【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー38 病人食(鬼滅版)その1
鎹鴉が持ってきた文を見た槇寿朗はその文を握りしめ、着物の上に羽織を羽織ってどたどたと足音を立てて玄関へと向かう。
「父上、どちらへ、もしや任務なのでしょうか」
槇寿朗と瓜二つの子供が不安そうな顔をし、槇寿朗を呼び止めた。
「杏寿朗……すぐに戻る。待っていてくれ」
「はい……お気をつけて」
まだ幼い杏寿朗でさえも瑠火の体調不良を感じていた。その不安を隠しきれないでいる息子の頭を撫でて大丈夫だと笑い、槇寿朗は地面を蹴り走り出すのだった。
「はぁ……はぁ……」
冷静であろうと思っていても、最愛の妻の命が懸かっているとなればやはり槇寿朗も調子を崩す。炎柱と呼ばれていても、人間なのだ。僅かに呼吸の精度が乱れながらも息を切らし、手紙に書かれていた待ち合わせ場所に辿り着いた。
「おいおい、あんた。大丈夫か?」
息を切らして駆けて来た槇寿朗を見て、黒髪を短く切りそろえた青年が心配そうに駆け寄る。
「大丈夫だ。貴方が……月彦殿が紹介してくれたカワサキ殿でよろしいか?」
「おう、月彦に言われてきた。俺がカワサキだ」
月彦……無惨がいくつももつ偽名の1つ。手紙に書かれていたその偽名が合い言葉だった、良かったと思いながら槇寿朗は頭を下げた。
「今回は無理な頼みを聞いてくださり、感謝しかありませぬ」
「いや、待ってくれ。確かに俺は人を癒したりする事も出来る……だけど絶対じゃない。そこは判ってくれ」
「はい、判っております。ですが、もはや私には貴方を頼る事しか出来ない……どうか、よろしくお願い申し上げる」
深く、それこそ土下座しかねない勢いの槇寿朗にまいったねとカワサキは頭を掻いた。
「全力は尽くす。行こうか」
「はい、ではおぶさってください」
「……すまない、今なんと?」
「おぶさってください、私の屋敷はここから山を2つ越えます」
「待ち合わせの場所おかしくないか?」
さぁ、おぶさってくださいともう1度言う槇寿朗に何も言えず、カワサキは言われるがままその背中に乗り運ばれていくのだった……。
「瑠火、こちらの方はつい先日会った料理によって病を治すというお医者様だ。1度見て貰って欲しい」
「……槇寿朗様。態々ありがとうございます、このようなお姿で申し訳ありません、煉獄瑠火と申します」
「これはどうもご丁寧に、カワサキと申します。此度は全身全霊を込めて腕を振るわせていただきます。では槇寿朗殿、参りましょう」
一礼し、瑠火の部屋を出たカワサキは眉を潜め、憤怒の表情を浮かべた。
「それほどまでに、瑠火の容態は……」
その顔を見て手遅れだったかと恐怖する槇寿朗にカワサキは違うと断言した。
「天津……奴が関わってる」
「なっ」
それは無惨を名乗り、悪逆を尽くしている最も忌むべき鬼の名前。それが妻に関わっていると知り、槇寿朗もその顔色を変えた。
「し、しかしあの医者は昼間に……」
「相手は鬼を作り出した医者だぜ? 短時間なら日に耐える薬くらい作れるさ……それよりもだ。あの病気は治せる、というか病気じゃない。あれは毒だ、それも弱い毒、何年も摂取する事で牙を剥く……そんな毒だ。次、瑠火さんを診ている医者は来る?」
「4日後だ」
「なら、戦力を整えておきな。こっちも戦力を呼ぶ、ここで天津を切っておかないと何度やってもいたちごっこだ。まさかこんな所で奴の尻尾を掴めるとはな……情けは人の為ならずとはこの事だ」
「カワサキ殿」
「心配しないでいい、料理はちゃんとやる。俺に任せてくれ、それで厨はどこだ?」
天津の手掛かりを見つけた事で帰ってしまうのではないか? と不安そうにしている槇寿朗に大丈夫だと笑い。槇寿朗に厨にへと案内されるのだった。
病気としか聞いていなかったが、まさかこんな所で天津の手掛かりを得れるとは思っても見なかった。無惨の気紛れが俺達にとって良い流れを持ってきたといっても過言ではないだろう……ただ不安要素がないわけではない。
(縁壱がな……)
問題児ではあるが無限城の最大戦力――縁壱がおしとやかな乙女になっていて、戦力として数えられないのが不安な所か……。
(後は鬼殺隊の対応しだいか)
天津を倒した後に無惨達を殺すと出てくるか……最悪の場合に備えてスクロールとかを持って備えておくべきだな。
「さてと、やるか」
怪しいことや不安はあるが、それはそれ、これはこれと言う事で料理を始める。天津の毒に侵されてはいるがまだ最悪の段階ではない、あの状態ならば十分に俺の料理で回復させる事が出来るだろう。
「やっぱり俺の判断は間違いじゃなかったな」
病人ということでうどんでも作ろうと思っていたが、やはりうどんで大正解だった。無限城で作ってきた鰹節と昆布の出汁を鍋の中に入れて温める。
「よっと、これとこれと、それとこれ」
ただの病ではなく、天津の毒と判明しているので長い間天津の毒を解析してくれた珠世が作ってくれた解毒剤も出汁の中に入れて溶かす。
「……なるほど、不味い」
良薬口苦しと言うがガチで不味い。本当にこれは俺の作った出汁か? と思うレベルで不味い。
「……調整だ」
このままではとても出せた物ではないので、かなり稀少になっているがユグドラシルの調味料を使い味を調え、スキルも惜しげもなく使う。
「……良し」
これなら何とか食べられるレベルだと安堵し、調理を進める。無限城で打って来たうどんを鍋の中に入れて、煮ている間にネギを斜め切りにして、水溶き片栗粉を準備する。
「……」
厨の中に誰もいない事を確認してから黄金の卵を2つ取り出して御椀の中で解き解して鍋の中に入れる準備をする。完全に煮きられる前にネギを加えて軽く火を通す。
「よっと」
うどんを丼の中にいれるのだが、ここでうどんとネギだけを移し汁はそのままにする。
「ここで水溶き片栗粉」
うどんつゆの中に水溶き片栗粉をいれ、とろみが出てきたら黄金の卵を加えて、円を描くようにかき混ぜ卵をふんわりと仕上げたらそれを丁寧に丼の中に注ぎいれ蓋を閉める。
「あ」
「おっとすまんね、坊主」
瑠火さんの元に運ぼうとすると槇寿朗に瓜二つの坊主に鉢合わせる。しかしなんだ、そっくりにも程があるなと思わず苦笑した。
「す、すいません、あの良い匂いがしたもので」
「そうかそうか、瑠火さんに料理を持っていったらお前にも作ってやろう」
坊主にそう笑いかけ、俺は瑠火さんの部屋の前で腕を組んで待っていた槇寿朗に声を掛けた。
「出来たぞ」
「……手間をかけさせてすまない」
「なに気にするな、料理人は料理をするのが仕事だ。ほら、持っていってやれ」
「良いのか?」
「良いも何も見知らぬ男が持って来たんじゃ、瑠火さんも落ち着いて食えないだろ?」
俺がそう笑うと槇寿朗はお盆を受け取ってくれた。
「本当に重ね重ね申し訳無い」
「気にするなよ、俺が好きでやってることだからよ」
瑠火さんの部屋に入って行く槇寿朗を見送り、厨に戻るとさっきの坊主が椅子に腰掛けて待っていた。
「待たせたな、今作るからな」
「はいッ! よろしくお願いします」
満面の笑みを浮かべる坊主の為にうどんを作り始めたのだが、この坊主が底なしの胃袋の持ち主で鳴女レベルに飯を食うことを今の俺は知る由も無いのだった……。
槇寿朗様が知り合ったと言う料理で人を癒す料理人と言うのは正直本当だろうかと思っていた。そもそもお医者様ではないのに、何故料理で病を治せるのかが不思議で、槇寿朗様が騙されているのではと心配にもなった。だがそれは目の前の料理を見て吹き飛んだ。
「これは……なんとも綺麗な料理ですね」
「そうだな、まさかうどんがこんなにも美味そうと思ったのは始めてかもしれん」
ほんのりと輝く解き卵に蓋をされたうどん。卵だから黄色とかそういうものではなく、まるで金のように輝いている卵に私も槇寿朗様も言葉を失った。
「取り分けよう、食べられる分だけで良いからな」
「すいません」
私の布団の横に腰を下ろした槇寿朗様が小さな椀にうどんを取り分け、匙で汁と卵を取り分けてくれた。それを受け取るとうどんの温かさとは別のもっと暖かいぬくもりを感じた。
「いただきます」
箸を手にしてうどんを持ち上げて口に運び、私は驚きに目を見開いた。
「どうした? 口に合わないか?」
「いえ、そのこんなに美味しいうどんは初めてだと……そう思いまして」
コシが強いうどんなのだが、軽く噛むだけで噛み切れ、喉越しも凄く良い。うどんのほうから口の中に飛び込んでくるような……上手く言えないのだが、そんな感じがする。それにとろみが付いている汁がうどんに良く絡んでいて、うどんを食べるだけで汁も同時に楽しむことが出来た。私の身体が弱っていることを察し、様々な工夫が施されているうどんを見て、少しでも疑っていた自分が恥ずかしくなった。
「美味しい」
「そうかそうか! 良かったッ!」
食欲が無く、重湯を飲むのもやっとだったのにこのうどんはとても食べやすい。今まで物を食べていなかった分、身体が食べ物を欲しているのが良く判る。
「ほう……」
「どうだ?」
「とても、とても美味しいです。こんな卵は食べたことがないです」
丁寧に出汁を取られているうどんの汁。それを口にした時に身体の中に入ってきたとろみがついた卵……それを口にした時、身体がカッと熱くなって、冷えていた手足に熱が戻り、身体にも活力が戻って来た気がする。
「槇寿朗様、もう少しいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ! 勿論だ。どんどん食べてくれッ!!」
今まで全然物を食べることが出来なかった私がもっと食べたいと言った事に槇寿朗様は驚きながらも、嬉しそうな笑みを浮かべて空になった椀に再びうどんと汁を取り分けてくれた。
(生きないと……)
きっと今身篭っている我が子を産み落とし、その子の命と引き換えに私は死ぬと思っていた。もしくはその子が大人になるまでは生きることが出来ないと思っていた。だけど今は違う、いきたいという願いが私の中に生まれた。
「槇寿朗様」
「なんだ瑠火?」
「ありがとうございます」
「い、いや。俺ではなくカワサキ殿に礼を言うべきだろう」
俺には何も出来ないと槇寿朗様は仰られますが、槇寿朗様がいなければ私はカワサキさんに会うことも無く、日に日に弱っていく身体に気持ちまで弱り、そして死を受け入れていたと思う。
「そうですね、カワサキさんにも感謝しないといけないですね」
「その通りだ。カワサキ殿を呼んでこよう。貴方のお蔭で希望が見えたと」
死を受けれている時と生きたいと願っている時では気持ちが違う。今ならば、この病も克服できるかもしれない……私はそう思いながら布団に身を横たえる。身体の中から暖かい、まるで日の下にいるような……そんな心地よさを感じながら私は目を閉じるのだった……。
無限城 ひそひそ噂話
「何? あの暑苦しい男の屋敷で天津の痕跡があっただと?」
「間違いない、あいつが良く使う毒が使われていた」
「そうか……今度あいつの妻を見ている医者が来るのは?」
「4日後、巌勝と狛治を連れて行こうと思う」
カワサキの言葉に無惨は眉を細めた。普段は突発的な遭遇戦であり、戦力を整える機会など無い。だが今回は待ち伏せして戦えるというのに、その好機を生かせない事に無惨は苛立ちを感じていたのだ。
「縁壱が戦えればな」
「今は無理だな。それもしょうがないだろう、だがここで天津を動けなくすれば……鬼が増えるペースを減らせる上に、特別な鬼を作ることも封じれる」
「そうだな。それだけでも好機を手にする事は出来ると……思うべきだな。しかしそうなると鬼殺隊と共同か……」
「リスクはある、最悪の場合鳴女に頼んで離脱することになるな」
鬼殺隊の柱の屋敷――そこに天津が来るとなれば鬼殺隊とも必然的に共同戦線になる。
「人化を最初は使っておけ、後は変装させて、相手が油断した所を一気に叩く」
「そうだな、それが一番確実か」
天津はその能力ゆえに基本的に何もかもを見下しているし、傲慢な性格をしている。巌勝と狛治と思わせない姿……鬼殺隊の制服を着させて髪形を変えれば天津に認識されない可能性もある。
「ここで天津の動きを封じる。珠世にも毒を用意させよう」
「全ては4日後だな」
1000年にも及ぶ天津と無惨達との戦い、それを終結に向かわせる最初の戦いが煉獄槇寿朗の屋敷で行なわれようとしているのだった……。
メニュー39 病人食(鬼滅版)その2へ続く
次回の無限城ひそひそも今回と同じでシリアス気味でお送りします。鬼殺隊との協力体制に入るかどうかの最初の分岐点が、この煉獄家での戦いになります。次回も身体が弱っている時に食べたい優しい料理を書いて行こうと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない