。それを嘲笑うようにして、ドールが指を踊らせる。
「おいおいガキどもぉ! いつまでも喋くってっと、小娘どもがどーなるかわかんねぇぜ?!」
ドールが笑いながら叫んだ。同時に右足を軽く振り上げて、リュウくんへ踏みつける。
その反動で右手の鉈を振り上げると、脱出したリュウくんへ鉈を振り払った。
「わかってんのかぁ?! 自分の状況ってもんをなぁ!!」
左へ振り払い、少し斜めに右へ。もう一度同じ動きをすると、大きく振り絞って叩きつける。
片手剣用6連撃「デッド・チャックルズ」だ。
「やけに余裕なんだね! お前、鉄の武器が効かないタイプでしょ!」
ボクはドールの後隙を狙って、剣を振りかざした。ドールはボクへ目線を向けて、刃をみきろうと凝視する。
デッド系の長い後隙を過ごしている間も、ほんの少し視点を動かせることをあいつはわかってるみたいだ。
ボクも振り上げた剣は肩にかつぎ、そのまま駆け出す。数歩の助走で飛び上がると、空中でドールのワイヤを狙う。
「ったりめぇだろぉが! んなナマクラでもなぁ、何度も食らうといてぇんだよっ!!」
「なら、こんな業物を何度も食らったらどうなるかなぁ?」
間一髪コードは外したけれど、剣は剛鉄を切り裂いた。
ドールが焦る仕草を見せたけれど、すぐに「あぁ?!」と悪態をつく。
「それに、お前は殴るのも十分効く。」
すかさず左足を振り上げて、その反動でちょっどだけジャンプ。
そのままドールへ右足を叩きつけ、左を振り払う。少し落ちそうになるのを、右足のかかと落としでカバーする。
「ふっ…!」
空中でドールから離れてしまった一瞬は、空を剣で叩いてスラスト。
ドールへの最後の一撃を当てて、ボクは右手の剣を無造作に突き出した。
「はぁっ…とぉっ!!」
空中足技「ラビット・テリトリー」5連撃はあったと思う。
剣を突き出してすぐ、左へ振り払う。反転させて右へ振り払ったすぐさま、もう一度…今度は渾身の力をつけて左へ叩く。
「デッド・スピリット」4連撃
「ちぃっ…! 小娘が!!」
ーー娘じゃ無いもん!
という言葉より先に、リュウくんが立ち上がっていた。
そこから飛んできた闇属性の刃が、ドールの仮面を叩きつける。
「こっち見ろオラァ!!」
リュウくんが投げたのは、右手に握る斧の残像だ。それに闇属性で形を与え、左手から全力で投げ飛ばすって技。
巨大な両手斧ほど圧力はないけど、思ったより精密に当ててくるからびっくりする。
「チッ…ガキぃ! いつまでおちょくってんだぁ?!」
闇属性遠距離斧撃「ハント・レス」最高二連撃。今回は一回。
ドールの悪態にもだんだん怒りが見えてきて、勝機はある…と思ってしまうボクだった。
だからこそ、綺羅がさらに鳴いていたことに気づかなかった。
「綺羅?! …ゔぁっ!!」」
ドールが鉈を振り払い、ボクを払い落とした。
とてつもない痛みがボクを襲うのに加えて、地面に叩きつけられた痛みもとてつもない。綺羅と全く同じ叫びを上げると、ドールが「これだから小娘はよぉ!!」と叫ぶ。
「「うぅぁっ……ぁあああっ…!! ぁあぁぅぅぅーーーっ!!」」
みっともないどころじゃない声が、ドールの言葉に合わせられる。
リュウくんを向いたドールは、まだいらだったような顔を見せていた。仮面を被ってるから表情なんかわかんないけど。
「おら、ガキぃ! てめぇが吹っ飛んで終わりだろうが!!」
リュウくんの不敵な笑みが、ドールの磨かれた鎧に映し出される。
「んだその顔はぁ!!」
「オッサン!! 一個忘れてやしねぇか!
俺らがなんでここに来たか、アンタが一番わかってることだろうが!!」
リュウくんの言葉の意味が、ほんの一瞬わからなかった。
けれど、それはすぐに理解できた。リュウくんの言葉に続いて、聞き覚えのない声がドールを襲ったからだ。
「[[rb:氷山の処罰 > ブルー・パニッシュメント]]…!!」
すぐにドールのすぐ真上から、氷の巨大な槍が振ってくる。
ドールも流石に予想していなかったみたいで、それを頭から直に受け止めた。首から足元まで真っ直ぐに突き刺さった氷の槍が、使命を終えて割れる。同時に、ドールもその姿を青緑の破片に変える。
「えっと…君たち、大丈夫? さっき皇主様から連絡があって、ここに出迎えにきたんだけど…、まさかあんなのがいるなんてねぇ?」
すぐにその人も、姿を見せた。
フワフワしたボブカット、そしてぱっつんの前髪。肌も髪の毛も服装…セーラーだな。それも真っ白で、この雪の中じゃあ見失っちゃいそうだ。
「あっ…助かりました! ボクらじゃあどうもならなかったと思います…、ホントにありがとうございます!」
ボクがそう頭を下げると、その女の人も頭を下げる。
よく見ると髪の毛から2つ、丸っこい耳がはみ出ている。瞳は柔らかいつり目で、どこかうちの縫いぐるみのフレディーーーお姉様のお下がりで、ホントは呪術に使うはずのクマのぬいぐるみーーーを彷彿とさせる。あれはぎゅーってするとあったかくて気持ちいい。
「良いってこと。私はポリアフ、苗字はエッフェルっていうの。あなたたちは聞いてるから、名乗る必要はないわ。」
ボクらがこくこくと頷くのを見て、ポリアフさんは話を続けた。フレディに似てるのは多分、そのまん丸い耳だ。
フレディの方は…なんかお姉様が言うには、夜に決められた儀式をすると動くんだって。フレディの笑みを見たものは、それ以降見ることはない…。
どんな景色をも。……っていう話だったはず。
たまにあいつから殺気を感じるけど、剣を握るといきなり消えるんだから気のせいか、騎士として剣がそばにないと不安なだけなのか…。
「それより、貴女たち…、この子達とお仲間さんじゃない? 入ってきた時刻が一緒だけど…。」
「?」
綺羅が首をかしげた。すぐにポリアフさんが、ミオさんも使っていた空中に文字を映し出す機械を起動。
映像を映し出すと、それをボクらに見せる。
「ほら、この人。君たちと入ってきた時刻が同じだし、誰か…、私の予想では君たちだけど、人を探してるみたい。」
彼女が見せたのは、映像だった。黒いロングコートと金色の髪、それと三角形のピヨピヨと揺れる耳とふさふさの尻尾。狐の女王だ。
その隣に、黒いセーラーとカタナを持った茶髪の剣士。シオンかな? 耳は尖っているから妖精で、髪の毛とかの特徴があんまりないから風妖精族かも。
「イトカクさんと詩音だよね?」
綺羅がそう言って、ボクに目を向ける。すぐにボクもこくりと頷いて、彼女がページをめくるような動作を見せる。
続いて出てきたのは、またも黒いロングコート。黒い翼と銀色の髪、きっと鷹の女王だ。
その後ろからついてきている、金髪のレイピア使い。軽装の鎧と背中まで伸びたロングヘアは、エリスタのものに違いない。
「メグさんとエリだね…。それで、この4人はどこに?」
ボクがたずねると、ポリアフさんが映像を自分の方に向ける。少し考えてから、「多分」と続いて口を開く。
「君たちがきたのは東、渓谷が連なるブレイド・ビルってとこだよ。君たちがいたのはその中でも谷が浅いから、地形がそんなに気にならなかったのかも。」
彼女が言ってすぐに、映像を見てうなずく。さらにボクらを見直すと、彼女は映像をしまって言葉を加えた。
「この子たちがいるとこなんだけど、狐の子とセーラーが北のすぐ近く、多分街に入っちゃったと思うけど…、この辺。それで、鷹の子と金髪の子が…。」
…という彼女の言葉を、甲高く幼びた声が叩き切った。
どーいうかな、ボクとはいくらもレベルが違うような気がするのに、幼びた声音が親しみやすさを漂わせる感じ。
「あっ! イトアヤ!! 探してたんだよ?!」
その声が響いてすぐ、綺羅が振り向く。それより先に、ボクは喉を鳴らしていた。声をかけてから、少し遅れて振り向く。
「イトカクさん?!」
続いて、綺羅が駆け出す。隣にいた黒い刀剣士へ走り出すと、懐中電灯を握る。
ミオさんに受け取ったクレーアグラフェンだ。それを構えてすぐ、風妖精の剣士の名を呼ぶ。
「詩音!」
「………綺羅。」
彼女…シオンの方も綺羅に声を返して、腰に吊るしたカタナを握る。そのすぐ後には、カキィン…という重たい音が響いていた。
土煙が震えてすぐに、もう一度その音が響く。霧の奥で見えたのは、シオンのカタナを足場に飛び上がった綺羅の姿だった。空中でさらに光剣を振り上げると、渾身の力で叩きつける。
「ぅ………らぁっ!!」
立体起動三連撃「尖爪裂傷」無属性
三回の剣戟でシオンの体勢が崩れたけれど、すぐに反撃が返って来たのがすごいなって思った。
一瞬の動きで予備動作を行うと、水属性のなぎ払いで返す。
「ヂィッ…はっ!」
下段気味だった刃は綺羅に避けられたけれど、すぐさまその勢いで一回転。勢いをそのままに、縦の叩きつけを空中の綺羅に突きつける。
突進二連撃「堤崩落」水属性
それはたしかに綺羅の姿を当てたんだけれど、シオンは「しまった」と叫んで無理やりに後隙を受け止めた。
「へっ? でもシオン、綺羅の姿を…。」
ボクがそう唇を震わせるより先に、綺羅がシオンのすぐ後ろから剣を振り上げる。
「残像だよぉーっ!」
ほんの少し背中に振り上げて溜めると、その剣を大きく振りかぶって振り払った。
金色の衝撃波が走ると同時に、綺羅の身体からビリビリと唸るオーラが消える。
片刄剣用上位斬撃「居合斬」聖属性
シオンの頬を斬撃が切ると同時に、綺羅は得意げに「私の勝ち!」と叫んだ。
普段オレ…っていうかさっきまで一人称「オレ」だったのに、こうしてすぐに切り替えれるのすごいな。
「綺羅、なんで空中で動けるの?」
シオンが尋ねると、綺羅を囲うオーラが再度強く輝く。
綺羅はそれを使って空中で踊って見せると、嬉しそうに微笑んで答えた。
「こうやって電磁波で身体を浮かしたら、電磁波である程度ぴょんぴょんできるでしょ?」
「なるほど…。」
シオンが少し悔しそうに剣をしまう。そうして立会いを終えた二人が、狐の女王に頭を下げた。もちろんボクも。
イトカクさんとシオンは、簡単にポリアフさんに自己紹介する。
ポリアフさんは白熊だと思うけど、種族の話はここでは出なかった。彼女が頷くのを待って、すぐに北へ歩き出す。
「まず、みんな北の方の人間じゃないと思うんだ。だから体感は寒いけど、神殿はあったかいから我慢してね。
神殿…正式名称はアイシクルシュラインって言って、直訳すると氷柱の神殿って意味になるから、神殿って略すの。」
こくこくと全員でうなずいて、彼女のあとについていく。やっぱり北の人間だけあって、シャツとコート一枚でも全然寒くなさそう。
そんなことを考えていると、綺羅がボクの腕を引っ張った。バランスを崩してすぐ、綺羅に抱きかかえられる。
「莉里、なんか静かだね。緊張してる?」
ふとももと肩を抱えるような、お姫様抱っこってやつ。綺羅の問いに照れながら答えると、いきなり動悸が速くなった。
「うん…ちょっとだけ。」
「そっかぁ。そんなに固まることないよー?」
とかって、ボクの頬にキスしてきたからだ。「ちょっと…!」とすねて見せると、「そうそう、そんな感じでいいの。」って返ってくる。
「うぅーっ。綺羅、いきなりは酷いよおっ」
と言いながら、綺羅の手を握る。
口元に近付けてから、まずはさっきのお返し。
「アハハーっ。でもさ、莉里もうれし…いっだっ?!」
彼が喋っている途中で、ボクはその薬指に噛み付いた。
綺羅の指の側面に歯型がついて、綺羅は叫びながらボクを取り落とす。
受身を取って着地したあと、今度はボクが綺羅を抱き上げた。痛そうに震わしている薬指は、ちょっとだけど血が出てる。
「綺羅、痛かった?」
そうたずねると、綺羅が一瞬黙り込んだ。
すぐにボクの目を見つめると、「痛かったよっ」とすねるような、苦笑いするような顔でつぶやく。
「そっか、ごめんね。でもこういう方法は痛みを伴うけど、その分思い出に残りやすいでしょ?」
頭をかきながら謝る。綺羅はそれには返事せずに、ボクの目を見つめた。
ボクも意思を汲み取ろうと彼の瞳を見つめていると、だんだん変な気持ちになってくる。
「莉里、えっと…もう夕方だしさ、どっか泊まってかない?」
莉「ねぇ立ち向かってないじゃん!」
綺「違う! 明日はちゃんと戦うから!!」
莉「明日っていつの明日だよ!」
綺「あ……明日は明日さ……。」