【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー5 スイートポテト

メニュー5 スイートポテト

 

左近次殿と慈吾郎殿が俺の屋敷に泊まった次の日の朝。カワサキが朝食の席で口にした言葉に俺達は目を見開き、カワサキの言葉を復唱していた。

 

「「「超……回復?」」」

 

「西洋の方では一般的なんだが、鍛錬をしていると腕とか足とか痛くなるだろ?これが筋肉痛って言うんだけど、その状態で鍛錬しても効果はあんまり出ない訳だ。そもそも筋肉が付くのは筋肉痛の後になるらしいから、筋肉痛のときに訓練をすると悪い癖が付いたりするわけだ」

 

味噌汁を啜りながら言うカワサキの言葉は目から鱗だった。西洋で学んでいたカワサキの知識は俺達の理解を超えていると言う事を改めて実感した。

 

「その状態で鍛錬をするとどんな悪影響がある?」

 

「そうだな、簡単に言うと筋肉の痛みを我慢する為に腕や足に負荷を掛けない動きが癖になる。後は、腕や足の動きも悪い癖が付き易いな」

 

……3人とも黙り込む。確かに、全集中の呼吸をしていると身体の中まである程度は把握できるが、確かに鍛錬に励みすぎた次の日は動きが鈍かった。

 

「ではその筋肉痛とやらの時はどうすればいい?」

 

「日によって鍛錬で掛かる負荷の場所を変えたり、軽いストレッチ……んんっ!柔軟や座学とかで軽めの運動にする。そして上質な蛋白質、肉や魚をたっぷりと取って1日休みを入れる事で筋肉が回復しやすい状態を作る事でより良い筋肉がつけられる。それとあんまり幼い内に過度に筋肉に負担を掛けると背が伸びなくなる」

 

「……何?」

 

「杏寿郎は頑張ってるみたいだけど、たまには休みを入れる事も大事だと思う。背が伸びなくなると不味いんじゃないか?」

 

背が伸びなくなる……それは鬼殺隊になろうとする者にとっては致命的だ。鬼と戦うにはある程度の上背が必要だし、筋力や体力は勿論、身体が小さいという事は全集中の呼吸の力も十分に引き出せないと言う事につながりかねない。

 

「助言感謝しよう。少し鍛錬を見直してみるか……」

 

「偶に休みがあれば励みにもなると思うぞ?」

 

休み等と考えた事は無かったが、必要な事となればそれを知る必要があるだろう。後で詳しく聞いておこうと思う。

 

「カワサキ殿、ワシも詳しく聞きたい」

 

「うむ。育手としてワシも左近次も手探りの状態だ。それで何かが変わるとなればワシも聞きたい所だ」

 

弟子を育てるという事は難しいと言う事を改めて思い知らされた気分だな。

 

「じゃあ、朝食が終わったら俺の知っている限りの事を説明するよ」

 

お館様の言っていた通り、カワサキは鬼殺隊を変える。その事を俺だけではない、左近次殿と慈吾郎殿達も改めて実感した瞬間だった。

 

 

 

 

 

槇寿郎の杏寿郎へのトレーニングが過酷に見えて言った事だが、やはり大正時代は身体に対する理解も、食事に対する理解も足りていないと言う事を改めて知った気分だ。

 

(まぁ、これで何とかなれば良いが……)

 

適切なトレーニングと食事を取る事で身体はより強い物になるだろう。鬼を間近で見た事はないが、死亡率が高いと言うことはユグドラシルの異形種と人間の身体能力の差と同じ位の差はあるに違いない。少しでも手助けして、死人が減れば良いが……と思うのはきっと傲慢なんだろうな。だが、それでも知人に死んで欲しくないと思うのは「人」として当然だと思う。

 

(人じゃない、俺が何を考えているんだろうな)

 

何処まで行こうと俺はクックマンが正体である。老いる事はない、だが人としての「川崎雄二」は削れて行くだろう。まだ正常な思考が出来る内にやれる事は全部やっておきたいと思う。

 

「……っと、いかんいかん」

 

時間を計っていたタイマーの鳴り響く音で思考の海から引き上げられた。蒸かしていたさつまいもがいい塩梅になっているな。

 

「あっちち…」

 

さつまいもの皮を剥いて、ボウルの中に次々放り込んでいく。杏寿郎もよく食うが、槇寿郎も実によく食べる。杏寿郎だけに渡す訳にはいかないので、槇寿郎と瑠火さんの分も作ろうと思う。

 

「でも、半端無く高いなあ……」

 

牛酪……つまりバターが尋常じゃなく高かった。勿論蜂蜜もだが……リアルより物価高いんじゃないかと心から思う。芋が温かい内に潰して、牛乳、バター、蜂蜜、卵黄を加えたら、砂糖と隠し味の塩も加えて滑らかになるまで混ぜ合わせる。

 

「ちょい、牛乳が足りないな」

 

芋が大きかったからかぱさぱさしていたため、牛乳を継ぎ足して、更に混ぜ合わせる。牛乳を少し増やした事で滑らかになったので、それを匙で形を整えてバターを引いた鉄鍋の中に丁寧に並べて焼いていく。

 

「オーブン……欲しいなあ」

 

この時代には初期型のオーブンとか、冷蔵庫とか、ガス台とかあるはず。そう言うの何とかならないかな……と心から思う、竈オンリーではやはり調理の幅が狭まるんだよなあ……。

 

「よっと」

 

まぁ、出来ないことはないんだが…俺の理想とするスイートポテトと比べるとやっぱり不恰好だよなと思いながらひっくり返し、もう片方の面を焼き始める。

 

(あとは、うーん……駄目だな、必要な物が多すぎる)

 

1度あれが欲しい、これが欲しいと思うと必要な物がどんどん思い浮かぶな……ちょっと考えないようにしよう。

 

「良し、最後にっと」

 

両面しっかりと焼けたら、表面になる部分に溶かした卵黄を刷毛で塗りもう一度ひっくり返して少しだけ焼く。卵黄がこげて焼き色が付いたら完成だ。

 

「後はホットミルクでも作るかな」

 

スイートポテトは口の中がぱさつく、しかしお茶と言うのも洋菓子には余り合わないし、紅茶もコーヒーもあることにはあるが受け入れられるか不安があるので牛乳を温めて蜂蜜を中に溶かし込むことにするのだった……。

 

 

 

 

 

今日の鍛錬は休みと言われ、道場の縁側に父上と母上と共に座るのだが……お、落ち着かない。

 

「父上、急に鍛錬を辞めろとはどういうことなのですか?」

 

「……うむ、カワサキに聞いたのだが、鍛錬を続けて身体が痛い時に鍛錬を行うと悪い癖が付くそうなのだ」

 

「よもやッ!真なのですか!?」

 

カワサキ殿が嘘を言うとは思えないが、今までずっとそうしてきたのでそれが悪い事と言うのは初めて知った。

 

「それと、過度な鍛錬は背が伸びなくなると……」

 

「……え?わ、私はもう背が伸びないのですか?」

 

「いやいや、そう言うことでは無い……無いと思う」

 

自信なさげな父上の姿に私もおろおろしていると、母上がくすくすと笑う。

 

「大丈夫よ、そうならないように教えてくれたのです。杏寿郎の背はまだ伸びますよ」

 

「そ、そうですよね!大丈夫ですよね!」

 

手遅れならカワサキ殿は黙り込むに違いない、だからきっと大丈夫……大丈夫だと思いたい。

 

「効率的な鍛錬の方法としてカワサキに色々聞いた、それを踏まえてもう1度鍛錬の内容を見直してみようと思う。おれ自身にも必要な事だと思うからな」

 

長く現役で居たいのならばと言われれば、それに従うしかあるまいと父上は苦笑いを浮かべた。

 

「はい、お待たせ。約束していたさつまいもの菓子を作ってきたぞ」

 

カワサキ殿が盆の上に山盛りのお菓子を持ってきてくれたので思わず縁側から立ち上がった。

 

「芋金団ですか?」

 

「いや、これはスイートポテトって言うんだが……確かに芋金団だな。うん、西洋風の芋金団だ」

 

外つ国にも芋金団があるとは驚きだ。しかし……何と鮮やかな色か。それにこの甘い香りが鼻をくすぐる。

 

「お前は本当に器用だな」

 

「菓子は専門じゃないけどな。それなりには作れる。それなりにだけどな」

 

カワサキ殿の腕前でそれなりでは、きっとこの近辺の料理人等は料理人と名乗る事すら難しいだろう。

 

(俺もカワサキ殿のような男になりたいものだ)

 

自分の腕を鼻に掛けるのではなく、常に謙虚だ。しかし、それでいて誰かの為に行動出来るカワサキ殿は尊敬に値する人物だ。

 

「どうぞ、口に合えばいいんだけどな」

 

温めた牛乳を湯呑みに淹れているカワサキ殿に頂きますと言って、西洋風芋金団を口に運ぶ。

 

「うまい!うまい!わっしょいッ!わっしょいッ!!」

 

芋金団よりも舌触りが良く、食べる前から感じていた香りも実際に口に含むと数段よく感じる。

 

「うむ、確かに美味い」

 

「ですね、とても上品な味がしますね」

 

「はは、そんなに大層な物ではないんだがな」

 

大層な物ではないと言うが、この芋の甘さが口一杯に広がる。しかし芋だけでは出ない味までする。頭の中をさっきから神輿が行ったり来たりしているのが良く判る。

 

「わっしょいッ!わっしょい!!美味い!美味い!」

 

手が止まらないという事はこの事だろう。蒸かし芋、焼き芋、天ぷら、味噌汁。今まで食べた薩摩芋料理の中でこれは一番美味しいかもしれない。

 

「芋金団なのにとても滑らかですね」

 

「牛乳と牛酪、それと蜂蜜と卵黄を潰した薩摩芋に混ぜ込んでますからね、とても舌触りがいいでしょう」

 

「……牛酪まで使っているのか」

 

「西洋の菓子では牛酪は必須だよ。風味と味が良くなる」

 

アイスクリンも高級品だが、牛酪まで使って作っているこの西洋風芋金団もとんでもない高級品なのでは……。殆ど無くなった西洋風芋金団を見てとんでもない事をしてしまったのではと今更ながらに思った。

 

「ん?どうした?もっと作ろうか?種はあるからまた作れるぞ?」

 

「ああ、いえ、その……「子供は沢山食べて、遊んで、寝て、でっかくなるのが仕事だ。遠慮するな、まだ作ろうか?」……はい!お願いします!」

 

こんなに美味しいのだからもっと食べたい。そう思ってしまったらもう止まらない。温かい牛乳を飲みながらカワサキ殿が戻ってくるのを縁側に座って待つ。

 

「適度な休みも大事と言う、今度釣りにでも行くか」

 

「はい!行きます!」

 

カワサキ殿が来てから我が家が良い方向に回っているように思える。

 

「けほ、こほ」

 

「風邪か?大丈夫か瑠火」

 

「大丈夫ですか?」

 

軽く咳き込んだ母上に父上と共に大丈夫ですか?と尋ねる。母上は柔らかく微笑みながら、温かい牛乳を口にする。

 

「大丈夫ですよ。母は元気です」

 

そう笑う母上に私も父上も安堵したが……その小さな咳が後々、煉獄家を根底から崩しかねないことになる事を今の俺も父上も想像すらしないのだった。

 

 

 

メニュー6 手まり寿司へ続く

 

 




煉獄家の穏やかな日常に翳りの兆しですね。次回は伊黒さんを出そうかなとか思いますね、カワサキメンタルケア第一患者になってもらおうと思います。伊黒さんは煉獄さんの幼馴染でいいでしょう、うん。大丈夫な筈……多分きっとメイビー。カワサキメンタルクリニックも開業です。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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