【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー30 冷たいうどん
無限城は童磨を初めとした氷系の血鬼術の使い手と鳴女による空気の流れの操作によって、1年中過ごしやすい温度になっているが、それでも夏は暑い物というカワサキの意見によってほのかに汗をかく程度の温度に調整されている。そうなると一部の鬼――無惨がその筆頭なのだが、夏バテを起すのだ。
「やれやれ、クーラーはこの時代には早すぎたな」
快適に過ごす為とは言え、クーラーとヒーターという概念は大正時代には早すぎたと苦笑し、俺は鍋の中身を掬って1口味見をする。
「良し、OKOK」
少し濃い目のめんつゆを作っておくと料理を教える時に便利だし、夏場でぐったりしている無惨達はうどんとか素麺を寄越せと騒ぐのでめんつゆを用意するようにしている。鰹節と昆布でしっかりと出汁を取っているので、煮物や丼物を教える時は割りと重宝する。まぁ大半は麺類が好きな鳴女の胃袋の中に消えるのだが……まぁあると便利という事で時間があるときにはめんつゆを準備する事にしている。
「卵黄、塩、酢っと」
めんつゆの準備が出来たら他の汁の準備も始める。いつも同じでは飽きが来る、飽きが来ないように色んな味を準備しておく。基本はめんつゆでそれをアレンジすれば色々味が出来るからそういう点ではうどんや素麺、蕎麦は便利ではある。その分栄養などを考えないといけないので、夜はもっとしっかり作る必要があるが、夜になれば気温も下がってくるので皆食欲が出てくるはずだ。
「これでよしっと」
卵黄、塩、酢を混ぜ合わせ、もったりした所で油を少しずつ加えて白っぽくなるまで混ぜた自家製マヨネーズ。それに白ゴマと摩り下ろした白ゴマ、隠し味の砂糖と香り付け程度にラー油を加えて、めんつゆを少量加えて混ぜ合わせれば、胡麻の香りが香る特製胡麻ダレの完成だ。
「つーすっぱッ!!、うんうん。今回も良い具合に漬かってるな」
毎年作っている梅干を1つ味見して、その漬かり具合を確認したら壷の中から取り出し、包丁で叩いて潰す。刻んだ大葉とネギを薬味として用意し、しょうが、砂糖、醤油、ごま油と梅肉を混ぜ合わせめんつゆの中に入れて混ぜ合わせれば梅ダレの完成だ。
「あんまり無い方が良いかな」
ちょっと少ないかもしれないと思う量だが、残ると処理が難しいので梅ダレは少量だけにする。その代り、一番人気と言うか鳴女が凄く好む味噌ダレは多めに作る事にする。鍋の中に味噌、砂糖、酢、潰したにんにくと生姜すりおろしを入れたら、作り置きしているコンソメスープを加えて調味料を弱火で煮詰める。
「……これうどんじゃなくて、ラーメンじゃね?」
煮詰めてる途中でこれうどんじゃないわ、ラーメン作ってるって思ったが……まぁうどんを入れれば大丈夫だろとかなり無理やりに納得する事にする。
「後は肉味噌でも乗っけるかな」
うどんの上に肉味噌を乗せて、温泉卵を乗せて濃い目のめんつゆを掛けて、混ぜうどんにするのも良いなと思い。俺は今度は野菜や、うどんの上に乗せる具材の準備を始めるのだった……。
ちりんちりんと風鈴の鳴る音を聞きながら、縁側に腰掛け氷の浮いた桶の中に足を突っ込んで、首から手ぬぐいを下げて団扇で扇ぎながら、心から思う。
「何故涼しく過ごせるのに汗をかけと言うのだ」
童磨達に負担を掛けるが、その分カワサキへの食事の希望を言っても良いと言っているのだ。負担はあったとしてもそれ以上の返りがあるのだから無限城を涼しくさせても良い筈だ。
「またそれを言ってるのか」
「何回でも言うぞ。私は」
人化で太陽を克服出来ても、夏の日差しだけはどうしても好きになれない。
「仕事で外に出る時に夏バテしてたら話にならないだろうが」
「……それはそうだが」
貿易商として仕事に出る事は数多ある。それを考えれば夏バテで会食が出来ないとかでは相手に舐められて不利な条件を飲まされかねない。
「しかたない、我慢してやる」
「毎年それ言ってるけどな」
「やかましいッ!」
カワサキの突っ込みに五月蝿いと怒鳴り、手にしていた団扇を脇に置いた。
「暑い時はこれだな」
「喜んでくれるなら良いけどな、ちょっと詰めろ」
カワサキが私と自分の間に氷水の中にうどんを入れた桶をおいて詰めろと言うので、脇にずれるとカワサキも縁側に腰掛け氷水の浮いた桶の中に足を入れる。
「ほい、つゆ」
「うむ」
カワサキが調整しためんつゆを受け取り箸を手にする。
「「いただきます」」
2人でそう呟いて、氷水の中に浮かんでいるうどんを掬ってつゆにつけて啜る。良く冷えた手打ちうどんの歯応えのある喉越しと鰹節と昆布の風味が豊かなめんつゆの組み合わせは本当は良い。
「夏って感じがする」
「だなあ」
時々吹く風に揺られ風鈴が音を立てる音。何処から迷い込んできた蝉の一見五月蝿いとも取れる鳴き声も夏らしさと思うとそう悪い気はしない。
「ちょっと濃い口なのが良いな」
「食べてるうちに薄まってくるからな。ネギいるか?」
「もらおう」
めんつゆの中にネギを浮かべ、うどんと共にネギを啜る。ネギの食感と香りが加わり、鼻の中を良い香りが抜けていく……。
「美味い」
「喜んで貰えて何よりだ」
2人で並んで縁側に座り、時々揺れる風鈴の音を聞きながら冷やしたうどんを食べる。特別でもなんでもない、ありきたりな夏の一幕なのだが、これが何よりも得がたい日々のような気がする。
「夜は花火でもやるか」
「じゃあ昼飯を食ったら花火を買いに行くかあ」
のんびりとそんな話をしながら私とカワサキは冷やしたうどんを啜るのだった……。
まよねーずとか言うちょっと酸っぱい汁と和えられたうどんを梅と一緒に啜る。
「んー美味しい♪ ね、お兄ちゃん」
「おお、うめえなあ」
まよねーずって言うのはパンとかに良くカワサキさんが使うのは知っていたが、うどんにも合うっていうのは初めて知った。
「野菜も沢山食べれるしね」
「おう、好き嫌いしねえで食うのは良い事だぜぇ」
梅は好き嫌いがかなり激しいが、まよねーずが気に入ったのか文句も言わずうどんを口に運んでいる。
(やっぱみょうがうめえな)
うどんの歯応えの中のしゃきしゃきとしたみょうがの食感が加わると一気にうどんの食感が変化する。みょうが自体はあんまり美味い物ではないのだが、うどんとまよねーずとあわさるととんでもなく美味く感じるから不思議だ。
「ああ……やっちゃった」
「ったくしょうがねえなあ」
まよねーずを使っているうどんなのでそんなに汁が飛ばない筈なのに、服に跳ねさせてしまっている梅にしょうがないと言いつつ、濡らした手拭でしみにならないように汚れを拭ってやる。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「おう。今度はゆっくりと気をつけて食えよぉ?」
はーいと元気良く返事を返す梅。子供みたいな性格は変わりそうに無いが、俺にとっては可愛い可愛い妹だ。元気に明るく過ごしてくれればそれでいい。
「同席してもいいかの?」
「朱紗丸ッ! 良いわよ。ね、お兄ちゃんも良いわよね?」
「おう、いいぜ」
俺にべったりで人見知りだった梅も最近は友達が増えているみたいだし、そのうち兄離れするのかねえと思うと少し寂しいような気持ちになる。
「朱紗丸の何それ?」
「梅のじゃ、酸っぱいぞ?」
「なんで酸っぱいの態々食べるの?」
「身体にいいからと聞いたからじゃな」
梅肉入りのうどんを啜る朱紗丸に興味津々と言う様子の梅を見て、俺は1度席を立って布巾を取りに行くことにした。俺の予想が正しければ、布巾が必要になるからだ。
「すっぱーいッ!!!!」
「だから言うておろう。酸っぱいとな」
朱紗丸の食べていたうどんを食べたのだろう。吐き出す音と酸っぱいと騒ぐ梅の声を聞いて、俺は肩を竦めながら布巾を手に席へと引き返していった。どうもまだまだ梅の面倒は見てやらないといけないようだ……。
酸っぱいと叫んでいる梅に相変わらず騒がしい奴だと思いながら、玉壷とうどんを口にする。
「んーんー、この酸味が良い」
「確かにのう……」
まよねーずや、味噌の汁はどうもワシらの口には合わん。普通のめんつゆかこの梅肉合えが夏場の時期のワシと玉壷の昼食になることが多い。
「しかし、おぬしも大変じゃなあ?」
「何がですかな?」
「魚釣りじゃ」
玉壷は基本的に魚を釣りに行っており、無限城にいる時は竿を作ったり、工芸品を作ったりとワシらの中では1番多忙な鬼だと思う。
「大変と思った事は1度もないですよ。私は楽しんでおりますからな」
手で裂かれたささみと和えられた梅肉を口にしながら玉壷は本当に楽しそうに笑っていた。
「何故だ?」
「皆が喜んでくれるからですな。それを思え……すぱぁッ!? なんかやけに酸っぱいッ!?」
「しまらんのう……」
凄く良い事を言いかけていたのに梅の酸味に悶える玉壷。良い所で失敗するとは、本当にしまらない男だ。
「なーじいちゃん。まだ食べてるのか?」
「あそぼーよ」
「ええい、少し待て、今食べておる所だ」
子供達が着物の裾を引っ張ってくるのでワシは慌ててうどんを口にする。
「すまんが片付けおいてくれ」
「はやくー!」
「虫取りしよー♪」
子供達に手を引かれワシは食堂を後にするのだった。全く食べたばかりだと言うのに……困った連中だ。
「半天狗殿も似たような物ですが、気付いておらんのでしょうなあ」
子供に振り回される日々も悪くないと思っている半天狗は自分が振り回されているのに気付いていない。玉壷は引き摺られるように歩いていく半天狗を見て苦笑しながらうどんを再び口にして……。
「すっぱあ!? これ絶対おかしい!?」
尋常じゃない酸味の梅肉に悶絶し、慌てて水を口にするのだった……。
鳴女さんと何時も通り昼食に来たのですが……机の上を見て私は絶句した。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもないですよ?」
本当は凄くいいたい事はあります。ありますけど……凄く幸せそうなので、私は何も言えなかった。
「冷やしうどん、ブタヤサイマシマシ♪」
(……絶対違う)
鳴女さんの姿が隠れるほどの山盛りのうどん――それにごま油で和えたもやしのナムルに、薄切りの豚ばら肉がこれでもかと乗せられている。これは絶対うどんじゃないと思いながら、私はめんつゆの中に冷やしうどんを入れた。
「これはうどんですけど、中華麺で食べても美味しいですね」
「そ、そうですね?(もう半分もッ!?)」
私が半分食べるよりも先に山盛りのうどんが半分になっている事に驚いた。普段の食事だともそもそと美味しいのか、不味いのか良く判らない食べ方をしてますけど、うどんの時は凄く幸せそうに食べていますね。
「少し使って見ますか?」
「ありがとうございます」
味噌ダレを差し出されて、断るのもなんだなと思いそれを受け取ってうどんを浸して口にした。
「美味しいですね」
「はい、凄く美味しいです」
味噌を鶏の出汁で溶かしているからか味噌の香りに加えて、濃厚な鶏の旨みが口の中一杯に広がる。
(それにこれはしょうがとにんにくですね)
食欲を促進させるにんにくには血行促進、冷えを改善などの様々な効果が期待できる。しょうがも血行促進に冷えの改善、それに胃腸を整える効果もある。
「珠世さんもどうですか?」
「……食べます」
少し食べたら美味しくて、食べたいと思ってしまった。鳴女さんに誘われるまま私は席を立った。
「いただきます」
「美味しいですよ」
うどんを味噌タレの中につけて、口へ運ぶ。毎朝カワサキさんが手打ちしているうどんは歯応えが良く、喉越しも抜群にいい。そしてそのうどんに絡む味噌タレも最高に美味しかった。
「また食べ過ぎてしまいます……」
「元々の食が細すぎるんです」
鳴女さんと食事をするようになってから体重が増えていて、少し節制しようと思っていたのにまた食べてしまっている。
(ううう……これもカワサキさんの料理が美味しいのがいけないんです)
豚バラは塩茹でしているだけかと思ったら出汁でしっかりと下味がついていて、味噌タレに抜群に合う。それにもやしをごま油で合えたナムルもうどんに合わないと思ったらこれが驚くほどにあっていて……また食べ過ぎてしまうと思っても私の箸が止まる事は無く、鳴女さんに薦められるまま更にうどんをお代わりしてしまっているのだった……。
暑くて食欲が出ない等という泣き言は俺達には許されない。今この時代を生きる全ての人間に害を与える医者の鬼――それらと戦う為に常に身体は最善の状態で保つ必要がある。
「美味しいですね。狛治さん」
「ええ、美味しいです。恋雪さん」
恋雪さんが口にしているうどんとは異なり、たっぷりの挽肉とレタス、キュウリ、トマト、温泉卵を乗せたうどんを啜る。
(辛い、だがこれが美味い)
ピリリと辛い肉味噌の味、これが食欲を倍増させる。そして野菜と共に食べる事で栄養もしっかりと取る。夏場でバテていて医者の鬼を取り逃がしたなんて事はあってはならない。だからこそ、暑い時期でもしっかりと食事は取らなければならないのだ。
「ふふ、これはカワサキさんに教わって作ったんですよ」
「本当ですか、態々ありがとうございます」
「沢山作ったので頑張って食べてくださいね?」
それが鳴女の食べているうどんの倍近い量であっても俺は食べきらなければならないのだ(絶望)。
「狛治さんが沢山食べてくれるので、私も頑張って作っているんですよ」
「ありがとうざいます、恋雪さん。とても嬉しいです」
恋雪さんは最近料理の腕がメキメキ上がっているので食べること自体は苦ではない。問題なのは、日に日に量が増えている事だ。
(伝えるべきなのだろうか……)
もう少し少しでも大丈夫ですよ? というべきなのか、しかし恋雪さんが用意してくれている物にけちをつけるのはどうなのかと葛藤する日々だ。
「美味しいですか?」
「はい、とても美味しいです」
恋雪さんがとても嬉しそうなので言うべきではないと俺は判断した。頑張って食べればいい、それに味が良いから食べる事に何の問題も無い。そう、食べた後はしっかりと鍛錬を積んで、食べた分を全て己の血肉にすれば良いのだ。
「やぁ、猗窩座殿も肉味噌うどんかい? これ美味しいよねえ」
童磨が嬉しそうに声を掛けてくるが、そのうどんは紅い、もうそれこそ血のように紅い。その皿から漂ってくる香りには痛みさえ伴っている気がする。
「うっ」
「大丈夫ですか!? 恋雪さん」
そのうどんから漂ってくる香りで顔を顰める恋雪さんの背中を撫でながら童磨を睨む。なんて物を持ってきてくれたのだと、本気で俺は童磨を睨んだ。
「恋雪さんが苦しんでいる。離れろ」
「ええー酷くない?」
「酷くない、別の机に行け」
そんなに睨まなくてもいいのにとぼやいて歩いて行く童磨。擦れ違う者
「大丈夫でしたか?」
「は、はい、でも童磨さんの辛い物好きにも困りましたね」
匂いだけで痛い物を良く食べれると俺も正直そう思う。ピリ辛くらいなら美味しく食べられる、だが食べただけで汗が噴出し、全身と喉に痛みの走るあれは絶対に駄目だ。あれは毒と同意義だと思う、というかあれを普通に食べているカワサキ様が実はどこかおかしいと正直偶に思っている。
「かっらあああああああああああーーーーッ!!!」
食堂中に響くような大声で苦しみ悶え、また溶けている童磨を見て改めて童磨は異常者だと俺は思うのだった……。
無限城 ひそひそ噂話
「兄上、どうぞ。頑張って作りました」
ずいっと差し出されたうどんの皿を見て巌勝はその顔を歪めた。
「……まさかお前が作ったのか?」
「はい!」
「食わんぞ」
剣の才能以外を捨ててきた縁壱が起してきた様々な悲劇を巌勝は知っている。だから食べないとどれだけ見目が良くてもお断りだと拒否する。
「大丈夫です。ただ乗せてタレを掛けただけです。失敗などするわけが無いッ!」
だから大丈夫ですと念を押す縁壱に巌勝の方が結局折れてしまい、縁壱が差し出してきたうどんを口にした。
「美味い……だと!?」
「やったあああああああーーーーッ!!」
今まで作る料理全てがダークマターもしくは危険物質だった縁壱だが、大正時代に入って他の者が事前に材料の計量を全て済ませたうえで火を使わない、味付けしない、乗せるだけ、混ぜるだけならば調理可能という事実が明らかになったのだった……。
メニュー31 初めましてのおかきへ続く
今回は色々な視点で書いてみました。好みの味や、ほのぼのした感じで書く事が出来たと思います。次回は黒狼@紅蓮団様様のリクエストで「おかき」という事でまた鬼の過去話、妓夫太郎と梅ちゃんの話を書いて見たいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない