【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー3 アイスクリーム
本当にカワサキを飯柱にしないのかって?
そうだね、私は彼に本当に飯柱になって欲しいと思っているよ。
彼以上に鬼殺隊に貢献してくれた人はいないし、剣士(こども)達も彼を慕っている。
だけどね、私が何度言っても彼はうんとは言ってくれないんだよ。
自分は料理人だからと、呼吸も使えないし、鬼も倒せないからと……。
でも彼が認めなくても、彼は柱なんだよ。
戦う事は出来なくても、鬼殺隊を支えてくれる強い、強い柱なんだ。
父上が連れてきた外つ国で料理修行をしていたと言うカワサキ殿。身体が大きくて、とても力強いのに優しく、そして見たこともない料理を作ってくれる。そして何よりも優しい、その人を俺は慕っていた。
「カワサキ殿。何を作っておられるのですか?」
鍋に牛の乳を入れて、そこに何かを加えて混ぜて温めているのを見て興味がわき、父上が道場で待っているので水を運ぶという名目で台所に足を踏み入れた。
「ん?杏寿郎か。んー、お前はアイスクリームを知っているか?」
「よもや!カワサキ殿はアイスクリンを作れるのですか!?」
ホテルやレストランで稀に出される冷たくて甘い菓子、俺も1度だけ口にした事があるが何ともいえない幸福感に満たされたのを覚えている。非常に高価なそれを作れると聞いて目が落ちるんじゃないかと思うほどに驚いた。
「はは、アイスクリームなんてそう難しい物じゃないさ。まぁ冷やす設備がないと難しいが、氷室があるからな」
「はい、父上が冬の間に切り出した氷を保管しておりますから」
煉獄家の庭に置かれた氷室。そこに痛みやすい肉などを保管している、それがあるからアイスクリンが作れるのだとカワサキ殿は笑った。
「とりあえずこれはお館様への手土産だが……今日の夕餉の後には杏寿郎にもやろう。だから、俺の出発時間までしっかりと稽古に励むといい」
「はいッ! 楽しみにしております!」
よもやよもや、まさか夕餉にアイスクリンを食べれるとは……夕餉も楽しみだが、更に楽しみが出来たと父上の分の水も抱えて道場に戻る。
「父上、水を持ってまいりました」
「ああ、ありがとう」
俺は首からタオルを下げているが、父上には汗1つない。俺が目指すべき高みの凄まじさが本当によく判る。
「カワサキ殿がアイスクリンを作っておりました」
「……アイスクリンを? 本当に芸達者と言うか、凄まじい男だな」
「はい、洋食だけではなく、中つ国の料理も作れましたね」
昨晩作ってくれたほ、ほ……ほなんとか! 味噌と野菜と肉の炒め物は絶品だった。
「俺もカワサキも運が良かったという事か、よし、杏寿郎。俺はカワサキと共にお館様の元へ向かう」
「判りました、山への走りこみですね。父上が戻る前に3往復済ませておきます」
俺の言葉に頷き励めよと笑う父上がカワサキ殿を迎えに行くのを見届けると、ゆっくりと身体を動かし、煉獄家の裏にある山へと足を向ける。
「ふうう……よっしッ!!」
煉獄家に伝わる炎の呼吸を覚えるには、俺にはまだ体力も肺の鍛え方も足りない、心肺を鍛える為の修練として石を中に入れた籠を背負い、俺は頂上を目指して走り出すのだった……。
顔に布をつけた黒尽くめに運ばれてきた立派な屋敷。玉砂利が敷き詰められた庭に槇寿郎と他の2人と並んで座ってます。
(すげえ、個性が爆発してるぜ)
槇寿郎も本当に日本人か?と言う金と赤の髪をしているが、他の2人も負けず劣らずだ。天狗の面をした水色の羽織をした男性と、いかつい顔付きの左頬に傷のある三角模様が描かれた黄色い羽織の男……。
(育手と言われてもわかんねえよ……)
大体は判るよ?多分炎柱と言われる槇寿郎と同じく役職か何かだと思うんだけどなぁ……。育手と言う事は師匠か何かなのだろうか?
「そんなに困惑するか?」
「……いや、まぁ、そりゃあ……ねえ?俺、ただの料理人ですし?」
「お前の天狗の面に困惑しているんだろう?左近次」
「うるさい、慈悟郎」
本当その通りなんですけどね。天狗の面って何故?顔に怪我でもしているのだろうか?
「顔が優しいと鬼に馬鹿にされるから、面をしているんだ」
「慈悟郎、お前死にたいのか?」
「事実だろ?」
「……鱗滝殿、慈吾郎殿。少し気を落ち着けられよ」
……なんとなく関係性が判った気がする。声の感じからして槇寿郎より年上なのだろう、それか鬼殺隊に入って長い先輩と見た。
「お館様のおなりです」
そんな言葉と同時に現れたのは黒い着物の上に白い羽織を着た、長い黒髪をした若い男性だった。槇寿郎達よりも一回りは若いだろう、まだ20を越えてないように見える。だが俺が何よりも驚いたのはそこではない、鑑定の効果でこの目に映るお館様とやらの状態を見て絶句した。
(……この人瀕死だ)
何時死んでもおかしくない、呪いや毒、考えられる限りのありとあらゆる基本的な生命力を削るデバフが襲い掛かっている。それなのに穏やかな態度を崩さない、常人ならば倒れていてもおかしくない状態の筈なのにだ。
「今日はいい天気だね。槇寿郎、左近次、慈吾郎。よく来てくれた」
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」
他の2人が頭を下げる前で槇寿郎が両手を付いて頭を下げる。少し遅れたが、俺も頭を下げる。
「今日は槇寿郎が紹介したい人がいると聞いて、こうして来て貰った訳だが……貴方がカワサキかな?外つ国で料理の修業をしていたと聞いているよ」
「はい、料理の道を究めるのが私の望み、様々な国に赴き料理を学びました。それに付きまして、手土産を1つ持参しました。宜しければご賞味ください、アイスクリンです」
「……アイスクリンか。それはとても高級品の筈だけれど……買ってきたのかい?」
「まさか、アイスクリンは外つ国では一般的な食後の口直しであります。作るのも冷やす設備さえあれば、さほど難しい物ではありませぬ。しかし何よりも……身体が弱っている方に必要なエネル……うんん、栄養素等を持っておりますし、何よりも……貴方は熱を出しているとお見受けします」
槇寿郎達が驚いた様子を見せる。唇が乾き、目が僅かに潤んでいる。発熱しているのは明らかだ、だがこの人はそれを隠し通す術に長けている。
「……ふふ、まさか見破られるとは思わなかったよ。あまね、彼から受け取ってきてくれるかい?」
「はい、判りました」
奥さんらしき女性が降りてきたのでアイスクリームの入れ物を2つ手渡す。
「冷たいのですね」
「アイスクリンですから、もしかして疑ってました?」
「高級品ですので、作れると聞いて正直驚いております」
……そうかなあ、そんなに難しい物じゃない筈なんだけど、レシピの独占とかしてるのかな?
「槇寿郎達もどうぞ、10個くらい作ってきてるから」
「む、忝い。左近次殿、慈吾郎殿もどうぞ」
「……いただこう」
「これはまた……奇怪だなあ」
驚いた様子ながら受け取ってくれた事に安堵し、残りの5つは氷室にでも保管してくださいと黒尽くめの男に手渡すのだった。
怪我をした槇寿郎を手当てしたと言う料理人カワサキは非常に大柄で目付きの鋭い若い男だった。だが粗暴と言うわけではない、その外見からは想像出来ない知性に溢れていた。
(アイスクリンか……凄いね)
あまねと共にレストランで口にした事はあるがどれだけ少なくとも円は越えていた。だが、カワサキの土産は量が多く、雪のような白さと冷たさが火照った身体に染み渡るようだ。
「……うん、とても美味しいよ。ありがとう」
「いえ、私に出来るのはこれくらいの物ですから。お口に合ったのならば幸いです」
レストランで食べた物よりも濃厚な牛乳の味、そして鼻に抜ける甘い香りはレストランで食べた物よりも強く感じる。
「甘い」
「冷たい菓子と聞いたが、水ようかんより甘いなあ」
「……アイスクリンを食べた事は?」
「「ない」」
アイスクリンを食べた事がない2人が目を白黒させている。そんな2人の仕草もまた、面白い。
「……君はとても腕のいい料理人なのだろうね」
「いえ、まだ道半ば。修行中の身です」
槇寿郎がとても親しくしている理由はこの己に厳しい姿勢だろう。槇寿郎にとても良く似ている、半分ほど食べた所で机の上にアイスクリンを置いた。
「槇寿郎から君が店を持ちたいと願っていると言う事を聞いた。それに関して私は君を援助しよう、その代り、私の剣士達(こどもたち)にもその腕を振るって欲しい」
「勿論です。私の信条は生きる為に飯を食えですから、食べたくないと言っても食べさせます」
生きる為には飯を食えか……なるほど、正にその通り。現に熱が出ていて、食欲が無かったから汁物で過ごしていたが、身体が弱っているのは実感していた。だがアイスクリンを食べると少し元気が出てきたと思う。
「うん、ありがとう。店に関しては近い内に用意しよう、さてと、ここからは鬼殺隊に関する重要な話になる。カワサキを炎柱屋敷に連れて帰ってくれるかい?」
「はい、判りました。お館様、カワサキ殿。どうぞ」
「俺、重いけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ、どうぞ」
隠に背負われて去っていくカワサキ。彼が鬼殺隊の命運を分ける……産屋敷の人間が持つ直感でそれを感じていた。彼を鬼殺隊に留めておく事がとても大事な事に思えた。
「さてと⋯⋯今回槇寿郎を呼んだのは、八丈島付近で行方不明が多数発生している件について調べて欲しいんだ。かなりの年数の間生きている鬼がいるかもしれないからね……柱である槇寿郎達に島に向かって欲しいと思っている」
柱を動かすほどの事案になる可能性もある。鬼舞辻無惨の配下の十二鬼月がいるかもしれない、その可能性を捨て切れない以上慎重になる必要がある。
「判りました。その任、この炎柱煉獄槇寿郎が当たらせていただきます」
槇寿郎の言葉に頷き、その後ろの2人に視線を向けた。
「育手になって貰ったけれど、調子はどうかな?」
40近い2人が引退し育手になったのは、槇寿郎が甲の階級だった時だ。そんな槇寿郎が炎柱に至った時の事を懐かしく思いながらそう問いかける。
「は、水の呼吸では筋の良い弟子を多く迎える事ができました。近く行われる最終選別に向かわせたいと思っております」
「雷の呼吸は申し訳ありません。中々素質ある弟子と見受ける事が出来ず、最終選別は見送らせていただきたいと申し上げます」
雷の呼吸は特殊な呼吸だ。柔軟性があり、適性を持つ者が多い水の呼吸と違い才能が物を言う。
「そうか、慈吾郎。焦らなくても良いよ。自分の技術を教えるのは難しい事だからね」
弟子を育てると一言で言ってもそれはとても難しい事だ。そして技術不足で剣士(こども)達が死ぬのは悲しい事だ。焦らずじっくりと育てて欲しいと願っている。
「態々来てもらってすまないね、槇寿郎、隠からの情報を集める時間もあるから、左近次と慈吾郎の話も聞いて数日の間には出立して貰いたい」
「判りました。ではお館様、これにて私共失礼仕ります」
深く頭を下げた槇寿郎達を見送り、少し溶けてきたアイスクリンを口にする。冷たく甘いそれが全身に染み渡っていくのを感じる、そしてそれと同時に身体に活力が満ちてくるのを感じた。
「耀哉様、カワサキさんを鬼殺隊に迎え入れるのですか?」
「いや、彼はきっと戦う者ではないよ。例え力があったとしても彼は戦わない、彼はそう言う人間だ」
本質から救う人間なのだ、自衛の為、守る為に拳を振るったとしても、彼は決して己から戦う者ではない。
「強要すれば不信感を抱かせるからね、彼はきっと、鬼殺隊の頼もしい味方になってくれるよ」
彼が居れば、鬼殺隊の刃は我が一族唯一の汚点「鬼舞辻無惨」に届く、そんな確信が私にはあった。そしてそれが間違いではないという事は、この初めての出会いからそう遠くない内に明らかになるのだった……。
隠や隊士、そして柱が思い思いに食事をする中、扉の開く音と同時にあちこちから噴出す音が響いた。それもその筈、鬼殺隊の当主「産屋敷耀哉」が妻である「産屋敷あまね」と2人の子供達である「産屋敷輝利哉」「産屋敷ひなき」「産屋敷にちか」「産屋敷かなた」「産屋敷くいな」の5人を引き連れてきたのだ。噴出さないわけがない……だがそれを見ても耀哉は柔らかな笑みを浮かべたままだ。
「気にしなくてもいいんだよ、私達も食事に来ただけだからね」
気にしなくて良いなんて無理に決まっていると全員が思う中、カワサキは愛想の良い笑みを浮かべて産屋敷の一族を出迎える。
「いらっしゃい」
「やぁカワサキ、また来たよ。頼んでいた物は出来ているかな?」
「勿論、どうぞおかけください」
「ありがとう。子供達、今日はカワサキが雲を食べさせてくれるよ。甘くて美味しい、そして冷たい雲をね……」
にこにこと笑う耀哉。産屋敷の一族が来た時のメニューは決まっている、何も言わずにカワサキは準備を進める。
「お待たせしました、チョコレートパフェになります」
「ああ、今回もとても美味しそうだね。ありがとう、カワサキ」
甘くて冷たいデザート、逃れられぬ業の炎に焼かれ続ける産屋敷の人間にとって、その冷たいデザートは何よりも産屋敷の一族を癒す唯一の食べ物なのだ。
メニュー4 牡丹鍋へ続く
アイスクリームはお館様でした。弱ってるって印象なので、普通の料理は無理なので、デザート系ならいけるだろってなりました。
次回は牡丹鍋と言う事で炎・水・鳴柱の3人でお送りしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない