【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー33 冷汁

メニュー33 冷汁

 

カワサキが玉壷達と釣りに行っている時に保護したくのいち――幽玄は珠世達の手厚い看護で元気を取り戻し、バランスの取れた食事とリハビリで衰えていた筋力なども十分に取り戻し、今では魘夢と共に情報収集の要として活躍してくれていた。

 

「お前達が拾ってきたくのいち。悪くないな」

 

「拾ってきたって言うな、保護したと言え」

 

拾ってきただと捨て犬か何かを連想させるので駄目だとカワサキに注意されながら、カワサキが差し出し味噌汁の椀を受け取り口をつけようとした時に私室の襖が勢い良く開いた。

 

「何だ? 鬼殺隊に補足でもされたか?」

 

緊急時以外は私室を許可無く踏み入れることは許していない。私が緊急時と認めているのは大きく分けて4つ――1つ鬼殺隊に万世極楽教が私達の協力者であると知られた場合、1つ鬼殺隊に補足された場合、1つ医者の鬼を見つけた場合、1つ医者本人を見つけた場合――この4つ以外は食事の際に許可無く私室にやって来ることは禁じている。襖を開けた人間を見て、私は眉を細めた。開いた襖の下で深く頭を下げて……いや土下座していると言っても良い幽玄にそう尋ねた。

 

「このような事を頼める身分ではないのは承知です。ですがお2人に頼みがあります、医者の鬼の予備に選ばれた私の弟をお助けください。なんでもしますゆえ、なにとぞお願い申し上げます」

 

医者の鬼は何度倒しても天津が生きている限り同じ能力を持った鬼が作り出される。同じ能力の鬼が複数体同時に出現すると言う事は無いが、倒しても復活し、そしてより強力な能力を有していると言うのは何度も見ている。

 

「無惨」

 

「言われなくても判っている」

 

幽玄の身体能力は非常に高い、全集中の呼吸を使えなくても鬼になったばかりの相手なら圧倒出来るだけの能力を有している。それの弟となれば幽玄に匹敵する能力を持っていると言っても良いだろう……最近討伐に成功した医者の鬼は確か、炎を扱う能力者と飛び道具の使い手だったはず――そのどちらも忍者という下地を持つ相手なら極めて相性が良い筈だ。より厄介な能力に開眼することも考えられる……私は手にしていた味噌汁の椀を机の上に戻して立ちあがった。

 

「鳴女。黒死牟と縁壱、それと猗窩座を呼べ、私も出る」

 

状況が状況だ。医者の鬼の予備に選ばれた事を考えると天津自身がいる場合もある――危険は承知だが、私も動かざるを得ないだろう。

 

「気をつけてな」

 

「判っている。幽玄案内しろ、時間はないぞ」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

畳みに頭をこすり付けて感謝の言葉を口にする幽玄。しかし感謝の言葉を聞いている時間は私達には残されていない、月が頂点に差し掛かろうしている。

 

「急ぐぞ、時間が無い」

 

琵琶の音が鳴り響き、どこかへと落ちていく感覚を感じながら残された時間、そして救出出来る確率を頭の中で計算する。

 

(最大戦力での強行突破――それしかないな)

 

天津の血鬼術は1000年近く戦っているが依然その全容を掴めていない。回復・防御・攻撃・認識阻害――例を挙げるのが馬鹿らしくなるほどに天津の術は効果の範囲が広い。そして複数の血鬼術を同時に使うという馬鹿げた事もやってのける……それでも僅かに掴めている事がある。それは月の満ち欠けによって術の範囲、そして威力が大きく左右されるということだ。

 

(良い機会だ。確かめてみるのも良かろう……)

 

強力な1つの能力に特化した医者の鬼――再生能力、血鬼術の種類。そして圧倒的な身体能力。倒しても別の個体として復活するその不死性――総合的な能力を見ると医者の鬼は私達よりも遥かに強い。倒れた個体が復活する所を私達はただの1度も見たことが無い、しかし今回はそれを見届ける事が出来るかもしれない。幽玄には悪いが、助けれるならば助ける。だが無理ならば、天津がどうやって同じ能力を持った鬼を増やしているのか、それを知る為に見捨てる事になる可能性もあるだろうと考えながら、着地と同時に腰に指した刀を抜き放ち振るった。

 

「不死殺しとやらの威力を存分に味わえ」

 

カワサキが持っている不可思議な道具の1つ。回復を阻害する刀(HP最大値ダウン・リジェネ無効・蘇生無効のパッシブ付き、対アンデッド・吸血鬼特攻装備)によって切り裂かれた鬼達が崩れ落ちると同時に私達は幽玄の案内で、厳重な警護が敷かれた日本家屋の中に突入して行くのだった……。

 

 

 

 

昨晩の戦いは明朝まで続いた。何でも鬼殺隊も天津を疑っていたらしく、途中で無惨一派VS鬼殺隊VS天津の3つの陣営が入り乱れとんでもない大騒動になったらしい、乱戦の中で幽玄の弟は救出出来たが、本命の天津の討伐は失敗した上に、鬼殺隊の1人――巌勝が言うには鬼殺隊の最高戦力である柱もしくは1つ下の階級の甲の男が幽玄の弟の変わりに新しく医者の鬼にされたとの事……同じ能力を持った鬼を増やす方法も判らず、やっとの思いで炎を操る鬼を倒したと思ったら鬼殺隊の型を習得している炎の剣を操る医者の鬼が生まれた……総合的に見ると天津の1人勝ち――それに加えて鬼殺隊に無惨達が目撃されたと踏んだりけったりの結末になってしまった。

 

「運が悪かったな」

 

開いた鯵を焼きながら思わずそう呟いた。無惨の話では幽玄の弟を救出した段階で無惨達と鬼殺隊は天津に押されていて、即座に撤退を選んだ無惨達と鬼は殺すっと叫んで突撃した鬼殺隊のせいで逃亡に1度失敗し、天津と鬼殺隊の挟撃に追い込まれたらしい。鳴女がいなければあの段階で全滅していたかもしれないと無惨は言っていた。そしてそれと同時に戦況と状況を見極める事すら出来ない鬼殺隊は異常者だと憤っていた。なんせ囚われていた人達を救助して回っていた狛治にさえ刃を向けたというのだから救いようが無いと言うのはこの事だろう……。

 

「何とも言えんな本当に」

 

家族を、大切な相手を殺害されたから鬼を憎むのは判る。だが人助けをし、自分を助けてくれた筈の巌勝達にさえ刃を向けるとなればそれは鬼という存在を盲目的に憎み、物の本質を見ることが出来ていないと言う事だ。鬼殺隊との協力は俺が進言したことだが……余計なお世話だったかも知れない。そんなことを考えながら焼きあがった鯵の開きをまな板の上に乗せ、頭と中骨を取り除き、皮も綺麗に剥がす。

 

「どうすればいいんだろうなあ……」

 

憎む事は当然。だがそれに目を曇らせ、手を取り合える相手にも刃を向けるのでは鬼殺隊と名乗っておきながら鬼と大差が無い。すり鉢の中に白ゴマ、身だけにした鯵を加えて磨り潰しそぼろ状になったら麦味噌を加えて混ぜ合わせ、冷やしておいた出汁を加えて伸ばしながら混ぜ合わせる。良く混ざったら塩もみしたキュウリ、そして水気を切った木綿豆腐を手で握り潰しながら加えて全体をざっと混ぜ合わせる。

 

「さてと、持って行くか」

 

保護した幽玄の弟――虎郎はかなり衰弱しているので食べやすく、栄養価も高い冷汁にした。本当なら衰弱している相手に冷たい食事はご法度なのだが、炎の鬼の力を継承する儀式に途中までとは言え参加させられていた虎朗の体温は異常に高く、氷水でさえも数分でお湯に変えてしまうほどの異様な体温が続いている。珠世の診察結果では血鬼術の影響に加えて、鬼の能力の継承の儀式の影響であり、仮に持ち直しても何らかの異能に加えて、鬼に変化する可能性もある。そして何よりも持ち直す確率は3割も無いとの事だ……冷たい食事で少しでも手助けになればと思い作った冷汁を手に、童磨が常に血鬼術で冷凍庫並に温度を冷やしている虎朗の部屋に足を向けるのだった……。

 

 

 

熱い……それだけが俺が認識出来る全てだった。ひたすらに熱い、そして息も出来ないほどに苦しい。それなのに眠ることも、気絶することも出来ない地獄――これが父上の命令で宇随の名を再び広める為に暗殺などを続けた末路となれば、その業は受け入れなければならない。

 

「大丈夫。虎朗は悪くないわ」

 

「あ、姉上……もう結構……です」

 

唇が青く、震えている死んだ筈の姉上が俺を必死に看病してくれているが、自分でわかっている。最早俺は助からないと……父上が鬼に大枚で俺を売り払い、長い時間を掛けて何かの儀式に使われた俺は死ぬに違いない。

 

「駄目よ。死んだら駄目」

 

「……で、ですが」

 

「弱気な事は聞きません」

 

自分も辛いだろうにそれなのに凜とした態度を崩さない姉上に心から感謝した。このまま死ぬとしても、もう会えないと思っていた姉上にもう1度会えた。それだけで何よりも幸福な気がしていた……誰にも看取られる事のなかった姉や、弟の事を思うと自分がとても恵まれている気がした。

 

「失礼するぞ」

 

「これは、カワサキ様。このような姿ですみません」

 

「気にしなくて良いさ。さてと、初めましてだな。俺には大した権力も力も無いが、無惨と一緒にこの城を仕切ってるカワサキっつうもんだ」

 

無惨……それは俺を助けてくれた赤目で黒髪の男の名前――この黄色い謎の生き物がとんでもない権力を持った相手だと判り、身体を起こそうとすると姉上が手をかしてくれた。

 

「う、うず……い……虎朗……です。この……」

 

「良い良い。無理すんな、元気になってから聞くよ。これ、飯作ってきたから虎朗にやってくれ。汁を飯にかけて食べると食べやすいだろう。幽玄の分は食堂で用意しておくから、後で珠世が来たら1回交代しろよ」

 

「はい、判りました。ありがとうございます」

 

姉上が頭を下げるとカワサキ様は部屋を後にした。

 

「これはなんだろうか」

 

胡瓜が浮かんだ茶色い汁……味噌汁だろうか? 米の上に掛けろと言っていたが……お茶漬けのような物なのだろうか? 姉上が汁を白米の上に掛けて匙で掬う。

 

「じ、自分で……」

 

「こういう時くらいは甘えなさい」

 

向けられた匙に恥ずかしいと思いながら口を開くと、姉上が匙の中身を俺の口の中に入れた。

 

「……」

 

「どうですか?」

 

「お、美味しい……です」

 

口に入れたところから熱く火照っていた身体が冷えていくのを感じた。麦味噌と白ゴマの良い香りが鼻へと抜けると思わずほうっと溜め息を吐いた。

 

「はい、どうぞ」

 

しゃきしゃきとした食感の胡瓜。塩味と歯応えが良く、ひやりと冷たい飯の冷たさが実に心地良い。

 

「魚も入って……いるんですね」

 

「そのようですね。良く海に釣りに行かれているようですから」

 

海の魚――山の中で隠れて暮らしているので滅多に口にすることの無い高級品だ。姉上もそれに気付いて、魚の身を掬って口の中に入れてくれた。

 

「……美味い」

 

「良かった。カワサキ様には感謝しかありませんね」

 

脂の乗った濃厚な旨み――岩魚や山女にはない強い味。こんな味は初めてだ、それに食べていると判るが、この魚の出汁が汁の中に溶けているのか。汁自体も濃厚な旨みがある、それこそこの汁一杯で丼飯を食べれるほどの味だ。

 

「どうする、お代わりあるけど……先に汁だけ飲む?」

 

「お願いしようかな」

 

食事なんか食べられれば良いって思っていたのだが、これは全然違う。1口ごとに身体に活力が満ちてくるのが判る……その証拠にさっきまでは喋るのすら辛かったし、食欲なんか無かったのに、今は食欲を感じる。きっと、あの姿同様不思議な力を持っているのは間違いないだろう。

 

「カワサキ様は凄く良い人よ、それに料理も上手。だから早く身体を治して、いっぱい食べられるようになるのよ」

 

「そう……だね。でもそれだと俺が食い意地張ってる見たいになると思うんだけど……」

 

「カワサキ様が言うには食べる事は生きる事。食い意地じゃなくて、生きようとしているの。それは悪いことじゃないわ」

 

食べる事は生きること……か、確かにその通りかもしれない。死んでも良いと思っていたのに、まだ死にたくない。もっと食べたいと思っている。自分でも単純だと思うが、本当にその通りだと思う。

 

「もう一杯。今度はご飯を多めで」

 

俺の頼みに笑顔で返事を返してくれる姉上。姉上だけではなく、カワサキ様にもちゃんと感謝を言わなければと思いながら、俺は3杯目の米を姉上に口に運んで貰うのだった……。

 

 

メニュー34 トンカツへ続く

 

 




無限城ひそひそ、今回もお休みです! 申し訳無い! この感じでクレイジー縁壱は書けませんでした。すいません、次回はひそひそはいれますが、鬼殺隊サイドのシリアスな感じになるので、本編のほうでクレイジー縁壱を書こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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