【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー29 秋刀魚と栗ご飯
「うーさむ……やっぱ冷えるなあ」
海辺の街特有の香りと潮風を浴びながら、俺は早足で港で開かれている市場に足を向けた。活気に溢れた人の営みに笑みを浮かべ買うべき品の品定めを行なう。
(……うーん。判っていた事だけどなあ……)
魚の品数は多いが、いかんせん鮮度が今一だ。やはり戦国時代――保存技術とかはまだまだかと心の中で呟いた。
「いらっしゃいいらっしゃい! 安いよ! お兄さんどうだい?」
「こっちのが安いよ!」
あちこちから掛けられる声に愛想笑いと手を上げて市場の中を進む。今俺が探しているのは安くて、そして量が買える食材だ。今までは無惨と俺の2人だったが1人連れが増えたので資金繰りをある程度考えないといけなくなったからだ。
「お、おやっさん。その魚くれよ」
魚屋の店頭の外の木箱に詰められている魚を見つめて、店主にそれをくれと頼む。
「あん? 別にいいけどよ。お前さん、珍しいな。こんな物を欲しいなんてよ?」
「旅のもんでね。金があんまり無いのさ」
「戦だらけの時代に良く旅なんてするねえ、よっしゃ、どうせ売り物にはならない下魚だ。値段はあんたの払える額でいいぜ」
太っ腹な店主の言葉に甘えて9匹を殆どただ同然の値段で売って貰い、俺は感謝しながら市場を後にする。
「えーっと、あったあった」
無惨達の所に戻る前に落ちていた栗を靴で踏んで中身をいくつか拾って、滝の近くの洞穴に足を向ける。
「戻ったか」
「おう。そっちはどうだ?」
「ふん、流石侍と言うところか、もう大分鬼の細胞には馴染んでいる」
洞穴の一番奥、日の光が届かない場所で座禅を組んでいる男――継国巌勝が閉じていた6つ目を開いた。
「気分はどうだ?」
「……悪くない。だが、この身体を引き裂くような飢餓感だけはどうも慣れん」
「数日もすれば馴染む。カワサキ、早く飯を作れ」
「了解了解。今準備するから無惨は巌勝を見てやっていてくれ」
飢餓感で暴走して外に行かれたら目も当てられない。無惨に面倒を見ていてやってくれと頼んで俺は1度洞穴を出て、朝食の準備を始める事にした。
「良い秋刀魚だ。昔は全然価値がなかったって言うのは本当だったんだな」
丸々と肥えた秋刀魚――今日はこれを炭焼きにして、戻ってくるまでの間に拾った栗で栗ご飯にしよう。アイテムボックスから、包丁と七輪、そして飯盒等を取り出し、腕捲りをして栗から調理を始める。ぬるま湯の中に栗を入れて15分ほど放置。その間に米ともち米を洗って飯盒の中に入れて水を吸わせておき、その間にぬるま湯で皮が柔らかくなった栗の処理を行なう。
「よっと」
栗のおしり近くを包丁で切り落とし、鬼皮を手で剥いたら包丁で栗を削らないように気をつけて渋皮を剥く。栗はどうしても下処理がめんどくさいが、秋の味覚と思えばこの手間も美味しく食べる為の準備と思って我慢出来る。栗の皮を全部剥いたら飯盒の中に塩を入れて、そしてその上に栗を並べる。
「上手に炊けますように」
飯盒で栗ご飯なんて作った事が無いので、上手に炊けますようにと手を合わせて、今度は秋刀魚の下処理を始めたのだが……。
「……あー、駄目か」
秋刀魚は内臓を取ると形崩れするので出来れば内臓は取りたくないのだが、既に臭いがしているので包丁の先でお腹の辺りの穴を基準にして、頭側に1cmほどの切れ込みを入れ、頭の少し下から包丁を入れて骨に当たるまで切れ込みを入れる。
「よっと」
頭を掴んでゆっくりと引っ張ると内臓が全て綺麗に抜け出る。そしたら中程から半分に切り、水洗いをして内臓の残りと血、そして鱗を洗い流す。
「これは脂が乗ってていい秋刀魚だな。本当に惜しい」
これだけ脂が乗っていれば、鮮度さえ良ければワタも美味しく食べられたんだが……残念だなと思いながら、さらしで水気をふき取ってバツの字に切れ込みを入れて塩を振る。塩が馴染むまでの間に炭に火をつけて七輪の準備をする、秋刀魚は遠火で焼くのが基本なので七輪の上に上置きを置いて、2枚合わせの魚焼き網を加熱する。十分に温まった所で酢を塗って網に秋刀魚がくっつかない様に準備をする。
「おっと忘れる所だった。」
昨晩の野菜の水炊きで使った野菜屑を七輪の中に入れる。これで炭に秋刀魚の脂が炭に落ちないようにして、俺は魚焼き網に秋刀魚を挟んで七輪の上に乗せるのだった……。
目の前で座禅を組んでいる巌勝に心に乱れは無く、酷く落ち着いている。初めて鬼の眷属を増やしたが、医者の鬼とはこうも違うか……と正直驚いている。
(あんな知性も何も無い獣にならずに済んでよかったな)
正直そこまで人間に興味は無いが、縁壱が城を出るまでは継国の城で世話になっていたので、ある程度の情はある。しかし、巌勝も悪運の強い男よ。
「……何か?」
「いや、良い仲間が増えたとな思っていた所だ」
私の視線に気付いたのか6つに増えた目を向けてくる巌勝にそう返事を返す。鬼殺隊なる物が出来、そして私の名を語る天津のせいで追われる身だ。鬼殺隊の基本的な情報を得られるというだけでも、巌勝を救った甲斐があると言うものだ。
「そう言っていただければ幸いです」
「ふん、私もカワサキも命を賭けたのだ。それに相応しい働きくらいはしてもらうぞ」
「御意」
天津本人と鬼8匹の間に割り込んで巌勝を救うのは文字通り命懸けだった。それだけの危険を冒したのだから、ちゃんと役立てと言うと巌勝は深く頭を下げる。この忠義心悪くないな――医者の鬼がかなり増えているので、カワサキと相談して鬼を増やすことも検討しなければならないだろう。
「おーい飯出来たぞー!」
カワサキの呼び声が聞こえたのでカワサキから預かっていた人化の腕輪を巌勝に投げ渡す。
「これは?」
「それをつければ人間と変わらなくなる」
「なるほど――これで鬼殺隊に見つからず移動していたのですね」
「そう言う事だ。朝食を食べたらまた移動する、天津が向かうと言ってた村が気になるからな」
あのクソ医者は絶対殺す、その為には危険を承知で天津を追う必要がある。巌勝が増えた事で以前よりも少しは楽になるだろうと期待し、人化の腕輪をつけて洞穴を出る。
「今日の朝餉は?」
「秋刀魚の塩焼きと栗ご飯」
紙の皿に乗せられた魚と黄色の木の実が乗せられた飯を見て、カワサキの隣に腰掛ける。
「秋刀魚ですか……」
「まぁ路銀がないからなあ。でもこれは美味いぜ、醤油と大根おろしで食べてくれ。じゃあ、いただきます」
手を合わせてさっさと食べ始めるカワサキ。私も箸を手に取りいただきますと口にして栗ご飯を口にする。
「ほう。なるほどなるほど」
ほくほくとした栗はほのかに甘い、少し塩っぽい味付けなので余計にその甘さが際立つ。
「美味いだろ?」
「ああ、悪くないな」
芋を混ぜた雑炊や、かさましに芋を入れた米は何度か食べているが、これはそれとはまた違う味わいがある。
「これはもち米か?」
「そ、白米ともち米を混ぜているんだ」
「なるほど、このもっちりとした食感はそれか」
白米だけではなく、口の中で纏わりつくような独特の食感が余計に栗の味わいを良くしているのかと納得した。
「んんー美味い、良い味だ」
「脂が乗っているな。悪くない」
秋刀魚とか言う細長い魚は下魚と言われていたが、なるほどなるほど脂がたっぷりと乗っていて飯の共としては丁度いい。
「……美味い、下魚と聞いていたのですが……いや驚きです」
「下魚とか言うのは勝手に人間が言い出しただけだ。どんな食材もしっかりと下処理をして、調理すれば美味くなるものさ」
香ばしく焼かれた皮と肉厚な身、どこをどう見ても、そして食べても高級な魚に引けを取らない。
「なるほど、見た目ではないと言うことか」
「そういうこと、あ、お代わりの人は」
私と巌勝が同時に椀を差し出し、カワサキはそれを苦笑しながら受け取る。普段2人での食事も、1人増えるだけで随分と賑やかで楽しい物になるのだなと思いながらお代わりが盛られた茶碗を受け取るのだった。
そして時は流れ、無限城の食堂で秋刀魚と栗ご飯、そして味噌汁と漬物を口にしている私の向かい側には縁壱が輝く笑顔でいた。
「なるほど、それで兄上は秋刀魚がお好きなのですね」
「うむ、物の見方が変わったな」
こげ目が付くまで丁寧に焼かれた秋刀魚の皮を箸で剥がし、脂が乗った秋刀魚の身を口にする。
「うむ、美味い」
秋刀魚の脂に負けぬ様に適度に振られた塩は塩辛さは余り感じさせず、秋刀魚の旨みを十分に味わわせてくれる。そして秋の味覚である栗が使われた栗ご飯もほのかな甘みの効いた味わいは、秋刀魚を際立たせてくれる。
(しかし、本当に見方が変わったな)
私達は勝手に下魚と呼んでいるだけで秋刀魚自体はそんな事は全く持って考えていないだろう。そして下魚と言われる秋刀魚の美味さに舌鼓を打って、カワサキの言葉に如何に自分の視野が狭くなっていたのか思い知らされた気分だった。
(しかし私も愚かな男だ)
カワサキ達が継国の城を出て、縁壱が城を出た。そして私が城主となり、そして縁壱と再会した。そして届かぬ太陽に手を伸ばし続け、その身を焼かれながら鬼殺隊に入り、必死に修錬を積んで月の呼吸を作り上げた。
「?」
不思議そうにしている縁壱になりたい等と何故思ったのか、それは簡単な話だった。思考誘導――あの時代のお館様の主治医。それが鬼の真の首魁天津だったのだ。鬼の気配を殺す薬を飲み、そして力を渇望する者を言葉巧みに引き抜いた。非常に濃い稀血の隊士に天津が我を失わなければ、いつまでも鬼殺隊の内部情報は天津に奪われ続けていただろう。そして私もまた、天津の術中に嵌りあの男の配下になる所だったと思うと無惨様とカワサキに助けられたことには感謝しかない。
「しかし、美味い」
大根おろしを乗せて大根の苦味と辛味と共に秋刀魚を食べると栗ご飯を食べる手が止まらない。
「なるほど、兄上はそんなにも秋刀魚が好きなのですね?」
「うん? ああ、好きだが?」
秋刀魚は私の価値観を変えてくれたきっかけの1つ。好きか嫌いかで言うと好きな部類だと言うと縁壱は秋刀魚をキッと睨んだ。
「沢山獲ってきます。そしたら褒めてください」
「ん、ああ……?」
すたすたと早足で歩き出し、玉壷の頭を背後から鷲づかみにして引き摺って行く縁壱。その姿を呆然と見送り、味噌汁を口にして小さく溜め息を吐いた。
「秋刀魚なんてどうやって獲るつもりだ? というかあいつは秋刀魚に嫉妬したのか?」
まさか神の子だと思っていた縁壱が私に病的とも言える恋慕の情を抱いているなんて夢にも思うわけがない。
そして自分の願いを叶える姿に変える道具で女になるなんて思ってなかった。
そして何よりも隙あらば私を押し倒しに来るなんてキチガイになるなんて想像もしていなかった。
「私の目は曇り切っていたのだろうな」
縁壱の中に隠れていた狂気を私は気付けなかった、いや見ようともしなかったんだろうな……。
「うん、縁壱になりたいなんて気の迷いだったな」
少なくともあんなにも自分の欲望に忠実な縁壱を神の子なんて思っていたのは私の人生の中で1番の恥だなと思いながら、久しぶりの栗ご飯と秋刀魚に私は舌鼓を打つのだった……。
無限城ひそひそ噂話
「撲滅してやる、この海からッ!!」
「……なんで私まで」
縁壱からすれば自分以外に巌勝の興味が行く事は基本的に許されない。これが、実弥や有一郎達ならば良い。人間だし、話せば反応がある。しかし食材如きが巌勝から好きと言われるのは許されないのだ。
「魚に嫉妬するとか普通ではありませんな」
鬼気迫る表情で釣り糸を垂れている縁壱の横で玉壷はひょいひょい秋刀魚を釣り上げている。
「……何故私は釣れない?」
「殺気が駄々漏れだからじゃないですかな? ひょ、また来だあああああああーーー!?」
玉壷が秋刀魚を釣り上げた瞬間に縁壱のアイアンクローが炸裂し、玉壷が涙と鼻水、そして涎を流しながら叫ぶ。
「私に釣り方を教えろ、さもなくばお前の頭は潰す」
「判りましたぁ! 判りましたからぁッ!!」
暴走特急縁壱に目を付けられたのが玉壷の不運。教えてくれと頼んでいる態度には見えない傲岸不遜の縁壱に何故私がこんな目にと玉壷は涙を流しながら自分の釣り竿を片付けて縁壱への魚釣りの指導を始めたのだが……。
「釣ったら褒めて貰える、釣ったら褒めて貰える」
「聞いております?」
秋刀魚を釣って巌勝に献上することで褒めて貰えると頭の中がピンク色の縁壱は玉壷の話を禄に聞いておらず、とても魚が釣れる様子ではなく、仮に魚が食いついても力任せに引いて糸を切るなど酷い有様で玉壷は心の中で子どもたちよりもへたくそだと思いながらも頭を握りつぶされる訳には行かないと必死に縁壱への釣りの指導を続ける。
「兄上も私が魚を釣り上げればきっと褒めてくださるに違いない、そして私の釣り上げた魚が兄上の血肉を作るのだ。」
「ですがその場合喜ばれるのは魚を調理してくれるカワサキ様への感謝等ではないですかね?」
今気付いたと言わんばかりに顔を歪める縁壱。不気味な動きで振り返りながら玉壷に視線を向ける。
「さ、魚を焼くくらいなら私にでも出来るだろう?」
「それで以前火柱を上げたのはどなたでしたかねえ?」
剣術以外の才能はまるで無く、そして巌勝が関わると途端にポンコツ、もしくは異常者になると言われている縁壱は玉壷の悪意のない、100%善意の指摘を前に潰れた風船のようにその場に崩れ落ちるのだった……。
メニュー30 冷たいうどんへ続く
秋刀魚が昔下魚と言われてた時代、私は秋刀魚が大好きなのでこの話には結構驚きました。次回は黒狼@紅蓮団様のリクエストで「冷たいうどん」を行きたいと思います。少し時期は外れてしまいましたが、作中の時間軸の流については深く突っ込まないで貰えると嬉しいです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない