PERSONA3 Side story Out of the world 作:karna
こんな時期にやるなんて絶対どうかしている。
というか寒すぎる。色んな意味で。
真冬に夜の旧校舎で肝試しなんて全くもって意味がわからない。
普通「肝試し」とは暑くてたまらない夏に少しでも涼しくなるようにとの意味を込めてやるものではないだろうか。
それをこんな2月の卒業シーズン真っ只中で、例年稀に見る寒波と称されているこの日にわざわざ夜の旧校舎でやると言ったあいつを俺は絶対に許さない。
「ある程度着込んでいけ」とは言われたものの、この寒さでは焼け石に水程度にしかならないだろう。
少し空気を吸い込んだだけで肺の中に刺すような冷気が襲ってくる。寒いと言うより痛くなってきた。
寒いと思ったらもっと寒くなる。何か別のことを考えよう。そう思って俺は眼前にそびえ立つ旧校舎を眺める。月の光に照らされているせいかどこか不気味な、それでいて神秘的な感じがした。
私立月光館学園。
設立して25年程のこの学園は小・中・高一貫の学校で、頭の良い奴か、運動の特待生、もしくは金持ちしか入れないかなり特殊な学校だ。
俺は家が金持ちというわけではなかった(というよりかなりの貧乏だ)から、ひたすら勉強を重ねて中学受験の際にここへ入学した。
それに、高校で特に優秀な成績を上げれば卒業後、有名な大学への推薦やそれまで払った授業料や入学金が全て返ってくるのだ。
今まで女手一つで育ててくれた母親にせめてもの恩返しが出来る。そう思ってこの学園に入った。
母親はそんな俺を誇らしく、でも少し悲しげに思っているようだった。
「やりたい事があれば遠慮なく言いなさい」と言われたけれど、俺を含め兄妹合わせて5人の家族ではやりたい事も限られてくるのは当然だ。
俺は長男なわけだし、あと2年も経てば法律上働ける年齢にもなる。
俺がバイトで稼げるようになれば今の生活も少しは楽になるかもしれない。
母さんが喜んでくれれば俺はそれでいい。
が、しかし。
どうしてこんな場所に来てしまったのか。
ここは学校の生徒が勝手に来ていい場所ではないし、職員ですらめったに入らないというのに。
こんなことなら大人しく家に帰って勉強しておくべきだった。
不意に後ろ側でガサガサと音がした。
急に寒気が何倍にもなって襲ってきた。
俺は一瞬驚き、後ろを振り返る。
後ろには今は咲くことのない桜の木と、葉っぱしか見えない花壇が並んでいる。その横には誰かが捨てたであろうビニール袋が捨てられている。
犯人はこれか…。
怖くはない。決して怖いという感情はない。…多分。
俺が今いるこの場所は私立月光館学園の中等部よりだいぶ離れた位置にある。
昔はこの場所が学園の中心部だったと言われているらしいが、現在は旧校舎扱いになっていて近いうちに取り壊しも予定されている。
使われていない校舎とはいえ、やはり不気味なものを感じる。
生まれて14年間、夜の校舎というものは見たことがなかった。というより、見る機会がそもそもない。こんなことでもない限りは。
しかし俺は今、夜の旧校舎に忍び込んだことを後悔している。
どうしてこうなってしまったのか。
きっかけはクラスの誰かが持ってきたある「ウワサ」だ。
『夜の旧校舎にはそこで死んだ生徒が化けて出る』
今思えば馬鹿馬鹿しい話だ。だがその馬鹿げた話に食い付いた奴がいた。
澤田 俊明。
俺と同じクラスで、最高に頭が悪い。確か何処かの金持ちの息子らしいが詳しくは聞いていない。
ただ、クラスのムードメーカーで運動神経だけはずば抜けて良い。
確かフェンシングをやっていて期待のエースとまで言われている。
そんな澤田は俺のことを友達だと思っている節があるが俺は特になんとも思っていない。というかいつもトラブルを持ち込んでくるので逆に鬱陶しいくらいだ。
周りの人間を放ってはおけないタイプらしく、困っている奴がいれば無条件ですぐに手を差し伸べるお人好しでもある。
この学校はエレベーター式なので小学生から通っている奴が多い。
その中で中学から入った俺は当時かなり浮いていた。(今も浮いていないかと言われれば嘘になるかもしれないが。)
そんな俺にも分け隔てなく声をかけた物好きが澤田である。
その時は良い奴だな、とだけ思っていたが蓋を開けてみれば空回り連発のトラブルメーカーだった。
消しゴムを忘れたと言えば次の日に大量の消しゴムを持って来るし、ケンカがあったと聞くと大声で「両方とも僕を殴れ!!」と当人たちに詰め寄ってくる。
ぶっちゃけて言えばバカなのだ。
今回の噂を聞いた時も「僕が直接確かめに行こう」と言って聞かなかった。
「当然、君も来るだろう?」と友達だからという訳のわからない理由で俺も連れ出された、という経緯なのだが最早ため息しか出なかった。
それにしても遅い。
待ち合わせは23時のはずなのに既に30分以上過ぎている。
澤田は待ち合わせには遅れない奴だが、何かあったのだろうか。
奴の家は執事がついているくらい金持ちで厳格そうな家だし門限も厳しいのかもしれない。
1時間待って来なければ今日はもう帰ろう。
そう思って誕生日に母に買ってもらった腕時計を見る。
あと5分で24時になる。
はぁ、とため息を付き空を眺める。
真っ白な吐息は軽い風にのって上へと流れていく。
空は雲一つない快晴だ。月が綺麗に輝いている。どうやら今日は満月みたいだ。綺麗な円を描いている。ただ……。
「月って、こんなにデカかったっけ……」