【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー17 おやき

メニュー17 おやき

 

基本的に無限城で料理をしているカワサキだが、肉体的には異形であってもその精神は人間だ。つまり、無限城に引き篭もっていると言うのはカワサキの性格的には非常に厳しい物がある。しかし、鬼である巌勝や月彦と名乗っている無惨と行動を共にしている所を目撃された事もあり、そう簡単に外出する事は出来ない。もっとも、カワサキの外出が厳しいのはカワサキ以外の食事を断固拒否する1000歳児がいるのが最大の理由だったりするが、それでも1ヶ月に数度は駄目だと言おうがカワサキは出かけていく、その先は市場であったり、美味しいと有名なレストランだったりと料理の道を追及する為の物だが、今日の外出は前者には当て嵌まらなかったようだ。

 

「よ、元気そうだな」

 

「これはカワサキさん。今日はすいません、無理なお願いをしてしまって」

 

「いや、良いよ。どうせ暇してるしなッ!」

 

山の中の樵の家……巌勝の血を引いている時透家にカワサキは訪れていた。

 

「カワサキさん、いらっしゃい!」

 

「おう、元気そうだな。ちょいと邪魔するぜ」

 

迎えに来た無一郎に声を掛け、カワサキは背負っていた袋を囲炉裏のそばに置いて座布団の上に腰を降ろした。

 

「すいません、急な頼みでしたよね?」

 

「なーに気にするな。どうせ暇……じゃあねえが、困っていると聞いて俺は黙ってなんていられないよ。焔」

 

時透焔の依頼で今日はカワサキは無限城ではなく、時透の家にいたのだ。

 

「それで何とかなりますか?」

 

「余裕余裕。俺に任せておけって、じゃあ無一郎と有一郎手を洗って、焔達は山菜を茹でてくれるか?」

 

カワサキの指示によって動き出す時透家。カワサキは背負っていた袋を広げて中身を取り出した。それは、無限城で栽培されている小麦から作った小麦粉だ。それと菜種油や、塩胡椒などを並べながらカワサキは調理の準備を始めるのだった……。

 

 

 

巌勝から聞いた時透家からのSOS。それは日照りによって生計を立てるのに必要不可欠な樹木が枯れた事による収入の減少――このままでは飢えてしまうという話を聞いて、巌勝は子孫と言うこともあり無限城にと言ったが、樵にとって樹木の数による収入の減少は切っても切れない関係、保護して欲しいのではなく、樵として薪を作ることが出来ない間の臨時の収入足りえる物……つまり保存食や、販売に適した食べ物の作り方を教えて欲しいとの事だった。保護ではなく、生き残る術を知りたいというのは頼りきりになるのが良くないという焔の意志の表れだと、巌勝は感心し、そして俺へと鉢が回ってきたのである。

 

(まぁ、年代的にはおかしくないよな?)

 

今回俺が教えるのは簡単な田舎料理「おやき」だ。俺の知る中で定番なのは蒸し焼き……1度蒸してから焼く物だが、囲炉裏があるのならば灰焼きおやきなんて物が乙だと思った。実際問題田舎料理として似た様な物はあるし、薪を売るのなら一緒に販売してもおかしくない……と俺なりに色々と考えてみた結果だ。

 

(それに似た物って言っても、俺のは一味違うさ)

 

発酵や、生地を寝かせる、薄力粉と強力粉を混ぜるや、お湯で捏ねる等……まだ大正時代では発達していない技術を使えば、問題ないだろう。ただ1つだけ注意することがあるとすれば……。

 

「ここから山を挟んで2つ先の竈門って言う炭職人にも同じのを教えてるから、売るところは気をつけて欲しい」

 

似たようなレシピなので同じ町で販売すれば安いほうが良いとかで揉めると思うので、そこだけ注意して欲しいと伝えてから俺はおやきのレシピを教え始めた。

 

「まずは薄力粉と強力粉を混ぜる」

 

「「同じ粉なのに混ぜるの?」」

 

無一郎と有一郎が不思議そうな顔をする後ろで、焔達も首を傾げている。

 

「まぁ同じ小麦粉って言うのは間違いないんだが、グルテンって言う物質の量が違うんだ。柔らかさとか弾力とかの差なんだけど……混ぜるといい感じになる」

 

「ふーん……そう言うもんなのか」

 

「……面白いね」

 

有一郎の反応は良いが、無一郎は良く判ってない感じだなと思いながら朱塗りのボウルの中に薄力粉と強力粉を入れる。

 

「量としては1対1。同じ分量を入れてくれれば良い」

 

「「はーい」」

 

2人が返事を返し、薄力粉と強力粉を混ぜている間に沸かして貰っておいたお湯を茶碗の中に入れておいた。スピードが大事な作業なので、可能な限りの準備はしておきたい。

 

「混ざったよ。次は?」

 

「おう、次はこの熱湯の中に砂糖・塩・菜種油を加えて溶かしたら、こうやって少しずつ注ぎながら菜ばしで混ぜる」

 

ゆっくりとお湯を入れて菜箸で混ぜ合わせる。全体と良く混ざり合い、生地が纏まる様子を見せる。

 

「こういう風に生地を纏める」

 

判ったと言って、お湯に悪戦苦闘しながら生地を纏めている有一郎達。しかし、中々有一郎の方はセンスがあるように思えるな……。

 

「纏まったら?」

 

「四半刻寝かせるんだ。じゃあ、その間に生地に入れる具材の準備を始めよう。と言ってもそう難しい物じゃない」

 

おやきの中に入れるのは煮物や山菜の甘辛く炊いたものが主流だ。厨においてある、切り干し大根なんかも包むと美味しいと言うと若干驚いた様子を見せる。

 

「それ本当に美味しいのか?」

 

「……兄さん。カワサキさんが言うんだから……美味しいよ。多分」

 

「いや、そんなに不安そうな顔をするなって、美味しいから」

 

ちょっぴり味を付け直せば良いんだからと言って厨で調理している、時透家の母「美代」に声を掛ける。

 

「味付けは少し甘めで、煮詰めてくれるか?」

 

「甘めと言うとお砂糖多目って感じですか?」

 

「あー醤油も足して甘辛い感じが良いかな」

 

山菜の甘辛く炊いた物としいたけ、切り干し大根とシンプルそのものだが、具材はシンプルな物が良いのでこれで丁度良いだろう。あんまり奇をてらった物だと受け入れられない可能性があるからな。

 

「うし、四半刻経ったな。次だ。次はまな板の上に打ち粉をして、こうやって生地を伸ばす」

 

打ち粉をした生地を丸めて、小さく千切ったら手の平で押し潰すようにして伸ばす。本当は麺棒とかあると良いんだけど、そこまできっちりした物じゃなくても良いだろう。売り物ではあるが、ある程度不恰好で子供の手作りって感じが受けるんじゃないかなと思うし……。

 

「うどんみたいだな」

 

「まぁやろうと思えばうどん生地だしな、と言うか大体似た様なもんだよこんなのは」

 

正直言うとおやきは俺の中では、菓子パンの一種みたいに思ってる部分がある。となるとやはり味付けはややジャンキーな方が受けが良いもんだ。

 

「生地は少し大きめにして、手の平に載せて、こうやって具材を乗せて包む」

 

「「……どうやったの?」」

 

「ん? あ、ああ。すまんすまん。ついいつもの感じでな。こうやってやるんだ。良く見てろよ」

 

手の平にまた生地を乗せて、中に具材の切り干し大根を乗せる。4隅を真ん中に寄せて、1回閉じたら、今度は4つの角を中央に寄せて中央を捻って止める。

 

「ほら完成」

 

「……兄さん、これ出来るの?」

 

「やる! 見せてもらったんだから出来る!!」

 

不安そうな無一郎にそう怒鳴って生地を手の平に乗せて具材を乗せようとする有一郎。

 

「ああ。それだと少し多いな、気持ちもう少し少なめだ」

 

「わ、判った」

 

少しだけ椎茸の煮物を乗せ生地を包む有一郎とその後ろでちまちまと生地を作っている無一郎。双子だけど、余りに正反対の様子に思わず苦笑する。

 

「これはあんまり日持ちしないけど、灰の中に入れて焼いたり、串に刺して焼いてもいい。焦げ目が付くまでしっかり焼けば大丈夫(時代的にOKって通じる?)だ、んじゃま、俺はそれなりに忙しいんでな。また来るよ」

 

「はい、ありがとうございました。また、今度はゆっくり出来る時に」

 

「おう、そのときは巌勝と釣りにでも来るよ」

 

この近くには大振りな岩魚が多いから、今度はゆっくりと釣りに来るよと言って、破けたとか、本当に出来るの? と不安そうにしている双子に背を向けて俺は時透家を後にするのだった。

 

 

 

 

薪を売るついでにカワサキさんに教わったおやきも持って父さんと村に来たが、予想通り……いや、予想以上の売れ行きだった。

 

「美味い! 皮がモチモチで良いな。焼いてない奴、全部2つずつくれ」

 

「まだー?」

 

「は、はーい! 今焼いてます!」

 

無一郎が一生懸命焼いているが、焼きあがったそばから売れていく。薪もいつも通り売れているが、おやきの売れ具合が凄すぎる。

 

(でも本当に美味かった)

 

皮はモチモチで中の甘辛い具材はどれも本当によく生地に馴染んでいた。余りに美味しくて、食べすぎてしまい母さんに怒られたのも良く判る。

 

(いや、でも凄すぎだろ……)

 

薪を普段売っているので常連さんと言うのはいる。だけど今回一緒に販売しているおやきの事で今まで薪を見もしなかった人がおやきと一緒に買ってくれる……それ自体は良い、山暮らしなので冬になると動きにくいのでその前に色々と買い込む為に金は必要だ。

 

「……これはちょっと大変かもしれないね」

 

ちょっとのほほんとしている所がある父さんが言うが、ちょっと所ではない。曲がり角の所まで人が並んでいる……これは明らかに3人だけで捌ける人数じゃない。それ所か、おやきが無くなってしまう可能性のほうが高い。

 

「ちょっと所じゃないから!?」

 

作ってきた分も足りないと俺が慌てていると、背後から声を掛けられた。

 

「焔、やっぱり焔だ」

 

そこにいたのは父さんと良く似た顔立ちの額に痣のある男性だった。和やかに話しかけてくるけど、父さんの知り合いだろうか?

 

「……炭十郎。いやあ、久しぶりだなあ」

 

「「「「父さん?」」」」

 

俺と無一郎だけではない、俺達の背後にいた兄妹もぼんやりとした様子で呟いた。それほどまでに、俺達の父さんと兄妹の父親は良く似ていたのだ。少しやつれた顔と矍鑠の髪と瞳……かがみ合わせと言っても良いほどに良く似ていた。

 

「父さん、誰?」

 

「ああ。炭治郎、禰豆子。私の古い友人で、時透焔と言うんだ。後ろの双子は……」

 

「ああ。私の子だ。有一郎と無一郎と言う」

 

「どうも」

 

「……こんにちわ」

 

俺の身体に隠れて頭を下げる無一郎を見て、額に火傷の痕のある俺よりも少し年上の少年が手を上げる。

 

「竈門炭治郎だ! よろしく! こっちは妹の禰豆子」

 

「……こんにちわ」

 

無一郎同様炭治郎の後ろに隠れている禰豆子と言う少女。無一郎はもっとしっかりしてくれないかと思ったが、人見知りは今に始まった事じゃないのでしょうがないと割り切ることにした。

 

「カワサキさんに色々と教わったんだろう?」

 

「勿論、私もおやきを作ってきた。私と一緒に売らないか?」

 

「助かる、私達の分はもうすぐ無くなりそうだったんだ」

 

この竈門と言う一家がカワサキさんが料理を教えたもう1つの一家だったらしく、大量の焼かれる前のおやきを3人で運んでいた。

 

「えっとじゃあ、無一郎君。一緒に焼こう、禰豆子も手伝ってくれ」

 

「うん、判ったよ。お兄ちゃん」

 

「よ、よろしく」

 

無一郎と炭治郎と禰豆子の3人で焼いてくれれば、もう少し余裕が出来るかもしれない。

 

「炭もあるの? じゃあ炭と薪、あと……焼いてないおやきを3つお願いできるかしら?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

ただ忙しくはあるが普段の薪や炭を売るだけよりもよっぽど金が入る。そのお陰で今年の冬は無事に切り抜けられそうだ。

 

「禰豆子と無一郎君が焼いてくれるって言うから手伝いに来たよ!」

 

「それは助かる、まさかここまで売れるなんて思ってなかったからね」

 

「本当だね。さ、炭治郎も手伝ってくれ」

 

俺と父さん、そして炭十郎さんで販売していたが手が回らなくなってきた所で炭治郎が手伝ってくれた事で何とか、おやきなどの販売が出来たのだが……無一郎と禰豆子を2人きりにしたのがおいおい、俺と炭治郎の首を締める事になる事を今の俺は知る由も無いのだった……。

 

 

 

無限城ひそひそ噂話

 

有一郎達が薪と炭、そしておやきを販売している後ろで焚き火でおやきを焼いている無一郎と禰豆子だが、その視線は串に刺さっているおやきよりも一生懸命接客している2人の兄に向けられていた。

 

「兄さん、今日も頑張ってる」

 

「お兄ちゃんが今日も頑張ってる」

 

「「格好良いなぁ……ん?」」

 

互いにうっとりとした表情で互いの兄が格好良いなと呟いたのだが、それは何の偶然か完全に同じタイミングで、2人は驚きに顔を見合わせた。

 

「……お兄ちゃんが格好良くて好きって気持ち悪くない?」

 

「兄さんが凄く大好きなんだ」

 

互いの言葉を聞いて無一郎と禰豆子は固く、固く手を握り合う。

 

「お兄ちゃんがいっつも頑張っててね。それにほら、お兄ちゃんって凄く格好良い」

 

「僕の兄さんも格好良いよ」

 

互いに会話しているように見えて、だがその実自分の意見を押し通しているだけなのだが、気持ち悪いと言われることも無く、そして同意してくれる事もあり2人の話は驚くほどに弾んだ。

 

「縁壱さんって知ってる?」

 

「知ってる!無一郎も?」

 

「うん。知ってる」

 

そして2人の話は親や最愛の兄がそばにいないときに訪れて、色々と大切な事を押してくれる縁壱の話に変わっていた。

 

「お兄ちゃんを奪われたらいけないんだ」

 

「判る、判るよ。僕も兄さんを誰かに奪われると思うと……」

 

「「苛々する……」」

 

苛烈……いや、歪んでいると言っても良い強烈なまでの無一郎と禰豆子の兄への強すぎる愛。それは縁壱によって齎され、そして自分の同類に初めて出会ったと言う事で爆発的に加速していく……。

 

「ふふふ。楽しいですね」

 

「ん? 急にどうした?」

 

「いえいえ、こちらの事ですよ。ええ、別に悪巧みをしているわけではないですよ」

 

「いや、嘘付け、凄い悪い顔をしてたぞ?」

 

「気のせいですよ、カワサキさん。では私は行きますね」

 

「お、おう……」

 

食堂を出て行く縁壱を見送るカワサキ。だがその邪悪とも言える気配に手を合わせ南無と呟いていた……そして無限城を出た縁壱はと言うと……。

 

「縁壱さん!」

 

「無一郎。また来た」

 

自分の遠縁であり、そして自分の同類である時透無一郎の元へ現れ、会話をし、そして……。

 

「禰豆子」

 

「縁壱さん、こんばんわ」

 

「ああ、こんばんわ。少し時間は良いかな?」

 

「大丈夫です!」

 

禰豆子の元にも現れ、暗黒の意志とでも言うべき意思を2人へと伝授する。薪と炭、そしておやきを売るたびに無一郎と禰豆子は歪み始めた己の価値観の話し合いをし、そして縁壱によってその意志をより強力な物にされる……。

 

2人の中に芽生えた暗黒の意志が花開くのはまだ先だが、その意志が開花した時……有一郎と炭治郎は絶望に囚われる事になるのだが……それはまだ先の話なのだった……。

 

 

メニュー18 チーズフォンデュ(鬼ルート)へ続く

 

 




今回はオリジナルの設定込みの話になります。時透家と竈門家の知り合いルート+ブラコンズの進化フラグですね。ヤンデレブラコンになるのは原作開始後の話になりますが、その種が撒かれていたと言う話になります。次回はチーズフォンデュですが、テーマがいいので、これは鬼殺ルートでもやりたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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