【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー31 初めましてのおかき その1
忙しい昼食時を終えて、緑茶を啜ってのんびりとしていると妓夫太郎と梅が珍しく揃って俺を訪ねてきた。
「どうかしたか?」
「いやよぉ……ちっとカワサキさんに頼みたい事があってなぁ……」
頬を掻きながら言う妓夫太郎になんだ? と尋ね返すと、2人は小さな巾着袋を俺に差し出してきた。
「おかきを作って欲しいの! 前みたいにッ!」
「駄目かあ?」
「そんなに時間が掛かるものじゃないから良いぞ。これで作ればいいのか?」
2人が差し出してきた巾着袋には今年の正月に作った餅が入っていた。おかきを作って欲しくて、それをカビ無いようにしていたのだと判り、苦笑しながら尋ねる。
「うん! それで作って欲しいの! 私のはね、お兄ちゃんので、お兄ちゃんのは私のなんだ」
「判った判った。混ざらないように作るよ、出来たら持って行くな」
ありがとうと笑顔で言う梅と申し訳なさそうにしているが、それでも嬉しそうにしている妓夫太郎を見送り、受け取った角餅をまな板の上に乗せる。
「本当性格が出てるよなあ」
梅は四角ではなく、ちょっと楕円形っぽい中途半端な四角だが、妓夫太郎はまるで定規で測ったようにきっちりとした四角になっている。こういう所でも性格が出るよなと苦笑し包丁を手に取る。おかきを作るのはそう難しいものではない。むしろ片手間で作れるような物なので、あんなに気にしなくてもいいのになと思いながら、餅を1cm角の賽の目状に切り分ける。
「塩と青海苔と……後はガーリックパウダーと山椒で良いか」
めんつゆとかを使って濡れ煎餅風にするのも美味いが、シンプルに塩と青海苔を小さじ1ずつ混ぜた物と、ガーリックパウダーにパセリと岩塩を混ぜた物、そして醤油と山椒の3種類もあれば2人も満足だろう。
「しかし、おかきか……そう思うと妓夫太郎達とも長い付き合いになるよなあ」
付き合いの長さで言えば巌勝の次くらいに妓夫太郎達との付き合いって長いんだよな。俺は180度くらいにまで暖めた油の中に切った餅を入れながら妓夫太郎と梅に初めて会った時の事を思い返していた。あれはちょうど秋の中頃、少しずつ寒くなり始める時の事だった……。
「お前は本当にいいのか?」
「遊郭なんて場所に足を踏み入れるのは御免こうむる。巌勝と行ってくれ、俺はこの辺りをふらふらしてる」
「……危険だぞ?」
「自分の身くらいは守れる。さっさと行け」
別に遊郭が不潔とかそういうんじゃない。別に俺だって男だし、正常な恋愛感情だって持っている。それでもだ、遊郭なんて場所は恐ろしくてしょうがない。こう云う所って拗らせた相手とか多いんだろ? あのお嬢様の同類みたいなのがいたらと思うと俺はとてもではないが遊郭で交渉に行くと言う無惨に付き添うという選択は無かった。
「カワサキとて、腕は立つ。そう心配する事はないと思うが、気をつけろよ」
「おう。そっちも気をつけろよ」
医者の鬼はもう俺達だけで倒すには数が増えすぎた。しかも鬼殺隊が無惨を追っているとなれば下手をすれば挟み撃ちになる。それを避けるためにも、無惨や巌勝が助けた相手を取り入れて、経済的に、そして社会的な地位を築かなければそろそろ自由に動くのも難しくなってきた。今日はその第一歩なのだが、交渉場所が遊郭ってどうなんだろうな? 普通料亭とかじゃないのだろうか? と思いながら散歩を始める。
(まぁこんなもんか……)
遊郭がある通りは華やかなもんだが、一歩裏路地に入ればそこはスラム街のようになっている。これはリアルでも同じだった、富を持つ者とそうではないもの……コインの裏と表のように、遊郭街は富裕層と貧民層がいるように完全に分かれた世界を現していた。
「お兄さんよ、金くれよ。命が……「命が惜しかったら何だ?」ひっ、い、いやあ、すんません」
短刀を向けてきた男の言葉を遮って裏拳で刀身を砕くと、顔を引き攣らせて逃げていく。俺から金を巻き上げようとしていた連中も拳1つでドスを砕かれたのを見て慌てて逃げていく姿が見える。
「これで少しは歩きやすいか」
川沿いの紅葉を見つめながらのんびりと歩いていると小柄な影が2つ。手から血が滲んでいるにも拘らず、必死に地面を掘っていた。
(こいつはひでえ)
骨が浮くほどに痩せ衰えた兄は梅毒だろうか、酷い形相だ。それに対して妹はモデルやアイドルと言ってもいいほどの美少女だが、頬が痩せこけ、兄と同じで必死の形相で地面を掘っている。その姿を見て、俺は思わず声をかけていた。
「おい、腹減ってんのか? これ食うか?」
ちょいと摘む程度に作っていたおかきの入った巾着袋を2人に差し出しながら、そう尋ねるのだった。
食うものが無く、木の根を掘り起こして食おうと思い梅と必死に地面を掘っていると突然背後から声を掛けられた。
「おい、腹減ってんのか? これ食うか?」
と尋ねてきた声に振り返るとそこには小奇麗な着物に身を包んだ。いかつい顔の男が巾着を差し出していた。
「良いの? あり……お兄ちゃん?」
巾着袋に手を伸ばそうとした梅の手を掴んで止める。どう見てもこの男は堅気じゃねえ、ほんの少しの食い物と引き換えに梅を売るなんて真似は出来ない。
「施しは受けねえ……どうせ梅を寄越せって言うんだろ? 俺から梅を取りあげようなんざ許さねえッ!」
着物の帯の鎌に手を伸ばそうとした時。男はうーんと唸り、手をぽんと叩いた。
「俺はここに来るのが初めてでな、案内してくれよ。そしたらこれやるかるさ」
「……俺と梅に案内しろってか?」
「駄目か?」
なんだこいつ……こんな大人見た事が無い。蹴られるか、殴られるか、石をぶつけられるか、俺の扱いなんてそんなもんだ。俺から梅を、妹を取り上げようとする奴は大勢見てきたが、案内してくれなんて言って来た奴は初めてだった。
(まぁ良い。もしも梅を取り上げようとすれば、人通りの無い所で殺せば良い)
俺はそう思い、案内してくれという男の頼みを引き受けた。それが俺とカワサキさんが出会った時の事だった。
「案内って言ってもよ。羅生門彼岸にろくなもんはねえぞ?」
「別に良いだろ? 俺が見たいんだよ」
「ヘンな奴、遊郭に行かないでこんな所を見てえなんてよ」
遊郭に行くならまだしも、病気や足抜けをしようとして流刑された花魁がいるような羅生門彼岸を見て歩きたいなんざ、変人、奇人の類にしか見えなかった。
「なんでこんな所を見たいって言うの?」
「そうだな……俺もこういう所にいたからだ、嬢ちゃん。努力して、苦労して、這い上がって……それでも俺のルーツって言うのはこういう所にあるんだよ」
「「る?」」
聞き覚えの無い言葉に尋ね返そうとしたが、その言葉は出てこなかった。一体どういう言葉なのかと思っていると男は小さく笑った。
「原点、始まりって言う意味だ。まぁ、大した意味何ざねえさ」
そう笑い。俺と梅に案内されるまま羅生門彼岸を歩く男――何の疑いも、迷いも無く付いてくる男にこいつに危機感って物はないのかと正直呆れた。
「お前、危ない所に連れて行かれるとか思わないのか?」
「お前はそう言う事しないだろ? 対価を払ったなら、お前はちゃんと俺を案内してくれる。そうだろ?」
逆にそう尋ねられ、俺は言葉に詰まった。奪われる前に奪え、取り立てろ。それが俺の生き方であり、口癖だった。先に与えられたのなら、奪ってはいけないのではないか? そして俺はそれを無意識に実行してたと言う事に言われて気づいたのだ。
「それにだ。自分の家族を必死で守っているお前は、好感が持てる。兄貴として頑張ってるな、お前」
「そう! 私のお兄ちゃんはいつも私を守ってくれるのよ!」
「そっかあ、良い兄貴だな」
「うん!」
なんだよ……こんな大人……俺はしらねえ。騙されているのかと思うのが当たり前なのに、何の確証もないのにこの男は信用出来る。そんな風に俺は思ってしまうのだった……。
お兄ちゃんと私に道案内を頼んだ変な男――最初はそう思っていたけど、お兄ちゃんにも優しいし、私にも案内をしてくれたという理由でお菓子をくれた。
「悪いなあ。今はこんなもんしか無くてな、勘弁してくれよ」
差し出されたのは1口で食べれるような白い塊。見た事が無いそれに、お兄ちゃんと顔を見合わせる。
「これあられか?」
「え? 嘘、これあられなの!?」
こんなに綺麗なあられを見たのは初めてだった。私の知っているあられって言うのはもっと黒いものなんだけど、これは白かった。
「これは塩と青海苔、これは山椒、ちょっとピリリとしてる、んでこれはにんにくの粉を使ってる」
あられなのに複数の味があると言うのに驚いた。
「お前料理人か?」
「そうだぞ? ちょっと付き添いでこっちまで来たんだ」
「料理人! 凄いね! いただきまーす!」
料理人が作った物なら間違いないと思い、あられを摘んで頬張った。かりっと言う強い歯応えと鼻に抜ける香りが口一杯に広がった。
「おいしー! お兄ちゃんも食べて食べて! 凄く美味しいよ!」
「お、おう。そうか」
お兄ちゃんもあられを頬張って、目を見開いている。
「うめえ……なんだこりゃあ……初めて食う味だ」
「はは、喜んでもらえて何よりだ。ほれ、遠慮しないで食え食え」
食べろ食べろと差し出され、今度はにんにくの粉? って奴がついているやつを口の中に入れた。
「んんー♪ これも美味しい!」
「ほんとだ、うめぇ……」
強い塩の味に負けないくらい濃い香りと味が口の中に広がった。小気味良い音を立てるあられが美味しくて、少し辛いと言われたそれも勢いで口の中に入れた。
「っつう!?」
「むうッ!」
「はは、刺激が強すぎたか。悪いな」
辛いというよりは痛いと感じた口の中に針が刺さったように感じたんだけど、でもそれでも美味しかった。
「ううん! 美味しい!」
「ちっと痛いけど、美味いぜ」
「そうかそうか。良かった」
にこにこと笑う男は私達の知らない大人だった。私をお兄ちゃんから引き離そうとする大人とも、お兄ちゃんを罵倒する大人とも違う。こんな大人を私もお兄ちゃんも初めて見た。
「あ……もう無くなっちゃった」
「……そだな」
話をしながら頬張っていたから味もじっくり味わわずに食べてしまった。これだけ美味しいんだからもっとゆっくり食べれば良かったと肩を思わず落とした。
「しょうがねえ、俺の昼飯だけど食って良いぞ」
そう言って差し出されたのは白い米のおにぎりだった。こんな高級品見た事が無かった……思わずごくりと喉を鳴らした。
「俺達になんでそこまでするんだ?」
「あん? 別に悪巧みしているとかはないぞ? 腹が減ったら怒りっぽくなる、世の中全部が敵に見えてくる。誰だってそうさ、この世で1番の敵は空腹だ。生きる為に飯は必要だ、食わなきゃ人は死ぬ、動物だって死ぬ。だからこの世で1番の敵は空腹さ、だから腹が減ってるなら飯を食え」
遠慮しないで食えと言って差し出された白い米のおにぎりをお兄ちゃんと1つずつ手に持った。ずっしりと重いそれに目を輝かせて、齧りついた。
「美味しい!」
塩握りだけどお米の甘い香りと味が口の中一杯に広がる。こんなに美味しい物。私もお兄ちゃんも食べた事が無かった。
「そうかそうか、良かった良かった」
ゆっくりと噛み締めるようにおにぎりを食べる。こんなの絶対2度と食べれないと思ったからだ、ゆっくりゆっくり噛み締めるようにおにぎりを口にする。
「美味しかったよ。ありがとう!」
「あんがとよ」
「案内してくれたお礼だよ、気にするな。さてとッ! 俺ももう行くかな」
膝をパンと叩いて男はゆっくりと立ち上がった。その姿を見て、思わずもう行っちゃうの? と尋ねた。
「連れが待ってるんでな。でも暫くはこの遊郭に来るだろうし、また会いに来るよ。じゃあな」
手を振って歩いていく男――この時は私は名前を知らなかった、だけど、優しい人がこの世界にはいるんだと私もお兄ちゃんも思った。そして約束通り、明日も尋ねてきてくれた時に初めて私は男の名前がカワサキと言うのだと知るのだった……。
そしてそれが私とお兄ちゃんの人生を大きく変える転機になるとはこの時の私もお兄ちゃんも思っていなかった。だけど、この出会いが間違いなく、私達を救ってくれた最初の出会いなのだった……。
「良し、出来た」
油の中で泳がせて綺麗に膨らんだあられを穴あき御玉で掬って油を綺麗にきって、それぞれの味付けのバットの中に入れて味を馴染ませる。
「ほっと」
山椒のやつだけは、醤油を回し掛けてして、全体を軽く馴染ませて山椒を上から振る。
「さてと行くかなあ」
出来上がったあられを手にしてカワサキは厨房を出て、妓夫太郎と梅の部屋に向かって歩き出した時に気づいた。
「そっか、もうこんな時期なんだよな」
カワサキが初めて妓夫太郎と梅にであった季節であるという事は、2人が鬼になった日も近いと言う事だ。その事に気付いたカワサキは小さく溜め息を吐いた。
「世の中はままならん事ばかりだ」
カワサキと出会った事で2人は鬼となり、命を取り留めた。それが幸か不幸か……カワサキにはその判断が付かず、間に合っていればなと小さく呟いてその場を後にするのだった……。
メニュー32 初めましてのおかき その2 へ続く
今回はシリアス形式なので、ひそひそはお休みです。鬼になるルートが童磨ではなく、カワサキさんが理由だったというルートになります。問題児の扱いには割りと慣れているので、カワサキさんは妓夫太郎と梅と友好的な邂逅が出来たのだと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない