【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
クリスマス番外編 鬼殺隊編
獪岳にいつものように荷車を引いて貰いながら俺は市場にやって来ていた。
「カワサキさん、頼まれてるの用意出来てるよ!!」
「おばちゃん、悪いな!手間掛けさせちまって」
「いいよいいよ、カワサキさんは上客だからね!!ほらッ!さっさと台車に運ぶんだよッ!!お待たせするんじゃない」
「「「はい!女将さんッ!!」」」
女将さんの合図で若い衆が籠に入った大量の卵を荷車に積み込んでくれる。
「ほら、あんたもお茶でも飲んで休憩しなよ」
「……すみません、ご馳走になります」
獪岳と並んで女将さんが淹れてくれた温かい緑茶を口にする。
「卵は用意できたけど、流石のあたしでも若鶏は無理だったよ。悪いねぇ」
「いやあ、無理な頼みをしたのは俺だから良いよ。卵だけでも十分さ、ありがとう」
クリスマスが近いのでクリスマス用の食材を集めようとしたが、やはり大正時代では丸鳥を仕入れるのはやはり難しかったようだ。まぁ、それとは別に卵を入手出来ただけでも十分だ。
「その代わりと言っちゃあ何だけど、知り合いの所に牛肉を頼んでおいたから顔を出しておくれよ。あたしの名前を出せばすぐに渡してくれるはずさ」
「助かります。じゃあまた」
「またおいで。カワサキさんなら少しの無茶は聞いてあげるさ」
店の外まで見送りに来てくれた女将さんに手を振り、紹介して貰った店へ向かう。
「いらっしゃい。女将さんに聞いてるよ、何にするんだい?」
ちょっとぶっきらぼうという感じの老年の男性が、顔を出すなり何がいるのか?と、尋ねてくる。
「牛腿肉が欲しい。出来れば大量に」
「……そんなもんが欲しいなんて随分変わってるな…まあ良いさ、すぐに準備をするよ」
大正時代で牛肉が欲しいって言うのは、やっぱり珍しいんだよな…と思いながら獪岳と待っていると、店の奥から牛肉が運び込まれてくる。
「こいつは凄い……上物だな」
「判るんですか?」
「ああ、こいつは良い物だ」
赤身の色が濃く、塊にされている牛腿肉はしっかりとその目的の為に作られた代物だ。普段買うような年老いた老牛の物ではない、しっかりと食べるように育てられた牛の肉だと一目で判る上質な物だった。
「ほいよ。じゃあまた来ておくれよ」
世間話もせずに帰ってくれといわんばかりの態度の店主に感謝の言葉を告げて、俺は店の帰路へ付く。
「性格の悪い店主でしたね」
「良いさ良いさ、目利きは確かだ。多少の性格の悪さは許容範囲だよ」
「そういうもんですかね?」
「その内判るようになるさ。さ、早く帰ろうか。準備に時間が掛かるからな」
「じゃあ乗ってください。俺が引っ張った方が早いんで」
そういう獪岳に促され、荷車に乗って荷物を押さえると、雷の呼吸独特の呼吸音が響き、車もかくやというスピードで走り出した獪岳。荷台に伝わってくる衝撃に顔を歪め、俺はあることを考えていた。
(サスペンション付きの荷車とか作れないかな?)
ダイレクトに襲ってくる振動に、冗談抜きで尻が割れると思い、サスペンション付きの荷車を作れないだろうかと、真剣に検討するのだった……
「カワサキさん、この不思議な鉄の紙は何かしら?」
「アルミホイルと言う、海外でも珍しい物でな。中々手に入らないものだ」
「……それを使い捨てるんですか?」
「まぁ、それはしょうがない。だから普段は使わないんだよ、カナエ」
アルミホイルが何時出来たかは俺は知らないが、少なくとも市場とかでは見なかったので、この時代の日本にはないのだろう。もしかすると海外にもないかもしれないが、海外の珍しい物だということでゴリ押しする事にする。
「カワサキさん、これ本当に良いんですか?」
「いいぞ、焼き上げた奴をどんどんアルミホイルで包んでくれ」
「は、はい、分かりました」
沙代が良いのかなあ? と尋ねてくるので、大丈夫だと笑いながらも俺の手は動いており、焼き上げた牛腿肉をアルミホイルの上に乗せてカナエと沙代の2人にどんどん包んでもらう。
「えっと……こんな感じですか?」
「上手い上手い、良い具合だ」
今回は獪岳にも調理をさせている。ローストビーフは塩胡椒で下味をしっかりつけて各面にしっかりと焼き色をつけるだけで、そう難しいものではないからこそ手伝わせている。
「これ、全部ですか?」
「仕込みをした分は全部やるぞ?」
「……本気ですか?」
「残りはまた明日、休みの隊士の分だけ準備する」
仕入れた牛腿肉全部をローストビーフにするわけではない、鬼殺隊に属している以上はクリスマスだったとしてもはしゃいでいる時間はない。それでも、だ。何とか休みのスケジュールを組み、ちょっとしたご馳走とケーキで労を労うくらいはやってやりたいと思うじゃないか。勿論、通常の営業とあわせれば地獄のような苦行だが……それでも俺に出来るのはこれくらいだ。
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「うっし、腿肉は終わりだ。次、ケーキを焼くぞ」
「はいッ! じゃあまずは卵を割ればいいですか?」
「おう、頼むぞ。俺はその間に他の準備をするから。獪岳は少し休んでいいぞ」
「……うっす」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「……お兄ちゃん……言うな……」
ぐったりしている獪岳…流石に初心者に3時間近くぶっ続けで肉を焼かせるのは酷だったかと反省し、休んでいていいぞと声を掛け、カナエと次の料理の準備――クリスマスに必需品であるケーキの準備を始めるのだった……
「兄上、父上、本当によろしいのでしょうか?」
「気にする事はないぞ千寿朗ッ! カワサキ殿から家族で来るようにと言われたのだからなッ!!! 父上も聞いておられるから心配はないッ!!」
隊服ではなく、私服の着物でカワサキ殿の店に向かいながら父上に視線を向ける。
「ああ。だが、お館様に直談判して俺とお前を同時に休みにさせるのは正直どうかと思うが……」
「貴方も杏寿郎も働きすぎです!」
母上にそう言われては父上も小さく唸るしか出来ず、家族水入らずでカワサキ殿の店で夕食と相成ったのだ。
「いらっしゃい! 悪いけど個室の方に行ってくれ! 名前を張り紙してあるからその個室だ!! カツ丼上がり! カナエ、沙代、頼んだッ!!」
「「はーい」」
出立前の時間なので、カワサキ殿の店は活気に満ちている。隠や隊士達が食事している脇を通り、煉獄家と書かれた張り紙が張られた個室で待つことにする。
「いや、すまないな。ちょいと立て込んでてな」
暫く待っていると、カワサキ殿が大皿を手に個室に入ってくる。今日は特別なご馳走を食べさせてくれると言っていたが、どんな料理だろうかと期待しながら机の上に置かれた大皿を覗き込んだ。
「馬刺しか?」
「違う違う。ローストビーフと言う、西洋の宴会で出される牛肉を使った料理だ」
れあすてーきよりも更に赤い牛肉が、刺身のように切られて野菜と共に盛り付けられている。
「ほう、そんな料理があるのですね!」
「米にも良く合う料理だぞ、杏寿郎。とりあえず御櫃も用意してあるし、揚がり次第唐揚げとトンカツも持ってくるから、まずはローストビーフで食べていてくれ。山葵醤油とポン酢、それと特製のタレを準備してあるから好きなタレで食べてくれ」
カワサキ殿も忙しいのか、手早く説明し個室を出ようとして、思い出したように足を止めた。
「今日は食後にケーキを用意してあるから、少し腹に余裕を持たせておいてくれよ?」
食後のお菓子があると言って笑い、今度こそ個室を後にするカワサキ殿の背中を見送り、机の上に並べられたろーすとびーふとやらに視線を向ける。
(確かに馬刺しのように見えるな)
れあすてーきよりも赤身の部分が広いから父上の言った通り馬刺しのようにも見える。
「兄上、どうぞ」
「おお! すまないな、千寿朗!」
「貴方もどうぞ」
「すまない、瑠火」
母上と千寿朗が丼に米を盛って俺と父上に差し出してくれるので考え事を中断し、食事を楽しむ事にする。
「「「「いただきます」」」」
手を合わせていただきますと口にし、1人一皿盛り付けられているろーすとびーふに箸を向ける。
(見た目はまるで刺身のようだな)
薄く切られており、刺身のようにも見えるなと思いながら、まずは山葵醤油につけて頬張る。肉の脂のせいか、余り山葵が効いていると言う感じは無いが、山葵の鼻に抜ける刺激が確かにある。それに肉も薄く切られているが、決して食い応えが無い訳ではない。鮪のように見えなくもないが、やはりそこは肉。しっかりとした歯応えがあり、噛み締めると口の中に肉汁があふれ出してくる。
「美味いッ!!!」
「確かにこれは美味い」
普段肉と言うのは暖かい状態で食べているが、こうして冷たい牛肉というのも乙な物だった。冷たいからか口の中の温度で肉の脂が溶け、旨みが口の中いっぱいに広がるのを感じる。
「刺身のようで食べやすいですね。こういう肉ならば私も食べやすいです」
「わ、私もです」
普段カワサキ殿が焼いてくれる厚切りのすてーきも美味いが、厚いだけにかなり弾力が強く、母上と千寿朗は少し苦手にしていた。だが、こうして薄く切られた牛肉ならば食べやすいと笑みを浮かべているのを見て俺も父上も安堵し、次の一切れを持ち上げ、ポン酢につけてから頬張り、その旨みに驚き熱々の炊き立ての米を頬張った。
「美味いッ!!!!!」
余りの美味さに、声も自然と大きくなってしまう。ポン酢の酸味が牛肉の味をぎゅっと引き締め、肉の旨みをより味わい深い物にしている。そして、適度な酸味は食欲を大きく刺激してくれる。
「うむ、うむ……」
父上も美味いのか、俺のように派手に美味いという事は無いが、その旨みを存分に楽しんでいるようだ。
「父上、兄上、カワサキさんの特性のタレも美味しいですよ」
千寿朗が特製のタレも美味いというので、匙で掬ってろーすとびーふに掛けてみる。かなりトロミが強く、まるで餡かけのような粘度だ。まぁカワサキ殿の料理が不味いわけがないので恐れる事無く頬張る。
「おお……これは美味い。美味いが……」
「米を食おうとは思わない美味さですね」
肉の味を最大に引き出す味付けだ。肉の脂も染みこんでいてかなり味が濃く、そしてにんにくの香りもして食欲を刺激するのだが……米を食おうとは思わず、酒に手を伸ばしていた。
「上品な味わいですね。私は好きな味です」
「私もです。野菜ととても合いますね」
野菜と共に食べると美味いと母上と千寿朗は笑うが、俺と父上は苦笑を浮かべてしまった。別に野菜が嫌いなわけでは無いが……まずは肉と米を楽しみたいのでこのタレは止めておくことにしよう。しかし、ろーすとびーふは美味いが、枚数が少ない…米を食いたいがこれだけでは足りないと葛藤していると個室の扉が叩かれた後に開かれた。
「はーい。唐揚げにトンカツ、それに味噌汁お待たせしました~」
「おおッ!! カナエ殿! それを待っていたッ!!」
確かにろーすとびーふは美味いが、それだけでは米を存分に楽しめない。カナエ殿が持ってきてくれた唐揚げとトンカツを受け取り机の上に並べる。
「そうがっつくな、杏寿郎」
「いいではありませんか。普段は任務の為に急いで飯を食う癖があるのです。こうしてゆっくり食事出来るのは久しぶりなのですから、そう目くじらを立てることも無いでしょう?」
「む、それもそうか……千寿朗、そーすをとってくれ」
「はい、父上」
俺を注意こそした父上だが、父上自身もそわそわしているのは皆分かっている。鬼殺の隊士であり、柱である俺と父上は何時死んでもおかしくない身だ。だからこそ、この何気ない日常が何よりも尊い物だと心から思うのだ。
「母上、お代わりをッ!!」
だからまずは美味い食事を腹一杯食べる事だと思い、俺は空になった丼を母上に差し出してお代わりを頼むのだった。
カワサキから受け取ったくりすます用の料理と、街によって買った酒瓶などを荷台に乗せて俺の屋敷へと足を向ける。
「おい、良いのか?俺達まで行ってよ」
「かまわねえよ。どうせこの雪だ、お前らの家族がいる藤の家まで行くのは危険すぎるだろうが」
不死川の奴が、迷惑じゃないのか? と言ってくるが、宴は派手な方が楽しい。それにこの雪の中、不死川の母や弟達がいる藤の家に行くのは自殺行為なので、俺の屋敷で一晩身体を休めてから向かえば良いだろ? と、明日と明後日が休みになっている不死川と玄弥、匡近の3人を連れて屋敷の門を潜る。
「天元様、おかえりなさい。お風呂の準備が出来てますよ」
「おう、悪いな。それと客が3人だ、布団と着替えの準備を頼む」
「分かりました。すぐに準備をしますね」
本当ならば嫁3人と一緒に入っても構わないのだが、純情な奴が多いので男連中だけで風呂に入る事にする。雪道で冷えた身体をしっかりと暖め、少し身体に残っている鬼の血の匂いもしっかりと洗い落とす。
「おら、玄弥。ちょっとこっち来い」
「え、いや、俺は香料はいいですよ。」
「血の匂いが抜けてねえんだよ。不死川達も香料を使っとけ、飯の時に血の匂いなんかしたら飯が不味くなる」
香料を使い慣れていない玄弥には俺様が自ら香料を振ってやり、何回か俺の屋敷に泊まっている不死川達は慣れた手付きで香料を振る。
「お前、こんな匂いをさせて平気か?」
「南蛮の良い香料だぞ? 少しは男の色気ってもんを持つってことを考えろよ。じゃなきゃ、俺様みたいな良い嫁さんなんてもらえないぞ!!」
まきを、雛鶴、須磨の3人は俺様の自慢の嫁だ。不死川もそろそろ良い歳なんだから嫁を貰う事を考えろというと、露骨に嫌そうな顔をする。
「俺達は何時死ぬかも分からないのに、嫁なんか貰えるか」
「馬鹿だな。嫁がいるから死んでたまるかって思えるんだよ」
大切な者は多ければ多いほうが良い。確かにそれは迷いを産むかもしれないが、それと同時に負けてたまるかと言う闘志を燃やす事にも繋がるのだから。
「それに、カワサキだって香料を使うときがあるんだぜ?」
「それこそ嘘だろ? カワサキさんがそういうのを使うとは思えねえなあ」
「俺もそう思うけど」
身嗜みを常に整えているカワサキが香料を使うなんて想像出来ないかもしれないが、何度か休みの時に飲みに誘ったが、その時は普段の地味な姿からは考えられない派手派手な姿をしていた。
「仕事と休みはしっかり分ける男だからな。信じられないなら、今度カワサキを休みの時に飲みに誘うから付いて来いよ。別人そのものだぞ」
髪を上げ香料を振り、西洋衣装に身を包んだカワサキは、その目付きの鋭さも相まって危険な色気を持っていた。カナエとかが顔を真っ赤にしてあうあう言っていたのを思い出し、含み笑いをしながら雛鶴達が準備をしてくれているであろう宴会場へと歩き出した。
「ほっほーう!こいつは派手だな。いや派手派手だッ!!!」
「……これがけーきかぁ……」
「なんか凄いね、兄ちゃん」
「本当カワサキさんって何でも出来るんだなあ」
机の中心に置かれているケーキは俺様達も見た事がない西洋の菓子であり、その周りにあるご馳走も、普段カワサキの店で出ないような料理ばかりだ。正直、西洋の偉い人間の誕生日だかなんだか分からんくりすますだが、これだけのご馳走が食えるのなら悪くないと思い、俺様は座布団に腰を下ろすのだった。
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「……生肉?」
「いや義勇、違うぞ? これはこれで火が通っているそうだ」
「生っぽいけど大丈夫だよ。刺身みたいで美味しいよ」
「……大丈夫なのか?」
「カワサキが食べれない物を出すわけがない、大丈夫だ。義勇、それは食べれる」
狭霧山の水の呼吸一門も仲睦まじく食事を楽しんでいたのだが……
「あの…なんで俺までここにいるんですか?」
「「「?」」」
「気にする事はない、お前の育手はワシの同僚だからな」
「やだ、この人達話通じない」
水の呼吸の使い手だが、鱗滝の弟子ではない村田は水柱2人に拉致されて狭霧山に来ていた。
「今度、継子試験に参加するんですよ」
「ほう…そうかそうか。あの試験は大変だが頑張ると良い」
完全に逃げ道を断たれたと悟った村田は、何故自分がこんな目にあうのだと内心涙しながらも、心から頑張れと激励してくれている鱗滝を前に喚く事も出来ず、頑張りますと小さな声で呟くのだった……
パティシエのスキルはあっても、実際に作った経験は殆どないケーキだったが…思った以上に好評だった。
「……カワサキ殿」
「言うな、分かっている行冥」
分かっていた事だが、甘い……元々修行僧の行冥とおっさん手前の俺にはケーキは甘すぎた。少し甘さ控えめのチョコケーキでもこれか…と揃って小さく呻いてワインをグラスに注ぐ。
「行冥」
「ありがとうございます」
ワインの酸味で少しましになったが、やはり俺達にはケーキは些か口に合わないようだ。
「私は苦手ですが、皆喜んでいるのは嬉しいですね」
「まあ、確かにな」
行冥が面倒を見ている孤児達に、カナエがいるからと俺の店に来たしのぶ達。それに有一郎と無一郎もケーキに笑みを浮かべている。
「美味しい……大福よりずっと美味しい……」
「でも、大福も美味しいよ?」
「行冥さんが良く買ってきてくれるじゃないか」
「う……うん。でもほら、これは珍しくて美味しいよ?」
食べなれない初めての味に興奮している者と行冥が任務の帰りに買ってくるお土産とどっちが美味しいかな? と、話をしている子供達は輝くような笑みを浮かべている。
「あんぱんは喜ばれるでしょうか?」
「今度作ってみるか?」
「……私でも出来るでしょうか?」
「教えてやるさ」
子供の為ならばなんでもする行冥だ。ハンディを背負っていても、それをやろうとする行冥を俺は心から応援するし、協力だって惜しまない。
「……美味しい」
「確かに美味い」
「これ美味しいね、兄さん」
「馴染みはない味だけどな」
スポンジケーキに生クリーム、そして新鮮な果物はこの時代では馴染みのない味だろう。美味い事は美味いのだが、反応に困っている様子の有一郎だが、その頬に生クリームが付いていて、それなりにケーキを楽しんでくれているようで良かった。
「もー、カワサキさんも行冥さんも何で離れた所にいるんですか」
「行冥様もこっちにきてくださいよ」
カナエと沙代が、俺と行冥が折角のパーティなのにどうして離れた場所にいるのかと、怒った様子で声を掛けてくる。
「誕生日に喜ばれる料理は何かって話をしていたのさ。行冥でも作れそうなのをな」
「あ、ああ。私も何か作れる物はないかと思ってカワサキ殿に相談していたのだ」
俺に口裏を合わせてくれた行冥だったが、沙代とカナエは驚きの表情を浮かべる。
「行冥さん。目が見えないのに料理をするのは流石に危ないんじゃ?」
「行冥さん、無理はしないで良いんですよ」
ちょっとフォローの方向を間違えたかもしれない。凄く心配そうな反応をされてしまった。
「まぁすぐにやるって話じゃないさ、行こうぜ行冥」
「はい」
とりあえず、パーティの輪の中に入らないと問い詰められそうだと行冥と共に楽しそうに笑っている子供達の輪の中に入る。
「あら、カワサキさんもやっと混ざってくれましたね」
「その言い方だと俺が逃げてたみたいだから止めてくれ」
ジト目のしのぶはくすくすと笑いながらケーキを頬張り笑みを浮かべる。
「自分で作った料理なんですから、ちゃんと食べてくださいよ」
「……正論過ぎてぐうの音もでねえわ」
「でしょう?」
絶対あれだな、食育であれやこれやと注意したの根に持ってるな…だが、しのぶの言うことも間違いなく正論だ。
「カワサキさん、好き嫌いしたら駄目なんだよー」
「いつも言ってるのにねー」
「好き嫌い駄目」
「カワサキさんも嫌いな食べ物あるの?」
俺に嫌いな食べ物があるのかと一気に騒がしくなる。俺は苦笑しながら取り皿にローストビーフとから揚げを取る。
「嫌いという訳では無いが…苦手な物はある」
「それ言葉遊びですよね? 嫌いなんですよね?」
……なんか今日、凄いしのぶが突っかかってくるな? もしかして酔ってるのか? ワインは馴染みがないから悪酔いしてるかもしれないな。とりあえず反論すると倍以上の言葉が返ってきそうだから、下手に反論しないようにしよう。
「甘いのは少しだけ苦手だな。だからケーキはチョコレートにする」
「あ、じゃあ私が切り分けますねー」
「おう、ありが……と?」
今気のせいか? カナエが何か白い粉をケーキに振りかけたような……気のせいか? いや気のせいだよな? うん、きっとそう。
(何かスキルが反応してるけど多分気のせい)
毒物耐性のスキルが発動しているけど、気のせいだと思う事にし、カナエが差し出してくれたケーキを口にするのだが、妙な苦味を感じて気のせいじゃなかった? と、小さく首を傾げるのだった。
「効果がないみたいね」
「大分強い薬だったんですけど……ごめんなさい姉さん」
「大丈夫、まだ機会は幾らでもあるわ」
やっぱり気のせいじゃないかもしれない……ちょっとこれから毒物耐性を解除するのは良くないかもしれないと思いながら、俺はワインを口にするのだった……
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない