【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー16 寄せ鍋

メニュー16 寄せ鍋

 

瑠火の病気も治り、杏寿郎の弟の千寿郎も生まれ順風満帆な生活を送っている槇寿郎……と言いたかったが、実際にはそうではなかった。

 

杏寿郎が炎の呼吸を修め、最終選別とやらが近づけば近づくほどに槇寿郎の様子はおかしくなった。

 

「と、俺は感じてるんだけど瑠火さんはどう思う?」

 

「私もですね。とは言えど、私は鬼殺隊の任務に付いて口出しできる訳ではありませんし」

 

瑠火さんも槇寿郎の様子がおかしい事に気付いていたが、妻として支える事が出来たとしても踏み込めない場所はある。

 

「今戻った。風呂に入ってくる」

 

「お疲れ様でした。ご夕食の準備もしますね」

 

「ああ。頼む」

 

表面上は元の快活な槇寿郎だが、明らかに顔に元気が無い。そしてその顔は俺には見覚えがあった……。

 

(たつみ……か)

 

リアルでは警察官であり、ゲーム中ではたっち・みーとして活躍していた俺の友人。あいつも現実と理想の前に打ちのめされて折れかけた時が合った。その時の顔に良く似ているのだ……。

 

「瑠火さん、ちっと、俺出掛けて来るぜ。暫く戻らないかも知れんけど、心配しないでくれ」

 

「……はい、判りました。槇寿郎様の事をよろしくお願いします」

 

無言で手を上げて槇寿郎の屋敷を後にするのだった……。隠の話や、藤の家を回り、途中で隠が護衛に付いたが特に問題なく、俺の求めている情報を手にする事は出来たと思う。

 

「……耀哉さんよ。ちょいと頼みがあるんだけど……良いか?」

 

「構わないよ。カワサキには色々と助けて貰っているしね、それで何の話だい?」

 

黄金コンソメスープの効果か、大分呪いも弱くなっている耀哉の元を訪ねた。ここ数日歩き回り、俺なりに槇寿郎を観察した結果……今の槇寿郎に必要な物が何なのかを考えたつもりだ。

 

「かなり無理な話になる。隠や隊士にもある程度の負担を掛けてしまう」

 

「……それほどまでかい?」

 

「ああ、だけど……その代わりに槇寿郎を元に戻せるかもしれない」

 

「……なるほど、それは確かに必要な事だね。良いよ、無理な話でも何とかしよう。それで私は何をすれば良いんだい?」

 

「……槇寿郎が助けた全ての人を集めて欲しい」

 

「……それはかなり大変だね、それでも……やらなければならないことなのだね?」

 

「はい。今の槇寿郎に必要な事です、このままでは槇寿郎は折れてしまう、俺はそんな男を何人も見てきた。だからそうならないようにしたいのです」

 

理想と現実……快活な、そして自分に誇りを持つ男だからこそ現実と言う名の世界に打ちのめされてしまう。このままでは心が折れて槇寿郎は立ち上がれなくなるだろう……だが今ならまだ間に合うと俺は考えていた。

 

「良いよ、大変だけど集めてみよう。それと……ほかに何か必要な物は?」

 

「1つだけ……自分の一番好きな食べ物を持って来て貰いたいのです」

 

「それは魚でも野菜でもかい?」

 

「はい、なんでも構いません。よろしくお願いします」

 

大正時代だからこそ出来る力技だ。これがリアルだったら絶対出来ないなと苦笑しながら俺は耀哉に頼み事をし産屋敷の館を後にした。

それから数日後、集まったよと言う手紙が来て俺は手紙に同封されていた地図の元へ向かった。

 

「……やばいな、想像以上過ぎる」

 

多くて40人くらいと思ったんだけど、200人くらいいる……いや、だがこれはそれだけ槇寿郎が頑張った証なのだろう。

 

「今日は集まってくれてありがとうございます。炎柱煉獄槇寿郎の為に皆様、お力を貸してください」

 

「「「「おーッ!!」」」」

 

俺の言葉に元気良く返事を返す老若男女達に笑みを浮かべ、炊き出し用の大鍋を広場の中央に置いて俺達は調理を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

千寿郎が生まれ、杏寿郎の最終選別が迫っている。本来ならば、俺は杏寿郎が無事に最終選別を通過出来るように指導する立場だ。それなのに、俺はそれが出来ないでいた。

 

「……くっ……俺の呼吸の限界はここなのか……」

 

炎の呼吸の限界を感じ、どうしても困った時に見よと言われていた歴代炎柱の書……それを見たのが俺の不調の始まりだと思う。

 

『炎・岩・雷・風・水の呼吸は全て日の呼吸から生まれた呼吸である』

 

自分の呼吸に……いや、煉獄家が代々受け継いできた呼吸に俺は誇りを持っていた……。

 

炎柱となり、今まで以上に人を救うことが……。

 

鬼を切る事が出来ると俺は思っていた……。

 

だが現実では俺はいつも間に合わない、どれほど急いでも、どれほど懸命に人を護ろうとしても……

 

どうしてもこの手から命が零れ落ちてしまう……。

 

怖いのだ……大事な者が俺の手から零れ落ちるのが怖い。

 

瑠火が死に掛けた時に、自分が弱いのだと知った。

 

千寿郎が生まれた時に、自分が死ぬのが怖いと感じた。

 

杏寿郎が最終選別に行くと言った時に杏寿郎が死ぬのに恐怖した。

 

それと同時にもし自分が修めていた呼吸が炎の呼吸ではなく、最強の呼吸「日の呼吸」ならばと思った。

 

調べれば調べるほどに日の呼吸の強さを知った……。

 

惨めだった、炎の呼吸も所詮は日の呼吸の劣化……。

 

決して最強には至れないのだと知った。

 

日の呼吸であれば何も取りこぼす事が無かった、そしてこれからも取りこぼす事が無いのだろう。

 

「花札の耳飾……そして痣者……」

 

鬼殺隊として古い歴史を持つ煉獄家には痣者と呼ばれる者の記録があった。

 

痣者は呼吸を極めた者が辿り着く1つの境地。

 

日の呼吸の使い手は痣者であり、選ばれた者であった。

 

痣者は戦国時代……始まりの剣士がいた時代には無数に居たらしく、煉獄家の当主はその全てが痣を発現させていたらしい……。

 

だが俺はどうだ?痣は生まれない……俺は煉獄家の人間として……当主として……きっと相応しくないのだ。

 

「こんなものッ!」

 

こんなものが無ければこんなにも己の無力さを思い知らされる事は無かった。怒りに身を任せ、歴代炎柱の書を引き裂こうとした時。書斎の扉が叩かれた。

 

「父上! 少し付いて来てください!」

 

「ちちうえー!」

 

「お、おい! なんだ、急にどうした!」

 

杏寿郎と千寿郎が有無を言わさず俺の手を引く、子供の力だ。簡単に振りほどけるのに、必死に俺をどこかに連れて行こうとする2人に俺はなにも言えなかった。そして手を引かれ移動していると良い香りが漂っている事に気付いた。

 

「なんだ、何をしている?」

 

「良いから来てください! 早く」

 

「みんなまっています!」

 

自分の息子達が自分を何処に連れて行こうとしているのか……それが判らず、ただ俺は引かれるままに歩き続けた。

 

「お、主役が来たぞー!」

 

煉獄家の領地だった広場に巨大な鍋とどこにこれだけの人数がいたのかと言うほどの人の数に俺は目を見開いた。

 

「父上、判りますか? ここにいる人達が何者なのか」

 

杏寿郎に言われ広場にいる人を見て、俺の顔から血の気が引いた。誰も、かれも……俺が遅れたから、家族を鬼に奪われた者達だった。

ただただ恐ろしかった……どうしてここにいるのか、それが判らなかった。屋敷に逃げ帰りたかった……自分の罪を見せ付けられている気がした。

 

「槇寿郎様。落ち着いて、大丈夫ですから」

 

「瑠火?」

 

何時の間にか背後にいた瑠火に大丈夫ですからと背後から手を握られた。

 

「炎柱様。いつもお守り頂きありがとうございます」

 

「ありがとうございます、貴方のお陰で息子は死なずに済みました」

 

「お姉ちゃんを助けてくれてありがとー」

 

「炎柱様。我が孫の仇を取っていただき感謝します……」

 

口々に告げられる感謝の言葉の数々に俺は目を見開いた。責められると思っていたから……感謝などされると思っていなかったから……。

 

「皆、お前の為に集まってくれたんだよ」

 

「俺の為に……?」

 

「そう、大変だったんだぜ? 左近次とか、慈吾郎とか、隠や、下級隊士にも話を聞いてなぁ、耀哉にも骨を折ってもらった」

 

お館様にまで協力を頼んだと言うカワサキの言葉に顔から血の気が引いた。一体、カワサキが何をしたかったのか、俺には何も判らなかった。

 

「よーっく見ろ。これがお前の護ってきた者だ。確かに失った者……零れ落ちた者もあるだろう。だがお前の戦いは決して無駄ではなかったッ!!」

 

「そ……それは……」

 

「俺は戦えない、呼吸も使えない。だから偉そうな事言うと思う、だけどな。失った者ばかりを見てどうなる! 自分の護った者を見ろッ! お前を激励する為に集まってくれた人達を見ろッ! 失って来たばかりかッ!? 護れたものは確かにある! そうだろう!」

 

広場にいる者を見る……この中に誰も俺を責めている者は居ない。皆が優しい目で俺を見ている……それに気付いて、俺は天を仰いだ。そうでもしないと涙が零れ落ちそうだった。自分の戦いは決して無駄ではなかったのだと……確かに意味があったのだと……今初めて判った。

 

「父上、どうぞお召し上がりください」

 

「ちちうえ、どうぞ」

 

杏寿郎と千寿郎が持ってきたのは具沢山の汁の入ったお椀だった。

 

「こ……れは?」

 

「集まった皆の好きな食材を入れて作った寄せ鍋さ、お前の為に皆で作ったんだ」

 

海の幸も、山の幸も、ありとあらゆる食材が入ったお椀を震える手で受け取る。

 

「ささ、どうぞ。私も頑張りましたよ、切るだけでしたけど……」

 

「どうぞ、お召し上がりください。昨日から何もお口にしておられないでしょう?」

 

瑠火達に言われ、汁を啜った。口の中一杯に広がる様々なや食材の旨み……心を暖めるような暖かさ……。

 

「美味い……こんな美味い物……生まれて初めてだ」

 

「そうだろうな、さーって! 皆も食べてくれ!」

 

俺が食べたの確認してから、カワサキが皆に寄せ鍋を配り始める。杏寿郎と千寿郎が器を貰いに行く姿を見つめていると目の前が涙で滲んだ。

 

「槇寿郎様。大丈夫ですか?」

 

「……あ。ああ……大丈夫だ」

 

俺は何を見ていたのかと己を恥じた。自分だけに悲劇が降り注いでいるように思っていた……だが実際は違っていたのだと初めて知った。

 

「ありがとう」

 

「お礼は私ではなく、カワサキさんに、本当にあの人が色々と骨を折ってくれたんですよ?」

 

穏やかに笑う瑠火、その視線の先には笑顔で料理を配るカワサキの姿がある。あの時、カワサキに出会えた……それがきっと俺の運命を変えた……俺は心からそう思うのだった。

 

 

 

 

寄せ鍋を器によそって配りながら槇寿郎に視線を向ける。憑き物が落ちたような表情をしているのを見て、もう大丈夫だなと安堵した。

 

(いや、しかし本当に良くやったよな。俺)

 

山菜に始まり、木の実、茸ありとあらゆる山の幸。

 

熊肉、猪肉、雉肉……ありとあらゆるジビエ。

 

牛肉、豚肉、鶏肉と言うありとあらゆる肉。

 

魚や蟹、貝や海老ありとあらゆる海の幸。

 

そして芋や白菜と言った無数の野菜たち……。

 

よくこれだけバラバラの食材を1つに纏めることができたと自分で自分を褒めてやりたい気分だ。

 

「美味い!美味い!わっしょいわっしょいっ!」

 

「わっしょいわっしょい!」

 

……ちぃっと五月蝿いけど、美味しいって喜んでいるみたいだし……あの2人はあのままで良いかな。

 

「呼んで頂きありがとうございます」

 

「いえ、お力添えに感謝します」

 

藤の家の主人達がいなければここまで豪勢な鍋は出来なかったと思う。

 

「貴方もどうぞ、少し変わりましょう」

 

「いや、すいませんね」

 

盛り付けを変わってくれるという女性にお玉を渡して、俺も地面に座り込んで寄せ鍋を口にする。

 

「はふっはふっ! うーん、こりゃ美味い」

 

自分で作っておいてなんだが、これほど美味い鍋は初めてかもしれない……。

 

(熊肉美味いな……うん)

 

ジビエ系の肉がいい味をしている、豚肉や鶏肉とは違う野生的な味が鍋に良いアクセントを加えている。

 

「御代わり戴けるか!」

 

「はい、どうぞ」

 

杏寿郎がお代わりを貰い、俺の隣にどかっと腰掛ける。

 

「カワサキ殿には感謝しかない! ありがとう!」

 

「はは、俺は大した事はしてないさ」

 

ただ料理をするだけだよと笑うと杏寿郎は違うと言って笑い出した。

 

「きっとカワサキ殿は福の神なのだと俺は思う!」

 

「こんな悪人面の福の神がいるかよ」

 

「いいや! 絶対カワサキ殿は福の神だ! 小芭内もそう思うだろう?」

 

「……突然お前は何を言っている。杏寿郎……」

 

呆れた様子の小芭内も俺の隣に腰掛ける。

 

「元気そうだな、小芭内、鏑丸」

 

鬼殺隊になると言って煉獄の屋敷を出た小芭内にあうのは久しぶりだ。水の呼吸の師範の元へ向かったと聞いていたが、こうして会うのは1年ぶりだと思う。

 

「俺は元気ですよ。カワサキさんも元気そうで何よりです」

 

「シャー♪」

 

小芭内も鏑丸も元気そうでなによりと思いながら、素手で海老の頭を外して味噌を口にする。

 

「カワサキ殿、何故鍋なのに海老の殻を剥かなかったのですか?」

 

「出汁が出るからだな。甲殻類の出汁は良い味になるんだよ」

 

鑑定で甲殻類アレルギー持ちがいなかったからこそ出来たんだけどなとカワサキは笑い。空になった器にお代わりを注いで貰うが……鍋の中身を見て作りすぎたかなと若干後悔しているのだった……

 

そしてその後悔は的中し、全員が満腹になっても僅かに汁が残ってしまったのだ。

 

「あちゃあ……明日の朝にでもお粥にするかなあ」

 

「いいや、その必要は無い」

 

槇寿郎が俺の肩を掴んで脇にどけ、大鍋を両手で掴む。

 

「おいおい、少しって言っても飲むには多いぞ?」

 

「いいや飲む。これは絶対に残さない」

 

小さく息を吐いて槇寿郎は鍋に口を付けて中身をゆっくりと確実に飲み干していく。その光景を全員が見ていた、もう満腹は越えているだろう。だがそれでも槇寿郎は寄せ鍋の汁を最後まで飲み干し、鍋を脇に置くとその場に土下座した。

 

「此度は態々私の為に集まって頂き感謝しかありませんッ! 前を見ず、後ろだけを見つめ! 嘆き、悲しみ、諦めかけた情けなく、みっともなき男ではありますがッ! この炎柱煉獄槇寿郎! 不肖の柱なれど、皆様の思いを、願いを背負いッ! この魂を燃やし、必ずや鬼舞辻無惨にこの刃を振るう事を誓います! どうか、これからもこの情けなく、みっともなき男に皆様のお力添えを願いますッ!」

 

槇寿朗の叫びから少し遅れて広場に爆発したような歓声が響いた。

 

「炎柱様は情け無くなんか無いよ! 強い人さ!」

 

「私達に出来る事なんて殆ど無いけど、それでも貴方を応援させてください!」

 

その歓声は槇寿郎が慕われていると言う証であると同時に1人では無いと言う証明だった。

 

(これなら大丈夫だな)

 

1人で出来る事なんてたかが知れている、だが協力しあえばその力は何倍にもなる。完全に憑き物が落ちた顔をしている槇寿郎を見て、俺は今回の事が大成功だなと確信するのだった。

 

「え? 定期的に?」

 

「何とかならないかな?」

 

「い、いや……そりゃまあ出来ない事は無いですけど……」

 

「それじゃあお願いしようかな?」

 

「……ちょいと考えさせてくれないですかね?」

 

だがまさかそれが、柱や隊士の士気を上げる為に定期的に開催して欲しいと言う事を耀哉に言われた時は流石の俺も口ごもるのだった……。

 

 

 

メニュー17 雷の呼吸一門のポトフ へ続く

 

 




今回は料理描写よりも、話の内容に力を入れてみました。このイベントの後人の願いを思いを背負い、魂を燃やす。「真・炎柱 煉獄槇寿朗」となり、強化モードに入ります。己1人では火だが、人の思いを願いを背負い、火は炎となる最強モードの槇寿朗の誕生ですね。次回は雷一門、善逸とかも出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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