PERSONA3 Side story Out of the world   作:karna

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Abrupt intrusion

空なんて見上げる機会が無いのでこのとてつもなく大きい月が特別なのか、それとも普段通りのものなのか、僕には判断がつかなかった。

 

それでも僕、澤田俊明にとっては今のこの状況は夢ではないかと思うくらい信じられないものだと理解できる。

 

 

なんだ。なんなんだあれは。

 

僕の親友、河内尊と23時に旧校舎へ「噂の真相」を確かめるために僕は月光館学園へ向かっていたはずだ。

僕の家は代々受け継がれる大手薬品会社を経営している。ここ巌戸台にもいくつか僕の父がまとめているお店や企業があるはずだ。

この地域に引っ越したのもこの巌戸台で新しく事業を起こすためとか言って僕が小学生の時に父が家を買った為だ。

僕にとっては大好きなフェンシングの強豪校である月光館学園に行けるのが嬉しかったから不満は何もなかった。

特に自分の家が裕福だからと自慢しているわけでもないし、悪いことを考えていたわけでもない。

友達だってそれなりにいるし、僕には親友と呼べる相手もいる。

 

それなのに。

 

それなのに何故。

 

それなのに何故僕は良く分からないヘドロのような黒い塊に追いかけられているんだ。

 

なんなんだあれは!?

 

もう一度言う。なんなんだ!?!?

 

僕の家から月光館学園までは、歩いて10分程で着く。走れば5分くらいだろう。僕は時間通りに行動しないと気がすまないのでいつも15分前には家を出ている。

なのにスマートフォンの画面は23時半を指している。

 

くそ。

30分も遅れている。

家を出た途端見つけたあの黒い塊。

最初は何かの影としか思っていなかったが、洪水の時マンホールから湧き出る汚水のようにそいつは溢れ出てきた。

確認しようと近付いた途端に「それ」は僕めがけて飛んできた。

僕は一目散に月光館学園の方向に向けて走った。

走り続けて30分、どこを走っているのかすら見当がつかなくなってしまった。

どうすればいい?

あの追いかけてくる黒い塊は一体なんなんだ?

フルーレ等の物理攻撃は通用するのか?

アレは走って疲れ果てることなどあるのか?

見たところ人間ではなさそうだ。

なら動物かなにかか?

あんな奇怪な動物はこの14年間見たことがない。

じゃあなんなんだ。

 

全く答えが出ない。その間にも僕は必死にあの黒い塊から逃げている。手が悴んできた。呼吸もかなり荒くなってきている。走ろうと思えばまだまだ走れるが体力は無限じゃない。いずれ走れなくなって捕まるだろう。

その前にアレはなんなのか見極めなければ…。

僕は時折首を後ろに向け黒い塊を観察しようとした。

見れば見るほど良く分からない。それにあれは走っているのか…?

どちらかというとスライムがズルズルと這っているような動きだ。とても人間や野生の動物とは思えない。

 

そこで僕はある答えに辿り着いた。

 

もしかすると…アレが例の『噂の真相』なのかもしれない。

僕は今日クラスの誰かが話していたある「噂」を思い返した。

 

 

夜中になると旧校舎で死んだ元生徒の霊が化けて出る。

もしかすると旧校舎だけでは無いのかもしれない。

だとしたら何故今さっきの場所で出てきたのか。

 

分からないことだらけだ。

今のところ考えても埒が明かない。

とりあえず尊と合流しなければ。

 

そう思い走りながらスマートフォンのマップを開く。幸か不幸か、月光感学園の旧校舎まではあと5分ほどで着く。このままのペースで走れば3分ほどか。僕はスマートフォンを操作しながらマップの道案内通りに進んだ。その時ー。

 

「しまっ…」

 

た、と声が出るか出ないかのところで手がもつれスマートフォンを落としてしまった。つい足が止まってしまう。

まずい。先月買い替えたばかりなのに。いやそんなことを考えている場合ではない。スマートフォンは諦めるしか…。

ふと目を頭上に向ける。

そこには先程の黒い塊が。

もうここまで来たのか。スマートフォンを落とした後躊躇わずに走り続けなかったのがミスだった。

捕まったらどうなるのだろう。死ぬのか。まだやりたいことがあったのに。

あ、そういえば昨日尊に教科書を貸したまま返してもらってないな。返してもらわなければ。

こんなときにこんなどうでもいい事を思い出すなんて。

これが俗に言う走馬灯というものか。

 

黒い塊は僕の頭上へ飛んだあと、細長い腕のようなものを生やした。先端は黒光りしていてとても鋭そうだ。これで引っかかれたら普通の人間はひとたまりもないだろう。

 

これは、死ぬー。

 

僕は目を瞑った。

人は死ぬとき目を瞑ると言うけれどこれは本当のことだったんだな、とどうでもいい事をまた一つ思いながら。

 

 

その時、遠くから人の叫び声がした。

 

 

 

「ペルソナ!!!」

 

 

 

その瞬間、暗かった道路が瞬く間に昼間のような明るさになった。

目を瞑っていても分かるくらいなのだから、目を開けていれば更に眩しく感じただろう。

僕はゆっくりと目を開けた。

何が起きたのだろうか。

そこには、更に信じられないような事が起こっていた。 

 

「あれは…なんだ…?」

 

さっきの黒い塊が赤いロボットのような物に雁字搦めにされている。

あれは昔子供の頃にアニメで見たロボットによく似ている気がする。

なんだっけ。

フェザーマン?だったか…?

あれに砂時計を横にしたような金属のようなものが身体にくっついている。

 

赤いロボットは黒い塊を2つの腕で抱くように握りしめたあと勢いよく光った。

僕はその光が眩しすぎて数秒目が眩んでしまった。

 

さっきの光はあのロボットが出したのか…。

再び僕が目を開くとそこには赤いロボットの姿はなかった。さっきの黒い塊さえも見当たらなかった。

その代わり、一人の少年が立っていた。

 

この子は確か…同じクラスの…。

 

 

 


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