【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー17 雷の呼吸一門のポトフ

メニュー17 雷の呼吸一門のポトフ

 

え、カワサキさんの事を知りたい?

 

いやいや、そんなこと俺も全然知らないって!

 

え……兄……獪岳が護衛をしてるって……。

 

いやまぁそうなんだけどさあ……本当カワサキさんの事は俺全然知らないから!

 

そう言うの知りたかったら炭治郎とか、獪岳に直接聞けば良いじゃん!

 

……へ? 主観で知りたい……?

 

ん、んーんー。いやさ、逆に聞くけどさ、なんでカワサキさんの事を知りたいのさ。

 

最終選別でも会うでしょ?

 

とにかく俺に言えるのはカワサキさんは良い人って事くらいだよ。

 

優しいし、面倒見もいいし……。

 

もうこれで女の人なら言う事ないんだけどねえ……。

 

はっ、いやまぁ。とりあえず俺に言えるのはそれだけだから!じゃッ!!

 

 

 

 

 

「善逸よ。今日は昼からの訓練は無しじゃ」

 

三角があちこちにあしらわれた着物を着、顔に傷のある老人……「桑島慈吾郎」の言葉に黒髪の少年「我妻善逸」はその顔を綻ばせた。

 

「え。本当じいちゃん!?」

 

「先生って呼べ。この馬鹿」

 

「あいだ!?」

 

慈吾郎をじいちゃんと呼んだ瞬間。不機嫌そうな声と共に尻を蹴られひっくり返る善逸にワシは溜め息を吐いた。

 

「獪岳よ、もう少し優しくしてやってもよいぞ?」

 

「調子に乗るだけですよ。先生」

 

槇寿郎が瑠火の病を治す食材を探している間寝泊りしていた寺の孤児の1人「獪岳」はふんっと鼻を鳴らした。獪岳は鬼殺隊になる事を熱望していたので、ワシが預かることになったんじゃが、獪岳は努力家で才能に溢れていた……残念な事に壱の型「霹靂一閃」こそ習得できなかったが、どこに送り出しても恥ずかしくない弟子と言える。

 

「いきなり蹴ることないだろ!? お前には人の心がないのか!」

 

「何回も言ってるのに学習しないからだ。それと訓練は無いが、やる事は山ほどある」

 

えっと驚く顔をする善逸だが、獪岳の言う通りである。

 

「今日はワシの古い友人が尋ねて来る。屋敷の掃除と食材の買出し、やる事は沢山あるぞ」

 

「休みじゃないの!?」

 

「休みな訳あるか! おら、行くぞ!」

 

善逸を引っ張って歩いていく獪岳。口は悪いが、それなりに善逸の事を心配してくれているようだと安心する……だからこそ思う。

 

「何か良い助言でもカワサキから貰えれば良いが……」

 

獪岳の最終選別が間近に迫っている。今は最終選別の制度が多少変わってきており、ワシの時代よりも生存する候補生は多くなっている。それでも、それでも死んでしまう者は決して少なくは無い。出発前に獪岳の不安を取り除いてやりたいが、ワシにはどうすれば良いのか皆目見当が付かん。

 

「どうしたものかの……」

 

壱の型しか使えん善逸

 

壱の型が使えない獪岳

 

そのどちらもワシが面倒を見てきた中で天元を除けば、最も優れた逸材だ。雷の呼吸の後継者として、あの2人以上の逸材は今後現れないとワシは確信していた。だからこそ、壱の型が使えないと焦る獪岳と、壱の型しか使えない善逸のことについて相談に乗って貰おうと思い、最終選別の前で忙しいのを承知でカワサキを呼んで貰ったのだ。

 

「……やれやれ。ワシもそろそろ育手として限界かの……」

 

何人もの門下生を送り出したが、鳴柱になった者はいない。逸材だった天元も自分の呼吸を見出してしまったし、善逸と獪岳は紛れも無く逸材だが、ワシにはそれを育てきれるだけの器量が無い。そのことに気付き、ワシは溜め息を吐きながら屋敷の中へと引き返していくのだった……。

 

 

 

 

 

獪岳に半分引きずられるように街に来て、買い物をしているんだけど……その量が半端じゃなかった。

 

「おら。持ってろ」

 

「ええ!? まだ買うの!?」

 

じゃがいも、大根などの野菜を大量に持たされ、もう既に大量の荷物を持っているので腕がプルプルしてきた。

 

「そんなに大人数なの? じいちゃんの友達って」

 

「師範って言え。はぁ……尋ねてくるのはカワサキさんだ」

 

「……だれそれ?」

 

「お館様の料理番だ。つまりとんでもなく偉い人だ」

 

「本当に?」

 

なんでそんな偉い人がたずねて来るのは理解出来なかった。いや、じいちゃんが元柱だからおかしくないのかな。

 

「俺の最終選別が近いから、その前に色々と面倒を見てくれるように師範が頼んでくれたんだ。俺も行冥さんもカワサキさんに助けられた事があるしな」

 

「……あの行冥さんって柱の?」

 

「ああ、岩柱の悲鳴嶼行冥さんだ。俺が師範の所に来る前に世話になった人だ」

 

獪岳が元孤児で寺で暮らしていたと言う話は聞いていた。その寺の責任者が行冥さんという盲目の男性で俺も何回か会った事があった。凄く穏やかな音のする人だなと思っていた。

 

「もしかして元柱とか?」

 

「いや、カワサキさんは鬼殺隊とは関係ない、料理をして旅をしていたらしい」

 

助けられたというから鬼殺隊と思ったんだけど、どうやら違うらしい。

 

(でも凄く穏やかな音だ)

 

カワサキさんの話をしている時獪岳の音は凄く穏やかで優しい。

 

「美人なの?」

 

「はぁ? 美人? 何言ってる。カワサキさんは男だ」

 

「え?」

 

ええ……こんな音をしてるから凄い美人で獪岳が想いを寄せていると思ったんだけど違うのかよ。

 

「まぁでも……兄貴みたいに良い人だよ。顔はめっちゃ怖いけどな」

 

「会うの怖いんだけど」

 

「嫌でも会うから我慢しろ。さっさと買い物を終えて帰るぞ」

 

ぶっきらぼうに言うが、それでも半分荷物を持ってくれた獪岳に俺は言動で損をするんだよなと思いながら、買い物を終えてじいちゃんの屋敷に戻っていたのだが……。

 

「ん、良い匂いだ……これあれ? 初めて俺が来た時に作ってくれたポトフって奴?」

 

じいちゃんと獪岳が作ってくれた汁。それと同じ匂いがして獪岳にそう尋ねると獪岳は俺の荷物を更に持って走り出す。

 

「もう尋ねてきてる! 急ぐぞ!」

 

「え、ま、待ってよ!?」

 

急に走り出した獪岳の後を追って必死に走る。門の所に腰掛けてじいちゃんが待っていた。

 

「カワサキが来てるぞ。昼食も準備完了だ」

 

「すみません。遅くなって」

 

「かかか。お前達が悪いんじゃないわ、お前達が出立してすぐ来たからな」

 

入れ違いって事か、出発のタイミングが悪かったんだと思いながら背負っていた荷物を降ろしていると厨から1人の男が姿を見せた。

 

「ぎゃあああああーーーッ!」

 

「うおっ!? うるさッ!?」

 

ちょっと怖いとかそう言う感じじゃないんですけど!? 完全にヤクザなんですけど!?

 

「馬鹿野郎! 失礼な事をするな!」

 

「いたいッ!?」

 

獪岳に拳骨を頭に落とされ、頭を抱えて涙目で蹲る。

 

「なんか随分と個性的な弟弟子だな」

 

「すみません、馬鹿が失礼を」

 

「良いって、顔が怖いのは自覚してるからな」

 

楽しそうに笑う男性……恐らくカワサキと言う人物は穏やかに笑っている。聞こえてくる音はとても穏やかで……そして包み込むような柔らかい音だった。

 

「カワサキって言うんだ。お前さんは?」

 

「あ、我妻善逸です。そのさっきはすみませんでした」

 

「良いって、気にしてないからな。それより昼飯が出来てるぞ、早速飯にしよう」

 

カワサキさんがそう言って歩いていくが、迷わず進むのを見てこの屋敷にも来慣れているんだなと思った。

 

「全く……すぐ叫ぶ癖を何とかしろ」

 

「ごめんなさい」

 

「はぁ……」

 

じいちゃんと獪岳に揃って注意され、俺は深く肩を落として広間に足を向けるのだった……。

 

 

 

 

 

広間には皿とパンが置かれていた。勿論皿の中身はポトフと言う西洋風のおでんだった。

 

「土産に塩漬け豚肉を持って来てたからな、ポトフにしたけど良いか?」

 

作ってくれた食事に文句など言う訳が無い、大丈夫ですと返事を返し座布団の上に座る。

 

「ほほう……これは美味そうだな」

 

「塩抜きした豚肉のステーキだ。美味いぞぉ!」

 

厚切りの豚肉もあり、昼にしては豪華すぎる食事だ。

 

「ではいただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

師範がいただきますと口にしてから匙を手に取り汁を口に運ぶ。

 

「美味い、作り方を教えて貰ったんですけど、中々この味にはならないんですよ」

 

「んー感覚の物もあるしな、なに、作っているうちに慣れるさ」

 

色々と料理の作り方を教えてもらっているのに、この味に中々ならない。自分の作り方と何が違うのだろうかと不思議に思う。

 

「善逸? どうしたんじゃ?」

 

「……あ、いや、その……美味しくて吃驚した」

 

その目が意外だと言っているのに気付いて小突こうとしたが、カワサキさんは上機嫌に笑いだした。

 

「それは良かった。美味いって言うのは良い事だからな、そうだな。これを試してみるか?」

 

カワサキさんが差し出したのは黒い粒と黄色の何か……正直どっちも初見である。

 

「おお、貰うぞ」

 

師範は黄色のほうを受け取り、厚切りの豚肉に塗りつけて頬張る。

 

「んんーーッ! 効くなあ。美味い!!」

 

その反応から薬味の一種なのだと思うが、何なのだろうか? これは……。

 

「マスタード。西洋からしだな、ちょっぴり酸味があるがポトフに良く合う。そっちは黒胡椒、ピリリっと辛いが、こっちも良く合う」

 

なるほど、やはり薬味だったかと思いながらマスタードをポトフの中に少しだけ入れて口にする、

 

「! 美味いッ! 味が全然違う!」

 

「だろ? 味が良くしまるんだ」

 

ポトフ自身は優しい味なのだが、マスタードのお陰で味がしっかりとした物に変わっていた。じゃがいもやにんじんに少し付けて食べると本当に一風変わったおでんと言う感じがする。

 

「辛ッ!? でも美味しいッ!」

 

善逸は黒胡椒を入れたのか辛い辛いと騒いでいるが、匙を一瞬たりとも止めない。それは美味しいという何よりの証拠だった。

 

(どうすればこんなに柔らかくなるんだ)

 

野菜も匙で押すだけで簡単につぶれる。俺が作ると硬いんだが……煮込み時間が足りないのだろうか。

 

「このパンも柔らかいの」

 

「屋敷で焼いてきたからな、こうやって、豚ステーキを挟んで食べても美味い」

 

カワサキさんが豚肉を挟んでいるのを見て、俺も善逸もすぐにパンを切り開いて、ステーキを挟んだ。

 

「うわ! 美味いッ!!」

 

「パンに豚の脂がしみこんでて美味いなあ……」

 

豚肉の甘い脂がパンに染み込んでいる。しかしそれでいて塩漬け豚なので塩辛い味が食欲を刺激する。

 

「はー、美味い。カワサキさん、料理上手なんですね」

 

「これでもお館様の料理番だからな! 味は保証する」

 

善逸の言葉に失礼な事をと俺も師範も少し焦った。ちゃんと事前に説明していたのに、なんでそれを忘れるのかと問い詰めたかった。だけどカワサキさんが笑っているので、それも言えずにぐっと喉元まで出てきた怒声を飲み込んだ。

 

「味付けは塩だけなのになぁ……なんでこんなに美味いんじゃ?」

 

「簡単だ。野菜の切り方、煮る時間で味は変わる。全ての具材の一番美味しい時間を引き出すことが美味さのコツだ」

 

「……訳が判らんがとりあえずは、経験って事かの?」

 

「ま。一言で言えばそれだな」

 

師範と笑う合うカワサキさん。だけど、ここにきたのは2ヶ月後に控えている最終選別に不安を抱いている俺の為であることは明らかだった。

 

「……獪岳。パンいる?」

 

「あ、ああ……」

 

ふと声を掛けられ、「左手」でパンを受け取り千切って汁に付けて頬張る。野菜と豚肉の甘さが溶け出た汁を飲めば本当は気分が落ち着くはずなのに、今日は何故かどうしても心を落ち着けることが出来ないのだった……。

 

「……」

 

そしてそんな獪岳の様子をカワサキはジッと見つめ、何かを確信するように頷くのだった。

 

「慈吾郎。ちょいと、試してみたいことがあるんだけど良いか?」

 

「何をじゃ?」

 

「いやさ……獪岳が霹靂一閃を使えない理由……ちょっと思い当たる節があるんだわ」

 

「……本当か?」

 

「おう。こう言う事で嘘は言わねえ、と言う訳で、明日ちょっと協力して欲しい」

 

「良いぞ、弟子の成長の為じゃ、1つでも2つでも協力しよう」

 

その日の夜。カワサキは慈吾郎にそう持ちかけ、獪岳への特別な訓練をすることを決めるのだった……。

 

 

 

 

森の中で焚き火をする金髪の青年……それはカワサキとの出会いから数年後。最終選別を切り抜け、隊士となった善逸の姿だった。

 

「善逸。山菜を取ってきたぞ!」

 

「俺は言われた通り芋を探してきたぜ!」

 

茂みを掻き分け、背中に木箱を背負った青年「竈門炭治郎」が山菜を抱えて姿を見せ。それに続いて、猪の被り物をした上半身裸の青年「嘴平伊之助」が姿を見せる。

 

「ありがとな、これで作れるよ」

 

焚き火の上に薬缶を乗せ、そこに水を入れたら炭治郎と伊之助が持ってきた野菜を受け取り、荒く大雑把に刻んで薬缶の中に入れる。

 

「しかし意外だな、善逸が料理を出来るなんて」

 

「じいちゃん達に仕込まれてさ、でも俺ってこれしか覚えられなかったんだよね」

 

へへっと笑う善逸は自分の鞄から塩漬けの豚バラ肉を取り出し、短刀で食べやすい大きさに切り薬缶の中に入れて蓋をする。

 

「それで何を作ってるんだ? 俺は腹が減ったぞ!」

 

「判ってるって、具材に火が通ったら食べれるから少し待てよ」

 

焚き火の周りで3人で座り。くつくつと音を立てる薬缶、時折菜箸でかき回し、塩を加え味を調える善逸。

 

「良し、出来た」

 

それぞれが持つ御椀を受け取り、薬缶から具材を取り出し椀の中に入れ、最後に薬缶の中の汁を注ぎ入れる。

 

「出来た! これが雷一門特製のポトフだ!」

 

「ぽ、ポトフ?」

 

「なんじゃそりゃあ!美味いのか?」

 

「美味いよ、ほらほら食べた食べた。あ、でも熱いから、舌を火傷しない様に気をつけてくれよ」

 

初めて見る料理におっかなびっくりと言う感じで口を付ける炭治郎と伊之助だが、1口口にすれば、その顔に笑みが浮かぶ。

 

「美味いなぁ。身体の中から温まるよ」

 

「うめええ!やるじゃねえか!」

 

「へへ、ありがとな、2人とも。でもじいちゃんと兄貴のほうがもっと上手なんだよなあ」

 

「いや、それでも美味いよ。これから長い夜を過ごさないといけないんだ、身体が温まるのはありがたいよ」

 

「おう! その通りだぜ。お前、飯作ったから最初に休んで良いぜ!」

 

本当は日暮れ前に藤の家にたどり着く予定だったが、曇っていたこと、そして曇り空だったのが不幸を呼び鬼の襲撃を受けた3人は山の中で一晩を過ごす事になってしまったのだ。

 

「良いの?」

 

「良いとも! でも順番で寝たいから後で起こすけどな!」

 

「それが嫌なら早く食べて寝るんだな!」

 

美味いと舌鼓を打ちながらも自分のことを心配してくれている2人に善逸はその浮かびかけた笑みを隠すように汁を啜った。

 

「あっつう!」

 

「はは、何をやってるんだ善逸。火傷しない様にって言ったのはお前じゃないか!」

 

「全く紋逸は馬鹿だよな!」

 

鬼が蔓延る夜でも善逸は怖くなかった。自分のことを心配してくれる仲間がいる……そのことが何よりも頼もしく、そして何よりも幸せだったから……。そして仲間を笑顔に出来る料理を教えてくれた大事な師と兄貴分の事を思い、お椀でにやけ顔を隠しながら嬉しそうな顔を浮かべているのだった……。

 

 

 

メニュー18 雷の呼吸一門のスタミナ丼へ続く

 

 




次回も雷一門の話を書いて行こうと思います。霹靂一閃については独自解釈と設定を入れて行こうと思いますので、温かい目で見ていただけると幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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