【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー10 コンソメスープ「後編」
父上とカワサキ殿が母上の病を治す薬を作る為に旅立って10日過ぎた。まだ2人が帰ってくる気配は無い…毎日毎日、小芭内と共に門の外で待ち続けている。
「まだ帰って来ないか」
「そうだな。瑠火さんの所に行こう、不安に思ってると思う」
「……もう少し待ちたい」
夕暮れが近い、鬼が出るかもしれないがもう少し、もう少しだけこの場で待ちたい。そう言うと小芭内は俺の隣に座って一緒に待ってくれた。
「杏寿郎ッ!あれは……僕にはぼんやりとしか見えない」
小芭内の指差した方向を見ると金色の影が駆けて来るのが見えた。
「父上ぇッ!!!」
小芭内は目が弱いらしく、遠くはあまり見えない。だが俺がその姿を見間違える訳がない、カワサキ殿を背負った父上だ。
「杏寿郎ッ!今戻ったッ!!!」
「待たせたなッ!!」
「はい、はいッ!!!」
父上の背中から降りたカワサキ殿が厨に走り、父上はその場に尻餅を付くように倒れこんだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……この10日で鬼を150体ほど切った……はぁ……はぁ……左近次殿と慈吾郎殿が居なければ……危ない所だった」
10日で150体……その途方も無い数に俺は絶句するしかなかった。
「杏寿郎……俺の鎹鴉に手紙を渡してくれ、あて先は刀鍛治の里……日輪刀がこの様だ」
「……これは酷い」
刃毀れし、切っ先が折れている。柱である父上が日輪刀の扱いを知らぬ訳が無い、10日鬼を切り続けた証がしっかりと日輪刀に刻まれていた。
「そ、それよりも手当ての方を」
「……傷は問題ない、すまないが……水をくれ」
「「はいッ!!」」
小芭内と同時に返事を返し、井戸の水を汲んでいると厨から凄まじい香りが漂ってきた。
「うわ……」
「うぷっ……なんだこれは」
口から涎が溢れ出てくる。自分の体なのに、自分の身体が言う事を聞かない……そんな初めての感覚だ。それでも汲んだ井戸水を父上の元へと運ぶ、父上は桶を両手で掴み隊服を水で濡らしながら中身を飲み干す。
「はぁ……はぁ……藤の香を焚けッ!来るぞッ!」
父上の視線の先を見ると夕暮れによってうまれた影の中に鬼が集まっていく姿が見えていた。
「鬼!?何故!?」
「瑠火の薬だ。あれは凄まじく効果がある……鬼を引き寄せる効果があるらしい、恐らく藤の香でもそこまでの効果は無いだろう」
刃毀れした日輪刀を手に立ち上がる父上をみて、そんな刀ではと止めるが父上は大丈夫だと俺達の頭を撫でた。
「お館様が応援を寄越してくれる。それが来るまでは俺がお前達を守る、判ったら香を焚いてくれ」
父上に言われた通り屋敷に走り香を焚く、外から聞こえてくる断末魔の叫びと炎が燃え盛るような音……父上が外で戦っている。
「不甲斐無し……」
「杏寿郎……」
俺にはまだ父と共に肩を並べて戦うだけの力が無い、煉獄家の長男として余りにも情けない。握り拳を作る俺を小芭内が慰めてくれるが、それでも情け無いと言う気持ちは消えなかった。
「炎柱様ッ!急げッ!!炎柱様をお助けするぞッ!」
「な、なんだこの鬼の数はッ!!」
「走れ走れぇッ!!!」
「……なんだこの匂い……この匂いが鬼を引き寄せているのか……」
「出立前に聞いているだろう!奥方の病を治す薬を調合する過程で鬼を引き寄せるとッ!」
屋敷の外から聞こえてくる隊士達の声、それと入れ代わりで父上が門の中に入ってきた。
「後は……隊士達に任せる。杏寿郎、小芭内。おいで」
俺達を連れて屋敷の奥……母上の部屋に向かう父上。その道中で厨から出てきたカワサキ殿の手の中を見て驚いた。
「黄金?」
「そうだな、黄金のスープと言えるな。不安だっただろう、だけどもう大丈夫。瑠火さんは助かるよ」
歯を出して笑うカワサキ殿の笑顔に力が抜けた、ずっと不安だった。母上が死ぬかもしれないと不安だった、だけどその笑顔を見るともう大丈夫なんだと心の底から思えた。
「槇寿郎さん……」
「瑠火、待たせたな。薬を持ってきた」
「……そんなに怪我をして」
「気にする事は無い、俺にはお前のほうが大切だ。カワサキ」
カワサキ殿から汁のお椀を受け取り、匙で掬った父上は息を吹きかけて汁を冷ます。
「飲んでくれ」
「……はい」
まるで死人のように青白い顔をした母上が汁を口にする。ゆっくりと母上が匙の中身を飲み干すとその顔に赤味が差して来る。
「凄く……美味しいです」
「ああ、良かった。さ、まだあるぞ」
父上が母上に汁を飲ませるごとに母上の顔色が良くなっていく、母上の身体に纏わり付いていた闇が払拭されるかのように……そして何度目か汁を口にした時母上が急に咳き込んだ。
「母上!」
「瑠火!」
そのあまりに激しい咳き込みように俺達は動揺したが、何度目かの咳で母上の口から闇その物としか言い様の無い黒い何かが吐き出され、カワサキ殿が素早くそれを瓶の中に押し込めた。
「カワサキ……それは血鬼術か……?」
「……いや、違うな。こいつは……呪の類だな。ちょっと悪いな」
父上の手にしている椀を受け取り、中身を瓶の中に注ぐと閉じ込められた黒い何かは声も無く暴れ周り、溶けるように姿を消した。
「面妖な……」
「それは何ですか?」
俺と小芭内の問いかけにカワサキ殿は瓶の中身……黒い何かから現れた紙と何かの欠片を透かして見せてくれた。
『煉獄瑠火 死すべし』
血文字で描かれたそれに息を呑んだ。父上もその顔を驚愕に歪めているのがよく判る。
「病気じゃない、呪だったんだろうな。おかしい筈だ、病気なら日々の食事で改善できる。それが改善出来ないってことは病気じゃないって思ってた」
「……カワサキ、それをくれないか?」
「触れないほうが良い、見るだけにしておけ。お前まで呪われる」
カワサキ殿が手にしている瓶を覗き込んだ父上の顔が般若のように歪められた。
「父上、どうしたのですか?」
「……昔……俺と炎柱の地位を争った男がいた。だが、あいつは人を囮に鬼を狩ることを咎められ除名された……そいつの字に良く似ている」
「なるほど、読めたぜ。逆恨みか、それともそう言う素質があったか……なんにせよ、そいつを何とかしないと、煉獄家全体が危ないな」
「……杏寿郎、小芭内、瑠火を頼む。どうやらまだ俺は動かなければならないようだ、同行してくれるか?」
「判ってる、終わったら美味い物を沢山作るからな。良い子で待っててくれ」
俺と小芭内の頭を撫で、カワサキ殿と父上は再び出かけて行った。そして翌日、母上の様子を見に来た医者は目を見開いて驚いた。
「驚いた、完治してます!奇跡だ、きっと神仏が助けてくれたのですね」
奇跡だと医者は言ったが、俺達は知っている。それが奇跡でもなんでもなくて、カワサキ殿が助けてくれたと言う事実を俺達だけが知っている。
槇寿郎と共にかつて炎柱の地位を争ったと言う育手の元へ向かったが、そこは廃墟と言っても過言ではない有様で半狂乱の骸骨のような男がそこに居た、既に正気ではなかったため、槇寿郎が意識を刈り取り縛り上げたが、その最後の瞬間まで煉獄家に災いあれと叫んでいた。
「あの男は下劣な男だった…柱になれば金が入る、それだけを目的に炎柱を目指した。鬼殺隊には少なからずそう言う輩がいる」
そう言う槇寿郎の顔はとても寂しげだった。だがそれは俺からすれば当たり前の話だ、リアルの荒廃した世界を知るからこそ人の醜さも美しさも俺は知っている。
「お館様、今回は申し訳ありませんでした」
「いや、良いよ。瑠火さんが無事で良かった」
俺と槇寿郎はお館様……つまり産屋敷の屋敷に訪れていた。瑠火さんを蝕んだ呪を解呪したのだ、親方様の呪も解除出来るのでは?と残りで悪いが特製コンソメスープを運んできたのだ。
「……カワサキどうかしたかな?」
「……いやあ、そのどっかでみたなあ……と」
2回目の謁見だが、耀哉をどこかで見たような気がしてる。失礼だけど、じっとその顔を見つめていると唐突にその何かが嵌った。
「ああ、そうだ。山であった青年に似てるんだ」
俺の言葉に耀哉の目が細まった。笑顔を浮かべているけど、威圧感が漏れている。
「その青年の名は?」
「名前は別にお互いに名乗りませんでしたけど……ああ、弁当はあげましたよ?」
弁当を渡したと言うと耀哉はそれなら違うかと呟いて、またにこやかな笑みを浮かべた。
「あの汁はとても役立つそうだね。ありがとう、感謝するよ」
煉獄屋敷攻防戦の火種となった特製コンソメスープの事を言われて、俺は何とも言えない気持ちになった。
「外は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、カワサキは何も気にしなくて良い」
屋敷の中で温めているコンソメスープの匂いに昼間なのに鬼が活性化していて、甲の隊士が奮闘しているのを本当に気にしなくていいのかと俺は心の中で思った。
「煉獄の奥方を救った汁か」
「西洋の呪いと聞くが……いや、凄いな」
「……お腹空くわね」
匂いだけで食欲が沸いてくるって凄いよな…我ながらよくそんなのを作ったと感心する。
「出来ました」
「ありがとう、あまね」
あまねさんが温め終えたコンソメスープを耀哉が口にする……が、俺の目には見えていた。
(まだ足りないのか)
瑠火さんは1回で大丈夫だったが、耀哉には足りていなかったようだ。確かに効果は出ているが、まだ完全に解呪するには足りないようだ。
「身体が軽い……それに気分も良い。少しだけ歩いてもいいかな?」
「あんまり無理をしないでくださいね」
耀哉はゆっくりと立ち上がり庭を歩き出す、おっかなびっくりと言う感じだが、ゆっくりとしっかりと大地を踏みしめる。
「お館様が歩いておられる」
「おお……」
耀哉が歩いているだけで柱達が笑みを浮かべる。ゆっくりと歩いていた耀哉の足取りが徐々に速くなり、見ていた槇寿郎達の雰囲気がおかしくなってきた。そして塀の所まで歩いた耀哉は引き返すのではなく、跳躍し塀の縁を掴んで腕力で身体を屋根の上に持ち上げた。
「「「お館様ぁッ!?」」」
「今なら何でも出来る気がするッ!!」
そう叫んで塀の向こう側に飛び降り、槇寿郎達が慌てて耀哉の後を追いかけ庭を駆け出して行った。
「こりゃ、効果が出すぎたかな?」
「いえいえ、あんなにも耀哉が楽しそうなのは初めて見ました。ありがとうございます」
塀の外から聞こえてくる槇寿郎達の慌てた声。
「はやッ!?なんであんなに速いの!?」
「お館様ッ!!お館様ぁッ!!!」
「ああッ!なんて楽しいんだ!!私はいま風になってるッ!!!」
大惨事になってる気配しかない……たおやかに微笑むあまねさんに視線を向ける。
「良いんですか?」
「ええ、とても楽しんでいますから。また定期的にあの汁を作っていただけますか?」
にこにこと笑っているが、これは断れない。そんな凄まじい威圧感があり、俺は判りましたと返事を返すのだった。
なお、この日から1ヶ月に1度黄金コンソメスープを作ることになるのだが、作る間は鬼が集まってくるので甲・乙・丙の高い階級の隊士が鬼の討伐と、その戦いで継子になるに相応しい人材を見出す試験として使われる事となった。
「死ぬうッ!」
「気合入れろぉッ!!」
「これを乗り越えたら俺達も継子だぁッ!!」
柱の直属の弟子である継子になれると奮起する隊士は非常に多く、1ヶ月に1回の3日の間の試練は上を目指す隊士が挙って参加する事になっていた。
「うん、美味しい。また元気になった気がするよ」
「駆け出したりしないでくれよ? また皆に迷惑を掛けるからな」
「ははは。そうだね、気をつけるよ」
コンソメスープを口にする毎に耀哉の身体は健康になり、作成中の鬼の討伐に参加した隊士もそのコンソメスープを口にし、徐々に身体能力が向上し、鬼殺隊全体の戦力UPが図られることになり、カワサキが鬼殺隊の料理番として認められる大きなイベントになるのだった……。
メニュー11 カツオのしぐれ煮に続く
次回は黒狼@紅蓮団様のリクエストで胡蝶姉妹で鰹のしぐれ煮でお送りしようと思います。次回からは鬼殺隊のネームドのキャラをメインに話を書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
そしてこれは全く関係の無い私の独り言になりますが、鬼滅とオバロ版を平行して書いていると、鬼滅なのにオバロのキャラ的な口調、そしてオバロ版なのに鬼滅キャラの雰囲気になっている事に気付き、どうするかあっと悩んでいたりします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない