【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー28 かき氷
異空間にある無限城と言っても四季の影響は受ける。夏真っ只中ともなれば、無限城の中にも蝉の鳴き声が響き、梅雨のジトジトとした気温も無限城を襲う。その時期になれば俺が作る料理も当然夏に向いた物となり始める。
「ふぃーあっちい」
厨房で火を使っていれば当然滝のような汗が流れる。それを首から下げたタオルで何度も拭い、砂糖と塩とレモン汁を混ぜたお手製のなんちゃって経口保水液を口にして、大きく溜め息を吐いた。この暑さが嫌だとか言ったりはしないが、それでもやっぱりしんどい物はしんどい物だよなと思いながら鍋の中に視線を向ける。
「良い感じ良い感じ」
収穫した苺や林檎、そしてメロンに変り種で西瓜などでかき氷のシロップを作るのはもう毎年の夏の風物詩の1つと言っても良い。砂糖とレモン汁で苺を煮詰めて、浮いてきた灰汁等を適度に掬い、半分ほどをミキサーで、残りの半分はフォークとかで荒く潰して混ぜ合わせれば果肉たっぷりの苺のかき氷シロップの完成だ。
「次は西瓜だな」
西瓜の中でも小振りで甘みが少ない物の皮を剥いて、サイコロ状にカットする。
「この後がめんどくさいんだよなあ」
種をスプーンで1つ1つ取り除き、種を全て取り除いたらミキサーに掛ける。そしたらそのまま鍋の中にミキサーの中身を移して、レモンと砂糖を加えて中火で煮詰める。
「これが無いと無惨がうるさいからな」
西瓜を煮詰めている間に別の鍋を手にして、その中にカットしたメロンと砂糖を加えへらで潰しながら中火で煮る。完全に潰しきらず、ほどほどに果肉感を残した所でコンロの上からどける。
「ミキサーに掛けた方が美味いと思うんだがな」
シロップと言うよりかはジャムと言う感じのメロンシロップ、これが無いと無惨の機嫌が最悪になる。かき氷を作るときの最重要アイテムが、このメロンジャムシロップだ。
「後は冷やせばOKだな、後は童磨次第だな」
グリーンシークレットハウスがあるので冷蔵庫や電子レンジなどの最新家電が無限城に配置されているが、流石に100人を越える鬼が満足するかき氷の氷を作るのには無理があるので、先日シュールストレミングでテロを起した童磨が普段以上に気合を入れて氷を作っているだろうと思う事にし、シロップを冷蔵庫に入れて冷やしている間にかき氷を探す為に厨房を後にするのだった……。
みーんみーんっと言うせみの鳴き声を聞いているだけでも暑くなるが、鳴女の血鬼術で風は冷たく、ひんやりとしている。外と比べるとマシ程度の差だが、それでもひんやりしているのはありがたいと思いながら部屋の隅に視線を向ける。
「暑い……」
腕捲りをし、ズボンの裾も膝まで捲った無惨様が氷水が浮いたたらいの中に足を突っ込んでいる。
「鳴女。もう少し涼しくならないのか?」
「……努力はしていますが、微調整は難しいです」
「そうか……カワサキが早くかき氷を準備してくれるのを待つしかないか」
無惨様は暑い時期が苦手である。体調を崩すまでではないが、それでも夏になると覇気が無くなり、無茶振りも少なくなる。そういう意味では玉壷達にとっては良い時期と言えるだろう。
「あのさー。俺そろそろ限界が近いと思うんだよね?」
「「「黙れ、氷を作っていろ」」」
「……はい」
童磨に氷を作らせ、その冷気を鳴女が巡回させるという形で無限城を冷やしている。そしてカワサキ様がかき氷を作る材料も童磨が作っているので、顔が青くなっているが先日のシュールなんとか言う缶詰のテロ行為の罰なので、これくらいで丁度いいという物だ。
「母ちゃん。かきこおりってなんだ?」
「ふふ、カワサキ様が作ってくれる冷たいお菓子よ」
初めてかき氷を食べる伊之助も楽しみにしているようだなと思っていると、恋雪さんが俺の隣に腰掛けた。
「狛治さん。どうぞ」
「すいません。ありがとうございます」
「いえいえ」
俺にとってはあんまりいい思い出の無いレモンだが、それを巣蜜と砂糖で漬け込んだ物に冷たい井戸水を注いだ蜂蜜レモン水はほのかな酸味と甘みがあって、この夏の時期には美味しい飲み物だと思える。
「よーし、かき氷するぞー! 言っとくけど、子供が先だからな」
「判っているわ!!」
カワサキ様の警告に判っていると言いつつも、氷水を浮かべたタライから足を浮かしかけていた無惨様が不機嫌そうに再び腰を下ろす。
「おやぷん初めて食べるから1番最初」
「おやぶんからー」
「てめえら……ありがとな!」
伊之助も随分と子供達に好かれているなと苦笑し、時折吹く風の音に揺れる風鈴と蝉の鳴き声に一時耳を預ける。
「ふ、ふおおおお……な、なんだこれは!?」
「かき氷、苺とメロンと林檎とスイカの汁を掛けて食べる。どれがいい?」
「い、イチゴ!」
「はいはい」
カワサキ様が椀に雪に見える氷の欠片を器用に盛り、その上に赤いイチゴのシロップを掛ける。
「ふおお……あむうッ! んんーーー! 美味い!! 冷たくて美味い!」
「おーい、伊之助。そんなに一気に食べると……駄目だ。聞いちゃいねぇ」
「ふふ、初めての味で興奮してるんですよ。私は小豆練乳で」
琴葉が自分のかき氷を受け取り、伊之助の後を追いかけていく姿を見ていると上手く言えないが、凄く穏やかな気持ちになる。
「ぼくね、林檎!」
「すいかー!」
「メロン!」
「はいはい、すぐやるぜー」
かき氷はそんなに手間ではないのか、どんどんかき氷を作り子供達に手渡している。
「あら、見て。狛治さん、時透さんの家族も見えられてるわ」
「そのようですね」
黒死牟が迎えに行ったのだろう、時透家の双子と不死川の兄妹達の姿もある。初めて見るかき氷に満面の笑みを浮かべている姿を見ているととても穏やかな……。
「ショタァアアアアアッ!?」
「……すまない、これは縛ってくる」
「ショタとロリィが! 私の楽園がああああーー……」
変態2号朝日が弦三郎の拳骨で地面に叩きつけられ、日丸に全身を縛り上げられ引き摺られていく姿に何か大事な物を穢された気持ちになった。
「うーい、大人の順番「メロン!」はいはい」
無惨様が真っ先にカワサキ様の前に並びメロンと叫ぶ、本当にメロンがお好きなのだからと思いながら立ち上がる。
「恋雪さん。お手を」
「はい」
恋雪さんの手を握って立ち上がらせて、一緒に並ぶ。
「何にする?」
「「苺を」」
俺と恋雪さんは何時も苺だ。ほんのり甘くて、酸っぱい。この味が何よりも俺達にとっての幸せの味なのだから……。
透き通るガラスの皿に盛り付けられた雪の上に赤い汁が掛けられている。初めて見るかき氷と言う菓子に少し怖いという気持ちが無い訳ではなかった。好きな、西瓜の味がする汁と聞いているが、いざ食べるとなると手が止まる。
「兄ちゃん。溶けるよ?」
「ん、ああ。判ってる」
苺の汁を掛けてもらった玄弥の言葉に頷いて、氷と汁を一緒に掬って口に運んだ。
「うめえ」
口の中で一瞬で溶ける氷の冷たさ――そして西瓜の柔らかな甘みは1口食べれば最初何を怖がっていたんだと思う程に美味く、次々と口の中に運んで……。
「「「「「つうう……」」」」
頭の中心がきーんっと痛んで、思わず頭を押さえて呻いた。寿美達と頭を押さえていると、ゆっくりと食べていた玄弥がぽやっとした顔で笑った。
「急いで食べると頭が痛くなるって言われたじゃないか」
「そうだな……そうだったなあ……」
一瞬で口の中に消え、そして美味いからと勢い良く食べてしまったが、確かに食べる前の注意で急いで食べると頭が痛くなるって注意されていたなと苦笑する。
「ぬううう……」
この城の主の無惨も頭を押さえて、呻いているのを見て大人でも同じなんだなと思い、今度はゆっくりと食べていると弘が俺の口元に匙を向けた。急にどうしたんだ? と思ってみていると、何故弘がそんな事をしだしたのかが判った。
「お兄ちゃん。あーん」
「ったくしゃあねえなあ。俺のは宇治抹茶だぞ?」
「い・い・の! お兄ちゃんと一緒のを食べるのよ!」
「へーへー」
妓夫太郎と梅の兄妹のやり取りを見たからだろうと苦笑していると弘が俺の口元に匙を向けてにぱっと笑った。
「こえね! りんご! おいしいの」
「おう、そうか、ありがとな。じゃ、ほれ、俺の西瓜」
弘が差し出してくれた匙を口にすると確かにりんごの甘酸っぱい味が口の中に広がる。その美味さと甘みに笑みを浮かべ、今度は弘の口に西瓜のかき氷を入れてやると美味そうに頬を押さえる。
「あー」
「わたしもー!」
「ああ、そうだな。皆で食べさせあいっこするか」
皆違う味を食べているのだから、皆で別々の味を食べようと声を掛け、それぞれの口元に匙を向けて、自分のかき氷を交換しながら俺達は笑いながらかき氷を味わうのだった。
ほんのり果肉の残ったメロンのシロップが掛かったかき氷を口に運び、小さく溜め息を吐いた。かき氷の冷たさが身体の中の熱を外に追い出してくれる――そんな感覚だ。
「これを食べてこそ、夏と言う感じだな」
匙でしゃくしゃくと氷を崩し、メロンのシロップと絡めて口に運ぶ。メロンの甘い香りと甘み……それは一気に食べたいと言う気持ちにさせるが、それをするとさっきみたいに頭を痛める事になるので、我慢して溶けないように気をつけながら口に運ぶ。
「おい、どーま。喰え!」
「いやあ、嬉しいなあ。むぐっ! むぐうっ!? まっむぐうッ!! んあああーー!!」
「美味いだろ! 喰え!」
「ま、待って……いたたた」
童磨の口にかき氷を詰め込んでいる伊之助を見て、いいぞもっとやれと笑う。あの馬鹿のせいで無限城の区画を一部捨てる事になったのだから、その事に対する罪を受けてもらわなければならない。
「……氷菓子」
「美味しいですよ?」
「あ、ああ、いただく」
カワサキ達が拾ってきた女忍者もおっかなびっくりと言う感じでかき氷を見つめ、珠世に促されてかき氷を口にしている。
「んふふふ、美味いですなあ」
「んんッ!!!! か、かき氷は恐ろしい……」
あちこちから聞こえる美味いと言う声と、かき氷を食べる事で頭に走る痛みに呻く声。
「おかわり欲しい」
「あんまり食べるとお腹痛くなるよ?」
「う……うー」
「うむ、しょうがないな。では少しだけにしよう、皆で少しずつ分けて食べれば腹も痛くなるまい」
響凱と零余子が面倒を見ている子供達も最初はわずらわしいとさえも思ったこともあるが、今ではそれなりに愛おしいくらいには思っている。
「仲間や友達が増えるのは嬉しいもんだろ」
「……ふん。別に私は寂しい訳ではない」
子供達に最後のかき氷を作り、私の隣に腰掛けると同時にからかうように言うので寂しい訳ではないと言うとカワサキはくっくっと喉を鳴らした。
「1人で飯を食っても美味くないだろ? 皆でこうやって楽しく食べるのが良いのさ」
「……それはまぁそうだが……」
最初は私とカワサキ、次に黒死牟と縁壱――どんどん人が増えて行き、そして今ではこれだけの大人数になった。騒がしく、日々賑やかだ……。
「そうだな。悪くはない」
「悪くはないって事はいいって事だな」
「……そうなのかもな」
孤独で日々を過ごすよりも、こうして賑やかに、そして幸せに日々を過ごしている方が心を穏やかに過ごす事が出来る。確かに、カワサキの言う通り悪くないのかもしれない。
「さぁ、兄上」
「おい、馬鹿止めろ。なんだ匙が赤くなっているぞ」
「大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ、私にはそれが危険にしか見えない」
自分のかき氷を黒死牟に与えようとして、鉄の匙を真紅に変化させている縁壱を見て、私はメロンのかき氷を口に運んだ後に溜め息を吐いた。
「縁壱は失敗だったと思う」
「……確かに」
黒死牟を鬼にしたと私とカワサキを追い回し、殺される一歩手前で説得に成功した。あの時は命が掛かっているから必死だったが、この戦国狂人は決して仲間に入れるべき人材ではなかったと私とカワサキは改めて後悔するのだった……。
無限城 ひそひそ噂話
かき氷を食べた後、時透家の双子と不死川の兄妹は無限城にとどまり、一晩泊まる事になった。カワサキの作る、見慣れない食事に驚きながらも舌鼓を打った夜。実弥と有一郎は巌勝に連れられ、無限城の森の中にいた。
「でけえ、すげえカブトムシだ!」
「これは良いな。でかくて強そうだ」
無限城で育てられている樹木は大きく、そして上質な樹液があるのでカブトムシやクワガタムシが集まり、実弥と有一郎は巨大なカブトムシとクワガタを見つけて、はしゃぎまわり、無限城とは言えど子供だけで夜出歩くのは危ないと付き添いをしていた巌勝も子供達の楽しそうな声を聞いて、穏やかな顔をしていたのだが、樹木の影を蠢く黒い巨大な影を見つけ警戒しながらそちらに足を向けた。
「……お前何をしている」
「私はカブトムシです」
虚無顔でカブトムシの格好をしている縁壱を見て、ドン引きをしている巌勝だが、縁壱は粘着質な音が出そうな笑みを浮かべた。
「つまり私は兄上に見つかったので私は兄上の物という事にッ!」
「う、うおわあああああああーーーーッ!!!」
頬を赤く染めた縁壱に飛び掛られ、巌勝の悲鳴に驚いた実弥と有一郎は慌てて無限城に引き返し、巌勝が縁壱に襲われたと助けを求めに走ったのだった……。
「……」
「大丈夫か?」
「暫く部屋から出たくない」
即座に救出隊が編成され、助け出された巌勝だったが、その姿は樹液でドロドロに加えて、涎でべとべとであり、精神的に深く傷つき、それから数日の間部屋から出て来ることはなく、縁壱は出口の無い部屋に1週間幽閉される事となるのだった……。
メニュー29 秋刀魚と栗ご飯へ続く
次回は少し時間を戻して、巌勝・無惨・カワサキが3人だった時の話を書いて行こうと思います。未知の味と遭遇した巌勝さんとかを書いて行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない