【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー6 手まり寿司

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何?カワサキさんの事を教えて欲しいだと?

 

貴様本当に鬼殺隊か?鬼殺隊にいてカワサキさんに世話になっていないものなどいない、まさか排除しようと騒いでた馬鹿者共の生き残りか。

 

何?今年入隊したばかり、通りで線は細い、筋力も無いわけだ。

 

まぁ良い、カワサキさんはとても穏やかな人だ。それに話も良く聞いてくれる、俺も世話になっている。

 

だがそれに甘えて下らない話をしにいこうなんて真似をするなよ。

 

あの人は何時休んでいるかも判らないほどに働き詰めだ。無駄話や下らない話であの人の時間を使わせるな、良いな?判ったな?

 

判ったのなら良い、カワサキさんは鬼殺隊に必要な人だ。下らない嫉妬やいらぬ疑惑で害なそうとするんじゃないぞ、良いな?

 

ただでさえ今はカワサキさんの場所を休憩所か何かと思って入り浸っている連中が多いからな。

 

まぁ迷惑を掛けなければいいとは思うがな……。

 

カワサキさんは本当に良い人だ、俺にも本当に良くしてくれた。

 

それに本当に不思議な力を持っている。だが勘違いするなよ、あれは鬼共とは違うからな?

 

人を救える人、どこまでも優しいあの人を鬼だと排除しようした馬鹿共と同じ様な真似をするなよ。

 

まぁ、そんな事をすれば柱が総動員になるがな、それに一応護衛もどきもいることだしな、2度とあんな事にはなるまい。

 

俺もあの人に迷惑をかけた口だが……それでもあの人は優しく出迎えてくれる。

 

帰る場所がある。迎え入れてくれるという事は鬼殺隊ならばそのありがたみはよく判る筈だからな……。

 

 

 

 

厨の片づけをしていると杏寿郎が肩を落として返ってきた。その手に載っている盆には手が付けられた痕跡も無いおじやが冷めた状態であった。

 

「今日も駄目でした……」

 

「そっかあ。すまないな、杏寿郎。いやな事をさせてしまった」

 

「い、いえ、私も伊黒と友達になりたいと思い、不躾に踏み込んでしまったのかもしれません」

 

1週間ほど屋敷を出ていた槇寿郎が連れて帰って来たのは、左目が青緑、右目が黄と珍しいオッドアイの少年だった。鬼の生贄として育てられたと聞いて色々と気遣ってみたのだが、その全てが悉く裏目に出ている。

 

「1回槇寿郎に詳しく話を聞いてみる事にする。明日も早いから、今日はもう寝なさい」

 

「はい……」

 

肩を落として厨を出て行く杏寿郎。その姿を見送り、冷えたおじやを口にする。

 

「……美味いけどなあ、味が合わないのか……」

 

鶏出汁が良く利いた美味しいおじやだ。冷えているけど、十分に美味いし、何よりも食べ物を粗末に出来ないので残ったおじやを食べ終えてから槇寿郎の部屋へ向かう。

 

「槇寿郎、ちょっと良いか?」

 

「……しばし待て」

 

うん?槇寿郎の声も暗いな……元が快活だから落ち込んでいるすぐ声に出るんだよなと思い。呼ばれるまで落ち込んでいる理由を考えてみる。

 

(瑠火さんか?……でもあれはおめでただったし……)

 

食事に回復魔法を付与してるから前よりかは元気になっている筈だし……おめでたで落ち込むとかありえないと思うんだけどな……うーん、そうなると鬼の事かな?

 

(でもなあ、俺鬼殺隊の事判らんし……しかも聞けねえ)

 

あくまで料理人なのでそこまで踏み込むのもなぁと思っていると入ってきてくれと言う声が聞こえたので部屋の中に入る。

 

「すまないな、少し調べ物をしていた」

 

古い和綴じの本を大事そうに漆塗りの箱にしまう槇寿郎にこっちこそすまないと声を掛けてから、槇寿郎が連れてきた少年……「伊黒小芭内」について尋ねてみた。

 

「食事を口にしないのか……」

 

「ああ、汁物はとりあえず飲んでくれるから胃が弱ってるのかと思って、粥やおじやを試したが……こっちはまるっきり手をつけなくてなぁ……何か心当たりが無いかと思ってな」

 

人間生きるのには飯を食う必要がある。だが小芭内は食べる事を拒否し、自ら死に向かおうとしているように見える。これは何か理由がある筈だ、そうでなければあんな幼い少年が空腹に耐え、ほぼ1週間も絶食に近い状態に耐えれる訳が無い。

 

「……あの子は鬼に支配された一族の2人だけの生き残りだ。300年ほど鬼に旅人を食わせ、その持ち物を売り払い、そして自分が産んだ子供を鬼の捧げ物にし、働きもせずしかし鬼が殺した旅人の持ち物を売る事で豊かな暮らしをしていた伊黒の家の370年ぶりの男子だった」

 

「その一族糞じゃねえか……」

 

頭痛がした。自分達が楽をして生きる為に人を殺し、しかも自分が産んだ子供まで犠牲にするとか糞にも程がある。リアルでもいないぞ……そこまでの外道は……あの荒廃した世界よりも豊かな癖にどうなってるんだよ、大正時代。

 

「……あの子が口に包帯を巻いていただろう?」

 

「怪我をしてるんじゃないのか?」

 

「違う、鬼に自分と同じ口になるように口を裂かれたので、それを隠すために包帯を巻いているんだ。それに、生き残った従姉弟にはお前のせいで、五十人死んだと、あの子が殺した。だから大人しく喰われていれば良かったなんて酷い言葉を投げかけられた。俺は……間違えた、血族だからと……会わせてやるべきだと思ったんだ。まさかそんな事を言うなんて思ってもみなかった……」

 

槇寿郎は小芭内の姿に杏寿郎の姿を見たのだろう。家族が恋しい筈だと、そして従姉弟も生き残った家族との再会を喜ぶと思ったのだろう。

 

「お前のせいじゃない、槇寿郎は間違った事はしなかった」

 

「……それでもだ。俺はあの子を深く傷付けてしまった……もっと早く、あの鬼を退治していれば……やはり……」

 

「やはり何だ?どうした?」

 

槇寿郎の様子がおかしい……何か、何かある。

 

「……いや、すまない。大丈夫だ、まだ俺は心を燃やせる。まだ……大丈夫だ」

 

これ以上は深く踏み込めないか……何か、槇寿郎も何かその心に闇を抱えている。それを聞き出すには、まだ俺の信用が足りないか……。

 

「すまない、あの子を頼む。カワサキ」

 

「……ああ、任せてくれ」

 

本当はお前も助けたいんだけどなと思いながら、今の俺にはそこまで踏み込む、いや踏み込めるだけの信頼がない……か。槇寿郎に背を向けて、俺はその場を後にする事しか出来なかった。

 

「……誰ですか?」

 

「よう、邪魔するぜ」

 

そのままの足で小芭内の部屋へと向かう。今は少なくとも、槇寿郎の後悔の種となっている小芭内を何とかしない事には槇寿郎と話をする事も出来ない。

 

「……煉獄家の方でしょうか?」

 

「うんや、俺もお前と同じ居候。料理人をしているカワサキと言うもんだ」

 

俺の言葉にはっとした表情の小芭内は深く頭を下げた。

 

「申し訳ありません、いつもお食事を残してしまい「ああ、違う違う。怒りに来た訳じゃねえ、話に来たんだよ」……話ですか?」

 

きょとんとした顔をしている小芭内。自分が食事をしないのでそれを怒りに来たとでも思ったんだと思うと、思わず笑ってしまう。

 

「話がしたい。ただそれだけなんだよ、ちょっと菓子も持ってきたから食べれるなら食べな」

 

スイートポテトの残りを見せると、小芭内は一瞬手を伸ばしかけたが、それを引っ込めた。

 

「すいません、食べたくありません……ごめんなさい」

 

首に巻いている蛇が心配そうに顔を寄せ、小芭内がその頭を撫でると蛇は俺に視線を向ける。それは言葉ではなかったが、俺に何かを訴えかけているように見えた。

 

(判ってる、判ってるさ)

 

食事をしていないので明らかに身体に力が入っていない。それに顔色も悪い、それにしてもこの蛇は随分と賢いな、言葉も理解しているんじゃなかろうか。

 

「いや、無理に食えとは言わないさ。机の上においておくから気が向いたら食べてくれ」

 

俺は気にしていないからと頭を撫でようとすると、小芭内は凄まじい勢いで後ずさった。

 

「触らないで……きた……ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「ああ、すまんな。俺も気遣いが足りなかった。また来るよ」

 

そう言って小芭内の部屋を出る、厨に向かいながら俺は1つの事を確信していた。

 

(PTSD……か)

 

かなり重度のPTSDを発症していると確信した。汚いと言おうとしたのは俺にではない、自分の事だろう。小芭内の家がしていたことを知り、その血が流れていること、そして罵倒されたとしても自分もその一族だからとその業を背負おうとしている。

 

「なんとまぁ……難儀なもんだ」

 

リアルでも色んな家を見てきたし、色んな闇を背負っている者を見てきたが、大正時代でもリアルよりも酷い事があるんだなと俺は驚いた。

 

「……でもまぁ、いらないおせっかいを焼かせてもらうかね」

 

こうして関わった以上、見て見ぬ振りをするつもりもない、それに10歳前後の子供がそこまでの業を背負うこともない。

 

「子供は笑って食って遊んで寝てこそだよな」

 

まだ甘えられるうちは甘えていればいい、無理に大人になる必要はないのだ。

 

「やれるだけやってみるかあ」

 

既に傷が塞がっているのでどれくらい治癒のバフが効果を発揮するか判らないが、それでも少しでも小芭内の背負っている業が軽くなればと思い、俺は厨に足を向けたのだった。

 

 

 

カワサキと名乗る大柄な男性が訪れ、私と話をしてから朝昼晩と汁物が置かれていた。

 

(……これなら)

 

口元の包帯を解いて、耳元まで裂けている口をあらわにして匙で汁を口に運ぶ。

 

(……温かい)

 

汁物の熱が全身に染み渡っていく、槇寿郎殿に何かを聞いたのか固形物は一切運ばれなくなった。この口では固形物を食べたら口からどんどん零れ落ちてしまう、だからこそ食事を拒否した。丁寧に作られていて、自分の事を思ってくれる料理も口に出来ない、零してしまう。それがとても申し訳なかった。

 

(この穢れた血は1度死ななければ……)

 

業の深い伊黒の血を引いている……この家の人は皆優しい、だからこそこんな穢れた私がいて良い場所ではない。

 

「シャー」

 

「鏑丸。大丈夫だよ、お前は食べな」

 

鏑丸用の生肉まで用意してくれていることに感謝し、汁を啜っているとカッと身体が熱くなる。

 

「うっ……まただ」

 

温かい汁物を飲んでいるから、なんて理由ではないそれは別の熱が身体を覆うのが良く判る。これは何なのだろうか……汁を飲み終え、引きっぱなしの布団に横たわる。そんな毎日を過ごしているある日の夜……

 

ぽきゅぽきゅぽきゅ

 

と言う奇妙な足音を聞いた。その音に伊黒の家にいた蛇の鬼を思い出し恐怖で身体を強張らせた。

 

「※■▲※?☆」

 

なんか訳の判らない言葉を呟き、ぽんぽんっと布団の上から身体を叩いてその何かはまた奇妙な足音を立てて消えていった。そして次の日の朝……

 

「な、なんで……」

 

いつものように包帯を口元に巻こうとした時、鏡を見て目を見開いた。耳元まで裂けていた傷が頬の中ほどまでだが塞がっていた、都合のいい夢を見ているのかと思い指で何度もなぞるがとても耳元まで裂けていたとは思えない。まだ傷跡は残っているが、それでも口は少しだけだが人間に近づいていた。

 

ぽきゅぽきゅぽきゅ

 

と言う足音は夜の度に響き、そして朝になると少しずつ少しずつだが傷跡が塞がっていた。

 

「……夜中に奇妙な足音を聞いて、朝起きると傷が少しずつ小さくなっているんです。槇寿郎殿」

 

足音が聞こえなくなってから口の跡は小さくなっていた。今では僅かな傷が残るだけとなっている。

 

「……座敷童ではなかろうか?」

 

「そうでしょうか……」

 

座敷童と言う妖怪の存在は知っているが……なんでと言う気持ちがないわけではない。だが傷跡の消えた口元を見ると少しだけ許されたような……そんな気持ちになる。

 

「きっとお前が背負う必要はないと持って行ってくれたのだ。幸せに生きろということなのではなかろうか?」

 

「そんな……この穢れた私がですか」

 

「穢れたなどと言うな。幸せに生きろ、俺も瑠火もそう願っている」

 

本当にこの人達は優しすぎる……その優しさがいつか害をなすんじゃないかと心配になる。

 

「それかきっと、お前の優しさを知ったおせっかいな神が治してくれたのかもしれないな」

 

とにかくそれでカワサキの食事が食べれるじゃないかと笑う槇寿郎殿に頭を下げて、与えられた部屋に戻る。

 

「いいのだろうか……許されたのか……」

 

この身体に流れる罪深い血が許されたのか、本当に毎夜現れるあの奇妙な足跡の主は神なのかと答えの出ないことを考えていると襖が開いた。

 

「槇寿郎から聞いてきた、なんでも食欲が出てきたらしいな」

 

「え、あ、いや……」

 

しどろもどろに返事をしている間にてきぱきと御膳を用意されてしまった。

 

「食べられるだけで良い、無理だったら残してくれていいから食べてくれよな。食べないと死んでしまうからな、食べる事は生きる事だ。俺も、槇寿郎達も小芭内に生きて欲しいと願ってる」

 

そう笑って部屋を出て行ったカワサキ殿。御膳の上を見ると小さく丸められた米の上に魚の切り身が乗せられていた、それに澄んだ汁物も一緒だ。

 

「……シャー?」

 

生肉を食べている鏑丸が食べないのか?と言っている気がして、1つだけと思い小さく丸められたそれを口に入れた。

 

「……」

 

涙が出た。口から食べた物が零れないことに泣いた訳ではない、1つ1つに込められた思いみたいな物を感じ取ってしまったのだ。

 

「……美味しい」

 

「シャー」

 

鏑丸が良かったと言っている。1口サイズの寿司は食べやすく、そして醤油が塗ってあるのかそのまま食べても美味しい。

 

「……卵」

 

卵に包まれた寿司は卵の風味と寿司酢の酸味が口の中に広がっていく。

 

(食べてもいいのだろうか)

 

食べることは余り好きじゃない、穢れた身体が大きくなることは好きではないから……だけど手が止まらない。

 

「……美味しい」

 

海老が丸められて、2匹乗せられたそれはぷりぷりとしてて、食感が実に楽しい。

 

「……ひっく……」

 

食べる事は生きる事、生きていて良いのだろうか……この呪われた自分が生きていていいのか、幸せになっていいのか。1つ食べるごとにそんな考えが脳裏に浮かんでは消えていく……

 

「……美味しい、優しい味がする」

 

座敷牢での食事はただ量が多いだけだった。だけど、この料理は凄く優しい味がした。

 

「全部食べられたみたいだな、良かった良かった」

 

「ご、ご馳走様でした」

 

「よしよし、子供は腹一杯食って、寝て遊べ。急いで大人になる必要も、何かを我慢する必要もない。何かあったら声を掛けてくれよ」

 

「……はい」

 

父と言う存在は知らないが、もしいれば……こんな感じなのかもしれないと御膳を片付けて、部屋を出て行くカワサキ殿の背中を見て思ったものだった。

 

 

 

 

「カワサキさん、少し頼みがあるんだが」

 

「座れ座れ、立ち話もおかしな物だろ?」

 

休憩時間に顔を見せた小芭内にカワサキは笑顔で座るように促し、お茶とお茶請けに大福を差し出す。

 

「その、無理な頼みだというのは判っている。来週……甘露寺とその花見に行く、その……」

 

迷惑を掛けるなと隊士に言っておきながら柱である自分が迷惑をかけているという自覚があるのか、しどろもどろになる小芭内。だがカワサキはそんな小芭内を見て笑う、その笑顔は微笑ましい物を見ているといわんばかりの柔らかい笑みだった。

 

「お弁当だな、判った。作っておくよ」

 

「……良いのか?」

 

「ああ。良いとも、早朝に取りにおいで、用意しておくから」

 

「……ありがとう」

 

「今から任務か?ちょっと待て」

 

カワサキはそう言うと火打石を持ってきて小芭内の後ろで切り火をする。

 

「気をつけて、ま、柱に言う事じゃねえわなあ」

 

「いや、ありがとう。行ってきます」

 

「おう、行ってらっしゃい」

 

カワサキに見送られ、カワサキの姿が見える間はゆっくりと歩いていたが、その姿が見えなくなると呼吸を使い凄まじい勢いで山の中に消えていく小芭内。

 

「シャー」

 

「ああ、判ってる。任務が終わったら市場に寄ろう、お土産くらい持って行かないとな」

 

「シャー♪」

 

鏑丸の楽しそうな鳴き声に小芭内も笑みを浮かべる。何時だってお帰りと行ってらっしゃいを言ってくれるカワサキの所はやはり、隊士にとって帰るべき場所なのである、それは柱であろうと下級隊士であろうとも変わらないただ1つの事なのだった。

 

 

メニュー7 炊き込みご飯へ続く

 





ここの所は煉獄家の話が続いていましたが、次回はちょっと時間を飛ばして、煉獄家と関係のない話をかいてみようと思います。と言っても、メニューのタイトルで誰か判ると思いますけどね、あ、後関係ないですが、混沌の魔法使いは「おばみつ」を推しております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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