【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー35 とろろ蕎麦ととろろご飯
任務もない麗らかな昼下がり。食後の緑茶を飲みながら一息ついている所にカワサキが爆弾を投げ込んできた。
「は? すまない、もう1度言ってくれないか?」
どうか俺の聞き違いであってくれと思いながらカワサキに言うとカワサキはにこりと笑った。
「日の呼吸だっけ? お前がやさぐれた奴、再現してみねえ?」
「止めろ、その言葉は俺の胸に突き刺さる」
日の呼吸に拘り、自分が駄目な人間だと思いこんでいたのはつい1ヶ月前の事だ。その時の事は己の恥と思っているので、出来ればその事に触れて欲しくなかった。
「それは判っているが、それでもだ。完全に未練を断つ必要があると俺は思うんだが……どうだ?」
「む、それは……確かに」
己の呼吸を卑下する事は無くなったが、それでも日の呼吸に対する好奇心という物は確かに残っている。本当に日の呼吸が最強だったのか? それならば何故鬼殺隊に日の呼吸が伝わっていないのか? 俺は確かにそれを知りたいと思った。
「出来るのか?」
「炎・岩・水・風・雷は日の呼吸から派生したんだろ? それならその5つの呼吸に絶対に共通する点があるはず。それを調べれば出来るはずだ」
「調べるといってもどうやって?」
話は判る。だがその方法で調べようとした隊士は今まで何人もいたが、それが成し遂げられた事は1度もない。それをどうやって調べるのか? と尋ねるとカワサキは細長い奇妙な道具を机の上に置いた。
「それは?」
「西洋にある音を録音する機械だ。これに各呼吸の音を録音してだな、それを組み合わせて全ての音が1つになる所を導き出す」
「つまり音が全て重なれば!」
「そう、それが日の呼吸の呼吸法って事じゃないか? どうだ? 試してみる価値はあるだろう?」
確かにカワサキの言う通りだ。それで再現できると言うことでは無いが、試してみる価値は十分にある。
「岩の呼吸は行冥で良いな、水は左近次殿、雷は慈吾郎殿、風の呼吸は左近次殿達と同じく育手になられた元柱がいる。彼女を呼んでみよう!」
長きに渡り謎であった日の呼吸――その正体を掴めるかも知れないと思うと年甲斐も無くはしゃぎたくなり、俺はすぐに筆と墨を用意して文を書く準備を始めた。
「おいおい、そんなにはしゃぐなよ」
「そう言われてもだな! 俺としても興味は隠しきれんッ! 本当に日の呼吸が最強だったのか、それを知れるかもしれないこの好機、逃す訳にはいかん!」
丁度育手の報告会も近い。その時に合わせて来て貰えば良いだろう、長年の謎が解けるかも知れない。その事に胸を躍らせながら俺は筆を手にするのだった。
「ほー、西洋にはこのようなからくりがあるのか」
「面白いな。どれ、もう1度やってみよう」
カワサキが用意してくれた音を録音するという機械に声を投げかけるとその音が戻ってくる。それが面白いのか左近次殿達も何回も音を録音して、それを聞くという事を繰り返していた。
「槇寿朗様。最近は調子が良いとお聞きします。私も大変喜ばしく思っております」
「下手な考え休むに似たりって言うだろ? もっと気楽にやりな。馬鹿」
行冥と風香殿のきつい言葉に俺は苦笑するしか出来ず。今回集まってくれたことに感謝の言葉を口にし、カワサキに言われた通り録音機の説明をして、日の呼吸の再現実験の話を始めるのだった……。
日の呼吸の再現実験というのは俺なりに考えた槇寿朗の日の呼吸への未練を断ち切る為の物だった。これをする事で日の呼吸に対する幻想は完全に無くなると俺は考えていた。
「伝わらなかった理由か……まぁ大体予想が付くがな」
日の呼吸が最強――と言う訳ではないのだろう。恐らくだが、最初に全集中の呼吸を生み出した人間が使っていたから最強と言われたのだろう。だがそれは、きっと荒削りで呼吸としての精度は決して高くない物だったと俺は考えている。だがその荒削りの部分がより強く、そして全集中の呼吸を使えない相手から見れば最強に見えたのだろう。全集中の呼吸があって鬼と互角に戦える、全集中の呼吸が伝わる前の事を考えれば最初の全集中の呼吸の使い手は希望の兆しであっただろう。
「鬼を倒せる手段が増えた。そう考えれば、最初の呼吸である日の呼吸が最強というのはある意味間違いではないのだろうな」
全集中の呼吸が広がる前は何十人も犠牲にしてやっと鬼を倒せたという。それも、夜明けまで粘っての物で決して己の実力ではない。そんな中で鬼と真っ向から戦うための技術である日の呼吸は最強に見えた事は間違いない。人間が鬼に勝つ手段の希望となったことを想像するのは容易なことだ。しかしだ、そんな希望も技術が磨かれ、様々な技が作り出されたことで旧式の技となったのではないか? そう考えれば今鬼殺隊に伝わっていないのは荒削りで反動や負担の大きい、日の呼吸を伝える必要はなかった。だから日の呼吸は鬼殺隊に伝わらなかったと俺は考えた。だから日の呼吸に対する過度な希望を断ち切る為に、ラジカセを用意し、呼吸の音を録音し、その音が重なる所を調べ、日の呼吸を再現することを考えたのだ。
「まぁ、もう1つ考えられる事はあるが……な」
未熟で荒削りだから鬼殺隊に伝わらなかったと俺は考察したが、もう1つ――考えられる可能性はある。それは日の呼吸の使い手の身体能力が高すぎて他の人間が真似できなかった……と言う事だが俺は小さく笑った。
「まさかそんなに化け物みたいな人間はいないだろう。うん」
他の人間が真似できないほどの身体能力を持つそんな化け物みたいな人間はいないだろうと笑い、鍋の中に視線を向ける。
「良し良し、いい具合っと」
鰹と昆布で取った出汁を2つに分けて、1つの鍋には醤油、みりん、砂糖を加えてそばつゆにし、もう1つはそのままにしておく。
「いやこれはマジで良い蕎麦だなあ」
左近次が土産で持ってきてくれた蕎麦は俺から見ても最高の品、そして慈吾郎が持ってきた自然薯も長い上に太く、最高の品というのはすぐ判り、今日の昼飯はとろろご飯ととろろ蕎麦に決めたのだ。
「よっと」
自然薯はまず流水で綺麗に砂を洗い流して、布巾で綺麗に水気を拭う。そしたら今度は火の上に軽く翳して根っこの部分を焼く、これによってすり鉢ですっても細かくなりにくい根っこを綺麗に除去する事が出来る。
「これは間違いなく最高だなあ」
おろし金で1回丁寧に自然薯を摩り下ろし、最初に作っておいた出汁と醤油を加えて軽く混ぜ合わせてから大きなすり鉢を準備する。
「よいしょっと」
まずはとろろの半分をすり鉢の中に加え、割っておいた10個の卵の半分と少量の出汁を加えてすりこぎで更にすり潰す。おろし金だけでは大きな塊も残ってしまうので、こうしてすり鉢を使う事で更にふんわりとした仕上がりになる。
「良し、良い具合だな」
最初に出汁を加えすぎると上手く混ざらないので暫くすり潰して調味料が良く混ざった所で、残りの卵と出汁を加えやわらかくなり過ぎないように良く混ぜたらとろろの完成だ。
「うっし行くかあ」
麦飯も炊けたし、蕎麦も良い具合に茹で上がった。1度休憩を兼ねて昼食にする事にし、俺は道場に足を向けた。
「こことここが重なったな。後は」
「やはり水と炎は古い呼吸だからな、すぐに合致点が見出せたか。次は雷と風と岩か」
「あいわかった。ではもう1度」
「では私も」
「音が重なってくると楽しいじゃないか」
なんか子供みたいにキラキラした目で、庭で型の動きと合わせて呼吸の音を録音している槇寿朗達を見て、俺は手を叩いた。
「熱心なのはいいけど、少し休憩だ。昼飯の時間だ」
俺がそう言うと槇寿朗達は1度録音作業を止めて、昼飯はなんだと良いながら道場の中に上がってくるのだった。
最近鬼殺隊でも名前の知れてきた男。カワサキが作る昼飯というので正直私は期待していたのだが、用意されていたのはとろろ飯ととろろ蕎麦だった。
(なんだい、つまらないね)
西洋や中国の面白い食事を作ると聞いていたのに正直少し落胆した。
「とろろ蕎麦ととろろご飯を用意してる。好きな方を言ってくれ」
「とろろ蕎麦ととろろご飯。大盛りでな!」
「ワシはとろろ蕎麦。左近次は?」
「とろろご飯にする」
槇寿朗達は文句も言わず食べたい物を告げて、カワサキから料理を受け取っている。
「えっと風香さんでしたね、なんにします? まあとろろ蕎麦とご飯しかないんですけど」
「とろろご飯にするよ。食べられそうだったら蕎麦も貰う」
注文すると炊き立ての麦飯の上にたっぷりととろろを掛けて、刻んだネギと海苔がたっぷりとかけられた丼が差し出される。
「ありがとよ」
それを受け取り、道場の床にどっかりと座り箸を手にする。
「いただきます」
粗末な食事でも作ってくれたものに対する感謝は忘れない。手を合わせていただきますと口にして、丼を持ち上げる。
「美味い! なんだ、ずいぶんとまろやかだな!」
「確かにな!」
何時になっても槇寿朗はやかましいと思いながら麦飯ととろろを流し込むように口にした。
「……なんだこれは」
とろろ飯とは思えなかった。滑らかなとろろの食感と歯応えのいい麦飯の食感が実に丁度良い。
(それにこれは卵か……出汁の風味も凄いじゃないか)
卵の風味と濃い黄身の味…それととろろの味を1つに繋げている出汁の香り――この出汁も丁寧に引かれているのか鰹と昆布の香りがふわりと鼻をくすぐる。
「なるほど…良い腕をしている」
単純な料理だからこそ判る。最初はただのとろろご飯と思いきや、滑らかになるほど丁寧にすりおろして卵と出汁を丁寧に丁寧に混ぜ合わせている。滑らかなとろろと共に麦飯を飲み込むように食べ終え、空の丼を手にカワサキの元へ向かう
「とろろ蕎麦も貰えるか?」
「すぐ準備するな」
平皿に蕎麦をいれて、その上にとろろとかけつゆ、仕上げにネギと海苔が散らされたとろろ蕎麦を受けとる。
「日の呼吸の再現は少し時間が掛かる。今度はもう少し馴染みの無い珍しい物を食わせてくれ」
驚いた顔をするカワサキだったが、判ったと返事を返してくれた。
「これも美味いな。なるほど」
蕎麦は鱗滝が持って来たものだから間違いが無いのは判っている。だがそれを更に良い味にしているのはカワサキの一手間である事は間違いない。とろろと蕎麦をたっぷりと絡めて啜る。
「美味い」
決して派手では無いがじんわりと美味い。食べているだけでホッとする……そんな味だ。いまの私は良い弟子が居らず、最終餞別のやり方が変わったことや、カワサキが料理を振舞っているという事を人伝で聞いていただけだったが、食べてみて納得した。
(落ち着くな、業腹だが)
親が作ってくれた料理を思わせる優しい味――そして活力にもなる。これを食べていれば、死にたくないと思うのと同時に、絶対に生きて帰るんだという活力にもなる。
(お館様の判断は間違いでは無かったか)
流しの料理人を抱え込んだと聞いた時は正気か? と思った。しかもそいつが鬼殺隊の料理番になると聞いて、お館様も耄碌したか? とさえ思った。だがそれは料理人とカワサキを一緒に考えていた
「どうだ? カワサキの飯は美味いだろう?」
「ああ、美味いな。まさかこれほどまでとは思わなかった」
飯なんてものはただ食べることが出来ればいいと思っていた。味が良ければなお良いが、不味くても良い程度に考えていた。だけどその考えも改めないといけないかもしれない。
「変わったな、時代が」
ちりんっと揺れる風鈴の音を聞きながら、私は心からそう思った。それと同時に今回の試みの本当の理由にも見当が付いていた。
(古い物は古い物と割り切ることか)
今の隊士はどうだが知らんが、名家と言われている鬼殺の隊士の家には日の呼吸に対する記述もある。それを神聖視し過ぎて修める事の出来ない技術と思い悩む事ほど愚かなことはない。カワサキは科学的な観点から既に日の呼吸は古い物としたいのだろう。いま自分たちの目の前にある物を、受け継いできた物を大切にしろと言いたいのだろう。
「変わるね、鬼殺隊は」
変な話だが、鬼殺隊は古い考えに凝り固まっている。便利だというのなら銃を使えば良い、刀で戦えないのなら槍を使えばいい、自分に合わせ、新しい形に変わっていく必要がある。私はそう考えていた、だが明確にどうすればいいのか? と訴えるのは難しい。これは鬼殺隊だからこそ、何故新しいことに拘る? と言う事に繋がるからだ。だがカワサキは違う、自分の考えでそして鬼殺隊に関係する者ならば思いつかない方法で新しいことを提案する。これは鬼殺隊に無かった風を吹き込むことになる……私はそう思い、小さく笑うのだった。今まで名家名家で、自分達の意見を強引に通していた連中が慌てふためく姿が脳裏に浮かんだからだ。
「ざまあみやがれ」
私も女だからと随分と軽視された。それでも柱になり実力で黙らせてきたが、若い女の隊士なども酷い扱いをされていることもあるだろう。そういう悪しき習慣が一掃される風にカワサキがなってくれることを私は心から祈るのだった……。
メニュー36 石焼ビビンバ へ続く
とろろ蕎麦ととろろご飯と言う事で今回は短めの話となりました。日の呼吸に関しては原作などは関係無しで、カワサキさんなりに考えた結果となるので原作とは違うと言うのはご了承ください。次回は猫の宅急便様のリクエストで「石焼ビビンパ」になります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない