【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー35 激辛麻婆豆腐

メニュー35 激辛麻婆豆腐

 

鍋の中に油とにんにくの微塵切りを加え、中火で香りが出てくるまで丁寧に炒める。香りが出てきたら挽肉としょうがを加え、豚肉の色が変わりほぐれてきたら刻んだネギを加えて全体が良く馴染むまで炒める。

 

「よっと」

 

ここで本来ならば豆板醤や刻んだ鷹の爪を加えて激辛に仕上げるのだが、今回は甘口で仕上げるつもりなので甜麺醤と砂糖を鶏がら出汁で伸ばした物に香り付けの醤油と酒を加えて混ぜ合わせた甘めの調味料を加える。

 

「良し、こんなもんだな」

 

スープが軽く煮立ってきたら1口大に切った豆腐を加えて、豆腐を崩さないように全体を軽く混ぜ合わせたら、水溶き片栗粉でトロミをつけたら完成だ。

 

「うーん……今一」

 

不味くはない、不味くはないけど辛い料理を好む俺には正直いまいちな味だ。

 

「ま、無惨達にはこれで良いだろう。本番は次だ」

 

夏には辛い物、そして寒くなる時期も辛い物。辛い物で汗をかいて、身体を中から暖める。これはやっぱり大事な事だ。

 

「無限城で食えるの童磨だけだからなあ」

 

麻婆豆腐は辛さを楽しむ物なのに、甘口って正直なぁって思いながら改めてしょうがとにんにく、そしてネギを微塵切りにする。

 

「よっと」

 

鉄鍋に油を大さじ3杯加えて、しっかりと強火で加熱したら甘口の方と異なり、先に豚挽き肉を加える。十分に加熱された鍋に入れられたことでバチバチと大きな音を立てる。おたまで良くかき混ぜ豚肉が油で揚げ焼きされ狐色になった所でにんにくの微塵切り、そして一味唐辛子、豆板醤、甜麺醤を全て大さじで1杯ずつ加える。

 

「ほっ、よっと」

 

鍋全体を揺すりながら調味料と挽肉を良く混ぜ合わせる

甘口の方と違って辛い調味料をたっぷり使っているので、全体を良く混ぜ合わせないと均等な辛さにならないので鍋を揺すり、御玉で肉を動かし調味料と良く混ぜ合わせる。それを暫く続けていると挽肉全体が赤黒くなり、調味料の良い香りが広がってきた。

 

「うし、今」

 

御玉で鍋の中から鶏がらスープを掬ってフライパンの中に入れる。加熱されていた鍋の中に鶏がらスープが入った事で大きな音が響き、水蒸気を上げる。更に追加で1杯の鶏がらスープを加えて汁気を加える。

 

「げほ」

 

辛い香りが厨房全体に広がり、思わず咳き込みながら強火から中火に変えて、全体を軽く混ぜ合わせたら、今度は豆腐を加えて2分ほど煮詰める。白い豆腐が赤く染まって来た所で無惨が貿易で持ち帰ってきた瓶を手に取る。

 

「流石本場だな」

 

紹興酒の独特な強い甘みを帯びた香り、それは強い酒精を伴っていてかなり人を選ぶが、これを飲むのではなく調味料として使う。鍋の中に紹興酒と醤油を加えて、豆腐を崩さないように軽くざっと混ぜ合わせる。

 

「仕上げっと」

 

少量の胡椒とたっぷりの山椒、そして隠し味の「ドラゴンを殺す香辛料」……これを……。

 

「あっ」

 

久しぶりに蓋を開けたのでドバっと鍋の中に入ってしまった。赤黒い麻婆豆腐がなんかマグマみたいに赤く泡立ってきたけど……。

 

「まぁ、大丈夫だろ。童磨だから」

 

いつも辛い料理を食べて痙攣しながら溶けてる童磨だから大丈夫だろう。刻んだネギを加えて、だまにならないように水溶き片栗粉を加えて全体を軽く混ぜたら最後の仕上げ。油を麻婆豆腐の中に直接入れるのではなく、鍋の縁から加えて鍋を振るい馴染ませたら完成だ。

 

「どれ」

 

味見で1口頬張る。1口で汗が噴出した、口の中を焼く香辛料の香りと刺激――だがただ辛いだけではなく、複数の香辛料と調味料が織り成す複雑な香りと旨みがしっかり麻婆豆腐の中にある。

 

「完璧」

 

汗を拭い完璧な仕上がりだと1人納得して、隣の部屋で1人で待っている童磨の元に麻婆豆腐を運んだのだが、この麻婆豆腐がとんでもない騒動を引き起こすことを今の俺は知る由も無いのだった……。

 

 

 

 

 

 

食堂ではなく、カワサキ様が辛い料理を食べる時の隔離された部屋で俺はまだかな、まだかなと身体を揺すりながら料理が到着するのを待っていた。

 

「あんなに美味しいのに、なんで皆は嫌がるんだろうなあ」

 

痛いけど凄く美味しい料理だ。偶に身体が崩れるけど、まぁそれはご愛敬。それに食べていると何か新しい世界が見える気がして、凄く気分が良い。

 

「童磨待たせたな」

 

「待ってましたッ!!!」

 

カワサキ様が持ってきてくれたのは平らな皿――という事は今日はカレーかな? 麻婆豆腐かな? と楽しみにし、机の上に置かれた物を覗き込んで目が痛くなった。

 

「わぁ! 凄い! 今日のは更に辛そうだね!」

 

目と鼻が強烈に痛い。それでも、この料理が美味しそうだと思う気持ちは変わらなかった。

 

「スペシャル麻婆豆腐だ。これは美味いぞ、その分辛いけどな! じゃ、ゆっくり食べていてくれ、俺は無惨達用の甘口麻婆豆腐を配膳してくるから」

 

「はいはーい」

 

カワサキ様を見送り、目と鼻の痛みに耐えながらレンゲを手にして麻婆豆腐を掬う。

 

「うわあ。凄い!」

 

鬼でも目と鼻の痛みが全然回復しない、これ食べたらどうなるんだろう? と思いながら大きく口をあけて麻婆豆腐を頬張った。

 

「ごばぁッ! げふっ!」

 

口に入れた瞬間。何かが口の中で爆発した、その痛みと熱さに思わず喉を押さえて椅子から転がり落ちた。

 

(ああ。やっべ♪)

 

目の前がちかちかと光る。そして身体がしびれて動けない。身体が熱で溶かされる……もう死ぬんじゃないか? っていう痛みが数分続き、次の瞬間には身体が再生する。

 

「うっまーいッ!!!」

 

再生すると同時にレンゲを手にして麻婆豆腐を口に運んだ。

 

「あふっ、あふっ!」

 

熱いし、痛いし、辛いッ! でもこれは凄く美味しいッ!!!

 

「凄い! こんなに凄い食べ物があるんだッ!」

 

でもその痛さと熱さと辛さの中に確かな美味しさがある。しかも複雑に折り重なっていて、普通に食べているのでは判らない。そんな複雑な旨み――。

 

「んんーーッ!」

 

片手で服のボタンを外して、片手でレンゲを口に運び続ける。汗と共に身体の中に蓄積している悪い物が全部身体の外に出て行っているような気がする。

 

「ふはあ……はは、面白ッ!!!」

 

大きく息を吐くと白い息が目の前一杯に広がった。氷の血鬼術を使う俺の体温はかなり低い、それが暖かい麻婆豆腐を食べた事で温まったのか白く息が出るのが面白い。

 

「あははッ! 凄い凄いッ!!」

 

身体の中から熱くなる。そしてその熱さがもっと欲しくて麻婆豆腐を口に運ぶ手は止まる事を知らない。

 

「んー」

 

滴り落ちる汗を拭い、ひたすら麻婆豆腐を口に運び、最後の1口を口に運んで大きく息を吐いた。

 

「あ……れ?」

 

その瞬間に目の前が白く明るく染まり――体の中で何かが嵌るような感覚がして、俺は意識を失うのだった……。

 

 

 

 

麻婆豆腐の皿に匙を入れてどろりとしたそれを持ち上げて口に運んだ。

 

「なるほど、美味い」

 

これは辛い料理と記憶していたが、これは甘い。少しだけ辛味があるが甘さが強く非常に食べやすい。

 

(豚肉なんだが、悪くはないな)

 

豚肉は余り好きでは無いが、こうやって食べるとそう悪い物には思えない。肉として食べるのではなく、ちょっとした味の変化を齎す物と思うからだろう。

 

「うわあ。美味しい!」

 

「甘い」

 

「慌てて食うな、ほれ、こっち向け」

 

カワサキが拾ってきた子供達の声は些か五月蝿いが、美味い物を食べていれば気分が良いのでそれに目くじらを立てることもない。

 

「うむ、悪くない」

 

飯を共に食べれば丼としても食べれる。麻婆豆腐単体では酒の摘みとして丁度良い、辛い物は嫌だがこれならば楽しんで食べることが出来るな。そんなことを考えながら、麻婆豆腐を食べていると食堂に童磨が入って来たのだが……。

 

「凄い、なんか見ている世界が変わったみたいだ!」

 

……なんだあれは。童磨の目がやたら光り輝いている。それに作り笑いではなく、心からの笑みを浮かべているのが判った。

 

「カワサキ。お前何をした?」

 

「いや、辛い麻婆豆腐を作ってやっただけなんだが」

 

配膳をしていたカワサキは不思議そうに首を傾げている。だが絶対それだけではないだろうと私は思った。

 

「カワサキ――劇物を作るのはあれほど控えろと言ったではないか」

 

「気味は悪いが、普段の気持ち悪さはないので良いのでは?」

 

童磨と言えば作り笑いや変な言動が多く、更に人の神経を逆撫ですることも多い。だから非常に嫌われているのだが、その辛い料理……。

 

「カワサキ、その辛い麻婆豆腐を持ってきてくれ」

 

「「無惨様ッ!?」」

 

黒死牟達が驚いているが、私は小さな希望に賭けてみたかったのだ。

 

「食べれるならいいけど、残すなよ?」

 

私達に残すなよ? と念を押して厨房に向かっていくカワサキ。

 

「無惨様、私達は食べませんよ」

 

「死んでしまいます」

 

「まぁ、待て話を聞け黒死牟。あの童磨が変わったのだぞ? 縁壱に食わせれば少し落ち着くのではないか?」

 

あの人の神経を逆撫でする事しか出来ない童磨の変化――いつもいつもトラブルばかりを引き起こしてくれる縁壱には正直私も飽き飽きしていた。

 

「なるほど……試してみる価値はあるッ!」

 

あの童磨が変わったのだから縁壱も変わる可能性はある。

 

「兄上、呼びましたか?」

 

「少しそこに座って待て、目を閉じてな」

 

「……はい?」

 

不思議そうにしつつも黒死牟のいう事を聞いて、椅子の上に座り目を閉じる縁壱。

 

(上手く行くでしょうか?)

 

(行く事を祈れ、お前も恋雪とのんびりしている時に邪魔されるのは嫌だろう)

 

私の言葉に黙り込む猗窩座。最近縁壱が恋雪の部屋に邪魔しているのは知っている。縁壱がいれば猗窩座は恋雪とのんびり過ごす事が出来ない。そう考えれば縁壱は猗窩座にとっても邪魔者だ。

 

「持ってきたぞ? 何してるんだ? お前らは?」

 

不思議そうに赤黒い麻婆豆腐を持ってきたカワサキ。香りだけで目と鼻に致命的なダメージを与えてくれるその香りを嗅いで、これがこの戦国気狂いの縁壱を弱体化させる鍵だと私達は感じた。黒死牟に目配せし、着物の裾で口と鼻を押さえながら匙で麻婆豆腐を掬った。

 

「ほら、縁壱。口を開けろ、飯を食わせてやろう」

 

「はい♪」

 

……こいつ揺れんな。この香りでやばいものが近づいていると判っているのに、黒死牟が口に運んでくれると言うだけで満面の笑みを浮かべているぞ……そして私達の見守る中赤黒い麻婆豆腐が縁壱の口の中に消えた。

 

「……」

 

「縁壱?」

 

咳き込む事も、吐き出すことも無く縁壱は満面の笑みを浮かべたまま。机の上に突っ伏して動かなくなった……私達はぴくりとも動かない縁壱を見て、顔を持ち上げて口元に手を当てたり、手首を握り脈拍を測ったりして、生きていると言う事が判明したので、抱えあげて珠世の部屋に運び込むことにするのだった。

 

「おはようございます。兄上、無惨様」

 

「「「誰だこれ」」」

 

そして翌日華の咲くような笑みを浮かべて、私達に頭を下げる縁壱を見て全員が誰だと口にするのだった……。

 

 

メニュー36 桜餅 その1へ続く

 

 

 




激辛マーボーで性格チェンジをした縁壱。どんな風に変化したかは次回の更新で詳しく書いて行こうと思います。あとちょっと後半はシリアス風味ですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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