PERSONA3 Side story Out of the world   作:karna

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Happiness of not being aware of everyday

ぶっちゃけて言えば、僕は天田乾という同級生の事をあまりよく知らない。

 

同じクラスではあるものの今まで話す機会が全くなかったということも原因の1つかもしれないが、一番の理由は僕自身が天田に対して多少のコンプレックスみたいなものを持っているからかもしれない。

 

天田は勉強も出来るし、スポーツも一通り出来る。この前の体育の授業なんてクラスの皆から英雄扱いされているのを尊と2人でボーッとしながら眺めていた。

 

そしてこいつは何より女にモテる。顔はまあ、中の上?くらいだと個人的には思っているがその大人びた喋り方と成績優秀スポーツ万能という肩書きが相まって天田の周りには女子の取り巻きが絶えない。

だからと言って男子に嫌われるという事でもなく、要するに僕は天田に嫉妬をしているのだった。

 

友達の数だって僕よりもずっと居るだろうし、そもそも天田がなにか行動をする度にいちいち話題になるのが癪に障る。いや、別に天田本人のことが嫌いという訳ではなく、なんというか、純粋に僕より目立っているのが僕にとって嫌なだけなのかもしれない。

 

天田を見ていると、僕の上位語感(語感ってこういう字だったっけ)なような気がしてあまり直視することが出来ない。

 

天田自身にはなんの罪もないのだが、はっきり言って天田の事は知らないけど好きじゃない。これはおそらく圧倒的に僕の問題なのだが、好きになれないものは好きになれないのだ。それは食べ物に好き嫌いがあるように、そう簡単に克服出来るものではないと思う。

 

さっきも何かよくわからないものから助けてくれたことに関しては感謝するしかないけれど、やっぱり天田の目を見ながら話をするのは難しい。そもそも僕は天田の事をあまり良く思っていないのだから、天田の「厳戸台寮に来てくれ」という誘いも80%の確率で断るところだが、さっきのよく分からない化け物みたいなやつがいつ襲ってくるかもわからないのでここは素直に彼に従うことにした。僕だってそれくらいの判断は出来る。……はずだ。

 

 

「ここが僕の住んでる厳戸台分寮なんだけど……」

 

ボーッとしながら天田の後ろを歩いている僕に、振り返った天田が言った。

完全に不意をつかれた形になってしまったので、思わず「ふぇ!?」という声が口から漏れた。

「あ、ご、ごめん」と慌てて天田が言う。何がごめん、なんだよ。理不尽かもしれないけれどその一言にも少しイラッとくる。いや完全に八つ当たりみたいなものだと言うのは僕にもわかるけれど。さっきも天田が壊してしまった訳でもないのにスマホを弁償するとか言われて、思わず笑ってしまったがこいつのそのお人好しな性格の良さも単純な僕にはムカついてしまうのかもしれない。

 

僕は天田が厳戸台分寮、と言ったその建物を仰ぎ見た。五階建ての建物だろうか、横の幅はそんなにないが縦に長かった。なんだかヨーロッパ辺りにありそうな洋風のレンガで作られているらしかった。作り自体はとても古そうだ。といっても僕には建物や建築関連の知識はないので完全に素人目線なのだが。

良く言えばアンティークで、悪く言えば古臭いその建物のドアを押し開けながら天田は「どうぞ」と僕を中へ誘導した。

 

中に入るととても暖かかった。真冬の空気に晒されていた僕の手は既に感覚が薄くなるくらいに悴んでいたけれど、その手にこの暖かさはだいぶ嬉しい。

 

ドアを開けた先はすぐロビーになっているようだ。左側にはよくお店であるような受付のカウンターみたいな棚がある。あれはどこかで見たような気がする。確か、去年家族で旅行に行った時に泊まった先のホテルのロビーがこんな感じだった。といってもこんなに洋風では無かったし、古くもなかったのだけれど。ここはそういったホテルを改装でもしたのか。12時を過ぎているというのに、ロビーの明かりは煌々と(こうこう、とはこの字で合っているのだろうか)点いていて大きなソファーの上に僕らと同い年くらいの男子が胡座をかいて座っていた。彼は僕らに気が付くとその姿勢のまま顔だけを僕らの方に向けた。うーむ。これまた天田よりも顔が整っている。それだけで僕のそいつに対する評価は50%減だった。でもどこかで見たことがある。月光館学園の制服を着ているのでおそらくうちの生徒だろうけれど……。

 

 

「おせぇじゃねえか天田ァ。何してたんだ?女かァ?」

 

彼は視線を僕に移すとチッと舌打ちをした。

失礼だ。とっても失礼だ。だが天田よりはその対応は人間臭くて好感が持てる。僕のそいつに対する評価は5%だけ上がった。

 

「んだよ、男かよ…。まさかそいつ、ペルソナ使いじゃねえだろうな。」

 

 

彼が舌打ちしたのは僕が男だからだったのか。じゃあもし僕が女だったならば彼の対応はどうなっていたのかかなり気になるところだが、それよりもっと気になる事を言った。

 

 

「ペルソナ使い……?」

 

思わず零れてしまった言葉を尻目に、天田は僕に対しての口調とは明らかに違う声色で言った。

 

「獅々谷さん。そういうのは御法度って美鶴さんに散々言われてたでしょ。また言いつけますよ?それと、この子はただの僕の同級生です。」

 

 

獅々谷、と言われたその男は「あー……」と天を仰いだ後に再び舌打ちをした。

 

「はいはい。わぁーってるよ。んでその同級生はなんて名前なんだよ?……あー、やっぱいい。男の名前はいらねえわ。頭のメモリがもったいねえ」

 

そう言いながら獅々谷は立ち上がり奥の階段を上がっていった。本当に失礼な奴だ。

 

 

「おい天田、なんなんだあの人は。失礼過ぎるぞ」

 

獅子谷が居なくなった後で僕は天田に言う。

天田はバツの悪そうな顔をした。

 

「えっと…あの人は獅々谷 海斗って名前で……僕らの1個上の先輩だ」

 

 

「なるほど、通りで見たことあると思った」

 

僕が納得のいく顔をしていると、天田は少ししかめた顔をして言葉を漏らした。

 

「いや…あの人は……その、特別だから」

 

 

「特別?」

 

 

特待生、という意味なのだろうか。月光館学園に中学生で特待の制度などあっただろうか。確かに月光館学園には入学する時は何かしらの制度はあったはずだがその仕組みを僕は詳しくは知らない。

 

天田は数瞬間目を瞑ったあと首を振って僕に言った。

 

「…なんでもない、とにかく部屋を案内するよ」

 

 


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