【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

45 / 95
メニュー42 煮卵丼 

メニュー42 煮卵丼 

 

 

鬼になったお袋を元に戻す為に俺は鬼と戦う力を求めた。鬼と言ってもお師匠や無惨さんのような鬼ではない、私利私欲、己の欲望の為に暴れまわるくそったれの鬼共を殺す為、そして俺達のような悲しみを背負う者を減らす為にその力を欲した。

 

「……実弥。私が教えられるのは此処までだ。ここからはお前自身の型を見出すが良い」

 

「……ありがとうございました」

 

お師匠――巌勝さんが教えてくれたのは全集中の呼吸の基礎の基礎、そして刀の握り方や足捌きと言った徹底的に基礎だけを文字通り叩き込んでくれた。そして狛治さんは俺に無手の格闘技を俺に伝授してくれた。

 

「実弥、設定は覚えたな?」

 

「大丈夫です。鬼殺隊を引退した関係者の血縁と言うことですね?」

 

無惨さんの問いかけに俺はそう返事を返した。鬼殺隊は引退する者が多く、俺のような稀血の持ち主に護身としてある程度の技術を教える事はそう珍しい事ではないらしい。無惨さんはそれを利用すると言って、俺にある程度の過去の経歴を準備した。

 

(少し、雑な気もするが……まぁんなもんだろう)

 

余りに詳しい設定があれば怪しまれる。それゆえに雑な部分があり、それは自分で考えろと言われていた。

 

「お前が最終選別を抜ければ私としても行動しやすくなる。まずはお人よしの隊士を探せ、そして正規の育手に弟子入りしろ。それが出来なければ、お前は戻って来い」

 

「はい」

 

俺のこれからは今まで以上に難しい事になるだろう。稀血という事を利用し、鬼を倒していた一般人。それを鬼殺隊に目撃させ、そこから育手の元まで辿り着く、完全な全集中の呼吸は使ってはいけないという誓約等も様々な物が俺を縛り付ける。だがこれを跳ね返す事が出来なければ、俺は鬼殺隊に入る資格はないという事だ。

 

「良いか、天津の手の者に気をつけろ。あいつの人心掌握術は魔性だ。鬼殺隊の中にも敵がいると知れ、お前が望む通りになれば、お前は人の憎悪を向けられる。覚悟は出来ているな?」

 

「はい」

 

俺は鬼殺隊に入ったら鬼になったお袋と共に任務につくつもりだ。鬼の中にも、人に協力出来る鬼がいる。それを知らしめ、本当の倒すべき鬼と言うのを考えさせるつもりだ。

 

「判っているのなら良い。後数日、良く考えて過ごせ」

 

「ありがとうございます」

 

何か手掛かりを見つけるまでは俺は無限城には戻れない。それは覚悟している、そして玄弥達を守る為にも俺は無限城を旅立つ覚悟を既に決めている。今更何を言われても俺の決意は変わらない。

 

「今までご指導ありがとうございました」

 

鬼であれ、この人達は俺達の為に色々としてくれた。例え人で無くとも、その心は人だ。ならば俺は家族を守る為に……鬼殺の刃を振ると心に誓ったのだ。

 

 

 

 

実弥が無限城から旅立つ日が近づいている。それは無限城の全員の元に伝えられており、餞別やおまもりがどんどん実弥の元に届けられている。この思いやりが、優しさが身体は人で無くとも心が人間と言う証のように俺には思えた。

 

「憎しみは目を曇らせるか」

 

鬼と言うだけで殺しに来る隊士もいる。だからこそ俺は思うのだ、この世にある悪とは人の心だ。憎しみや恨みでその瞳を曇らせれば、見るべき真実すら見えなくなる。

 

「頃合か」

 

鍋の中の水が沸騰し、周りがふつふつとしてきた所で常温に戻しておいた卵を先日玉壷に作らせた装置にセットする。

 

「あいつって本当に漁師だったのかな」

 

無限城に住む鬼に料理を提供する為には流石に俺1人では手が足りない。その為には1度の作業で大量に調理を進めれるような調理器具などが必要になる。今回玉壷に作らせたのは1本の鉄棒を芯にして5cm幅ごとに窪みのある円盤が溶接されている道具だ。1つの円盤に卵を10個セットすることが出来、それが5つで50個のゆで卵を作れる装置だ。

 

「……変態が技術を持つとこうなるのか、それとも俺が無茶振りしすぎたか」

 

無惨と鳴女が尽力してくれているが、俺の要望が大正時代には早すぎたのだろうか? そんなことをふと考えながら大鍋の中に醤油、ざらめ、酒、みりんを入れて火に掛ける。

 

「本当なら豚肉も食べて欲しい所なんだがなあ、実弥達はあんまり好きじゃないし」

 

動物性たんぱく質は必須なのだが、やはり年代ということもあるのか余り、肉と言うのは実弥達に反応が良くない。これがトンカツとか、親子丼にすると喜ぶのだが、チャーシューは脂っぽいのが気になるのかあんまり食べてくれない。煮汁を1度煮立たせ、アルコールが飛んだところで火を止めて、タコ糸の準備をする。

 

「難しい所だよな」

 

無惨達はチャーシュー丼とか言い出すと思うので豚肉をタコ糸で縛り、数枚だけでも食べさせるかと思いながら煮る準備を整える。

 

「よっと」

 

7分ほど茹でた所でゆで卵を取り出して、冷水で冷やしながら手早く殻を剥いたら煮汁の中に、これをずっと繰り返し煮卵は冷蔵庫に、チャーシューは煮汁で弱火で暫く煮詰めて豚肉に火が通ったら火を止めて味を馴染ませる。

 

 

~5時間後~

 

「お、よしよし」

 

累達とかの遊びに混じったり、収穫の手伝いをしたりして味が馴染むまで待った煮卵を半分に割る。黄身は半熟で卵にしっかり色が付いている。我ながら完璧な仕上がりだと頷いていると珠世が駆け込んできた。

 

「すみません、カワサキさん! 何か食べる物をッ!」

 

「まさか誰か起きたのか!?」

 

保護している鬼になった誰かが起きたのは明らかだった。人を食う前に、人以外の物を食べさせなければ完全に人食いになってしまう。珠世の慌てっぷりからそれが一目で判った!

 

「それ貰いますね!」

 

「それ煮卵ぉッ!!!!」

 

肉以外の物を食べさせたこと無いんだが……煮卵を抱えて猛ダッシュする珠世の後を追って、俺も医務室に駆け込んだ。

 

「もぐもぐ(ぱぁぁああああ)」

 

「大丈夫そうですね、肉じゃなくても大丈夫かもしれません」

 

「マジか……」

 

小柄な女性が煮卵を食べて穏やかに笑うことにも驚いたが、その女性を見て驚いた。鬼になって眠っている中で1番起きると思っていなかった人物だったからだ。

 

「母の執念かね……」

 

煮卵を食べて笑う女性……実弥達の実母である不死川志津がこのタイミングで起きたのは何かの運命のように俺には思えたのだった……。

 

 

 

 

明日無限城を出ると言う兄ちゃん。正直言って、行って欲しくなんかなかった。勿論それは俺だけじゃない、寿美、貞子、こと、就也、弘も同じだった。

 

「大丈夫だ。兄ちゃんは絶対に死なないし、ちゃんと帰ってくる」

 

何度も何度も話し合った。無理に兄ちゃんが鬼と戦うことはないと何度も言った。だけど兄ちゃんはお世話になった巌勝さん達の為にも鬼殺達に入ると言う意見を曲げてくれなかった。

 

「玄弥。皆を頼むぞ、お前なら大丈夫だ」

 

「……兄ちゃん」

 

寿美達を守ってやってくれと言われれば、嫌だと言える訳が無く俺は頷いてしまった。

 

「今日は煮卵丼だ、どんどんおかわりしてくれよ」

 

カワサキさんが作ってくれた丼をおぼんに乗せて兄ちゃん達の元へ向かう。

 

「実弥兄ちゃん。これ」

 

「おお、ありがとな、大事にするぜ」

 

「わたしはこれ」

 

「ありがとよ。貞子」

 

「けがしないでね」

 

「約束だ。ちゃんと元気で無事に帰ってくるぜ」

 

「兄ちゃんは強いから! 絶対負けないって信じてる」

 

「おうさ! お前達の兄ちゃんは最強なんだ! 絶対に負けないさ」

 

「……気をつけてね、ちゃんと帰ってきてね?」

 

「約束だ。絶対に帰ってくるさ」

 

寿美達と別れの言葉と餞別を受け取っている兄ちゃんは今日の深夜に無限城を出る。それを見送れるのは俺だけだから、ぐっと涙を堪えて机の上に丼を並べる。

 

「ほら、ご飯だ。しっかり食べような!」

 

「悪いな、玄弥」

 

「良いって、兄ちゃんもしっかり食べてくれよ」

 

ご飯の上に刻まれた海苔とネギ、そしてその上薄く切られた煮卵と白いまよねーずとか言う酸っぱいけど、美味しいタレがたっぷりを掛けられて、煮卵の汁が掛けられた煮卵丼は俺たちも大好きな献立の1つだ。

 

「手を合わせて、いただきます」

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

兄ちゃんの合図で手を合わせて、ご飯を作ってくれたカワサキさんに感謝しながらいただきますと口にして丼を持ち上げる。

 

「うん、やっぱり美味いな、これは最高だ」

 

「おいしー♪」

 

「私もこれ大好きッ!」

 

甘辛く食欲をそそる味だ。これは俺を含めてみんな大好きな味だ。

 

(このまよねーずが美味いんだよなぁ)

 

最初は正直大丈夫か? と不安に思った。だけどこの酸っぱくて、深みのある味は何か癖になる。

 

「あむう♪」

 

「んんー♪」

 

半熟卵の黄身とマヨネーズを混ぜて食べたことと弘が凄く幸せそうな顔で笑う。だけどこれが本当に良く合うんだ。

 

「1人2枚な、あんまり好きじゃないと思うけど肉も食っとけ」

 

カワサキさんが差し出してきたのは薄く切られた豚肉を煮た物だった。俺は結構これが好きなんだけど、兄ちゃん達は少し渋い顔をしている。だから率先して皿から取って頬張る。

 

「んーとろとろで美味いぞ! 食わないなら俺が全部食っちゃうぞ?」

 

俺がそう言うと寿美達も薄く切られた豚肉を箸で取って頬張った。

 

「わ、美味しい」

 

「前と全然違う」

 

「これなら私もすきー♪」

 

前はもっとこう脂っぽくて思いっきり肉って感じだった。でもこれはほろほろと崩れて、肉を食っているのに変なたとえだと思うけど、魚の煮つけみたいな感じで凄く食べやすい味だった。それに箸で少し突くだけで崩れるのでご飯と混ぜ込んで食べても美味かった。

 

「こういうのなら食いやすくて良いな」

 

「うん、凄く美味しい」

 

肉も良く考えて食べないと身体に良くないと言われても、やっぱり食べにくい肉って言うのはある。こう硬くて、ゴリゴリしている肉もあって、そういう肉はやっぱり俺でもあんまり好きではない。だけどこの肉は美味い、少しだけある脂身の部分は口の中で蕩けるようで、甘辛いタレとまよねーずと一緒に食べるとその旨みがぐっと強くなる感じがする。

 

「おかわり食べても良い?」

 

「ああ。良いぞ、カワサキさんに少しだけ用意して貰おうか」

 

「うん♪」

 

好きな煮卵丼という事で皆食欲旺盛だ。不安そうにおかわりしていい? と言う貞子の頭を撫でて立ち上がる。

 

「俺が行こうか?」

 

「良いって、それより兄ちゃんも食べるだろ? 丼くれよ」

 

「おう」

 

兄ちゃんの丼を預かり、カワサキさんの所に向かう。

 

「えっと俺と兄ちゃんはさっきと同じ位で寿美達の分はさっきの半分くらいで」

 

「おう、了解了解」

 

俺の話を聞いて、手早く丼の用意をしてくれたカワサキさんにお礼を言って兄ちゃんの所に戻ろうとすると、カワサキさんが小さく俺に向かって呟いた。

 

「玄弥。今日の夜、実弥の見送りに来るだろう? その時ちょっと覚悟をしておいてくれ」

 

覚悟? その言葉の意味はその時の俺には判らなかった。兄ちゃんが戻って来ないかもしれないという事だと思った。だけど、それは全く別物だった。

 

「……」

 

そこで待っていたのは黒い着物を着た、真紅の瞳をし、口に手ぬぐいを巻いた小柄な女性だった。それが誰かなんて、俺達には一目で判った。

 

「お袋」

 

「母ちゃん」

 

兄ちゃんの出立の時にカワサキさんと珠世さんが連れて来たのは間違いなく母ちゃんだった。

 

「まだ喋れるほど回復しておりませんが、目を覚ましました。ですが……本当の鬼になっていないかと言う確証はありません」

 

本当の鬼、巌勝さん達とは違う人間の血肉を喰らう悪鬼ということは明らかだった。

 

「最悪の場合は取り押さえる。それだけは覚悟してくれ」

 

俺達の母ちゃんなのか、それとも鬼なのか……確かにこれは寿美達に同席させる訳には行かないと言うのも納得だった。俺も兄ちゃんも緊張していると母ちゃんはゆっくりと歩いてきて、俺と兄ちゃんを抱き締めて涙を流した。その力は弱く、本当に母ちゃんだというのが判った。その小さな背中の腕を回して、兄ちゃんと俺で母ちゃんを抱き締める。

 

「お袋、行ってくる。お袋を元に戻す為に、俺は戦ってくるぜ」

 

「……」

 

涙を流しながら無言で頷く母ちゃんは兄ちゃんの頭を撫でて、その目から流れる涙をその指で拭った。暫くそのまま抱き締めあっていると、兄ちゃんが名残惜しそうに母ちゃんの背中に回していた手を放し、ゆっくりと俺達の前から離れた。

 

「大丈夫だ。もう泣かない、玄弥。お袋と皆を頼むぜ」

 

「う、うん! 大丈夫ッ! 兄ちゃんも気をつけて」

 

「無理するなよ、実弥」

 

「気をつけて、皆貴方を待ってます」

 

兄ちゃんは俺達の激励の言葉に頷き、拳を高く上げると振り返らずに走って行った。

 

「……」

 

「大丈夫。俺達の兄ちゃんは強いから、絶対に大丈夫さ」

 

心配そうに俺の手を握る母ちゃんの手を握り返し、溢れる涙を拭って兄ちゃんの姿が見えなくなるまでその場を動かず、兄ちゃんの背中を見つめ続けるのだった……。

 

 

 

メニュー43 コロッケへ続く

 





今回はシリアスな話だったのでひそひそは無しです。前回と合わせると、過去の話になりますね。炭治郎より前に鬼連れ隊士ルートの風柱です。そのうち鬼殺隊とかの話もすこしずつ増やして行きたいですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

それと諸事情によりアンケートを実地しておりますのでよろしければご意見宜しくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。