【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー5 刺身盛り合わせ

メニュー5 刺身盛り合わせ

 

うっすらと太陽が昇ってくるのに合わせて沖合いの無人島で夜明けを待っていた2人組が動き出した。大正時代に似つかわしくない、金属製のリールが付けられた竿を組み立て、リールからラインを引き出しガイドに通す。そしてサルカンをつけて沢山の枝針が付けられた仕掛けと繋げ、仕上げに仕掛けの下に底に錘が仕込まれた小さな篭を取り付ける。

 

「準備は出来ましたかなあ? 弦三郎殿」

 

「……もう少しだ。玉壷」

 

白い長髪を腰元まで伸ばした屈強な大男が、そのゴッツい指で仕掛けを四苦八苦しているのを見て玉壷と呼ばれた作務衣姿の男はひょひょっと薄気味悪い笑い声を上げる。

 

「では私は準備が出来たのでお先に」

 

篭の中に小さな小エビを詰めた玉壷は慣れた手付きでリールのベイルを起こし、竿の弾力を生かして仕掛けを投げ込んだ。

 

「うーん、いつもこの瞬間は良いですなあ」

 

音を立てて飛んで行く仕掛けの音と遠くに着水した音に目を細めた玉壷はベイルを起こして、糸ふけを巻き取り竿受けに竿を立てかけた。

 

「快晴快晴、今日も絶好の釣り日和ですなあ」

 

登って来た太陽の光を浴びてカワサキに人化の術を施された玉壷は気持ち良さそうに背伸びをして、岩場から運んできた平らになっている岩の上に腰を降ろす。

 

「シッ!」

 

玉壷から遅れること数分。弦三郎も仕掛けを海に投げ込んだが、玉壷と違って竿を手にしたままだ。

 

「おや、竿受けは使わないので?」

 

「魚の手応えを楽しみたいからな」

 

まぁそこはひとそれぞれですなあと笑う玉壷。そのまま竿袋から別の竿を取り出して組み立て始める。弦三郎は釣った鯵などをそのまま持ち帰るつもりだが、玉壷は今日はその鯵を餌に大物を狙うつもりなので浮きが沈むまでの間にてきぱきと竿を組み立てている。

 

「っと、1回中断ですな」

 

浮きが沈んだのを見て竿を組み立てるのを中断して、竿受けの竿を手に取り大きくあおる。

 

「うんうん、良いですなあ」

 

元々玉壷と言う鬼は貧しい漁村の生まれだ。少々変わった趣味の持ち主だったが、陶芸や絵画には多彩の才を持ち、それなりに暮らしていたが、漁村に医者の鬼が訪れた時に瀕死になりながら海に飛び込み、鬼から逃げおせたと言うバイタリテイに溢れた男であり、そして運も良かった。浜辺に打ち上げられている所を鬼を討伐に来ていた童磨に発見され、無限城に保護された。だが長い間冬の海に浸かっていたその身体は酷い状態で、手足を失うか、鬼になるかと言う選択を出され鬼になる事を選んだのだ。

 

「よしよし、いい感じですねえ」

 

20cmほどの食べるのに丁度いい大きさの鯵を豪快に海から抜き上げ、海水を汲んだバッカンの中に慣れた手付きで放り込んでいく玉壷。

 

「良し、こっちもだ」

 

「ほほう、いいサイズですなあ」

 

弦三郎の方は30cm台と大振りな鯵が3匹ついている。あのサイズならばカワサキ様が美味しく調理してくれるだろうと笑みを浮かべる。

 

「さぁ! 頑張って釣りましょう。無惨様に喜んで貰う為に!」

 

「ああ、そうだな。頑張ろう」

 

今日の釣りは無惨が刺身をたらふく食べたいと言う事で玉壷が助っ人に弦三郎を連れてきたのだ。他の面子は釣りと言うか、銛を持って海に突入するタイプなので漁場荒らしになってしまう。それは元漁師の玉壷に許容できる内容ではないので、脳筋勢は留守番である。半天狗?あいつは魚が怖い、竿が怖いといって暴走して海に流されるのであいつも留守番である。

 

「釣りが終わったら貝を少し回収しましょうか」

 

「そうしよう」

 

この無人島は月彦と名乗っている時の無惨の持ち物の1つで、玉壷が管理し貝等も養殖している島だ。と言っても、全てを刈り尽くす勢いのメンバーを連れて来るつもりは無く、暖かい時期には子供の鬼をつれてきて潮干狩りなどを行う等無限城のレクリエーションの場として使用されている。釣りを楽しみながら玉壷達は無惨からの指令を果たす為に釣り竿を振るい続ける。

 

「弦三郎殿。そろそろ別の魚を狙って貰えますかな?」

 

「ああ、判っている」

 

サビキ仕掛けを外し、別の仕掛けに組みなおしている弦三郎の隣で玉壷は自分が釣り上げた20cmほどの鯵を生かしたまま、孫針を取り付け、弱らせないように丁寧に海の中に再び投げ入れる。

 

「鯛を所望されていたな。釣れるか?」

 

「そればかりは運否天賦ですなあ。でも岩場ですから石鯛などもいますし、沖合いですから真鯛も狙えるかもしれませぬ」

 

少なくとも4種類は取って来い、鯛も含めろという指示を受けている玉壷と弦三郎は険しい顔付きで海を見つめる。

 

「釣れると思うか?」

 

「頑張りましょう。ほら、蛍火殿にお弁当を貰ったでしょう?」

 

「う、うむ……」

 

累が拾ってきた4人の鬼の1人である「弦三郎」そして元は童女だったのに急激に大人になった「蛍火」、閲覧禁止の本を見て変態になった「朝日」そしてそんな朝日を止める「日丸」。家族ではないが、累の血鬼術を借り受けることが出来る鬼だったため、家族扱いになっている。蛍火は弦三郎に父を見てよく懐いているが……大人の姿なのに中身は童女なので弦三郎はどう扱えばいいのか良く困惑している。

 

「まぁ、縁壱殿に入れ知恵されないと良いですなあ」

 

「……本当にそう思う」

 

今頃巌勝を追い回しているであろう縁壱の事を脳裏に浮かべながら、玉壷達は無惨の指令を果たす為竿先を必死になって見つめているのだった。

 

 

 

 

 

玉壷と弦三郎が必死になって釣ってきた魚は生け〆されていたので、鮮度が非常に良かった。それに元漁師だけあって下処理も実に丁寧だったしな。鯵、鰤、石鯛、真鯛、そして烏賊とサザエと鮑の7種類の刺身の盛り合わせを船盛りにして持って行くと無限城の天守閣で月を見ながら無惨が上機嫌で笑っていた。

 

「よくやった玉壷、お前の釣りの腕前は本当に見事な物だな」

 

「お、お褒めに預かり光栄です」

 

好物の魚が大量にあることで既にもうご機嫌の無惨の周りには酒瓶が既に転がっている。

 

「お前。刺身来る前にそんなに飲んで大丈夫か?」

 

「問題ない、ほう。今回のはそれか!うんうん、実にいいじゃないか」

 

食い物が関わると本当に饒舌になるんだからと苦笑し、3人前の船盛りも机の上に乗せる。

 

「玉壷、今日の私は機嫌がいい。お前も同席するがいい」

 

「あ、ありがとうございます!失礼します」

 

一応配下と言う事で無惨の下手に腰掛ける玉壷。一緒に釣って来た弦三郎は蛍火に出迎えられ、そのまま連れて行かれてしまった。

 

(美女と野獣を素で行ってるよなあ。いや、まぁいいんだけどさ)

 

弦三郎が一歩引いていて、蛍火が踏み込んでいる。そんな関係性を見て苦笑しながら俺は無惨の隣に腰掛ける。

 

「いやいや、カワサキ様の腕前は実に見事ですなあ」

 

「刺身は嫌って程引いたからな」

 

リアルでは無理だったが、この世界に来てから戦国時代でも江戸時代でも刺身を引いて引いて引きまくった、今の腕前なら板長レベルだと胸を張って言える。

 

「カワサキ、なんだこれは……」

 

「サザエと鮑」

 

「……焼かなかったのか?」

 

「生でも食える」

 

マジかって顔をしている無惨に秋刀魚を初めて食べさせた時の事を思い出す。時代が時代だから美味な食材が多いから料理に使えると喜んだのに、これは食べ物じゃないとスンっとした顔で言われたのは驚いたからな。食えるといったが、本当に大丈夫かと言う顔をしながらサザエの刺身を口にした無惨だが、すぐにその顔に喜色の色が混じってくる。

 

「美味い。良いな、コリコリしていて食感が良い」

 

噛み締めれば噛み締めるほど味が出てくるのでコリコリと固いサザエの刺身の食感は実に良い。

 

「ほほう!肝醤油ですな。いやあ、久しぶりですなあ」

 

「肝醤油とは何だ?」

 

「サザエの肝を使った醤油ですよ、これがほろ苦くて美味いのです」

 

くううっと日本酒を口にして唸る玉壷、流石漁師……美味い物を知っているな。

 

「……ん?んん……なるほど、確かに悪くない」

 

「酒に合うんだよ」

 

肝醤油と言うとカワハギとかのも抜群に美味いが、サザエの肝醤油だって実に乙な物だ。

 

「鯵は良い、塩焼き、干物、そして刺身に寿司、何にしても美味い」

 

「無惨は鯵が好きだからなあ」

 

「鯵はいい。大降りな物ほど良いな、しかも味わいが違うのが良い、いつものだな?」

 

「そ、いつものだよ」

 

刺身にスキルを使い熟成させた物とそうではないもの、食感と味の変化を楽しむ為に刺身を切りながら細工をしている。

 

「このトロリとした食感が溜まりませんなあ」

 

「む、玉壷。新鮮なほうが美味いではないか」

 

「違う違う、どっちも良い点。悪い点があると言うことさ」

 

正直無惨の舌よりも魚に関しては玉壷のほうが上だ。熟成した鯵のとろけるような食感は確かに堪えられない物がある。

 

「この脂が乗っている透明な物は何だ?」

 

「石鯛だ。普段食べている鯛とは違う種類だが美味いだろう?」

 

「……確かに美味い。鯛とつく魚はどれも美味い物だ、これも全然違うが鯛なのだろう?」

 

同じ刺身でも味の違いが判らない無惨に何と言えば良いのか、平作りと薄作りした石鯛が同じ魚だと気付いていないのはどうした物か。見てみろ玉壷も何とも言えない表情をしているじゃないか……味音痴ではない筈なんだけどなあ……先入観が原因か?

 

「湯引きの鯛もあるな、素晴らしい、よくやった」

 

日本酒を呷り、刺身をバクバク食っている無惨の頬に赤みが刺している。ああ、これはもう酒が回っているな、多分魚の味の違いも判るまい。

 

(だがまぁ、嬉しそうだから良いか)

 

無惨は口ではなんだかんだ言っても、医者の鬼が人を殺す事を気に病んでいる。俺と出会わなければ無惨もそうなっていたかもしれない……その考えがあるからこそ、医者に従う十二鬼月の上弦6体が自分のなりえた可能性として恐怖している。

 

「これ残ったら茶漬けにして欲しい」

 

「はいはい、ちゃんと漬けておくよ」

 

「ああ。そうしてくれ」

 

好きな物を食べて、好きな酒を飲んで、今一時だけでも良いから嫌な事、悲しい事も無く、気持ちよく眠って欲しいと俺も玉壷も心からそう思う。

 

「カワサキ、玉壷も飲め」

 

「ああ、貰うよ」

 

「ありがとうございます、頂きます」

 

無惨が上機嫌で酒瓶を差し出してくるので空のグラスを無惨に向ける。溢れんばかりに注がれた日本酒と楽しそうに笑う無惨に玉壷が頑張ってくれて良かったと心から思うのだった。

 

 

 

 

無限城 ひそひそ噂話

 

「あ、あの無惨様。何と?」

 

酒盛りから数日後、無惨に呼び出された玉壷の顔は嘘だと言ってくれと言わんばかりに歪んでいた。

 

「鮪だ、鮪を釣って来てくれ」

 

無惨から鮪を釣って来てくれと言われた玉壷は目を丸くした。

 

「お前なら出来る、頼んだぞ」

 

「いや、あの……無惨様……」

 

「期待している」

 

「無惨様ああああ……」

 

鮪を釣ってこいと言われ説明する間もなく行ってしまった無惨に玉壷は泣いた。

 

「頑張れ、松露等を取ってくるよりかはましだ」

 

「松茸10000本は大変だった」

 

「いや、鮪も無理ですからね?」

 

食材を取って来いと無茶振りされるのは無限城名物だが、まさか鮪を釣ってこいと言われた玉壷は泣いた。

 

「とりあえずカワサキに相談すると良い」

 

「じゃないと無理だぞ」

 

「いや、そうでなくても無理なんですが……あれ?黒死牟様?」

 

いつの間にか姿を消している黒死牟。琵琶の音もしなかったときょときょとしている玉壷の背後の暗がりから縁壱が姿を見せた。

 

「兄上の匂いがしたのですが……兄上は何処ですか?」

 

「よ、縁壱殿……いつの間にかいなくなっておりました」

 

「そうですか、では兄上を探しに行きます」

 

そう言って歩いていく縁壱を見送る玉壷と猗窩座だったが、その後に2人は顔を見合わせた。

 

「あの服装って何ですか?」

 

「西洋従者らしい」

 

「あんなに胸も零れ落ちそうな物を着させるとは……西洋は変態でしょうか」

 

「かもしれんな」

 

無表情メイドとか言う凄いジャンルを開いた縁壱の姿に2人は絶句し、暗がりから聞こえてきた黒死牟の悲鳴に見つかったんだなと目を伏せた。

 

「鮪も大変だと思うが頑張れ」

 

「……はい」

 

とりあえずカワサキに鮪を釣れる場所を聞かなければと玉壷は肩を落としながら、無惨の指令を果たす為にカワサキの元へと足を向けた。

 

「兄上、従者ですよ。どんな事でもしますよ!」

 

「来るな来るなあ!」

 

「兄上兄上兄上♪」

 

「誰だああ、こんな破廉恥な服を作ったのはああああッ……」

 

背後から聞こえてきたドップラー効果で遠ざかっていく悲鳴に玉壷は何とも言えない表情をして、心の中で南無と呟きカワサキに助けを求めるのだった。

 

 

 

 

メニュー6 うどん大好き鳴女さんへ続く

 

 




食材集めの無茶振りに玉壷は泣いても良い、鮪を釣りに玉壷はどこまで旅立つ事になることでしょうかね。弦三郎さんは、父蜘蛛。蛍火は母蜘蛛ですので、名前だけオリジナルと言う事でよろしくお願いします。次回は鳴女さんで、どこかで見たタイトルかもしれませんが、スルーでお願いします。それでは次回の更新もお楽しみに!

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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