【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー34 トンカツ

メニュー34 トンカツ

 

朝食が終わり少し一息つけるかなと言う所で恋雪が俺を訪ねてきた。それ自体はそう珍しい事ではない、恋雪は狛治のために常に新しい料理と狛治の好物を作る為に色々と尋ねて来ている。もう100年近く経つが、それでもこの幸せ一杯の新婚夫婦という感じの2人を見れば、恋雪がまた狛治の為に料理を教わりに来たという事を察するのは簡単な話だった。

 

「トンカツ? それは前も作り方を教えてやっただろ?」

 

しかし今回はトンカツの作り方を教えて欲しいと尋ねて来たので、思わずそう尋ね返した。トンカツとカツ丼は狛治が大好物なので1番最初に教えた料理だ。それを改めて教えて欲しいと言う恋雪にそう尋ねかえると、恋雪は着物をきゅっと握り締めた。

 

「そのお父さんと狛治さんが良く食べていたって言うトンカツを知りたくて」

 

「そう言うことか、OK。判ったよ」

 

俺が恋雪に教えたのは一般的なトンカツだ。だが恋雪には父であり、そして狛治には師である慶蔵が好んだトンカツは恋雪に教えた物とは全くの別物なのだ。とにかくでかいのが食べたい! と言う慶蔵のリクエストに答えた品で、通常はとても作らないトンカツになる。

 

「少し仕込みに時間が掛かる。半時ほどしたら来て欲しい」

 

「判りました……それと、その……」

 

「判ってる。ちゃんとお供え物に出来るようにするよ」

 

ぱぁっと華の咲いたような顔で笑い頷いた恋雪を見送り、豚ロースを塊で冷蔵庫から取り出して常温に戻しながら腕を組んだ。

 

「忘れてたな……ったく、どうしようもないな。俺は……」

 

常連で、良く話をして友人だったのは間違いない。それなのにそれを忘れていたという事、そしてそれを疑問に感じなかった事……自分の知らない所で自分が削れている……そんな気がして、俺は深く溜め息を吐くのだった……。

 

 

 

 

お父さんと狛治さんが大好きだったと言う巨大なトンカツ……それをお父さんの命日に供えたいと思ったのと、そして狛治さんにも食べて欲しいと言う思いでカワサキさんにその作り方を教えてくださいとお願いしたのですが……。

 

「んん、ふうっ!!」

 

「大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です! んッ!!!」

 

豚ロース肉を肉きり包丁で4cmほどの厚さで2枚切り出しただけで私は息切れを起していた。

 

「やっぱり俺が切った方が良かったんじゃないか?」

 

「だ、大丈夫です……ふう」

 

肩で呼吸を繰り返して呼吸を整えてからまな板の上を見る。普段作るトンカツの倍近い厚さの豚肉に正直驚いたのと、これがお父さん達が好きだったトンカツなのかと思わず考え深い物を感じていた。

 

「筋切りは判るな? 普段よりも丁寧に筋切りをして、表面に軽く隠し包丁を入れるんだ」

 

「はい」

 

包丁の先で脂身と肉の間に切れ込みを普段より細かい感覚で切れ込みを入れて、言われた通り表面にも軽く隠し包丁を入れる。カツが分厚いので噛み切りやすくするための工夫だろう。

 

「んで肉叩きで思いっきり叩く」

 

「はい」

 

肉叩きを受け取り叩いてみたんですけど、カワサキさんがなんとも言えない顔で私の手から肉叩きを取り上げた。

 

「これは俺がやろう」

 

「……はい」

 

どうも私では力が足りなかったようだ。カワサキさんがだんだんと肉叩きで豚肉をリズムカルに叩く姿を見ているとカワサキさんがふと私のほうを見た。

 

「墓参りの時俺も行って良いか?」

 

「はい、お父さんも喜ぶと思います」

 

一緒に墓参りに来てくれるというカワサキさんに私はすぐに返事を返した。良く道場に顔を見せていてくれたこともあるし、きっとお父さんも喜ぶと思う。

 

「そうか、ありがとな。肉を叩き終わったら形を整える。目安としたら叩く前の形くらいの気持ちで良い」

 

「判りました」

 

叩いて伸ばされた事で少し薄くなった豚肉を寄せて形を整える。こうやって元の形に戻すと、このトンカツが凄まじく巨大なのが良く判る。

 

「両面に塩胡椒。大きいから手ですり込んだ方が良いな」

 

言われた通り表面に塩胡椒を振って手で丁寧にすり込んで、引っくり返して裏面も同じ様に塩胡椒をすりこんだ。

 

「よし、これで豚肉の下拵えは終わり。次は油を用意するんだが、油は160度の低温と200度の高温の2つを用意する」

 

「何故2つ用意するんですか?」

 

「低温のほうに冷たい状態で揚げてじっくりと火を通して肉汁を閉じ込める。次に高温の油で一気に揚げる事でサクサクの食感になるんだ。特に今回は豚肉が大きいから1回揚げるだけじゃ足りないんだ」

 

豚肉だからしっかりと火を通さないとなというカワサキさんに頷き、大き目のフライパン2つに油を注いだ物と、加熱して暖めた物を準備する。

 

「油を温めている間に衣の準備。卵にサラダ油を入れて軽く混ぜる。ここは判るな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

ここからは私も判るので、カワサキさんに後から見て貰いながら揚げる準備を整える。薄力粉を塗して、サラダ油を混ぜた卵に休ませておいた豚肉を潜らせる。

 

「パン粉は普段と違って押し付ける感じで良い。でかいから落ちやすいからな」

 

「はい」

 

普段と違う工程の所はカワサキさんがどうすればいいか教えてくれるので安心して調理を進めることが出来る。

 

「両面軽く焼き色が付くくらいで良い、じっくり揚げる感じで良いぞ」

 

「判りました。よいしょ」

 

両手でゆっくりとフライパンの中に入れる。普段より弱い音を立ててフライパンの中でトンカツが揚げられる、片面が狐色になった所で引っくり返そうとするとカワサキさんにトングを差し出された。

 

「菜箸じゃ引っくり返せないからな。トングで挟んで引っくり返すんだ」

 

「なるほど、判りました」

 

トングでしっかりと豚肉を挟み引っくり返して反対側もしっかりと狐色になるまで揚げる。

 

「よし、そこで油から出してバットの上にからげて少し休ませる。これで中にもしっかり火が通る、最後に200度の油で両面しっかり揚げたら完成だ」

 

油の中で揚げられているトンカツをジッと見つめる。狛治さんが喜んでくれるかな? 私はそればかりを考えて、早く揚げ終わらないかなとそわそわしながら見つめているのだった……。

 

 

 

 

 

恋雪さんが今日は特別な昼食を準備するので楽しみにしていてくれと言っていたが……前の小山のようなカツ丼ではなかろうか? と内心恐怖していると満面の笑みを浮かべた恋雪さんが俺と恋雪さんの部屋にお盆を持ってやってきた。

 

「……こ、これは……」

 

普段のトンカツよりも巨大で、そして厚みのあるそれを見て思わず声が震えるのを感じた。

 

「はい、お父さんと狛治さんが大好きだったと言う、カワサキさんの特製トンカツです。教えてもらって頑張って作ったんです」

 

お父さんの命日も近いですしと小さく呟く恋雪さんは俺を見て笑った。

 

「狛治さんなら勝てると私は信じてます。だからそんなに悲しそうな顔をしないで」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

憎き師の仇――前に遭遇した時は取り逃がしたが、今度見つけたら必ずこの手で殺す。その誓いを新たにするのに、このトンカツは何よりも相応しい料理だと思った。

 

「ご飯もお味噌汁も沢山用意してますからね。お代わり沢山してくださいね」

 

「ありがとうございます。では」

 

「「いただきます」」

 

2人で手を合わせてそう告げてから箸を手に取る。まずはソースなどにつけず、トンカツだけで頬張る。ザクリっと言う香ばしい衣の食感と音、そして分厚いが噛み切りやすい豚肉――しっかりと下味がついているのでこのままでも十分に上手いそれをじっくりと噛み締める。

 

『狛治! 上手い飯屋があるんだ。お前が俺の弟子になった祝いだ。喰いに行くぞッ!』

 

初めてこのトンカツを食べた時の事が脳裏に浮かんだ。

 

「ど、どうですか?」

 

「とても、とても美味しいです。恋雪さん」

 

カワサキ様は俺達に会ったのは瀕死の時だったと思っているが、それよりも前に出会っている。その事を無惨様に尋ねると無惨様は沈鬱そうな顔をして教えてくれた。

 

【誰にも言うなよ。カワサキの記憶は常に削れている、別れた期間が長くなるとな……思い出せなくなるんだ】

 

無限城と言うのはある意味カワサキ様が記憶を失わないようにする為の城であり揺りかごなのだ。常に同じ者と会うことで記憶を安定させているのだと……だから俺と慶蔵さんの事をうっすらとしか覚えていなかったのだと知った。

 

(カワサキ様の為にも、恋雪さんの為にも早く天津を殺さなければ)

 

カワサキ様の気質からすれば無限城で閉じ篭っているよりも、外の世界の方が良いだろう。だがカワサキ様の料理を食べれば鬼が強くなると言う事で天津にも狙われている――カワサキ様が穏やかに過ごせるように天津、そしてその鬼を早く討伐する必要があるだろう。そんなことを考えながらソースにトンカツをつけて頬張る。そのまま食べても美味かったがソースをつけるとまた別物だ。甘みと酸味のあるソースがトンカツの衣にしみこんで、その味わいを何倍も良い物にしてくれている。

 

「おかわりを」

 

「はい!」

 

空になったお椀を恋雪さんに差出し、戻ってくるまでの間味噌汁を口にする。具材はネギだけのシンプルな味噌汁……ネギの香りが鼻を抜ける感じが食欲を刺激する。

 

「はい、お待たせしました」

 

「ありがとうございます」

 

ずしりと思いお椀をしっかりと持ち、千切りキャベツにソースをたっぷりと掛けてトンカツの上に乗せて口に運ぶ。

 

「うん、美味い。最高です」

 

「本当ですか! 良かったです」

 

トンカツだけだとやや重いがしゃきしゃきとした千切りキャベツがあると脂に負けなくなる。その甘みと食感が余計に食欲を増させてくれる。

 

「今度のお父さんの命日にはカワサキさんも一緒に来てくれると」

 

「そうですか、きっと喜んでくれますね」

 

今思うと慶蔵さんはカワサキ様の異変に気付いていた節がある。俺は成長したから判らないのか? 位に思っていたが、そうではないと知った時は世を呪いたくなった。何故あんなにも優しい人が苦しまなければならないのかと思ったのだ。

 

「支えになれればいいですね」

 

「ええ。本当にそう思います」

 

誰よりも優しいが、忘却と言う呪いを背負うカワサキ様に助けられた分。今度は俺達が支えになりたいと……心からそう思うのだった。

 

「すいません、お代わりを」

 

「はい♪」

 

だがそれとは別に恋雪さんの作ってくれた食事を堪能したいと言う気持ちが今は強く、食べ終わったら無惨様に相談してみようと思いトンカツを噛み締めるのだった……。

 

 

 

 

 

無限城 ひそひそ噂話

 

恋雪が狛治の部屋で編み物をしていると凄まじい勢いで襖が開き、恋雪は器用に正座したまま垂直に跳んだ。

 

「うおおおおんッ! 恋雪ぃ!!」

 

畳を粉砕しながら自分の名前を叫んで突っ込んでくる女をすっと避けた恋雪はきっと悪くない。

 

「避けるのは酷いと思う」

 

「私が受け止められると思いますか?」

 

畳を破壊し、頭から突っ込んだ人影――それは無限城のトラブルメイカー縁壱だった。キリっとした顔をしているが、人の部屋を破壊しておいてなんでこんなにも堂々としているのかと恋雪は首を傾げた。

 

「恋を成就させた、恋雪に聞きたい。どうすれば意中の男性と懇ろになれるのかを」

 

「巌勝さんですか?」

 

「そうだ」

 

「おかえりください」

 

「何故だ!?」

 

恋雪の知っているのは通常の恋愛であり、血をわけた肉親へ異常な執着を向ける縁壱の相談には乗れないと判断したのだ。

 

「そこを何とか」

 

「おかえりください」

 

「お願いします」

 

「嫌です」

 

そもそも狛治から関わりあうなと言われているし、異常な行動をしている縁壱は恋雪も苦手な部類だったので、対応は冷たい物だったのだが……。

 

「兄上に褒めて欲しいだけなのに」

 

「……」

 

「せめて贈り物くらい……」

 

「……」

 

「練習すれば……」

 

「判りました。判りましたから」

 

しかし結局の所の優しい人間である恋雪は縁壱の同情を誘う発言に負け、縁壱の頼みを聞きうけてしまうのだった……だがそれがとんでもない事になると言う事を、今の恋雪は知る良しも無いのだった……。

 

 

 

メニュー35 激辛麻婆豆腐へ続く

 

 




次回は童磨に麻婆豆腐をお見舞いして行こうと思います。オーバーロード版で守護者の性格チェンジを引き起こした例のあれですね。
これで縁壱をより面白おかしくして行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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