【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー9 コンソメスープ「前編」
薄暗い山の中に鋭い斬撃音と鬼の断末魔が木霊する。刀をふるっていた男……「煉獄槇寿郎」は日輪刀を杖のようにしながら崩れ落ちそうになる身体を必死に支えていた。
「ああああ……良い匂いだぁ」
「まれち、まれちいいいいッ!!」
だが休んでいられる時間は殆どなく、また鬼が複数体涎を垂らしながら姿を見せる。だがその瞳は正気の色ではなく、何かに引き寄せられるように集まってきていた。
「はっ……はっ……ふー。ここは通さんぞ」
真紅の日輪刀を構え直し鬼を睨む槇寿郎の背後には、大正時代には似つかわしくない建物の姿があった。
「これは我が妻への薬、貴様らのような鬼が触れていい物ではないッ!」
建物――グリーンセーフハウスの中ではカワサキが料理を続けている。3日3晩に及ぶ調理、そして特別な調理の為鬼を引き寄せるその料理は煉獄の屋敷で行う訳には行かず、煉獄家から離れた山の中で行われていた。
「せいッ!!」
「あ、あああああーーーッ!!」
鬼の頸が飛び灰となり消え去る。だが息をつく暇も無い、再び集まってくる鬼の気配。深い山だからこそ、朝も昼も夜もお構いなしに、それこそ太陽に炙られながらもカワサキのいる建物の中に侵入しようとする鬼。
「この先に行きたくば、炎柱煉獄槇寿郎を越えていけッ!!」
調理中は一切足を踏み入れてはいけない、もし扉が開けばその瞬間に失敗し、そして次を作るには2ヶ月掛かる。それでは瑠火に住まう病魔を倒したとしても間に合わない、今カワサキが作っているこれが最初で最後の瑠火を救う機会。これを失う訳には行かないと奮闘する槇寿郎だが、最終選別の藤襲山の7日間でさえ、日の出ている間は休む事が出来た。だが今は違う、まだ2日目と言うのに槇寿郎の体力は限界を迎えようとしていた。水を飲む時間も、念のために渡されていた保存食も口にする余裕も無い、柱とは言えもう数えるのも馬鹿らしくなるほどに鬼を切り捨てていれば体力も精神力も限界を迎える。そして経った1日で鬼が3桁も死ねば無惨も動いた。
「へえ、随分と弱ってるけど柱だよ」
「いいな。こいつを倒せばもっと血が頂ける」
「下弦の鬼ッ!」
十二鬼月……下弦の参と陸の2人が現れた事に槇寿郎の顔も険しくなる。万全ならまだしも、ここまで疲弊した状態で2体の下弦と戦うのは余りにも厳しい物だった。
「良い香りだ。雑魚はこれに引き寄せられたのかな」
「馬鹿だなあと思ったけど、これは良いねえ。僕も欲しいなあ」
鬼を引き付ける魔性の料理。だが、逆を言えば冥府に囚われかけている瑠火を救うにはそれだけの物が必要なのだと、命に変えてもここを守りとおす。そう決意を固め強く日輪刀を握り締める。
「ここは通さないッ!この俺の命に代えてもッ!!」
下弦に向かって駆け出そうとした時……鋭い2つの呼吸の音が山の中に鳴り響いた。
「壱ノ型 水面斬りッ!」
「参ノ型 聚蚊成雷ッ!」
飛び込むようにふるわれた一閃が参の首を断ち切り、擦れ違い様に振るわれた回転切りが陸の身体をバラバラに引き裂いた。
「さ、左近次殿!?慈吾郎殿!?何故……」
「お館様に言われて来た。既に引退した身であるが、並みの隊士よりは強いつもりだ。少し休め、槇寿郎」
「なんでもかんでも背負い込むな馬鹿者。一言助けてと言わんかッ!!」
槇寿郎を助けに現れたのは既に引退し、育手に転向した鱗滝左近次、そして桑島慈吾郎の姿なのだった……。
ワシと左近次の2人は先日お館様の鎹鴉に呼ばれ、お館様の屋敷に訪れていた。
「すまないね、左近次、慈吾郎。態々来てもらって」
「いえ。お館様のお呼び出しとなれば、断る理由はありませぬ」
「して、何用ですか?」
まさか十分な剣士を育てる事が出来ていないと叱責されるのかと内心びくびくしながら用件を尋ねた。
「槇寿郎の妻、瑠火を助ける為にカワサキが特別な料理を作っている。だが、それは西洋の呪いを使うもので鬼を引き寄せるという、そしてその調理には3日3晩掛かるらしい」
瑠火が病気になったという話は初耳だった。身重であると言うことは聞いていたから実に目出度いと思っていたのに、それでは子を引き換えに瑠火が死んでしまうではないか。
「槇寿郎は柱も応援も必要無いと言っていたが、私は心配でね。助けに行っては貰えまいか」
3日3晩それは最終選別と比べればと思うかもしれないが、藤の牢獄に閉じ込められ弱体化した鬼ではなく、血鬼術も使える鬼や異能の鬼が現れるかもしれない。いや、下手をすれば十二鬼月だって出現するかもしれない。そんな絶望的な戦いに1人で臨んでいる後輩がいると聞いてワシも左近次も黙っていられる訳が無かった。
「鱗滝左近次。拝命いたします」
「桑島慈吾郎。拝命いたしました」
「2人ならそう言ってくれると思っていたよ。隊服と日輪刀は用意した。場所は槇寿郎の鎹鴉に聞いて欲しい。それと最後に1つ……カワサキ殿は人間ではないが、鬼でもない。西洋の座敷童の一種だそうだ。体は人間ではないが、心は人間だ。彼を助けてあげて欲しい」
用意された隊服と日輪刀を手に槇寿郎の元へ走る。
「足は大丈夫か」
「問題ないわい、義足には義足なりの戦い方がある」
得意とした霹靂一閃こそ義足のためうまく使えないが、それでも並の隊士。それこそ、甲の階級にだって負けないという自負がある。鍛え続けた肉体と技はまだ衰えてはいないのだから。
「カワサキが人間ではないか」
「だが鬼でもない、それにあいつは気持ちの良い男だ。人間では無いとしても、ワシは信用出来る」
少ないやり取りだったが、決してその人格は邪悪ではない、人間では無いとしても……カワサキは信用出来る。だからワシ達は槇寿郎もカワサキも助けると決意し、山の中を駆けていた。
「ここは通さないッ!俺の命に代えてもッ!!」
山の中に響く槇寿郎の雄叫びを聞くと同時にワシも左近次も同時に地面を蹴っていた。
「壱ノ型 水面斬りッ!」
「参ノ型 聚蚊成雷ッ!」
槇寿郎の前に立つ2体の鬼。明らかに別格の気配を持つそれは間違いなく十二鬼月。だが上弦ではなく、下弦だ。上弦ならまだしも、下弦にワシも左近次も遅れなど取りはしない、背後からの一閃で相手の首を断ち切る。
「さ、左近次殿!?慈吾郎殿!?何故…」
日輪刀を支えにしてやっと立っている様子の槇寿郎を背中に庇いながら日輪刀を構える。
「お館様に言われて来た。既に引退した身であるが、並みの隊士よりは強いつもりだ。少し休め、槇寿郎」
「なんでもかんでも背負い込むな馬鹿者。一言助けてと言わんかッ!!」
ボロボロの有様をみてそう一喝する。ここに来るまで鬼を倒してきたが、その数は尋常ではなかった。中には下弦に匹敵するほどに人間を喰っている鬼もいた。そんな鬼と3日3晩戦い続ける……それは柱であったとしても生き残るのは不可能な戦い。先の叫びは己を鼓舞する物ではない、覚悟を決めた槇寿郎の叫びだった。自分の命と引き換えにまだ見ぬ子と妻を救う……そんな覚悟を槇寿郎は既にしていたのだ。
「瑠火を泣かせるつもりだったのか」
「それは違いますッ!」
「なら生きろッ!自分の事を省みない者は強者ではない!強者ならば、他人を守れ、そして己も死ぬなッ!」
強者であろうと、誰かを守ろうとする槇寿郎のあり方は知っている。だが、己の命を度外視するのは決して強者ではないのだ。
「……ッ!申し訳ありません。しばし、この場をお頼みしますッ!」
頭を下げる槇寿郎が扉の前に下がり、袋の中から竹の水筒と握り飯を取り出し口に運ぶ。
「懐かしいなあ。お前はどうじゃ」
「そうだな。懐かしい、前もこんな事が会ったな」
最終選別からの同期である左近次。あちこちから感じる鬼の音、左近次は鬼の匂いを感じているだろう。
「足を引っ張るなよ」
「こっちの台詞だ、あの時はお前がワシに護られていただろう」
「そんな事は忘れたッ!」
「薄情者めッ!」
背後から襲ってきた鬼を互いに交差しながらその首を断ち切る。
「元鳴柱桑島慈吾郎」
「元水柱鱗滝左近次」
「「ここから先は黄泉路への道と知れッ!!!」」
青と黄色の日輪刀の切っ先を鬼の群れに向け、ワシと左近次は同時に地面を蹴るのだった。
「「「これで最後だぁッ!!!」」」
「ギギャァアアアア……ッ」
3日目の夜、最後に現れた巨大な異能の鬼を3人で跳躍しその首を断ち切ると同時に、俺達は3人ともその場に崩れ落ちた。
「ありがとうございます……助かりました」
「はぁ……はぁ……助けになれたのならば幸いだ」
「……ふう。引退した身には些かきつかったな……だが良かった」
3日3晩の戦い……それは決して甘い物ではなかった。1人で切り抜ける事が出来るほど甘い物ではなく、何度も死を覚悟した。左近次殿達がいなければ俺は死んでいただろう……。
「ふう……終わった」
扉を開けて姿を見せたカワサキは人間の姿ではなく、黄色いまるっこい姿をしていた。疲労困憊という様子で崩れ落ちたカワサキを見て笑う。
「なんだ、思ったより愛くるしい姿だな」
「子供が好きそうだな」
「……声はおっさんだぞ」
その言葉に思わず噴出した。人間ではないと聞いていたが、おぞましい鬼ではなく愛嬌のある姿だった。まぁ確かに声はおっさんだがな。
「それで料理の方は?」
「完成した、もう蓋も閉めて保存してるから運ぶだけだ。これは瑠火さんだけじゃなくて、産屋敷さんの呪いにも効くかも知れないな。そう言う特別な料理だ。善人には救済を、悪人には裁きを、そう言うものなんだよ」
どっこいしょっと言って立ち上がったカワサキの姿がブレ、人間の姿に戻る。
「面妖だな。それは誰かの姿を真似してるのか?」
「いや、生前だな。死んで生まれ変わってああなったとでも思ってくれて構わない」
死んで生まれ変わった……か。何故あんな姿になったのかと尋ねるとカワサキは背伸びをして笑った。
「料理で笑顔を、そして道を究めたかった。それだけだよ、だから俺はカワサキなんだ。人間の名は死んだ時に捨てた」
カワサキとしか名乗らなかった理由も全てが判った。だが、やはりカワサキは鬼と違うと俺は思った。
「特別な料理と言ったが、どんな事が出来るんじゃ?」
「呪いとか、病気の回復は勿論。身体能力とかの強化も出来るかな……まぁこっちの姿だと半分くらいしか効果ないと思うけど」
食べるだけで強くなる、もしも全集中の呼吸と併用出来れば、俺達の刃は鬼舞辻無惨にも届くかもしれないな。
「ま、話は後だ。瑠火さんの元へ行こう」
建物の中から大きな鍋を持ってきたカワサキが家に触れると、家は跡形も無く消え去った。血鬼術のような現象に俺達は大きく目を見開いた。だがカワサキは楽しそうに笑うだけだった。
「な、なんじゃ!?」
「まぁ、これも妖怪の力とでも思ってくれればいい」
カワサキはそう言うと鍋の蓋を開けて、少しだけ中身を掬う。
「飲んでくれ、元気になる」
眩いまでの黄金色に輝く澄んだ汁にごくりと喉が鳴った。
「お2人から先にどうぞ」
「いや、お前が先だ。早く瑠火に元気な姿を見せてやれ」
「うむ、ワシらはお館様に報告もせねばならないしな」
2人に言われ、カワサキの差し出している小皿を受け取る。
「ゆっくり飲んでくれ。多分効果が出すぎる」
「判った」
1口だけ口に含んだ時。身体の中が爆発したのかと思った…口に含んだ熱が全身に駆け巡っていく…疲労困憊で立ち上がるのもやっとだった筈なのに身体に活力が満ちている。
「……なんだこれは」
「コンソメスープ。ただし、特別なコンソメスープだけどな」
拳を握り締める…万全な時よりも身体に力が満ちている。今からでも上弦と戦える……そんな気がしてならない。
「どうぞ」
「うむ。いただく」
「どんな味かのう」
汁を口にした左近次殿達も目を大きく見開き完全に硬直していた。
「これは本当に汁物か?」
「ぅまあッ!いや、これは鬼でも狙うぞ、美味過ぎる!」
汁物なのに空腹だった腹が満腹になっているし、眠気も疲れも吹き飛んだ気分だ。
「これが俺が料理に付与できる能力って感じだ、これは回復に重点を置いているから身体強化はそこまでではないけどな」
「これほどまでか……」
全集中に匹敵する効果が出るとは驚きだ。カワサキが居れば、夢でもなく、現実として鬼舞辻無惨に届く気がする。
「うっし、じゃあ、行こう」
「「「待て、その鞄は何だ」」」
巨大な鍋が背負い鞄の中に消えた。思わず言ってしまったが、左近次殿達も同じならば俺は異常ではない。
「無限の背負い袋っていうかなり物が入る便利な鞄だ」
「……それは沢山あるのか?」
「7個くらいかな、俺が5個くらい使っているし」
……行冥の山の時は何で普通の鞄だったのかと思ったが、あの建物の中にあったから運び出せなかったのかもしれないと思う事にした。
「じゃあまた頼めるか?」
「ああ。行こう」
カワサキを背中に背負い山を駆け下りる。あの汁さえあれば瑠火は救われる、最初は少しだけ疑っていた。だけどあの汁を飲んだ今だから判る、カワサキがいれば瑠火は救われると……。
「少し急ぐぞ」
「構わない、早いほどいいからな」
カワサキに声を掛けて地面を蹴る勢いを増させる。愛しい妻を救うため、まだ見ぬ子をこの腕に抱くため俺は屋敷までの道を走り続けるのだった……。
メニュー10 コンソメスープ「後編」
今回は作るカワサキを護る槇寿郎達と言う話でした。次回は食べる回にしようと思います、その次位からは時間を飛ばして、原作キャラの話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない