【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー19 汁なし坦々麺
煉獄家の庭に打ち水をしながら俺は額の汗を拭い、空を見上げた。リアルでは見れなかった太陽が今日も輝いている――それは最初は良い物だと思いもしたが、慣れてくると夏の陽射しと言うのは想像以上に辛い。
「あっちぃなぁ」
打ち水を終えて厨に入り、手を洗ってから捏ね鉢を作業台の上に乗せる。
「カワサキ殿。今日は蕎麦でも作られるのか!」
「杏寿郎。もう少し声を小さくするべきだろう? カワサキさんに迷惑だ」
訓練を終えたのか、水を取りに来た杏寿郎と小芭内に冷やしておいた水を渡しながら笑う。
「蕎麦でもうどんでもないな、だがこの暑い時期にぴったりの料理にするから楽しみにしていてくれ」
俺がそう言うと嬉しそうに笑い2人で厨を出て行く。最近小芭内も明るくなったと爺さんみたいなことを考えながら水の中に塩、卵、かんすいを入れて良く混ぜ合わせる。
「強力粉、薄力粉っと」
2種類の粉を捏ね鉢の中に入れてざっと混ぜ合わせたら中央をへこませて、塩、卵、かんすいを水に混ぜ合わせた物を凹みの中に注ぎいれ、手を粉の下に入れて掬い上げるように混ぜ合わせる。最初はぱさぱさとしているが、根気良く混ぜ合わせていると粉に水がしみこんで徐々に固まってくる。
「よっよっとッ!!」
粉が固まってくると相当な固さになるので体重を掛け、力をこめて混ぜ合わせながら球体に形を纏める。
「うっし、気合入れていくか」
当然大正時代にナイロン袋なんて言う便利な品はないので清潔な手ぬぐいに打ち粉をして生地を包み、更に手ぬぐいを2重、3重と巻いて踏んで生地を伸ばし、ある程度伸びたら手ぬぐいを解いて、折りたたんでまた踏みつける。
「……今度ナイロン袋を出そう」
手ぬぐいでやるには面倒すぎる。今度は見られていないうちに踏み終えてしまえば良いと思い、アイテムボックスからナイロン袋を出すことを俺は心に誓った。
「良し、次の準備をするか」
捏ね鉢に生地を戻して、濡らした手ぬぐいを良く絞り捏ね鉢の上に被せて寝かせている間に次の準備をすることにする。
「暑い時は辛い物だよな」
鉄鍋に油を引いて豚挽き肉を炒める。色が変わってきたら、それを2つに分ける。
「2種類作っておかないとな」
坦々麺と言えば辛口だが、辛いのが食べれなかったりすると可哀想なので2種類の肉味噌を作る。
「しょうが、にんにく」
挽肉にしょうがのすりおろしと潰したにんにくを加えて弱火で炒めながら良く混ぜ合わせたら、少量の鶏がら出汁を加えて、砂糖、酒、甜麺醤を加えて丁寧に混ぜ合わせながら煮詰める。
「……うし、OK」
甘口の肉味噌を器に入れ、分けておいたもう1つのなべを手に取る。こちらもしょうがのすりおろしと潰したにんにくを加えて炒めたら鶏がら出汁、山椒、豆板醤、コチュジャンを加えて焦げ付かないようにしながら丁寧に炒めながら混ぜ合わせる。
「これだな」
一口食べるだけで汗が噴出してくるこの感じ……これこそ坦々麺って言う感じだな。
「さてと、そろそろ良いかな」
寝かせておいた生地を取り出しある程度の大きさに切り分ける。切り分けたらまな板の上に片栗粉を打って、麺棒で伸ばすのだが……。
「良いコシだ。これなら完璧だな」
伸ばしているだけで汗が吹き出てくる。自分で作っておいてなんだが、これは中々の自信作だな。伸ばした生地を3つ折にして、2mm幅で切り分ける。
「最後にっと」
片栗粉を手に塗して手で揉みながらほぐせば縮れ麺の出来上がりだ。これを人数分作ってたっぷりのお湯で茹でて水で〆れば美味しい中華めんの出来上がりだ。
「後はネギと……時間もあるし温泉卵とかかな」
まだ鍛錬が終わるまで時間がある。その間に坦々麺に盛り付けるトッピングの準備を始めながら、はたして大正時代の人間に汁なし坦々麺は受け入れられるのか? と言う事を俺はぼんやりと考えているのだった……。
肩で息をしている杏寿郎と小芭内を見ながら今日の訓練は終わりだと声を掛ける。
「もうすぐカワサキが昼食を持ってくる。汗を流してくるといい」
「「……はい」」
井戸水を汲みに行く2人を見送り、縁側に腰掛けている瑠火とその腕の中で眠る千寿朗を見る。
「お疲れ様でした。どうぞ」
「ああ、すまないな」
手ぬぐいで少しだけ滲んでいる汗を拭い杏寿郎と小芭内の事を思う。全集中の呼吸の鍛錬を始めているが、杏寿郎は煉獄家の人間だけあって炎の呼吸の適正が高いが、小芭内は細身の身体と言うこともあり、どうやっても炎の呼吸の習得が出来ない。覚える事ができたとしても、その力を十全に引き出すことは出来ないだろう。俺の見立てでは、小芭内は水の呼吸に適しているような気がする。
(左近次殿に文を送るか)
俺としては鬼殺隊に関わって欲しくないのだが、小芭内の鬼殺隊になると言う意思は予想以上に強くそして固い。それならば適していない呼吸を覚えるよりかは、適している可能性のある呼吸を学んでくれた方が良いだろう。
「おーい、昼飯だぞー」
カワサキが盆を持って歩いてきた所で、考え事を中断し今日の昼飯に視線を向ける。
「うん? 素麺か?」
「いや違う、これは今から仕上げるんだが……槇寿郎はこれ大丈夫か?」
匙を向けられるので、手の甲で匙の中身を受け取り舐める。
「辛いな……だが、美味い」
「うし、じゃあ槇寿郎は辛いの大丈夫だな」
「カワサキ殿! お昼ですか!」
「ああ、すぐ準備するからな」
縁側に腰掛けたカワサキはお椀の中の麺に先ほど俺に味見させた。味噌を入れて混ぜ合わせると、その上にまた味噌を乗せ、ネギと温泉卵を載せて箸を共に差し出してくる。
「ほい、完成だ」
「汁は無いのか?」
「これは汁なし坦々麺だからな、スープは無いよ。でも美味いから食べてみてくれ」
汁のない麺料理とはこれまた初めてだな。受け取った椀を手で持ち、味噌の下の麺を摘み上げる。色は黄色っぽく、縮れている。こんな麺を見るのは初めてだな、うどんや蕎麦の仲間と思ったが全然違う種類なのかもしれない。
「瑠火さんはもう少し待ってくれますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。もう少しで千寿郎が寝そうですからね」
瑠火は千寿郎を寝かしつける為に、抱きかかえたまま席を立つ。杏寿郎が食べれば美味いと叫ぶから、それでは寝かしつけると言う問題では無くなるか。
「いただきます」
そう口にしてから麺を口に運ぶ。さっき味見したとおり、ピリリと辛い、その味が麺全体に絡んでいるからか、汁が無くても味噌の味をしっかりと楽しむ事が出来る。それに麺の縮れは味噌を麺に絡めるための工夫でもあるようだ。
「む、これは……」
「父上、どうですか!? 美味しいですか!?」
興味津々という感じの杏寿郎に返事を返さず、もう1口啜ってみる。うどんや蕎麦とは違う独特のコシ、そしてつるりとした喉越し……そしてピリリと辛い肉味噌の味……。
「これは美味い。あまり食べなれた味では無いが……なるほど、これは絶品だ」
それに身体を動かした時とはまた違う、体の中から熱くなるような辛味によって浮かんでくる汗も悪い気はしない。
「カワサキ殿、私も是非!」
「はいはい、今作るから焦らない焦らない」
杏寿郎と小芭内に作っている姿を見ながら麺を啜る。肉の味とピリッと辛い味噌の味が食欲をそそるが、食べれば食べるほど汗が吹き出てくる。それを着物の裾で拭い、冷たい井戸水を飲むと辛味が一気に強くなるのだが、その感覚ですら面白い。
「ん、これも美味いな」
半熟卵を崩して麺に絡めて食べると若干辛味が押さえられ、少しだけ物足りない感覚がするが、卵のまろやかな風味が麺に加わり、また違う味を楽しむ事が出来る。
「カワサキさん、私もいただいて宜しいですか?」
「了解今作りますよ」
千寿郎を寝かしつけた瑠火がカワサキにそう声を掛けるのを聞きながら、俺は滝の様な汗を流しながら汁なし坦々麺を夢中で啜るのだった。
杏寿郎と並んで縁側に座り、カワサキさんが作ってくれた汁なし坦々麺とやらを見る。汁の無い麺と言うのは初めてだな……。
「鏑丸は生肉な」
「シャー♪」
ちゃんと鏑丸にも食事を用意してくれているカワサキさんに感謝してから、手を合わせる。
「いただき「いただきますッ!!!」……ます」
俺の声を遮る杏寿郎の大声に顔を顰めながら箸で麺を摘みあげる。うどんや蕎麦は真っ直ぐだが、この麺は縮れていて、縮れている部分に味噌が絡んでいるのが分かる。
「美味いッ! うむ! 美味いッ!!!!」
勢い良く麺を啜った杏寿郎。その勢いで味噌が少し庭に飛ぶのを見て苦笑しながら、俺も麺を啜る。
「ん、美味しいです」
少しだけ辛いが、甘い味噌の味が強くその辛味はあんまり気にならない。どちらかと言うと食欲をそそる辛味だ、辛いというのは大人の味覚と言う気がしていたが、こうして子供でも楽しめる辛味があると言うのは驚かされた。
「カワサキ殿、この味噌がもっと欲しいです!」
「はいはい、ほれ」
「ありがとうございますッ! 美味いッ!」
「馬鹿馬鹿、味噌だけを食べてどうする」
カワサキさんに味噌を追加してもらったのに味噌だけを食べて美味いっ! と叫んでいる杏寿朗を注意するとしまったという顔をしている。完全に無意識だったようだ……こいつは何を考えているのかと少しばかり呆れてしまった。俺はしっかりと麺に絡めて麺を啜る。
「これも美味しいです」
「良かった良かった、汁なしって言うのが受け入れられるか不安だったんだ」
確かに麺料理で汁が無いと言うのは違和感があるが、食べてみればそんな違和感なんてどうでも良いと思える。麺に挽肉がくっついて来ると豚肉の歯応えが麺に追加されて、麺単体で食べるのとまた違った旨味がある。半分ほど食べたところで半熟卵を箸の先で崩して、麺に絡めて見る。黄身の鮮やかな黄色が麺と味噌に絡むのを見るとまた美味そうだ。
「美味そうだな! 小芭内、俺にも1口くれまいか!」
「自分の卵はどうした?」
「もう食べた!」
ふんすっと胸を張る杏寿郎に呆れているとカワサキさんが杏寿郎のお椀に半熟卵を落とす。
「おお! ありがとうございます!」
「いいよ、沢山作ってあるからな」
そう笑うカワサキさんだが、食べている間に混ぜ合わせるとか言うのは杏寿郎に向いていないのだろうかと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「おお! 卵を絡めるともっと美味いッ!」
だがまぁ……本人が幸せそうだから良いのだろうかと思いながら俺も卵を絡めた坦々麺を啜る。味噌の風味が少し弱くなったが、卵の風味とまろやかな味が加わり、さっきよりも美味しいと感じる。
「辛ッ! 水ッ!!!」
「父上!? どうしましたか!?」
「大丈夫ですか!?」
突如辛いと叫んで、井戸に走る槇寿朗殿に驚いていると、急に目と鼻が痛くなった。
「もう、槇寿郎様ったら大袈裟なのですから」
「そこまでこれ辛くないと思うけどなぁ……」
((え、赤……?))
俺と杏寿郎が食べている汁なし坦々麺は茶色の味噌だったが、瑠火さんとカワサキさんの食べている坦々麺は赤かった……もうこれ以上無いって程に赤かった。
「とても美味しいですよ」
「俺個人的にはもう少し辛くてもいいかなあって思うんだけどねえ」
「あ、私もそう思います」
……いや、待ってくれ赤い、赤いんだぞ? え、大丈夫なのか? 香りだけで目とか痛いんだが……なんであんな物を平然と口に出来るのか……水を汲んでは着物を濡らしながら水を飲んでいる槇寿郎殿を見て、カワサキさんと瑠火さんが基準の辛い物は危険だと俺も杏寿郎も悟るのだった……。
「夏場のカワサキさんのお勧めの料理があるんだが、一緒に行かないか? 甘露寺」
「良いの! 伊黒さんから誘ってくれるなんて嬉しいわ!」
花の咲くような顔で微笑む甘露寺とそんな甘露寺を見て顔を赤らめる小芭内。飛びッきりの勇気を振り絞って声を掛けた。小芭内は了承の返事を聞いて、顔を隠している布の下で大きく安堵の溜め息を吐いた。
「カワサキさんのお勧めの料理って何かしら?」
「珍しい汁の無い麺料理なんだ。なんでも中国の料理らしい」
「汁の無い麺料理なんて私初めて! どんなのか楽しみだわ」
弾ける笑顔の甘露寺と共にカワサキの店に着いた小芭内だが、普段と店の雰囲気が違う事に気づいた。その段階で猛烈な嫌な予感がしていた……
「うむむう……は、母上……こ、これはやはり私には些か辛い」
「うぐぐ……水ぅ」
「駄目ですよ、杏寿郎、槇寿郎様」
店の扉を開くと笑顔の鬼神と杏寿郎と槇寿郎が滝のような汗を流していた。小芭内は考えるよりも早く店の扉を閉めていた。
「伊黒さん。どうかしたの?」
「い、いや、なんでもない。行こう」
本当は回り右をしたいと思った小芭内だが、自分で誘っておいてと思い勇気を振り絞り店の中に足を踏み入れる。
「あら、小芭内に蜜璃さん。お久しぶりですね」
「はい。瑠火さんもお元気そうで何よりです」
「あの大師範と師範はどうしたんですか?」
机でぐったりしている2人を見て甘露寺が尋ねると瑠火はにっこりと微笑んだ。
「2人とも、自分の命と引き換えに鬼を倒そうとしていたと岩柱様にお聞きしまして、お仕置き中です」
「「あ、はい」」
これ以上触れてはいけない甘露寺も小芭内もそれを感じ取り、厨房で苦笑いしているカワサキに甘口の汁なし坦々麺を頼み、助けてと目が訴えている杏寿郎と槇寿郎から背を向けて、個室に足を向けたのだが……その背中に瑠火の言葉が投げかけられる。
「誰かを守る事は確かに素晴らしい事ですが、己の命を捨てて良いと言うことではないと言う事を覚えておいてくださいね?」
「「はいいッ!!!」」
慈愛に満ちた笑みから発せられる凄まじい威圧感を持った声に甘露寺と小芭内、直立姿勢で返事を返し、今度こそ逃げるように個室に向かうのだった……。
メニュー20 豚汁へ続く
次回は時間を少し飛ばして、最終選別時の話を書いて行こうと思います。錆兎と義勇とエンカウントさせたい所ですね、そして病気から回復すれば煉獄家最強は瑠火さんです、カワサキスペシャルも口に出来る最強のお人です(違う)それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない