【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー4 カツ丼
無限城にいる鬼は決して少なくない、その少なくない鬼全員に食事を行き渡らせるのはカワサキ1人では不可能だ。それになによりも、医者の鬼は無惨と同じく鬼を増やす事が出来る。流石に医者の鬼が鬼にした鬼が鬼を増やす事はないが、医者と医者の作った6人の鬼は鬼を増やす能力を持つ。巌勝達が素早く処理をしても、鬼殺隊が鬼を殺しても、どうしても鬼は増える。しかし、人を食う前の鬼ならば、理性を取り戻させる事が出来る。そうなれば、巌勝達も簡単に鬼にされた被害者を殺す事が出来ず、無限城に連れ帰る。そして必然的に鬼が増えるという無限ループの完成である。最初はよかったが、大正にもなればカワサキ1人では大変と言う事で素質のある者にカワサキは料理の伝授を行っていた。
「……」
「もうちょっと肩の力を抜こうか」
「……はい」
包丁を手にぷるぷるっと震える青い髪の女性に駄目だこりゃと俺は肩を竦めた。
「普通の料理なら大丈夫なんだけどな」
「は、狛治さんに作ると思うと……」
白い肌を鮮やかに染め上げる女性……恋雪は恥ずかしそうに身を捩った。俺はそんな恋雪を見てもっと力を抜いてとアドバイスする。恋雪……彼女は鬼ではなく、「雪女」だ。縁壱がサキュバスを引き当てた異形種に変化するアイテム「堕天の書」と同じ人間を異形種に変化させるアイテムで彼女は自分の名前にもある雪女を引き当てた。
「……そ、そーっと……」
彼女は身体が弱く、鬼になるだけの体力がなかった。だが医者の鬼に殺されかけ、絶命しかける彼女を抱きかかえ泣き叫ぶ狛治を見て俺は人と思えぬ化け物になるかもしれないがと前置きしてから生きたいかと尋ねた。
【い、生きたい……し、死にたくない……】
【助けてください、なんでもします。恋雪さんを助けてください……お願いします、お願いしますッ!】
鬼に腹を貫かれてもなお生にしがみ付いた恋雪と、自身も瀕死になりながらも鬼を素手で殴り殺した狛治の懇願に俺は負けた。そして狛治は鬼となり、恋雪は俺の懸念したアンデッド系の魔法使いでも、リザードマンなどの両生類型の魔法使いでもなく、元の美しい少女としての姿を保ったままの雪女へと転生したのだ。
「帰って来ちゃうぞ?」
「……頑張ります」
このままだと狛治が鬼退治を終えて帰ってくるぞと言うと恋雪はこくりと頷き、豚の肩ロースに包丁を当てる。
「もうちょっと手前、そう。それくらい」
「は、はい」
あんまり厚いと肉に火が通りにくいから、薄くも無く、厚くもない、だがボリューム満点の3cmの厚さで肩ロース肉を切り落とさせる。
「基本的なところは大丈夫だよな?」
「す、筋切りして、お肉を叩いて塩・胡椒で下味を付ける」
「OKだ。じゃあ俺はパン粉とかを準備するから」
は、はいと返事を返す恋雪に背を向け、薄力粉を水に溶かし、パン粉などの準備をしながら横目で恋雪の手並みを見る。
(問題はないか……)
1度落ち着いてしまえば恋雪は冷静な女性だ。そこは恋雪の特性だが、あのテンパリ癖も雪女の種族特性だ。普段は冷静なんだけどなあ……狛治が関わるとトタンにポンコツになってしまう。
(ポンコツと言えば無惨もだけどなあ)
巌勝が黒死牟、狛治は猗窩座……と言うに少し的外れの名前を無惨は与えた。それは医者に対する対策でもある、無惨は医者から離反しているがそれでも医者の鬼であると言う事実は変わらない。そしてその血を与えられた狛治達も医者の鬼である、名を知られると操られる。その危険性を考えてのコードネームなんだが……正直あまりにあれである。
(でもなあ。あいつらが特別なんだよな)
人間だった時の名前を覚えていればいい、だが鬼になれば記憶の欠落が見られる。つまり自分の名前を覚えている鬼は本名と鬼名の2つの名前がある。そして自分の名前を覚えていない鬼は無惨の独特すぎるネーミングセンスの物を名前とし、そして明治時代の後半ら辺に名前を知られても医者に支配下を奪われないほどに無惨は力をつけたが、その独特すぎるネーミングセンスは改善されず、むしろ悪化の一途を辿っている。だが友達なので、俺はそれを指摘しない。輝く笑顔の無惨に変な名前と言う勇気とそのセンスを改善させるアイデアがない以上、俺は口を噤むしかなかった。
「油で揚げて……」
俺が考えている間に手元からパン粉などを自分の方に引き寄せた恋雪は、厚いトンカツを細い手を伸ばして油の満ちた鍋の中に入れている。
(俺は味噌汁の準備でもするか)
トンカツは揚げられる。ぶつぶつ調理工程を繰り返し言っているが、これは恋雪の癖みたいなものなのでそれは指摘しない。ぶつぶつを止めさせると途端に作れなくなるのでそれは口にしてはいけない事だと俺も知っている。
「カワサキ! 私も兄上にお料理を作りたいです」
「よし帰れ! この台所クラッシャーッ!!!」
剣術に長け、巌勝曰く神に愛されたと言う縁壱だが、調理の才能はゼロだった。何度教えても調味料を間違える、材料を切れば包丁でまな板を叩き切る。しまいには日の呼吸を使い出すこのド馬鹿に料理を教えると言うことは俺は当に諦めた。
「そこをなんとか、私にも、私にも教えてください」
「足に縋りつくな、良いか、人には向き、不向きがある。諦めろ」
「嫌です!」
「無理だって、俺にはお前は手に余る」
「カワサキ殿ぉッ!!」
カワサキと縁壱が無理だ、教えてくださいという問答を繰り広げている後ろで恋雪はと言うと……。
「上手に揚げられました♪」
マイペースにトンカツを揚げ終え、すがりつこうとする縁壱を振りほどこうとするカワサキに向かって笑みを浮かべると、もう少し揚げ物をしようと鶏肉と牛肉を取り出し揚げ始める。
「カワサキさん、カツ丼の作り方の続きをお願いします」
「ああ、判ってる。もう諦めて出てけッ!」
何時までも邪魔をする縁壱を文字通り蹴り出し、台所に鍵を掛けてからカワサキは恋雪にカツ丼の手ほどきを始める。
「狛治は甘めが好きだから砂糖と醤油、それと酒とみりん、たっぷりの玉葱を鰹出汁で煮て、玉葱の色が変わったらカツを煮る」
「はい、えーっとこれですね」
「そうそう、丼用の片手鍋な。これで作るとやりやすい」
縁壱の熱意は認めるカワサキだったが、人間向き・不向きがある。確かに縁壱は剣の神には愛されていたが、料理の神には絶望的なまでに嫌われていたのだった……。
無惨様への報告を終えて食堂に向かうと恋雪さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい、狛治さん。お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。恋雪さん、ありがとうございます」
心配してくれる恋雪さんに頭を下げる。無惨様とカワサキ様には返しきれない恩がある、そしてあんな非道を行う医者の鬼を許せない。俺も鬼になったが、その心は人間のままだと思う。
「兄上、お怪我はありませんか」
「……私は、そんな白々しい……言葉を初めて聞いた」
日輪刀を片手に巌勝を出迎え、突きを繰り出す縁壱。甘酸っぱい空気の恋雪と狛治の後ろでは生死を賭けた継国兄妹の争いが起きている。
「じゃあ俺は馬に蹴られたくないから妓夫太郎と梅と一緒にご飯を食べるかな。じゃあねえ~」
手をひらひらと振り走り去っていく童磨を睨んでいると恋雪さんに服の裾を握られた。
「あの、今日はカワサキさんに教わってカツ丼を作ったんですけれど……食べていただけますか?」
「勿論です。ありがとうございます、俺の為に料理を作ってくれて本当に嬉しいです」
ぱぁっと笑う恋雪さんに釣られて俺も笑い返し、恋雪さんに案内され食堂の席に腰掛ける。
「兄上、兄上、私も狛治が恋雪に向けるような笑みを向けて欲しいです」
「……刀を向けられて、笑みを向けられると思うか?」
「私は兄上の刀を刺されるならとても嬉しいです。むしろご褒美ですか?まぁ、兄上の兄上ならなお嬉しいですが」
「……」
自分の理解を遥かに越えた変人の縁壱の言葉に巌勝は無言で逃げ出した。背後で鬼事ですねっと言う嬉しそうな声は全力で無視する。今日も、巌勝のSAN値は凄まじい勢いで削られ続けているのだった……。
「頑張りました」
ふんすっと胸を張る恋雪さんが可愛い、天使かと思いながらその目の前のカツ丼を見る。おかしいな、子供なら容易く隠れられそうなくらい山盛りだ。その凄い量に思わず冷や汗が流れた物の頑張ったという恋雪さんに笑みを向ける。
「とても頑張ってくれたんですね」
「はい、凄く頑張りました」
台所からすまぬと言わんばかりに手を合わせているカワサキ様。きっと張り切っている恋雪さんを止めれなかったのだろうなと思いながら箸を手にする。
「いただきます」
「召し上がれ」
にこにこと笑う恋雪さん。だが量が……凄い、俺が普段食べる量の倍近いぞ……。
(いや、残さんぞ)
無理をしてでも食い尽くす。そう覚悟を決めて山盛りの米の回りを覆っているトンカツを摘み上げる。想像以上に厚い……だが衣にタレが絡んでいて実に美味そうだ。
「美味しいです」
「本当ですか、良かったです」
噛み締めるとタレをよくすった衣から甘辛いタレが溢れだす。そして噛み締めた肉は厚さからは想像出来ないほどに柔らかく噛み切れる。
(甘い。いや、だが丁度良い)
甘しょっぱいタレだが普段より甘めのそれが食欲をそそる。丼を持ち上げ湯気を立てる白米を口に運ぶ、甘辛いタレと半熟の卵が米にまでよく絡んでいる。
「美味しいですか?」
「はい、とても美味しいです」
カワサキ様が作ってくれるものよりも美味いかもしれないと思うのはきっと惚れた弱みと言う奴なのだろう。
「ん、これは鶏ですか?」
途中で食感と味の違うカツが入ってきたのでそう尋ねる。
「はい! 鶏肉と牛肉と豚肉です!」
弾ける笑顔の恋雪さんに笑みを返す。なるほど、牛肉も入っているのか……これはきっと張り切りすぎているなと思い、1度丼を置いて味噌汁の椀を手に取る。
(これはカワサキ様か)
大根と豆腐のさっぱりとした白味噌の味噌汁。口の中が洗い流されるような感覚だと思いながら漬物も口にほり込む。
「3種類もカツを入れてくれるなんて、凄く豪華ですね」
牛肉の固さは米が欲しくなり、山盛りの飯を食べる勢いを増させてくれる。
鶏肉は牛、豚と比べるとさっぱりとしている。鶏皮もないので、皮を剥がして肉の部分だけを揚げているのだろう。揚げている事を加味してもあまり油っぽくなく卵のタレと非常に良く合う。
そして豚肉は脂と肉のバランスが丁度良く、そして量も一番多いので一番口にしているがそれでもやはりカツ丼と言えばトンカツなので一番卵のタレに合うと思う。
「喜んで貰えて凄く嬉しいです」
恋雪さんに料理を作ってもらっている俺の方がよっぽど嬉しいと思いながら米を飲み込む。多いと思ったカツ丼はもうほんの僅かな米と牛、豚、鶏のカツがそれぞれ一切れずつだ。カツで米粒を集め丼に米粒1つ残さず食べ切る事が出来た。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまです! どうぞ」
熱い煎茶を差し出され、それを啜りながら思う。もしも恋雪さんが居なければ俺は修羅道に落ちていただろう、盗みを繰り返し罪人になり大切な父を失った。そして俺を生まれ変わらせてくれた慶蔵さんも医者の鬼に殺された……それから100年以上過ぎた今も慶蔵さんを殺した鬼を倒すには至っていない。
「恋雪さん。今度墓参りに行きませんか?」
「……はい、行きましょう」
今度こそ仇を取る。その誓いを新たにする為に親父と慶蔵さんの墓参りを恋雪さんと共に行こうと声を掛けると恋雪さんは笑顔で頷いてくれた。
「俺は必ずや仇を打ちます」
「はい、信じております。狛治さんなら負けないと心から信じております」
恋雪さんがいるから俺は戦える。そして俺が負けないと信じてくれている恋雪さんの想いに必ず応えると俺は改めて誓いを立てるのだった……。
無限城ひそひそ噂話
無限城で数少ない夫婦である恋雪と狛治は、恋愛に憧れる鬼の中では憧れの的なんですよ。
「恋雪さんはいいね。狛治さんは優しいでしょう?」
「優しいですよ。凄く優しいけど……」
「けど?」
「……隣に寝ていても手を出してくれなくて……」
「え? へタレ?」
「い、いえ。お父様の仇を討つまでは待ってほしいと……」
「もうそれ祝言上げちゃおうよ」
「外堀も内堀も埋めたほうが良いと思いますよ」
「逃げ道を断てば狛治も覚悟を決めるって」
「いや、むしろ恋雪さんが行けばいい」
「逆転の発想ね」
女3人寄れば姦しい、だが鬼の少女が集まれば食ってしまえである。恋雪は顔を真っ赤にして目をグルグルさせているそうですが……多分そのうち暴走すると鳴女を筆頭にした女性鬼は確信していた。
「可愛らしい服装をすればいい。童磨が持ってきたこのぺろろんちーのと名前が刻まれた本には色々書いてある」
「「「うひゃあ……」」」
「あわわわわわああ……」
R-15的なそれだが、大正時代の初心な少女達にはそれは十分に目を白黒させるだけの効力があった。あわあわしている恋雪達とサキュバスになって豊満な肉体になった縁壱が胸を張る。ついでに胸も揺れた。
「兄上は逃げてしまったが効果はあると思う。ちょっと情欲の匂いがした」
「童磨出て来い、その頸叩き落してくれるッ! 縁壱に何を吹き込んだぁっ!」
そしてその頃巌勝は縁壱に入れ知恵した童磨を文字通り鬼の形相で探し回っていた。
「そのうち面白いことになりそうですな」
「そうじゃなあ……」
恋雪と狛治の間に子供が出来るのが先か、
縁壱が本懐を遂げるか
その2つが無限城で今盛んに賭けの対象になっているそうです。
メニュー5 刺身盛り合わせへ続く
恋雪さんは雪女で生存ルートです。医者の鬼の1体は素流道場に負けた剣道場の跡取りなどで考えております。多分出てくることはないですけどね、恋雪と狛治さんは幸せルートで進んでもらう予定ですので、偶に甘酸っぱい感じで書こうと思います。
そして活動報告に詳しく書きますが、1度リクエストを募集したいと思っておりますので、1度活動報告に目を通していただければ幸いです。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない