【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
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鬼舞辻無惨……とある世界では鬼の始祖と君臨し、人を喰う異形の悪鬼を作り出し1000年の間。人間と戦い続けたはずの男。
しかしこれはそんな鬼舞辻無惨が鬼となりながらも、人間……鬼殺隊と戦わなかった。そんなもしもの世界である。
まだ無惨が人間だった頃……身体が弱く、病気がちで閨から出ることも出来ず。部屋の中から出ることも出来ないそんな日々を繰り返していたある日……無惨の転機が訪れたのだ。
「……お前は何だ?鬼か?」
月の魔力に導かれるように、無惨は珍しく庭に出た。普段ならばそんな事は絶対にしない、それなのにその日は外に足を向けたのだ。そしてそこで無惨は運命的な出会いをした。奇妙な足音と共に現れた人ならざる化生に無惨はその目を丸くしていた。
「俺?カワサキ。あのさ、ここどこ?」
そして警戒心剥き出しの無惨に対してカワサキと名乗った化生は辺りを見回しながら、無惨にそう尋ねた。これが鬼舞辻無惨と言う男の、悪鬼となり、世界に嘆きと絶望を与え続ける運命を持った男の転機となることを無惨は勿論、カワサキも知るよしも無いのだった……。
「随分顔色が悪いな、ちょっと待ってろ。ほれ、これを食え」
「何だ?私を化け物にでもするつもりか?」
「腹へってそうだなあってよ、美味いぞ?」
縁側に座り果物を齧るカワサキ、そして無惨は迷いながらも、そのカワサキから差し出された甘い香りを放つ果物を手に取った。
「これで死んだらお前を呪ってやる」
「ははは、じゃあ元気になったら祝福してくれよ。あ、やっぱなし、ここどこか教えてくれ」
呪えるなら逆も出来るだろ?と笑うカワサキだったが、自分がどこにいるのかも判らない様子で場所を教えてくれと言う。その姿と言動に無惨は信じてもいないが常世の世界の住人かと思うことにした。
「良いだろう、お前が私を蝕む病魔を治すと言うのならば、お前がどこにいるのか教えてやろう。常世の住人よ」
「病気?お前病気なのか、そうかそうか……うーん。じゃあ治してやるから教えてくれよ、あ、治ってからで良いからな」
常世の世界の住人とはこうもおかしな生物なのかと思いながら、無惨は差し出された果物を小さく齧った。
「……!」
1口齧るだけで身体に活力が満ちた、その甘さは今まで味わったどんな物よりも素晴らしく、そして身体に満ちて行った。
「なんたる美味。常世の住人とはこれほどの物を食せるのか」
「まぁ、そうだな。んじゃあま、また来るわ」
無惨が果物を食べ終わるまで、カワサキはその場にいて無惨が果物を食べ終わると地面を蹴って月の中へと消えていった。
「……幻ではないか、面白い」
部屋に戻ろうとした無惨、そのおかしな出会いは夢のように思えた。だが縁側にまだ残る甘い香りとその手の中の果物の芯が確かにカワサキと言う化生と出会ったのだと判り無惨は小さく笑みを浮かべ部屋の中へ入っていくのだった……。
「遅い」
「いや、遅いって言われてもなぁ」
太陽が落ちるたびにカワサキは屋敷を訪れた。気配を殺し、屋敷の壁を飛び越えて隔離されている私の前に訪れてくれた。腫れ物に触るように接してくる女中とも、言葉を交わす事も無い親族とも違う、カワサキの気質は私にとって初めての事で、そして愉快な事でもあった。
「また汁か」
「いや、前に固形物食べたら戻しただろうが」
どういう秘術かカワサキは訪れる度に料理を持ってきた。貴族である鬼舞辻家でも見たことも無い美味を必ず1品持参する、私の前におかれた澄んだ汁に思わず鼻を鳴らした。
「あれは勿体無い事をした、黄色のあれは本当に美味かった」
「まさかあそこまで弱ってるとは思わなかったんだ」
甘く、そして僅かに辛い、味わった事も無いふわりとした黄色の物。あれは本当に美味かった、だが3切れ目で戻してしまったのはカワサキにも、そしてその料理にも悪いと思ってしまった。
「まぁ良い、今はこれで我慢してやる」
「ははは、早く元気になれ、そしたらもっと美味い物を作ってやる」
匙で澄んだ汁を口に運ぶ、似た様な物は屋敷でも出されるが旨みが違う。1口口に含むたびに全身に何かが駆け抜けていくそんな味だ、匙1杯の汁を飲み終え、大きく息を吐く。
「まこと美味よ、その身体で良くここまで繊細な味を作る」
「うっせえよ」
その人ならざる身体でよくもまあここまで繊細な料理を作ると賞賛した。夜の度に訪れる不思議な存在、それと会って話をするのが私の楽しみとなっていた。
「ほう、そんな世界があるのか、見て見たいものだ」
カワサキの話は面白かった、常人ならば何を馬鹿なと一蹴する話でもカワサキと言う人智を越えた存在がいるのだ。己の世界が何と狭いことかと思う。
「馬鹿馬鹿しいといえば馬鹿馬鹿しい続きだが、家に雇われている薬師の薬の効果が出ていると最近侍従が話している」
「普通はそう思うだろうなあ、俺の料理を食べてるなんて話してないんだろ?」
「当たり前だ。そんな話をすれば気狂いと思われるだろうが」
毎夜訪れる不思議な友、それが持ってきた料理で身体が治っているなんて誰も信じないだろう。
「まぁそうだな、こんな身体だしな。うっし、無惨。また会いに来る、早く元気になれよ」
「当たり前だ。早く健康になるから、もっと美味い物を私に出せ」
「それだけ食い意地が張ってれば大丈夫だ。死ぬ事はないさ、じゃあな」
いつもと同じ様に地面を蹴ってカワサキは夜の闇に消えていく、カワサキの姿が消えただけで一気に屋敷に静寂がやってくる。
「寂しいか……全く厄介な奴だ」
一瞬感じた寂しさに自嘲するように笑う、だがそれも悪くない。毎日カワサキが持ってくる料理のおかげで健康になっているが、それが薬師の成果と思っている馬鹿な家族に苛立ちを覚える。
「だが、それもあと少しの辛抱か」
床に伏せている時間は短くなり、少しではあるが外に出ることも出来るようになった。もう少し、もう少しで治る。
「連れて行けと言ったらなんというやら」
この家にはもう未練も何も無い、カワサキの知る外の世界を知りたいと思った。だから連れて行けと言ったらカワサキはどんな顔をするだろうなと思いながら私は布団に潜り込んだ。そして翌朝。
「無惨様、この薬を摂取すれば貴方は完全に治ります、「青い彼岸花」を用いた薬です」
どうせこの薬も何の意味も無い、私が健康になっているのはカワサキのお陰だと思い、どうせ無駄だと思った薬を飲んだ。それが私を変える事になるなんてこの時は想像もしないのだった。
「お前……無惨、それどうしたんだ?」
「判らない、薬師の薬を飲んでこの様だ」
異形と化した私を見て驚いた表情のカワサキ。本当ならば、私をこんな身体にした薬師も、そしてそんな薬師を褒め讃える家族も憎い。
殺してやりたいと思ったが、カワサキが人を殺したりするのは好きではないと言っていたのを思い出しギリギリで踏みとどまりカワサキが訪れる夜を待った。
「私はもう人ではない。ゆえに人の中では暮らせない、だから連れて行け」
「まぁ……そうなるわな。うっし、じゃあ行くか」
そして無惨はカワサキと共に人ならざる世界へとその一歩を歩き出した。
「ああ、そうだ。言い忘れていた、私は太陽の光を浴びると燃え、人間を食わねば生きてられぬ」
「太陽はしょうがないが、人はいただけないな。まぁ良いさ、俺の料理で人間を食おうなんて思わせないからよ」
「ふふふ、楽しみにしているよ」
しかし、正史では無惨は己を鬼に変えた医者を殺した。だが今回はそれをしなかった、それが無惨が鬼となり悪逆暴虐を繰り広げるよりも悲劇を齎す事をカワサキ達は知るよしも無いのだった……。
そしてそれから数百年後……異形の城の中には楽しそうな笑い声が満ちていた。
「カワサキ殿、朝は洋食が良い。滅多に食べられない洋食が良い」
「僕はパンケーキだ」
「あ、あたしもパンケーキ!お兄ちゃんは?」
「俺は朝から甘ったるいもんは嫌だなあ」
「全くだ」
「……朝は和食、味噌汁と漬物、そして焼き魚を希望する」
「俺はそんなに大勢に言われても理解できねえよ」
カワサキの前に集まるは異形の集団、身体に刺青のある半裸の男、虹色がかった瞳に白橡色の髪の男、幼い少年と着物姿の少女、そして背の高い気だるそうな男に、6つ目の着物姿の男とそれらに朝食の注文を受けているカワサキは頭をかく。
「全く、朝から何を騒いでいる。朝食は卵焼きと味噌汁、それと白米と漬物だ」
「りょーかいっと、と言う訳でリクエストは無しだ、だけどパンケーキはおやつに焼こう」
やったあっと喜ぶ子供組を見ながら椅子に腰掛けた無惨に視線を向ける。
「またあの毒医者の作った怪異が人を殺めている。嘆かわしい事だ」
「また逃げられたのか?」
「ふん、あの男は小心者だからな。まぁ良い、鬼滅とか言う人間の集団も使える。そのうちに接触してみるさ、人ならざる者であっても正義はなせる。それが私達だ」
「はっはッ!お前が其処まで言うか無惨」
「お前が飯を作らないというからだッ!人間などはどうでも良いが、あの怪異と一緒にされるのは私のプライドが許さない」
「はいはい、そういうことにしておきますか」
カワサキっ!と言う怒声に笑いながらカワサキが卵を割る、今日も無限城は平和です。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない