【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー6 うどん大好き鳴女さん
無限城の厨房から凄まじい音が響く。だがその音が外に響くことは無い、無限城は鳴女の血鬼術で作られた異空間の城だ。つまり鳴女に事前に言って置けば防音処理なども完璧と言うわけだ。なお、刺激物を使う際は必ず鳴女に申告せよという無惨の命令も出ているのは、それだけ辛い料理が危険物として認識されていると言う証でもある。
「よいしょっと、ふう……こんなものか」
丸く丸めたうどん生地を縁から丁寧に何度も丸め込み、綺麗な球体にしたら布巾をかぶせて寝かせるのだが、その数が10をはるかに越えているので、かなり圧巻の光景だ。
「……まだちょっと足りないかな」
それでも足りないかなと不安に思う、肉料理や魚料理はどの鬼も大好きだ。その反面うどんを初めとした麺料理はちらちらと頼まれる程度だった……だがそれも先日までだ。うどんを貪り食う鬼が1人増えてからうどん作りは大量になってしまったのだ。
「1人じゃそろそろ限界かなあ……」
他の料理の仕込みもあるし……俺は鍋をかき回し、玉壷が釣って来た鰹で作った鰹節と昆布で作った出汁の中に醤油を加えてうどん出汁の味付けを終えて蓋をする。
「……半天狗だな。うん、そうしよう」
半天狗自体は使い物にならないが、その分身の4人は口が悪いと言う共通点こそある物の、中々働き者だ。半天狗の分身と言うが、むしろのあの怯えっぱなしで役に立たない爺が分身なんじゃって思う事は結構ある。
「さてと、味噌汁と卵焼きと……焼き魚に漬物……やっぱ本格的に手が回らなくなるかもなぁ」
大正時代に入ってから鬼にされる人間が爆発的に増えてきた。それに伴い保護する人員も増えてくれば何時までも1人では手が回らない。
「恋雪はまずまずいけるし……珠世さんは料理出来るけど……医術のほうで忙しいし……梅は……御菓子しか無理だしなぁ……零余子はそつなくこなすけど……野菜の栽培とかあるし……うーん」
調理班の人選は難しいなあと思いながら、朝食の時間に真っ先に食堂に入ってきた無惨に苦笑しながら卵に手を伸ばすのだった……。
食堂への通路を歩く着物姿の女性を見て、珠世はその女性の名を呼んだ。
「鳴女さん」
「……珠世さんですか、珍しいですね。こんな時間に食事ですか?」
鳴女の特徴である琵琶を持っていない姿を見るのも珍しいと思いながら私は微笑んだ。
「はい、少し研究に熱が入ってしまいまして」
「鬼を人間に戻す研究ですか、あまり熱を入れすぎず偶に休憩するほうが良いですよ?」
心配するような口調の鳴女にそうですねと返事を返す。鬼の始祖の無惨の血で研究は進んでいるが、医者の鬼は定期的に新しい薬を摂取しているのか、その体組織は遭遇するたびに変化している。無残の血で鬼になった者は人間に戻せるが、医者の鬼に鬼にされた者を元に戻せない……今の私の研究の全ては医者の鬼の体組織の変化の法則、そして薬と肉体の結びつきを断ち切る事にある。
「鳴女さんこそ、少し休んだほうが良いのでは?」
「大丈夫、休む時は休んでいます」
鳴女は無限城で一番きつい仕事をしていると言っても過言ではない、複数の使い魔の視点で鬼の位置の補足、鬼殺隊の動きの把握、空間を繋ぐ血鬼術で戦闘班を素早く送り届け回収する。そして縁壱に喰われ掛けている巌勝の保護など重要度の高い物からそうではない物まで、その仕事は非常に多岐に渡る。
「それに私はこの時間が一番好きなんです。半刻の休憩……この時間は誰にも邪魔をされない時間なんです」
「そうですか、では私は1人で食事の方が良いですか?」
「いえ、別にそう言うわけでは……ご一緒しましょう」
非常に上機嫌と言う感じで食堂に行く鳴女さんと並んで食堂に行くと、普通の食事の時間を過ぎているのか他に人影は無く、カワサキさんだけが厨房で何かしていた。
「今日は珠世さんも一緒か、珍しいな」
「研究に熱を入れすぎまして……愈史郎に怒られてしまったのです」
良い加減に食事をしてください、血液の方は自分が見ると言われて研究室を追い出されたと言うとカワサキさんは楽しそうに笑う。
「あいつらしいな。偶におにぎりかサンドイッチを作ってくれって言いに来るが、それでは駄目だと腹に据えかねたんだろう」
「そのようですね」
厨房の近くのカウンター席に腰掛けて話をしていると鳴女さんの前に小さな蕎麦ザルが置かれると、鳴女さんは汁に漬けずにそのまま蕎麦を啜った。
「美味しいです、蕎麦の香りがいいですね」
「そいつは良かった蕎麦は練習中だからな」
「……蕎麦に汁をつけないのですか?」
蕎麦は汁につけて食べるのが当たり前だと思っていたので、そのまま食べた鳴女さんに正直驚いた。
「最初の一口だけです。この時間にくるのが決まっているので1人前だけ打ち立てを用意してくれているのです」
「珠世さんも欲しかったかい?」
「いえ、そう言う訳ではないです。えっと、きつねうどんをお願いします」
甘辛い分厚い揚げと手打ちうどんのきつねうどんを頼むと鳴女さんがうんうんと頷いた。
「カワサキさんのきつねうどんはとても絶品です。うどんの汁とは異なる味付けで、食べやすいように串で穴を開けているので噛み切りやすく、中にもたっぷり出汁が染みこんでいますから」
凄い饒舌になった鳴女さんに驚いているとカワサキさんが小さく笑った。
「うどんが好きだから、うどんの事になると饒舌になるんだよ。それで、今日はいつも通りか?」
「はい、いつも通りでお願いします」
いつも通り……どんなうどんが出てくるのかと思ってみているとうどんの上に蒲鉾が3切れとネギが散らされただけのシンプルなうどんが出される。
「いただきます」
丼を片手で持ち上げ、音を立ててうどんを啜る鳴女さんは酷く嬉しそうだ。
「はいお待たせ。きつねうどんだよ」
「ありがとうございます。いただきます」
手を合わせてから箸を手に取りうどんを啜る。毎朝カワサキさんが手打ちしているうどんは腰が強く食感も喉越しも抜群だ。
(でも、汁が本当に美味しい)
玉壷さんが海で取ってくる海産物で作られている出汁は風味が良いだけではなく、味わいも格段にいい。この汁で煮られたうどんは本当に絶品だ。
「はい、次。鰹節うどん」
「はい、ありがとうございます」
え?私が数口食べている間に鳴女さんのうどんの丼が空になっている。おかしい、私の2倍近い量があったはずなのに……。
「削られたばかりの鰹節の風味は本当に良いですね。汁にも良く合います」
味の評価をしながらも凄まじい勢いでうどんが鳴女さんの細身の体の中に消えていく、量は決して少なくない筈なのに……。
(それだけお腹が空いていたと言うことでしょうか)
きっとそうだと思い、肉厚の油揚げを齧る。じゅわっと口の中に広がる甘辛いタレと油揚げの味に刺激され、うどんを啜る勢いが増す。
「はい」
「どうも」
(え!?まだ食べるの!?)
今度は牛肉が乗せられたうどんを啜り始める鳴女さん。信じられない事に食べる勢いは衰える所か増している……。
「今日の牛肉はすき焼き風なんですね」
「肉豆腐を作ったからな、ついでに作ったんだ。口に合わないか?」
「いえ、とても美味しいです。牛肉の脂が甘くて丁度良いですね」
カワサキさんが何かを揚げているので、まだうどんが続くのだと判ると少し驚いた。鳴女さんと食事をするのは初めてですが……まさかこんなにも量を食べるとは思って見なかった。
「はい、今日の最後は小エビと野菜のかき揚げうどん」
「大きい海老や烏賊はなかったんですね?」
「海が荒れてるらしくてな、今日はこれで我慢してくれ」
普段が海老天や烏賊天ってことなんですね……少しだけ不満そうな素振りを見せた鳴女さんですが、すぐに小エビの掻き揚げに齧り付いた。
「海老がぷりぷりで、サクサクしていて美味しいです。野菜の甘さもちょうど良いですね。うどんが進みます」
……おかしいですね、私も食べている筈なのになんだかまだ食べられそうな気がしてきました。
「私もかき揚げうどんをお願いできますか?」
「全然大丈夫だよ。すぐ用意するな」
きつねうどんを自分でも知らぬうちに食べていたので、食べたという実感が無く掻き揚げうどんの追加を頼む。
「うどんは良いです。食べやすいですし、身体も温まりますし」
揚げ立ての掻き揚げをサクサクと音を立てながら齧り、うどんを啜り続ける。その姿は見ているだけでお腹が空いてくるから不思議だ。
「はい、〆な」
「ありがとうございます」
焼きおにぎりを受け取り、うどんの汁の中に入れてその上に掻き揚げを乗せ、匙で崩して頬張る鳴女さん。
「あの私も……」
「すぐ準備するよ」
結局、鳴女さんの食欲につられて普段の倍以上食べてしまった私は、研究室に戻ると苦しい事もあり愈史郎に後を任せて少し眠る事にするのだった……なお、この日から毎日鳴女さんが私の研究室を訪れるようになった。
「鳴女、すまないな。珠世様を頼む」
「はい、行きましょう」
医者の不養生を地で行く私に痺れを切らした愈史郎に送り出され、私は今日も鳴女さんと一緒にうどんを食べる事になるのだった。
「今日は鍋焼きうどんなんです」
「あ、曜日によって違うんですね」
「はい。うどんは毎日食べてますが、同じうどんが続く事は殆ど無いです」
ただうどんについて熱く語り、美味しそうに食べる鳴女さんと食事を一緒にするのは楽しくて、私も誘いに来てくれるのを断ろうとは思えなかったのだった……。
無限城ひそひそ噂話
鳴女の食事の時間は縁壱に決して知られてはいけない事であったが、やはり何時までも隠し通すことなど出来る訳は無かった。
「……鳴女が食事をしている今……兄上は私から逃げられない!」
かっと目を見開く縁壱に刀を向け、ジリジリと後退する巌勝……互いに透き通る世界での攻防だが、性欲が力になるサキュバスの特性上巌勝は徐々に劣勢に追い込まれ、その顔に絶望の色が浮かび始める。
「半刻の間は移動は出来ない! 私の願いが今かなう!!」
「来るなあッ!」
袋小路に追い込まれた段階で絶望的、しかも応援がいないとなれば本当に妹になった弟に食い荒らされる日が来てしまう。
「お兄ちゃん、巌勝が追い込まれてるわ」
「よーし、梅見るなあ。良いなあ?」
「はーい」
巌勝から見れば健全な兄妹である妓夫太郎と梅の兄妹は追い込まれている巌勝を見て、即座に離れる事を選択した。
「妓夫太郎!」
「……すまねえなあ、縁壱の考えに梅が染まるかも知れねえから」
「?」
純粋と言うか深く物を考えない性格の梅では下手をしなくても、縁壱2号になりかねないと知り、妓夫太郎は迷う事無く巌勝を見捨て、キャストオフ(意味深)を見せるわけには行かないとその背で梅の視界を隠す。
「あ、お兄ちゃん、あのねあのね?カワサキがパンケーキの焼き方を教えてくれたのよ。上手に出来たなって褒められたの。お兄ちゃんにも焼いてあげるね♪」
「おお、それは楽しみだなあ、行こうな」
そさくさと逃げていく妓夫太郎の背中に巌勝は絶望した。見捨てても構わないから、せめてせめて助けくらい声を掛けてくれと思った。
「兄上に料理……何故私には料理の才能がない……梅でも出来るのに……」
癇癪持ちの梅でさえ料理を作れる、しかもカワサキに褒められたと聞いてぶつぶつ呟いている事に気付き、その一瞬のチャンスを見逃さず、巌勝は縁壱からの逃亡に成功していた。
「妓夫太郎…どうやったら、梅はあんなに素直な妹になるんだ」
「俺はぁ、梅が何よりも大事だから大事に大事に育てただけだなあ。縁壱を甘やかすのはどうだ?」
「勢い余って食われそうな気がする…」
「俺もそう思うなあ……悪い忘れてくれ」
お兄ちゃん同士だが、余りにも自分と違う巌勝と妓夫太郎では話が合わなかった。
「あっちと話をしたらどうだ?」
「はーい、良い子だからねえ~大丈夫怖くないよぉ~」
子供の鬼を部屋の隅に追い詰めてはぁはぁしている朝日とそんな朝日に逃げ道を塞がれ、累を初めとした子供鬼が身を縁り寄せ合うのを見て更に頬を紅くする朝日。
「止めろ変態」
「あふんっ!?」
そんな朝日の背後から日丸が毒針を頭に刺す。毒が回り、びくんびくん痙攣している朝日の足をつかんで引き摺って去っていく日丸。
「いや、あれはちょっと」
「変態って一緒だろぉ?」
「……そっか、そうだな。1度話をして見る」
後日、変態の妹を持つ者同士、肩を深く落としながらも互いに同情しあう日丸と巌勝の姿が食堂で見られるようになったそうです。
メニュー7 梅ちゃんの茶会へ続く
次回は梅ちゃんのターンで書いて、その次は鬼殺隊のメンバーもちょくちょく出して行こうと思います。時間軸はバラバラになると思いますけどね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない