【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー31 焼肉の日 その2

メニュー31 焼肉の日 その2

 

1ヶ月に1回の肉の日。この日に向けて牛、豚、鶏と肉を大量に仕入れ、タレに漬け込んだり食べやすいように仕込みをしたりと忙しかったが、焼きあがった肉を美味そうに食べている杏寿朗達を見ていると、そんな苦労もどこかに飛んでいってしまう。

 

(つくづく俺は料理人なんだろうなぁ)

 

問屋との交渉や、朝早くから夜遅くまでの仕込み作業。最近はカナエや沙代が手伝ってくれるから1人の時より忙しくないが、それでも決して楽な作業ではない。

 

「美味い! 美味い美味いッ!!」

 

「ん~本当に肉の日って嬉しいわ」

 

「いやあ、美味いッ! こうやって目の前で焼かれているのも良いよなあ、派手派手だッ!」

 

美味いと言って食べてくれる人と周りに笑顔が満ちていればそれで疲れが吹っ飛んでしまうのだから、自分でも単純な男だと思わず苦笑する。

 

「……美味い」

 

「ああ、美味いな。この肉1枚で飯を何杯でも食えそうなくらいに美味いな! 義勇」

 

「……おい、鱗滝ぃ、本当に冨岡はそんな事いってんのかぁ?」

 

言葉足らずと言うか、主語とかが全部すっぱり抜け落ちている義勇の言葉を理解出来るのは左近次の所の弟子だけなんだよなあ。俺も正直そこまで言ってるのか? と思う時は多々ある。

 

「……言ってるぞ?」

 

「なんでてめえはそこで心外だって言う顔をするんだ?」

 

「お前は美味くないのか?」

 

実弥の言葉に不思議そうにしている義勇を見て、実弥の額に青筋が浮かんだのを見て焼きあがった牛カルビを実弥達の方に押し出す。

 

「食え食え、義勇はあれだ。うん、多分考えてることを言葉にしにくいだけなんだよ」

 

「……美味い」

 

「おう、そうかそうか。食え食え、沢山食え」

 

「……うん」

 

既に成人しているが子供と思えば義勇とは上手くやれるんじゃないかな? というと実弥は凄く嫌そうな顔をする。本当に実弥と義勇は相性が悪いなと苦笑しながら鉄板の上の焦げをヘラで綺麗にして、今度は豚カルビを鉄板の上に乗せる。

 

「そう言えば炭治朗に聞いたんですけど、あいつこっちに参加するって本当ですか?」

 

米櫃から白米をよそりながら玄弥が思い出したように尋ねてくる。

 

「あん? あいつ、こっちに参加するって身の程知らずか?」

 

「ははははッ! どうせ2ヶ月で柱になれると聞いたからだろう! うむ、良い事だッ! 例え無理だとしても挑戦しようとするその気概は良しッ!!」

 

こっちの方は普通じゃ食いきれないから参加者が少ない訳なんだが……しかし炭治朗と伊之助がこっちに参加するって言うのは正直俺も驚いている。カナエに事情は聞いているはずだから、それでも挑戦しようとするのは正直俺も買う。

 

「ちっ、なんであいつまで……っていうかよ。カワサキさん、何もあんたまであの馬鹿の妹の為に命を賭ける必要はないんじゃねえのか?」

 

「はは、俺が気に入ったのさ。あの真っ直ぐな目がな」

 

禰豆子が鬼になったのも、その家族が意識不明の植物人間状態なのも俺が間に合わなかったからだ。鬼を連れているってことで炭治朗の立ち位置が悪いのも十分承知している。鬼を連れている隊士が鬼殺隊でどう思われるかなんて考えれば簡単に判ることだ、それならば間に合わなかった俺が悪い。炭治朗が普通に活動出来るように俺も命を賭ける事であいつの手伝いが出来るなら安い物だ。

 

「実弥、気持ちは判るがカワサキさんはこういう人だろ?」

 

匡近にそう言われても面白くなそうな顔を実弥がしていると炭治朗と伊之助がやってきた。

 

「カワサキさん、今日はよろしくお願いします!」

 

「俺様もこれを食いきって柱になる訓練をやってやるぜえッ!」

 

気合に満ち溢れている炭治朗と伊之助。その気合は買うが、2ヶ月で柱になれると聞いてこっちに参加する隊士は多いが、その大半が途中でリタイアする。果たして2人は最後まで食べ切れるのか俺はそんな事を考えながら追加の焼肉の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

特別な食事と聞いて錆兎や義勇さんの他の柱にも会う事は判っていたけど、やっぱりその瞳には疑いの色が強く浮かんでいるし、俺を罵倒した柱からは明確な敵意の臭いがする。それでもその視線に負けずに胸を張って鉄板の前に腰を降ろした。

 

「よう、炭治郎に伊之助、こっちに参加するって聞いて俺は正直驚いたぜ」

 

「カナエさんにも言われましたけど、最短で柱になれるって聞いたので、いえ、その柱になりたいとかそういうのじゃないんですけど……少しでも強くなれるならって」

 

正直柱になれるとは思っていないが、柱が皆やる訓練の基礎と聞けば挑戦したいという気持ちが強かった。

 

「そんな生半可な気持ちで参加するって言ったのか、おめえは」

 

ギロリと俺を睨んでくる風柱を睨み返していると、錆兎が俺と風柱の間に割り込んだ。

 

「そう睨んでやるな。炭治郎の覚悟は本物だ、こうやって強くなろうと努力しているじゃないか」

 

「鱗滝ぃ、てめえは弟弟子だからって甘いこと言ってるんじゃねえよ。鬼を連れてるなんて正気じゃねえ」

 

禰豆子の事を言う風柱に腰を浮かそうとするとパンっと凄まじい音が響いた。

 

「その件はお館様とカワサキさん預かりとなっている。蒸し返すな不死川」

 

「お前の血に耐えたんだ、そう邪険にしてやるなよ。実弥」

 

悲鳴嶼さんと匡近さんが仲裁に入ってくれた事で一時俺への追及は止まったが、それでも敵意の視線は全く緩む気配が無い。

 

「悲鳴嶼さんと匡近の言うことも判るが、竈門の妹が人を食えばカワサキは死ぬ。そういう約束だ、カワサキが死んだら俺達は負ける。それほどまでにカワサキは重要な存在だ」

 

言われなくてもそれは判っている。隠や、隊士の先輩達に散々言われているからだ。

 

「おいおい、そこまで苛めてやるなよ」

 

「いいや、カワサキ。これは俺達の問題さ、鬼殺の隊士としてのな。そこでだ、お前とそこの猪頭。お前らに見込みがあるかどうか俺様が確かめてやろう」

 

宇髄さんがそう笑うと御櫃を指差した。そこには3種類の御櫃が置かれていて、義勇さん達の後ろにそれぞれ1つずつ置かれている御櫃と同じ物だった。

 

「初めてのやつはこの小さい御櫃を全部食いきれるかどうかだ。だがお前は無惨の首を切るとあの場で言い切った、そんな奴ならこれを食いきれて当然。ならこれだ、煉獄達や俺様が食う奴よりも1個小さいこれ。これを食いきって見せたら、俺様は見込みがあるってことでほんの少しはお前の見方を変えてやっても良い。ちなみにだ、初めてでこれを食いきった奴はいねえ。最初の米櫃だって初めてで食いきった奴はいない。どうだ、やるか?」

 

1人で食べる量を遥かに越える量が入っているであろう御櫃――軽く見ても5人、いや10人前はあるだろう。ここにいる全員が手にしているのは茶碗ではなく丼――とんでもない量の米がそこの中に入っているのは一目で判る。

 

「無理しなくてもいいぞ? 天元、あんまり苛めてやるなよ」

 

「いいや、俺様や煉獄は初めてでもこれを2つ食いきった。勿論冨岡達もな、出来ない訳じゃない」

 

「やりますッ!」

 

俺がそう返事を返すと宇髄さんはにやりと笑い、俺と伊之助の後に1つずつ御櫃を置き、丼をその上に置いた。

 

「吐いたりするんじゃねえぞ、米一粒も残す事は許されないからな」

 

「はははッ!! 頑張れよ! 俺は初めてでも楽に食べられたぞ!」

 

「私も、美味しくて沢山食べられちゃうから大丈夫よ」

 

「カワサキさんよ、この馬鹿2人に最初に肉を回してやってくれや」

 

「了解、もうすぐ焼きあがるからな。米をよそって準備しててくれ」

 

「はいッ!」

 

カワサキさんの言葉に返事を返し、御櫃の蓋を開ける。湯気と炊き立てのお米の甘い香りが周囲に広がるが、その量は凄まじい。

 

(こ、こんなに)

 

「はっはあーッ! 俺様は楽勝だぜッ!」

 

御櫃の天辺まで来ている白米の量に驚き、それでも食べると言い切ったのだからと丼の中に米をよそう。肉が焼かれる香りでお腹の虫はさっきから鳴きっぱなしだ。きっと、この量でも食べきれる。

 

「はい、お待たせ。豚塩カルビだ、このネギ塩を乗せて食べてくれ」

 

皿の上に乗せられたこんがりと焼き色が付いた肉と刻んだネギが浮かんでいるタレを受け取り、言われた通りネギ塩を肉の上に掛けていただきますと言って焼肉を頬張った。

 

「美味しいッ!」

 

「こりゃうめえッ! これなら御櫃を全部食うなんて楽勝だなッ!!」

 

柔らかく、しかし肉らしい歯応えを残している豚肉にネギの食感と塩の味、そのタレだけでも米を食べれる。俺と伊之助は揃って丼を抱え込んで、豚塩カルビで勢い良く米を頬張るのだった……。

 

 

 

 

 

炭治朗と伊之助が豚塩カルビを食べ、凄い勢いで米を食べている姿を見て俺は無理だと一目で悟った。

 

(その食べ方じゃ駄目だ)

 

焼肉は肉を優先してしまいがちになるが、野菜や味噌汁を口にしなければ脂が回って、手が止まってしまう。それに兄ちゃん達が食べていたから最初から食べるには重い豚塩カルビからになってしまった。

 

「んー♪ 美味しいッ!」

 

「はははッ! 美味い美味いッ!」

 

煉獄さんと甘露寺さんが凄い勢いで食べているので、その勢いに吊られて食べてしまったらその手は完全に止まってしまう。あの2人は1番大きい御櫃を3つは食べるのだ、あの2人の勢いに合わせて食べていたら半分も食べないうちにその手は止まってしまうだろう。

 

「カワサキさん。牛肩をお願いします」

 

「……牛腿」

 

俺だけじゃなく水柱の2人もそれに気づいたのか脂が回りにくい、赤身肉を頼んでいる。

 

「おお、良い食いっぷりだな。この牛カルビも美味いぞ、食え食え」

 

しかし宇髄さんがにやりと笑い脂の多い肉を2人に回している。

 

「美味しいです!」

 

「うめえ! どんどん食えるぜ」

 

「そうかそうか、ならどんどん食え」

 

初めてで2番目に大きい御櫃を食べ切ることは無謀に近い。俺も最初は小さい御櫃でさえひーひー言いながら食べ切ったのだ。あの勢いで食べていたら確実にその腕は止まる。

 

「炭治郎、伊之助。肉ばかりを食うと脂が回り飯が食えなくなる。肉よりも米を優先しろ、野菜や味噌汁も口にして適度に脂を洗い流せ」

 

悲鳴嶼さんの助言でハッとした表情になる炭治郎と伊之助、勧められるままに肉を食い、脂が回っている事に気付いたのだろう。そこでやっと立ち上がり、漬物と味噌汁を取りに行った。それでも全部食べきれるかどうかはかなり難しい所だと思うけど、頑張ってせめて半分くらいは食べ切ってほしいなと思いながら俺は焼きあがった牛肩肉をタレにつけて頬張り、米を口に運ぶのだった……。

 

 

 

 

 

1ヶ月に1回の肉の日の日は俺も心待ちにしている日だ。1ヶ月また無事に生き残れた、そしてまたカワサキ殿の料理を食べるために死なずに戻ってくると決意を新たにする日だからだ。

 

「師範どうしたんですか? 今日はちょっと食が進んでいないように思えますけど?」

 

「む? ははははッ! 何ちょっと考え事をなッ!!」

 

柱合会議で見た時から感じていたが、鬼を連れた隊士……冨岡と鱗滝の弟弟子の弟弟子の……駄目だ、名前が思い出せん。その少年の耳に揺れている花札模様の耳飾……最初は気のせいかと思ったが、こうして見ると煉獄家に伝わっている炎柱の書にあった始まりの剣士がしていたと言う耳飾に実に良く似ている。

 

(しかしあの少年は水の呼吸と聞いているが……)

 

あの耳飾をしていると言う事は日の呼吸の後継者なのだろうか? それとも呼吸を隠しているのか、それとも遺品として身に付けているだけなのか……全く判断が付かんなッ!!

 

「うむ! 美味いッ!!」

 

考えても判らないのならば、考えないほうがいい。折角の肉の日なのに考え事をしていては肉の美味さも半減してしまうからなッ!

 

「美味い! 美味い! カワサキ殿! ロースのお代わりを!」

 

「あいよー」

 

目の前で肉が置かれ音を立てて焼かれる。薄切りなので直ぐに火が通り食べることが出来ると判っていても、そわそわとしてしまう。

 

「はい、お待たせ」

 

「ありがとうございます! 美味いッ!!!!」

 

細かくサシが入り、赤味の味も十分の楽しめるロースはとても美味い。塩胡椒でさっぱりと焼かれ、肉本来の味を楽しむことも出来るが、カワサキ殿お手製の味噌と醤油のタレにつけても美味い。タレにしっかりとつけて白米の上に乗せる。タレと肉の脂が米に染み込むまでの僅かな時間――それを待つだけと判っているのに身体が小刻みに揺れてしまうな。

 

「美味いッ!!!!」

 

「美味しいッ!!」

 

米にたっぷりとタレが染みこんだタイミングで肉で米を包んで頬張る。醤油と味噌を混ぜたかなり強い味とにんにくの香りが米にしみこみ、肉の脂を吸った米は肉一切れで丼飯の半分を食べる事が出来るほどだ。

 

「カワサキ殿。野菜をたっぷりと使ったホルモン炒めをそろそろ食べたいのですが……」

 

「おう、そうだな。ホルモン炒めを作るけど、少し焼肉を止めても大丈夫か?」

 

カワサキ殿の問いかけに大丈夫ですと返事を返す。肉を食べ続けても美味いが、そろそろ少し別の味がほしい所だった。漬物を齧り、味噌汁で口の中の脂を洗い流しながら少年2人に視線を向ける。

 

(ほう、中々頑張っているではないか)

 

悲鳴嶼さんの助言で野菜そして味噌汁を口にし、口の中の脂を洗い流せば肉も米もぐっと食べやすくなる。

 

(豚塩カルビ、牛カルビ、ロース、肩肉、腿肉……そして御櫃は半分か! うむ、関心関心ッ!)

 

鬼殺隊にとって食べる事とは生きること、身体を大きくし、心肺を強化し、鬼へと立ち向かう為に肉も米も大量に食べる必要がある。勿論食べたぶんだけ身体を動かさなければ太るだけだが、任務に当たっていれば太ることも無い。鍛錬と実戦、そして心を燃やせば負ける事はない。

 

「私ホルモンって大好きなんですよ」

 

「うむ! 美味いからな!」

 

最初は動物の内臓と言う事で些か苦手としていたが、慣れて来ればその独特な食感は癖になる。

 

「甘藍と玉葱ともやしたっぷりな!」

 

「判ってる判ってる」

 

ホルモンの脂を吸った野菜はしんなりとしていて、それだけでも飯が食えるほどに美味い。勿論それはカワサキ殿が作る美味いタレあっての物だが、それでも野菜と肉を同じ位食べれるのは凄い料理だと思う。

 

「ホルモンってなんですか?」

 

「動物のモツだ。少々癖はあるが、身体に良い。好き嫌いせずに食べると良いぞ炭治朗」

 

「んなもん食って大丈夫なのか?」

 

内臓を食べるときいて怪訝そうな顔をしているが、1度食べれば好きになることは間違いないな。

 

(ああ。早く焼けないか……)

 

野菜と共に炒められているホルモンにタレがかけられ、香ばしい香りと焼ける音が響き、食欲が掻き立てられる。その音と香りを楽しみながら早く焼けないかとそわそわと待ち続けるのだった……。

 

 

メニュー32 焼肉の日 その3

 

 

 




今回はやや会話多めでした、次回はもっと食事のシーンに力を入れて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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