PERSONA3 Side story Out of the world 作:karna
久々に、昔の夢を見た。
高校生だった頃、仲間と共にシャドウと戦い、日々を過ごしていた時の夢を。
かけがえのない時と知らずに過ごしていた、あの日の夢を。
当時の私は考えもしなかったが今思えばそれはある意味で幸せな日常と言えたのかもしれない。父が亡くなって数年経った今、あの夢がとても懐かしく、輝いていたと。
それは傍から見れば不謹慎な感情かもしれない。私自身もそう思う。だがそういう気持ちがあってもいいのではないかと最近は考えられるようになった。こんなにも心境が変わったのはやはり彼のおかげなのだろう。何も無いようで全てを持っていた、彼の。
そんな夢を見た後はいつも決まって複雑な感情になる。
私はあの頃に戻りたいのだろうか。いや、それは滅びに向かうあの日に戻るということだ。その先の人間の未来を失うことと同義だ。それだけは絶対にあってはならない。私達が、彼が、共に守ったこの世界の可能性を潰してはいけない。懐かしむことは罪ではないが、それに固執してはいけない。私は今を、未来に希望を抱いて生きるべきだ。せっかく彼が教えてくれたのだから、その想いは大事にしなければならない。
起き上がって携帯を見る。画面は午前12時半を過ぎていた。眠りについてからまだ2時間程しか経っていない。最近どうも眠りが浅くて困る。やらなければいけないことが山のように積もっていて、眠っていても頭が働いているからか。確かにこのところ頭が休まる時はあまりない。ただ、疲れているという実感はあまりなかった。
現在、私は桐条家を切り盛りする傍ら、桐条家の本家である南條家の頭首と共に警視庁と共同設立した対シャドウ特別機関【シャドウワーカー】の指揮を執っている。影時間が消えたとはいえ、全国各地では未だにシャドウによる実害は絶えず、それらを調査、対策し人間への被害を最小限に留めるのが【シャドウワーカー】の主な目的である。それに近頃、シャドウの活動が盛んになってきている。それも忌まわしいあの塔があった付近が最も多い。影時間とあの塔が消えても、シャドウ自体が消えることはない。この前の研究結果では自然発生しているという報告もある。ただこの近辺でのみシャドウが大量発生しているというのは、明らかに人為的としか思えない。自然発生したとしても数ヶ月に何度かのペースのはずだ。ほぼ確実に、何らかの意図があって作られたものだ。その目的も理由も、誰がやっているのかもわからないのが現状なのだが…。もし誰かが人為的にシャドウを蔓延らせているのだとしたら、それはまさか3年前のように滅びのためにあの【災厄】を呼び寄せようとしているのなら……
そこまで考えて、私は手に持っていた携帯が振動していることに気付く。天田からの着信だ。現在はシャドウワーカーのエクストラナンバーズ(非常時特別制圧部隊)の一員として活躍しつつ月光館学園に通っている。中学2年生になった彼は未だにあの巌戸台寮に住んでいる。今はもう特別課外活動部は解散し、月光館学園へ通う学生のための一般寮となっている。確か天田以外にも数人、月光館学園の学生が暮らしている。一般人が寮を使うことについて天田は特に興味はないですよ、と素っ気ない意見だったがどうやら今では普通の中学生と変わらず寮内の学生たちと仲良くしているようだ。友人が出来たことはとても喜ばしいことだ。本人は自覚していないようだが初等部の頃と比べ、天田自身もずいぶんと変わった。変わったというのはもちろん、良い方向に、という意味だ。出会った当初は良い意味でも悪い意味でも生き急いでいたという印象が強かったが、今では自分自身の生を生きることを覚え年相応に心も体もどんどん成長している。このままいったら身長は私より大きくなるかもしれない。それもそれで、とても喜ばしい。
上がっている口角を意識したまま、電話に出る。
「天田か。どうしたんだ、こんな時間に。」
電話越しの天田は少し慌てているような口調で言った。
「あ、美鶴さん。良かった。起きてたんですね。」
「ああ、今起きたところだ。」
「実は、今シャドウの気配を感じて外にいるんですが…」
シャドウ、と聞いて半ばぼんやりとしていた頭が一気に回転する。携帯を耳に当てながらベッドから飛び起きる。
「本当か?!場所はどこだ!」
「ポートアイランド駅の裏路地です。一応1体は倒したんですが、複数いる気配がして…とりあえず現場に襲われかけていたクラスメイトがいたので巌戸台寮へ連れて行っても大丈夫ですか?」
現場に一般人が…?
通常、シャドウは人間には見えない。影時間やペルソナへの特性がないと認知すら出来ない存在なのだ。シャドウが起こした事件や事故は全て、普通の人間は知る由も無い。もし襲われたとしても認知が出来ない以上、逃れる術も無い。あるとすればペルソナ使いだけ。シャドウの声だけは一般人にも聞こえるが、天田が駆けつける間、逃げ続けることが出来て助かったのだとしたら、それはもしかすればペルソナの特性があるかもしれない。
しかし天田のクラスメイトとなると中学生か…。
いや、その考察は後にしよう。今はそのクラスメイトを保護し、現場に急いで向かうことが先決だ。
「わかった。では天田はそのクラスメイトの子を連れて巌戸台寮へ向かってくれ。私は他のメンバーと現場へ向かい他にもシャドウがいないか調査をしてから巌戸台寮に行く。」
「わかりました。美鶴さん、気を付けて。」
ああ、君もな。と返事をして電話を切る。そして片手でパジャマ代わりのガウンを脱ぎながら電話を掛ける。
数回呼び出し音が鳴った後、控えめな女性の声が聞こえた。
「はい、もしもし。桐条先輩ですか?どうしたんです?」
「ああ、良かった。まだ起きていたんだな。今少し時間はあるか?」
「ええ、今は自宅にいますけど…。」
「すまないがシャドウワーカーの案件だ。ポートアイランド駅に出動は出来るか?」
「あ、は、はい。大丈夫です。では今から向かいます。」
電話越しの声は緊張してはいるようだが出動案件に対して不安はないようだ。純粋に人と話すことに緊張するタイプなのだ。私が相手だと尚更だろう。ただ、私は彼女に絶大な信頼を寄せている。それは流転する万物と同じくらいに、確かなことだ。
「よし、頼んだぞ。山岸。」