【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー3 ライスカレー

メニュー3 ライスカレー

 

人化をしなければ外に出れない鬼が集まる無限城では基本的に曜日や時間感覚と言うものは狂って来る。無惨が定めた時間こそある物の、今日が何曜日とか、何の日と言う感覚は基本的に判らなくなってくる。

 

「兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上ッ!」

 

「鳴女!鳴女ぇッ!!!」

 

時折響く縁壱の狂気的な声と黒死牟の悲鳴が朝が近いなあと言う位で、外に出る事の出来ない子供の鬼や血鬼術が戦闘向きではない鬼は無限城内部で基本的に人化して果物や野菜の栽培をして過ごしている。

 

「カワサキさん、カワサキさん」

 

厨房の外から聞こえてきた声に顔を出すと白髪に紅い模様が顔に浮かんでいる幼い鬼がいた。

 

「累か、どうした?」

 

「……この匂い、今日はカレーの日?」

 

下拵えの匂いでカレーの日か気になって来てしまったのかと苦笑し、累の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「そうだよ、今日はカレーの日だ」

 

「……りんごと巣蜜の?」

 

「そ、りんごと蜂蜜の甘いカレーだ」

 

俺の言葉にぱあっと顔を輝かせる累だったが、背後から響いてきた声にびくりと身体を竦めた。

 

「おいおいおい、累よぉ、カワサキさんの邪魔はしちゃいけねえ、そう言う約束だろぉ?」

 

長身でやや痩せ気味の鬼「妓夫太郎」の声に累が身体を小さくさせる。

 

「……ぎゅ、妓夫太郎……」

 

「駄目だぜぇ? 梅が探してたぞぉ?」

 

「……ごめんなさい、良い匂いがしたから」

 

「しゃあねえなあ、俺も梅に謝ってやるから、ちゃーんと収穫の手伝いをするんだぜ?」

 

「う、うん」

 

妓夫太郎に手を引かれ、菜園に向かう累。その姿を見ていると妓夫太郎がゆっくりと振り返る。

「……あんまり辛くねえ、ライスカレー楽しみにしてるからなあ?」

 

「あいあい、わーってる」

 

暗がりで見たら悲鳴を上げそうな強面だが、ニッと笑う姿はまだまだ子供って感じだなと思いながら、俺は厨房の中に引き返し、カレーの準備を再開する。

 

「良い匂いって言ったけど匂いするかなあ?」

 

鬼の嗅覚が鋭いって可能性もあるけど……サラダ油で玉葱を炒めているだけで匂いするかな……?

 

「あ、これかぁ」

 

隣の鍋で弱火でコトコト煮られている鍋の中身。無限城で収穫されているトマト……大正時代で言えば赤茄子か、それを使ってトマトソースを作ったからその匂いに累が反応したのかな?と思いながら大鍋で食べやすい大きさに切ったにんじん、じゃがいも、玉葱を炒める。

 

「うし、OKOK」

 

炒めた野菜を皿に3つの鍋に分ける、甘口・中辛・辛口の3種類作るが、甘口が一番多く、中辛と辛口は本当に作る量は少量なので3種類作るとしても全然苦ではない。

 

「鶏肉と豚肉は不評だったからな……」

 

でかい牛腿肉を包丁で切り分け、オリーブオイルを引いたフライパンの中に入れて肉に焦げ目が付くくらい焼きを入れる。

 

「舐めてたよなあ、鬼を」

 

平安時代、戦国時代、江戸時代と生きてきたが、俺の中では普通の食材でも難色を示す物が多かった。例えば、栗とか、秋刀魚とか、鮪とか、例を挙げれば切が無いが、食べ物ではない、それは食べる部位ではないという物を食べさせ、美味いと言わせるのは中々面白かった。

 

(肉の拘り半端無い)

 

本来鬼は人間を喰うが、俺の食事で満足している無惨達は人間を食べないし、鬼にとっては抜群の栄養を誇る稀血にも殆ど反応を見せない。だから太陽に当たれない、少し身体能力に優れた人間位に思っていた時期が俺にもあった。だがそうではないと言う事は江戸時代の……どこら辺だろ?……忘れたけど、多分信長とかが居た時代だと思う。

 

『豚肉は柔らかくて好かない』

 

『……鳥は脂が少し』

 

『もっと大きくて、塊が良い。脂は落としてくれればなお良い』

 

調理の過程ではある程度我慢してくれるが、まず薄切りは基本的に難色を示す。塊であればあるほど良い、脂身よりも赤身肉を好むなど、肉に関しては驚くほど好みが五月蝿い。そして無限城に居るほぼ全員が肉への拘りが凄いのである、唐揚げとか、しょうが焼きとかなら文句を言わないんだけどなあ……。

 

(線引きが判らん)

 

駄目な肉と駄目じゃない肉と料理の線引きが余りに難しい、1000年近く鬼と一緒に暮らしているけど、こればっかりは判らんよなあ……焦げ目がつくまで焼いた肉を先ほど3つに分けた各味の鍋の中に入れて水を注いだら弱火でまたコトコト煮込みながら、俺はカレーのスパイスの調合を始めるのだった。

 

 

 

「あれ?響凱さんはお米じゃないの?」

 

「……小生はまだやることがあるのでな……うどんにしてもらった」

 

「カレーうどんかぁ……美味しい?」

 

「……美味い」

 

「むむう……でもそんなに食べれないし」

 

「……では次の機会にだな」

 

「お兄ちゃんのカレー何か乗ってる!なにそれずるい!」

 

「梅よぉ?お前にも聞いたぞ、カツカレーにするかって」

 

「……そうだっけ?」

 

「そうだ、ったくしゃあねえなあ……ほれ、一切れやるからこれで我慢しなぁ?」

 

「うん!お兄ちゃんありがとう!」

 

「累、ラッシーを回してくれないか?」

 

「はい、判りました。どうぞ、無惨様」

 

「すまんな……思ったよりも辛かった」

 

食堂から響いてくる声を聞きながら虹色がかった瞳、白橡色の髪を持つ優男と言う風貌の鬼がゆっくりと食堂に足を踏み入れる。

 

「おう、童磨。待ってたぞ」

 

「いやあ、お腹が空いた状態で食べたくておもいっきり運動してたのさ」

 

はははっと楽しそうに笑う童磨だが、童磨の登場で食堂の中に僅かなざわめきが生まれる。

 

「賭けませぬか?今度は何口耐えれるか」

 

「……4」

 

「では3で」

 

「では私は5で行きましょう」

 

何口食べれるかと言う話で玉壷、黒死牟、猗窩座が話をする中。童磨はカワサキが差し出したカレーを受け取る。

 

「ううーん、今回も目と鼻が痛くなるねえ。美味しそうだ」

 

赤黒いカレーを見て満面の笑みを浮かべる童磨。しかし目と鼻が痛くなる香りと言うのはどう考えても美味しそうと言う言葉に繋がる言葉ではないと全員が感じていた。

 

「いただきます」

 

席に座って匙を手に取り目を閉じる童磨。そしてそのまま深呼吸を繰り返し、意識を集中させるような素振りを見せる。

 

「……んごふうっ……ッ!?か、かかかかかかッ!※?☆□△☆☆○○※?※ッ!!!!」

 

言葉にならない苦悶の声を上げて椅子から転げ落ちる童磨。食堂の床の上に横たわりびくんびくんっと痙攣している。

 

「なんで童磨様はいつもあれ食べるのかな?」

 

「……真理が見えるとかなんとか……」

 

「小生……神が見えるから……食べるべきだと勧められた」

 

「私極楽が見えるとか聞いたけど?」

 

「……僕は地獄が見えるって」

 

全員がひそひそと話をする中。童磨の痙攣はより激しくなり、口から泡まで吹いている。

 

「……あれ死ぬんじゃないか?」

 

「え?童磨死んでくれるのか?」

 

「猗窩座殿の心底嬉しそうな顔よ」

 

「って言うか良いんですか?水とか渡さなくて?」

 

「ぬおっ!?」

 

「縁壱……いつのまに」

 

「黒死牟殿の首に腕が……」

 

「パシパシ(縁壱の手を必死にタップする黒死牟)」

 

「ふふふふ……(狂気的な笑みの縁壱)」

 

巻き込まれまいと逃げる玉壷と猗窩座、縁壱に関われば死ぬは無限城の住人の常識だ。黒死牟の助けてッ!って言う視線から玉壷と猗窩座はカレーを持って逃亡する。

 

「はああ……あー、美味しい。また極楽と地獄が見えたよ、いやあ、今回も美味しいなあ」

 

そしてそんな中びくんびくん痙攣していた童磨は口元から零れたカレーを拭いながら、喜色満面と言う様子で立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

最初、食事なんてと俺は思っていた。人間の方が美味しそうと思った事は1度や2度じゃない、確かにカワサキ様の料理は美味しかったけど、鬼の飢餓感を抑える物ではなかった。

 

「……カワサキ様、これは?」

 

「ライスカレー。むっちゃ不評だからさ俺用、そしたら無惨に追い出された」

 

食堂ではなく、椅子を通路に置いて赤黒い何かを汗を流しながら食べているカワサキ様に俺は興味を持った。そしてこの興味が俺を変えたと言っても過言では無いだろう、「万世極楽教」の教祖夫婦の子として生まれ、神の声が聞こえるに違いない特別な子なんて言われて来たけど、神の声なんて聞こえたことは1度も無い。だけど、両親や周りの人間が望むように振舞って生きていた。

 

(あそこで死んでもよかったんだけどね……)

 

鬼に襲われた時……後に医者と聞いたけど、その時に死に掛けた時に死ねば良かったと思わないこともない。

 

「ねえ、カワサキ様。それ俺も欲しい」

 

「構わないけど、辛いぞ?大丈夫か?」

 

心配そうに言うカワサキ様に大丈夫と返事を返すと、カワサキ様は少し待っていろと言って台所から同じ物を持ってきてくれた。

 

「辛いからな、無理そうだったらやめておけよ?」

 

「大丈夫。ありがとう」

 

匂いと香りでもう目と鼻が痛いけれど、それでも自分で頼んだ物だし、鬼だから大丈夫と思って匙でそれを口に運んだ。

 

「ふっぐっ!?げぼろっ!げほごっ!?」

 

「おいおいおい、大丈夫か?だから言わんこっちゃない」

 

口の中で火薬が爆発したかと思ったほどの衝撃が走った。匙を落としてその場に蹲る、その痛みと熱さで目の前がカチカチする。

 

(……あれ?)

 

痛い程に辛いのに、それが何故か心地良くなってきた。

 

「おーい、童磨?大丈夫か?」

 

「なんだ、カワサキ。何を……おい!?大丈夫なのかそれは」

 

「いや、判らん。無惨、鬼って溶ける?」

 

「溶けるか!おい!珠世を呼んで来い!」

 

無惨様とカワサキ様の声が凄く遠くに聞こえる。だけど、そのぼんやりとした感じが心地いい。

 

「無惨!童磨が凄い痙攣しだした!」

 

「お前は何をやったんだ!?」

 

「いや、カレーライスを……」

 

「あの劇物を食わしたのか!?」

 

「劇物じゃない、食べ物だッ!」

 

「茶色で食べたら口の中が痛くなる物は毒だッ!」

 

「んだと、訂正しろ無惨!!」

 

「そんなことをやってる場合かッ!?」

 

耳元で2人の騒ぐ声を聞きながら身体を起こして、カレーを口に運ぶ。

 

「美味い美味い!カワサキ様、これ凄くおいしい!」

 

「ほら!童磨が美味い……童磨。お前大丈夫だったのか!?」

 

「料理を食って大丈夫か尋ねるのは危険物だろ!?」

 

「くっ、ぐうの音もでねえ……」

 

「美味しいですよ、この痛みと辛さが地獄で、美味しさが極楽ってコトですよね。つまり、これを作れるカワサキ様は神ッ!」

 

極楽と地獄は確かにあった。この食事の中にあったのだ!つまりカワサキ様は神っ!

 

「どうしよう?童磨が変になった」

 

「何を言っている、元からこいつは変だ。まぁ良い、神と崇められて良かったな」

 

「丸投げ!?お前俺に丸投げする気か!?」

 

「信者は大切にするんだな」

 

歩き去って行こうとする無惨様の後を追おうとするカワサキ様の服を掴んでからの皿を差し出す。

 

「カワサキ様、お代わり!」

 

「ああ、今用意する!無惨!後で話をするからな!」

 

「私は話すことはない」

 

「むざーんッ!!!」

 

「カワサキ様ー、お代わり」

 

「判った!判ってるから!!」

 

ライスカレーを食べたその日が俺と言う存在が確かに生まれた日だと、俺が教祖をやっていたのは全てこの日の為だったのだと悟ったのだった。

 

 

無限城ひそひそ噂話

 

童磨は辛いものを好んで食べてるけど、最初の1口は絶対辛さに対応できなくて倒れて痙攣するまでが御決まりのパターン。

 

「んぐ、げほげほ(びくんびくん)」

 

「えいえい(木の棒で突く)」

 

「えいえい(くわで突く)」

 

そして子供の鬼や梅に木の棒や鍬で突かれたり、つま先で突かれているんだって、辛さに対応して浮かべる笑顔が本当に美味しいのか、それとも蹴られたり突かれた事を喜んでいる疑惑があるそうですよ。

 

後万世極楽教はカワサキをモチーフにしたお地蔵様を御神体にして、食事による世界救済を謡う集団になっているよ。

 

「ささ、一杯のお粥にも神の慈悲がありますよ」

 

「お椀のない方はこちらへどうぞー」

 

そして鬼に襲われた集落などで炊き出しを行い、あちこちでカワサキモチーフのお地蔵を配置しているそうです。なんでもその勢力は藤の家に迫る勢いらしいですよ。

 

 

メニュー4 カツ丼

 

 




童磨は激辛に芽生え、精神性の変化イベントとカワサキさんを神認定、カワサキ様的には手に余るけど、無碍には出来ない大きな子供って感じになりました。次回は猗窩座さん回でお送りしたいと思います、鬼ルートも微救済があるのでどんな展開になるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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