【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー37 桜餅 その2

メニュー37 桜餅 その2

 

私は本当の鬼というのは人の弱い所を巧みに見破り、そこを執拗に突く存在だと思う。思うように動かぬ身体……一部の隊士は私が鬼舞辻無惨に呪われていると思っている事だろう。だが事実は違う……全ての諸悪の根源は神にならんとした「天津」という1人の医者だった。

 

【産屋敷と鬼舞辻は同じ血筋である。だから産屋敷の人間は代々短命なのですが、我が薬を飲めば短命を克服する事が出来るでしょう】

 

20を越えずに死ぬことを恐れた当代の当主は天津の甘言に乗り、そして薬を飲んだ。その薬は産屋敷の血に色濃く残り、どれだけ代を重ねても薄れることは無く、その薬の毒は800年近く産屋敷を蝕んだ。

 

【辛かろう、痛かろう。その痛みから解放されたくば、この私鬼舞辻無惨を殺すが良い。さすればその痛みと苦しみからお前達は解放される! はははッ! はははははッ!!!】

 

消えぬ薬毒を与え、消え去った医者……その男が鬼舞辻無惨を名乗ったから、産屋敷は鬼舞辻無惨を怨敵とした。だがそれが間違いだと判ったのは、呪われてから数代後の迎え入れた神社の娘。その娘の家に伝わっていた文献からだった。

 

『その者達人なざる身なれど、その魂、その心は人。闇の中に潜みて悪鬼を滅さん。その名は鬼舞辻、護国の鬼である』

 

これに当代の産屋敷とその回りの人間は困惑した。全ての悪夢の始まりは鬼舞辻ではないのか? 何故鬼舞辻が鬼と戦っているのか? 数多の謎が浮かび、そして古い文献を調べ、判ったのが天津という医者が診察していた若い貴族の男の名が鬼舞辻無惨。しかし、その姿は何時の間にか消え、そしてある晩の夜に鬼に鬼舞辻の家は滅ぼされたとあるが、その中で唯一の生き残りが産屋敷の先祖。燃え盛る屋敷の中から先祖を救い出したものが……行方不明だった無惨だったとの事。そこからだ、鬼舞辻無惨を名乗る鬼と、そして名前も名乗らず消える不死の男……そのどちらかが本物の鬼舞辻無惨であり、もう片方が天津ではないのか? と言う事が判ったのは江戸時代初期ごろだった。

 

(これでやっと判る)

 

江戸時代初期ごろに何度も鬼同士の戦いが目撃され、仲間割れだと最初は思われていた。だがそれが天津を止めようとする無惨だとしたら? そう考えれば全ての辻褄は合う。それから古い文献を調べ続け、やっと見つけた鬼舞辻の屋敷の跡地……そこで私はやっと本物の鬼舞辻無惨と出会う事が出来ていた。

 

「食え、言っておくが全部食うなよ。これは本来私の物なのだからな」

 

重箱の蓋を開けて中身を取り出して頬張る無惨を見つめながら、私と槇寿朗も重箱の中を見て驚いた。

 

「これは桜餅……?」

 

「どこからどう見てもそうだろう? なんだ。お前達は桜餅も知らんのか?」

 

「いや、俺だって桜餅は知っている。何故餡子が金色に輝いているのだ」

 

闇の中でも金色に輝く餡子――こんな物を私達は知らない、一体これは何なのかという困惑が強かった。

 

「そんな物は私は知らん。文句があるなら食うな」

 

あっという間に1つ食べ終え、2個目に手を伸ばしている無惨を見て私も重箱に手を伸ばそうとする。すると槇寿朗がその手を掴んだ。

 

「お館様。先に私が」

 

「毒など混ぜてないぞ」

 

「念の為という物だ」

 

槇寿朗はきっぱりとそう言うと桜餅を摘み上げて頬張った。そして目を開いて硬直し動かなくなった……美味しいとか不味いとかそういう反応も無く、どうしたのかな? と尋ねる。

 

「……は、い、いや、これほどの物を食べたのは初めてです。言葉に出来ないほどに……美味い」

 

「じゃあ私も1ついただこうかな。ああ、無惨。酒は好きに飲んでくれて良いよ」

 

枡を瓶を差し出すと無惨は無言で封を切り、枡の中に酒を注いで口をつけている。その姿を見て、私も桜餅の入っている重箱に視線を向けた。

 

(これはなんなのだろうか?)

 

丸い筒状の生地に包まれている桜餅がある。桜の葉が巻かれているのだから桜餅だと思うけれど……見た事の無い菓子に興味が惹かれ、私はそれを摘み上げて頬張った。

 

「……」

 

桃色の生地はふんわりと柔らかい、その食感はどら焼きに似ているが、それよりももっと柔らかく、唇で簡単に噛みきれるほどに柔らかかった。そして生地の中から顔を出した金色の餡子の柔らかい甘みが口の中にふんわりと広がっていく……身体の中に染み渡るような優しい甘さ……食べる相手の事を心から思い、そして作られている。作り手の想いがこの桜餅から伝わってくるようだった。

 

「美味いだろう?」

 

「……うん、とても美味しい。しかし参ったな、私の知っている中では最高の酒を持ってきたつもりだったんだけど……」

 

この桜餅と比べてしまうと私の持ってきた酒が水にも劣るような気がしてきた。

 

「まぁ口直しくらいにはなる。良い物を食べていないな、産屋敷」

 

無惨のふふんっと言う勝ち誇った顔に私も槇寿朗も何も言う事が出来なかった。事実私達の食べている物よりも、無惨の食べている物が質も味も上というのは覆しようの無い事実だったからだ。

 

 

 

 

 

桜餅は何度も食べているし、煉獄家の長子と言う事で名店と言われる店の菓子だって何度も食べてきた。

 

(別格だ。これは一体なんなんだ)

 

今まで自分が食べてきて美味いと思ってきた物が実は違っていたという事を思い知らされたような気分だ。酒を少し口にし、次の桜餅に手を伸ばしたとき、その手を無惨に掴まれた。

 

「程ほどにしておけ」

 

「あ、いや、すまない。食べすぎだったな」

 

「違う、そう言う訳ではない」

 

1人で6個は食べてしまっていた。その事に気付き謝罪すると無惨は食べ過ぎていることを怒っているのではないと言った。

 

「これは特別な桜餅だ。人間には些か強い」

 

「強い? 強いとはどういう意味だい?」

 

「別に毒とかそう言う訳ではない。ただそうだな……お前、刀を振るえ」

 

「何?」

 

突如俺を指差して刀を振るえという無惨に思わず何故だと尋ね返す。

 

「良いから振るえ、ああ、間違えても私達と桜に向けて振るうなよ。あの山に向かって振るえ」

 

「槇寿朗。頼めるかい?」

 

お館様にも言われれば仕方ない。日輪刀を拾い上げ鞘から抜こうとした時、また無惨に声を掛けられた。

 

「普段より慎重に振るえよ、後悔するからな」

 

後悔する? 一体何を言っているのかと鼻を鳴らす。柱として鍛錬を積み、己の技を磨き上げてきた俺に何を言っているのだと思った。慣れ親しんだ炎の呼吸の音――意識を高め、最も得意としている不知火を繰り出した。己が侮った者がどんな相手なのか見せつけてやると気合を入れて振るい、目の前の光景に俺は言葉を失った。

 

「言っただろう? 後悔するとな」

 

くっくっくと喉を鳴らす無惨。俺は目の前の惨状を見て声を完全に失った……まるで風の呼吸の広範囲に広がるように不知火の太刀筋は振るわれ木々を薙ぎ払い、小山さえも砕いていた。

 

「……血鬼術?」

 

「違う。この料理を作った者は鬼ではない、だが特殊な力を持つ者だ。人の生命力などを強め、病気等を治す事も出来る。そんな不思議な能力を持つ者でな。身体能力とかを強化する……「その者を俺に紹介してくれまいか!! この通りだッ!」

 

無惨の言葉を遮り、頭を地面に擦りつけ桜餅を作った者を紹介してくれと無惨に頼む。

 

「……お断りだ。あいつは天津にも狙われている。そんなあいつを1人で出歩かせる訳がない、諦めろ」

 

「頼む。この通りだッ!」

 

鬼の首魁かもしれない、そんなことは今の俺にはどうでも良かった。病を治す料理を作れる……それだけが俺を突き動かしていた。

 

「槇寿朗の妻は病気でね。子を産み落とすと同時に死ぬかもしれないと言う状況なんだ」

 

「だからなんだと言うのだ。我々と天津の鬼との区別もつかず追いまわした相手に施しをしろと? 冗談ではない」

 

「この通りだッ! 頼むッ!!!」

 

無惨の言う事が正しいと言うのは判っている。それでもどんな医者でも無理だと匙を投げた……日に日にやつれていく妻を見て、俺は何をしても瑠火を救うと動いてきたが、もう俺に出来る全てはした。鬼に頼むのは危険だと判っていた、それでも一縷の希望に縋りたかった。

 

「……ちっ、おい、お前らは鳥でやり取りをしていただろう。それを私に1匹寄越せ」

 

「紹介してくれるのかい?」

 

「私は説明するだけだ。それを引き受けるかどうかは私は知らん」

 

「すまない! 恩に着る」

 

「ふん、恩に着るというのならば、我々を追うのはやめるのだな」

 

無惨はそう鼻を鳴らすとお館様が呼んだ鎹鴉を一羽肩の上に乗せる。

 

『あわわわ』

 

「取って食うわけではない。お前は私の文を運べばいい、良いと言うまで目を開くな。良いな?」

 

『はひい』

 

死ぬほど怯えている鎹鴉を肩に乗せたまま、無惨は空中に浮かんだ障子の中に空になった重箱を手に歩き出し、思い出したように足を止めた。

 

「2度とこの日にこの場に来るな。次は許さん」

 

「覚えておくよ。今度はもう少しゆっくり話をしたいな」

 

お館様の言葉に無惨はお断りだと吐き捨て、その場を後にした。そして無惨に預けた鎹鴉が文を持って、戻って来たのはそれから3日後の事なのだった……。

 

 

 

メニュー38 病人食(鬼滅版)へと続く

 

 




鬼ルートでも瑠火さんを救うのはやっぱり確定。その為の桜餅の話でした、無惨とお館様に接点とカワサキさんと槇寿朗を会わせる。というのを同時に出来るイベントですからね、これはやらざるを得ません。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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