【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー8 田舎風お弁当

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悪夢のような一晩を終えた翌日、私は煉獄様、そしてカワサキさんから何があったのか、そのことの顛末を知ることが出来た。

 

「鬼は実在したのですか……」

 

「ああ、俺は鬼を狩る鬼殺隊の煉獄槇寿郎。柱と呼ばれる地位にいる者だ」

 

「……ではカワサキさんも?」

 

「俺?俺はただの料理人、ちと訳ありで今回は同行してるだけだ」

 

昨晩は鬼から子供を庇いながら私に指示を飛ばしていたのでこの方も鬼殺隊かと思われたのだが違ったようだ。

 

「では貴方達はこの山の鬼退治に?」

 

「……いや違う、俺がお前達を助けられたのはただの偶然に過ぎない。俺の妻が病気でな……それを治す為にカワサキの荷物を探しに来た。そして運よくお前達を助けられた……それだけだ」

 

運が良かった……確かに助けられたのは事実。私は畳に手を付いて深く頭を下げた。

 

「や、止めないか。俺はそんな大層な……「いいえ、私達は貴方様に助けられました。本当にありがとうございます」

 

もしも煉獄様が居なければ、私もそして私の子供達も鬼に殺されていたかもしれない。確かに子供達を守らなければと鬼に殴りかかったが、あの嫌な感触は今も両拳に残っている。

 

「それでだ。いま、お館様と連絡を取っている。近いうちに隠と呼ばれる鬼殺隊の者が訪れるだろう、その者にも説明されると思うが……お前達がこれから出来る事は3つ」

 

1つ 鬼の事を忘れ、そして鬼の事、鬼殺隊の事を口外しない

 

1つ 鬼殺隊に入り、鬼と戦う事

 

1つ 藤の家紋を掲げ、鬼殺隊の休養場所、治療場所としての場所を提供する事

 

のいずれかだと煉獄様は口にした。すぐに答えは要らないと仰られ、カワサキさんと煉獄様は今日も荷物を探して山へと足を向けた。

 

「私は……」

 

道は示された、そして選ぶのは私、強制はされていない。己で考え、己が何をなしたいのか……それを私は考える必要があった。

 

「ぎょうめいさま?」

 

「行冥様どうしたの?」

 

「怖い顔してる」

 

煉獄様とカワサキさんのおかげで生き延びた子供達の声がする。獪岳も血濡れではあったが、それはカワサキさんが獪岳を庇い、カワサキさんの血液を浴びた事、そして鬼の攻撃を喰らいそうだったからカワサキさんに投げ飛ばされそのショックで気絶しただけで、命に関わる怪我をしているわけではない。

 

「……」

 

山を見つめ何かを考え込んでいる獪岳。鬼を見て、そして死に掛けた事で何か思う事があるのだろう。

 

そしてこの話から3日後。鞄を見つけたので帰ると言う煉獄様達へ私は己の答えを告げたのだった……。

 

 

 

 

行冥達の寺を出て、俺達は槇寿郎の屋敷への道を急いで戻っていた。

 

「瑠火は大丈夫だろうか」

 

「問題ない筈だ。最悪の状況になる前に動いている、絶対に助かる」

 

クックマンの鑑定で病気が表に出る前に俺達は動き出した。鞄を見つけるのに相当時間を掛けてしまったが、まだ全然大丈夫な筈だ。

 

「ちっ、くそ」

 

「山の天気は変わりやすいって本当だな」

 

ぽつぽつと降ってきた雨があっという間に本降りになるまで、そう時間はかからず。俺と槇寿郎は昔の馬車の停留所跡地に慌てて駆け込んだ。

 

「……ふう、本降りになる前でよかったな」

 

行きは呼吸を使う槇寿郎に背負って来てもらった、だが俺が山の中で落とした鞄は全部で4つ。この時間に俺が来た時に収納していた物が墜落のショックであちこちにばら撒かれてしまっていた。それらの数は多く、そして重量もある。鞄を全部槇寿郎に持たせ、その上で俺を背負うのは幾らなんでも無理があった。

 

「かなりの量だな」

 

「色々入ってるからな。仕方ない」

 

着の身着のままで槇寿郎と山を降りた。だから俺が装備していた鞄などは山のあちこちに散乱していたが、ゲーム中の設定もあったからか奪われる事無くそのまま落ちていたのは本当に良かった。

 

(スキルだけじゃ補えないからな)

 

スキルの効果は約半分ほど、それにアイテムボックスも展開できる時間が限られているとなれば、鞄に収納している食材などを引っ張り出さなければ瑠火さんの治療は間に合わない。だからこうして態々山の中にまで出向いてきたのだ。

 

「ほれ、弁当」

 

「……すまん」

 

行冥の寺を出る前に準備した弁当を渡す、中身は金平ごぼう、ひじき、卵焼き、しいたけを甘辛く炊いたものと、山女の塩焼き、そしてごま塩おにぎりが5つ。決して派手ではなく、むしろ地味な部類だが山歩きの事を考えてミネラルや糖分などの補給を考えたメニューだ。

 

「行冥達の選択は俺にとって予想外だった」

 

「仏門の人間だからな、藤の家だっけ?それになると思っていたよ」

 

行冥の選択は鬼殺隊になる事だった。自分の子供達を守る為の力が欲しいと、そして鬼に殺される者を助けたいと言うのが行冥、そして獪岳の選択だった。

 

「隠に言付けは残してきた、だから大丈夫だとは思うがな」

 

「少し不安はあるな」

 

行冥は盲目だ、だがその代りに聴覚や肌の感覚で周りを完全に把握している。それは日常生活には問題は無いが、鬼と戦うとなるとどれだけのハンデになるか……それでも行冥と幼い獪岳は鬼殺隊を志した。残りの子供達は藤の家紋の家に預けられ、養子になるか、それとも鬼殺隊になるか、隠等になる道を示してきた。

 

「あむ。懐かしい味だ。母の味に似ている」

 

「そうか?それならいいけどな」

 

甘辛い分厚いしいたけを噛み締めると椎茸に染みこんだ出汁と甘めの味付けが口一杯に広がり、やや塩辛いおにぎりと非常に良く合う。

 

「俺は藤の家紋を掲げて欲しいと思った。鬼殺隊は何時死ぬかも判らん」

 

「だが、その道を選んだのは行冥達だ。そこに俺達が言えることは何も無い、今は瑠火さんの事を考えてやれ」

 

考えて迷って、そしてその上で行冥達が出した選択を俺達は否定することも出来ない。面倒見がいい性格だから行冥達のことも心配だと思うが、今は自分の嫁さんの事を考えてやれと言うと槇寿郎は小さく頷いた。

 

「……そうだな」

 

「おいおい、そんな勢いで喰ったら……「ご馳走様。近くに藤の家紋の家がある、呼吸が使える隠もいる。荷物を運ぶのに呼んでくる!」

 

止める間もなく駆けて行ってしまった槇寿郎。落ち込んでいたと思ったらあれかと苦笑し、おにぎりを口にしていると1人の男が屋根の中に入ってきた。

 

「失礼します、私も雨宿りしても宜しいですか?」

 

「ああ、どうぞどうぞ」

 

この時代では珍しい洋装に少しテンパ気味の若い青年だった。少し肩が濡れていたので鞄からタオルを取り出して渡す。

 

「ああ、すみません。ありがとうございます」

 

「いやいや、困ったときはお互い様さ」

 

柔らかく微笑む青年の顔を見て誰かに似ているなと思いはしたものの、誰かと言うのが思い出せず、リアルで来た客に似てるのがいたかなと思う事にした。

 

「あ、良かったらどうぞ」

 

「これは?」

 

「弁当だけど、腹空いてないか?」

 

槇寿郎だけで4つは食べると思っていたのだが、1つを食べて出て行ってしまったので全然残ってしまっている。良かったらどうぞと言って差し出すと青年は少し驚いた顔をしたが、ありがとうと笑って受け取ってくれた。

 

「これ、お茶な」

 

「ご丁寧にどうも、貴方はどうしてここに?」

 

「ちょっと山に探し物にな、料理人だからさ。茸とか山菜を探しに来たんだ」

 

「なるほどなるほど」

 

なんか観察するような視線を感じるけど、俺からするとこの兄ちゃんもおかしいよな。この山の中でスーツとか違和感しかない。

 

「そう言うあんたは?」

 

「貿易商をしておりまして、少し取引で足を伸ばしたのですよ。しかしこの急な雨には驚きました」

 

「山の天気は変わりやすいって言うからな「カワサキーッ!」っと迎えが来たみたいだ、じゃあな。またどこかで」

 

4つの鞄を背負って少し小降りになったのを見て俺は槇寿郎の呼び声の元へ走るのだった……。

 

 

 

 

 

鞄を背負って走っていくカワサキを見つめていた青年……その瞳孔が縦に割れ、その色が真紅に染まる。

 

「ふん、運の良い奴だ」

 

カワサキが誰かに似ていると感じたのは間違いではない、青年……いや、鬼の始祖「鬼舞辻無惨」と鬼殺隊の頭領「産屋敷耀哉」の顔は双子のように酷似していた。カワサキが1度しか産屋敷耀哉に会っていなかったことが幸いして、誰かに似ているなと思いながらも、誰に似ていると口にしなかった事がカワサキと無惨の戦いに発展しなかった理由である。

 

「弁当か……ふん、くだらない」

 

鬼である私は人間の食べ物など口にしない、投げ捨てようとした時弁当の蓋が開いた。

 

「なに?」

 

ごくりと喉が鳴った。弁当の開いた蓋から零れる香りに腹が鳴った……。

 

「馬鹿な、そんな事はありえん」

 

鬼は人間しか食べない、人間の食事に空腹を覚える筈が無い。そう思いながらも弁当の蓋を開ける、質素な煮物と煮付け、そして野菜と魚とそして主食は握り飯と言う余りにも質素な弁当。それなのにやけに輝いて見えた……人間の食事に食欲を感じたことなどこの1000年1度もなかったというのにッ!

 

「……!」

 

ありえない、そんな事はありえてはいけない。何かの気の迷いだと思い、握り飯を頬張る。拒否反応で吐き出すと言うのは何度も経験していた……だが私の身体はその米を食べ物として受け入れた。

 

「美味い」

 

やや塩が強いがゴマの香りと米の甘みが実に良く生きている。それに冷えているのにとてもふんわりとしている……。スーツのポケットに手を入れて、商談相手から貰ったチョコレイトを口に入れる。

 

「げほっ!!」

 

甘いはずのそれは酷い味で、苛立ち隠しで足を振り上げて踏み潰す。

 

「……これは食べられる、何故だ」

 

脂の乗ってる魚の塩焼きはぱりぱりに焼かれていた皮と相まって非常に美味だ。おにぎりにも自然と手が伸びる。

 

「……美味い」

 

甘辛く炊かれた肉厚の茸、それは人肉とは違うのに驚くほどに私に満足感を与えた。

 

「……辛い」

 

ごぼうの金平はやや辛いが、それが食欲をそそり、その辛味が口の中をさっぱりとさせる。

 

「……なんだこれは?」

 

黒い何かはこりこりとした何か独特の食感をしているが、悪くない。むしろ美味いぞ、米が食べたくなる味とはこれの事だろう。

 

「美味いッ!」

 

そして薄く焼いた卵を何層にも重ねたもの。卵の風味と甘みが生きているそれを口にした時。弁当箱をベンチの上において外に飛び出していた。あの男を何としても連れて帰ると思いその姿を探したのだが、私の視線に入ってきたのは忌々しい物だった。

 

「鬼殺隊ッ!」

 

カワサキを背負い駆けて行く金髪の男。その羽織は紛れも無く鬼殺隊……。しくじった、あの男は鬼殺隊の関係者だったのか……いやしかし、鬼殺隊独特の雰囲気は無かったな。

 

「なるほど、料理人として雇ったという事か、ちっ。惜しい事をした」

 

鬼でも食べられる食事を作れる料理人……私は変化を嫌うが、こんな変化ならば悪くは無い。

 

「……まぁ良い」

 

自分で食材を探しに来るのに鬼殺隊を護衛に使うような男だ。一箇所に留まっているような男ではないだろう、ならばまたどこかで会うこともあるだろう。

 

「その時は貴様を鬼にしてやろう」

 

鬼にして傍に置くのも悪くない、私は凄まじい速度で去っていくカワサキの背中を見ながら、鳴女の名を呼んでその場を後にするのだった……。

 

 

 

メニュー9 コンソメスープ「前編」へ続く

 

 




今回は短めで、無惨様にロックオンされてしまったカワサキさんと言う話になりました。次回のコンソメスープは前後編と言う事でお送りします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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