【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
お正月特別短編 年越し蕎麦
鬼とは言え年末年始はある……しかしその時期になれば当然医者の鬼も活発に動き回るので年末年始をのんびり過ごすということは出来ない。それでもお正月らしい事をしたい……そんなカワサキの提案で年末は年越し蕎麦を作るというのが無限城の決まりごとになっていた。
「汗飛ばすなよー、汚いからな」
蕎麦を打つ為の器――捏ね鉢を用意しながら俺は石臼をゴリゴリゴリ回している連中に声を掛けた。
「判ってます!」
「そんな失態は犯さない」
「兄上の汗ならむしろご褒美では?」
「「「止めろ馬鹿ッ!」」」
相変わらず戦国クレイジーは通常運転だなと苦笑しながら、挽かれた蕎麦粉を受け取って振り返る。そこには累を初めとした子供鬼がわくわくとした表情で待っていた。
「今年は上手に作るわ!」
いつも途中で千切れてしまう蕎麦を生産している梅も活きこんでいるが、きっといつもと同じパターンなんだろうなと苦笑しながら蕎麦粉と中力粉を机の上において説明を始める。
「このふるいの中に蕎麦粉と中力粉を入れ、捏ね鉢の中に入れる。良いかー? ゆっくりやるんだぞ」
「「「はーい!」」」
元気良く返事を返す累達を見ながら俺もふるいを振るって捏ね鉢の中に蕎麦粉と中力粉を混ぜた物を入れる。
「えいえい」
「零さないように……」
「そーっと、そーっと」
捏ね鉢の外に落とさないように慎重に作業する者、力を込めて大胆に作業する者。こういうのは本当に性格が良く出る、梅は言わずもがな力任せにやるタイプなので周りがひどいことになっているが、これもいつもの事なので気にしない。皆の作業を観察しながら卵を割って、1つ1つ器に入れて準備をする。
「出来たよー!」
「次はどうするのー?」
出来たと言う言葉を聞いて皆に見せるように蕎麦粉で山を作り、真ん中をへこませてそこに卵を落とす。
「こうやって内向きの円を描くように混ぜて、少しずつ水を入れて全体を混ぜる。用意してある水は最初に全部入れたら駄目だぞー」
言葉だけではなく、見本を見せることで子供達もしっかり蕎麦作りをする事が出来ている。
「つ、冷たい」
「むふう!」
「美味しくなーれ、美味しくなーれ」
皆でこうやって協力しながら作るから楽しいし、食べるときに美味しいって思うんだよな。
「ある程度固まってきたら水を入れて捏ね合わせる。ここが難しいけど、ゆっくりと捏ねて一纏めにするんだ」
水はある程度感覚だが、子供達にそれを要求するのは難しいので俺が最初から準備した物を使わせる。これであんまり形が崩れるって事はないと思う。
「こんな感じよ」
「梅ちゃん凄い!」
「よーし、頑張るぞー」
流石に100年もやっていれば梅も大分上手に作れるが、梅が何時も失敗するのはこの後からなので今年はうまく作れるかなと思いながら俺も蕎麦粉を1つに纏め始める。
「纏まったよー!」
「綺麗な丸になった」
粉が固まりになったと興奮した面持ちの累達を見て俺も笑いながら蕎麦を机の上に出す。
「今度は粉を机の上に広げて、この麺棒で伸ばす。力任せにやって壊すなよー?」
笑顔が満ちる厨房で俺達は年越し蕎麦の準備をきゃいきゃいと笑いながら続けるのだった……。
カワサキが子供達と一緒に蕎麦を作っている頃。鳴女や、恋雪と言ったある程度料理が出来る面子と殆ど料理が出来ない面子という異色の組み合わせはカワサキの厨房にいた。
「疲れた……まだやらないといけないの……」
「でもここで頑張らないと蕎麦食べれないよ?」
煮干の頭を千切り、腸を取り半分に裂くという単純作業に疲れたと朝日が嘆き、出て行こうとすると同じ様に煮干を千切っていた螢火がそう注意する。
「それは嫌」
「じゃあ、がんばろ」
ショタとロリの手作り蕎麦を食べれないとか嫌だと即答する朝日に螢火ががんばろ?と声を掛け、またひたすら無言で煮干を千切り、腸を取り、半分に裂くという作業が続く。
「こんなもんかの? 昆布を拭くって何か意味があるのか?」
「軽く撫でる位で良いらしいわよ。昆布の白いのをふき取ったら駄目ってカワサキさんは言ってたわ」
「……じゃあなんで拭くんじゃ?」
「ヒョヒョヒョ。昆布は天日干しで作るので、汚れや虫がついているかもしれないからですぞ?」
昆布を拭く理由が判らないと嘆く朱紗丸に昆布を運んで来た玉壷がその理由を教える。その事を聞いてむむうっと呻く朱紗丸に一緒に作業をしていた零余子がそれならと口にする。
「童磨達と割り箸作りに行く?」
「……それはそれで嫌じゃな」
「ヒョヒョヒョ、でしょうなぁ」
童磨、妓夫太郎や病葉達は竹細工や木細工を作る工房でナイフを片手に箸作りなどを行なっていた。
「あいたああ!?」
「おいおい……童磨さんよお……不器用過ぎないかぁ?」
「はぁ……童磨様は竹を切り倒しますか?」
「いやいや、頑張るよ!」
門松や竹細工、そして箸などを作っているのだが童磨はナイフで指を斬り痛いと叫んでいた。妓夫太郎達が20本近く作っているが、童磨はまだ2本とその不器用さが実に良く判る。それに対して響凱達は折り紙や和紙を駆使して飾り細工を作り、切り倒した竹を並べて門松などをてきぱきと作っている。
「この後は確か杵と臼でしたよね?」
「ああ。汚れているから綺麗に洗っておかないとな」
「ひゅーやっぱり年末は疲れるなあ」
夜は医者の鬼への対策、朝は疲れを癒す為の食事や風呂。それの準備や祭りごとをするのに大忙しだが、嫌そうな気配はない。カワサキが持ち込んだ祭り行事は確かに鬼達の楽しみの1つになっていた。
「拭いた昆布と煮干はその大鍋の中に入れておいてくれますか?」
「はい! 判りました! 珠世様ッ!!」
愈史郎が元気良く返事を返し、珠世は苦笑しながら鳴女と共に鍋に視線を向ける。
「何時も思いますけど、鳴女さんの作る出汁は凄く美味しいですね」
「私が好きだから上手に作れるようになっただけ、カワサキさんが作ってくれない時もあるから……」
鳴女の主食はうどんか蕎麦でそれ以外の物は余り好んで口にする事はない。カワサキが時間の掛かる料理を作っている時はうどん等を作ってくれないので、鳴女が必死でうどんの作り方を覚えただけだ。
「でもカワサキさんの方が美味しいんだよ」
「私は鳴女さんの作るうどんとか蕎麦も好きですけどね」
「……なんか違うんだよね」
同じ作り方なのになんでだろ? と首を傾げる鳴女に珠世は小さく笑い、水出しした昆布とにぼしの入った鍋を火に掛ける。
「とりあえずどんどん準備をしましょう。恋雪さんのお手伝いもしないといけないですしね」
汁を作り、天ぷらを揚げて、蕎麦を茹でる。年末の無限城は大忙しだった、そしてそれは無惨も同じで……。
「良し、持って行け」
「「はい!」」
凧に「寿」や「春」とやたら達筆で書いていた無惨は部屋に置かれている数百個の凧を見つめる。
「……何故私1人なのだ」
他のグループと違い自分が1人で筆を握り続ける事に不満を抱いていた。だが、習字や文字にうるさい無惨によって手伝いに来ていた鬼が追い出されていたと言う事は忘れてはいけない事なのだった……。
夜は医者の鬼が出現する可能性が高く、除夜の鐘を聞きながら年越し蕎麦を食べると言うのはまず絶対に出来ない事だ。だがそれも初詣やお参りの帰りを鬼が狙う可能性が高いので、どうしても我慢しなければならない所でもある。
「はい、出来たぞ。持って行ってくれ」
「「「はーい」」」
鳴女が作った汁の中に茹で立ての蕎麦をいれ、海老天と蒲鉾、そしてネギを散らしたシンプルな蕎麦をどんどん作り運んで行って貰う。
「ふーふー」
「おいしい!」
「これ僕の作った奴かなあ?」
蕎麦は子供達が作った物を使うというのが無限城の年越し蕎麦の決まりだ。きゃいきゃいと自分が作った奴かな? 美味しくできたと喜ぶ子供達の声が響いて来る。
「おお、ちょっと上手くなったんじゃないか?」
「……また千切れてるもん」
「ははぁ、それじゃあまた来年だ。今度は上手くできると良いなあ?」
「がんばる……」
捏ねるのは上手いんだが、麺棒で伸ばすのが苦手で、切りかたの荒い梅の蕎麦はやっぱり例年通り少し短い仕上がりになったが、今回のは大分蕎麦と言っても通用するレベルになったと思う。
「カワサキさん、蕎麦をお願いします。あの、ネギは無しで」
「あいよ、ちょっと待ってな」
実弥と玄弥が蕎麦を取りに来たのでお盆を2つ用意して、海老天と蒲鉾を乗せた蕎麦を仕上げてお盆に載せる。
「熱いから零さないように気をつけてな」
「「はい!」」
元気良く返事を返し、待っている弟や妹のもとに運んでいく2人を見ていると凄い穏やかな気持ちになるな。
「おかわり」
「……年越し蕎麦はわんこ蕎麦じゃないぞ?」
「?」
「そこで不思議な顔をするなよ。まぁ良いんだが……」
わんこ蕎麦のようにそばを食い続けている鳴女に肩を竦め、蕎麦を手に取り鍋の中に入れて茹で始める。
「おお、美味しい。うーん、これを食べるとまた1年経ったなあってしみじみおもうよね」
「そうだな。来年こそは必ずあの腐れ外道を殺す」
童磨の言葉に殺意に満ちた返事を返す狛治。今年こそ剣鬼を見つけて倒す事が出来ると良いなと俺も思う。
「では食べ終わりましたら、少し早いですけどお参りに行きましょうか?」
「良いんですか、恋雪さん」
「ええ、童磨さんも一緒ですけどね」
童磨も一緒と聞いて目が死ぬが、安心して欲しい、子供鬼もお参りに行くので30人くらいの大所帯になる筈だから。
「てんぷらうめえッ! もっとくれ!」
「はいはい、判ったから机の上に乗るな。伊之助」
海老天を3つも乗っけてやったが、それでもまだ足りないとか本当に伊之助は天ぷらが好きだなあと思い、揚げてある海老天を皿の上に乗せてやるとてんぷらてんぷらと言って駆けて行ってしまう。
「本当に伊之助は元気に溢れているな」
「……痛いです」
「黙れ変態」
伊之助の方に視線を向けながら、鍋の中に小瓶を入れようとしていた変態の頭にフライパンを叩き込む。
「変態ではありません。仮に私が変態だったとしても、私の場合は兄上を愛している淑女という名の変態です」
「世界中にいる淑女に謝って来い」
辛辣と嘆いているが蕎麦を茹でている鍋に自分の汗を入れようとする奴は変態で十分だし、何よりもロリコンという名の紳士ですみたいなことを言い出す縁壱は十分に変態で良いと思う。
「……すまない」
「とりあえずここで食ってけ。な?」
「……そうする」
俺の目の届かない所だと縁壱がナニをしでかすか判らないので、俺の監視下で巌勝には蕎麦を食べて貰おうと思う。
「カワサキ、私も蕎麦だ。あとお前も食え」
「もう少ししたらな」
珠世辺りが食べ終われば交代で俺も休憩に入れると思う。
「見てください。珠世様! 今回の蕎麦は上手に打てたと思います!」
「そうですか、では愈史郎が打ってくれたそばを今度は食べるとしましょう」
もうこれ以上幸せなことはないって言う顔をしている愈史郎。本当に普段はポーカーフェイスなのに、こういう時は顔に出るな。
「今年1年は良い事がありますように……」
「ヒョヒョヒョ、ですなあ。またマグロ10匹とか言う拷問がなければ良いですなあ」
「お前はまだ良い、松茸探しは地獄じゃった」
食材調達組に成る確率の高い玉壷と半天狗の言葉はやけに胸に刺さるな。だって無惨にそういう稀少食材が美味いって伝えたの俺だからな。
「まだお前が食べれないのならば、蕎麦はまだ良い。酒と天ぷら、それと刺身をくれ」
「悪いな。まぁ昔ほど忙しくはない筈なんだけどな」
恋雪や珠世、料理が出来る鬼も増えてきているので昔ほど忙しくないはずなんだが……まぁ料理は嫌いじゃないから嫌ではないんだが、この寂しがりやなハスキーみたいな無惨にはもう少し待って貰おう。
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「お待たせ」
「遅いわ。たわけ」
「そう言うなよって」
2時間後に交代してもらい、俺と無惨の分の蕎麦を持って天守閣で酒盛りしていた無惨の元に蕎麦を持っていく。
「「いただきます」」
揃っていただきますと口にして丼を持ち上げ汁を啜る。無限城で作っている昆布と煮干、玉壷が良い品を厳選しているだけあって非常に良い出汁が出ている。
「美味い、最初のときとはやはり違うな」
「あんときは設備とかなかったからなあ」
グリーンシークレットハウスを使うという選択肢もあったが、余りに見慣れない装飾に無惨とかが嫌がったから、大体竃とか炭火だった。
「無限城で設備を整えてやったんだから良いだろう」
「まぁな」
サクサクの衣に汁が染みこんだ甘辛い海老天を齧り、累達が打った蕎麦を啜る。
「美味い」
「そうだな、今年も何とかなったという所か」
まだまだ医者の鬼は倒せていないし、鬼の被害も抑え切れている訳ではない。それでも少しずつ、前には進めていると思う。俺達が辿り着くべき終着点はまだまだ先だが、ほんの少しでも光が見える……そんな1年だったと思いながら、俺と無惨は並んで年越し蕎麦を啜るのだった……。
年末年始の更新はゲッターロボ、GSがメインになりますので飯を食えは残念ながら鬼、鬼殺それぞれ1つずつになりますが、オバロ版はゲッターロボとGSと共に連続更新をやろうと思います。鬼滅に関してはこれはストックがないとか、そういう感じの理由なのでお許しください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない