【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃   作:混沌の魔法使い

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メニュー36 石焼ビビンバ

メニュー36 石焼ビビンバ

 

カワサキ殿が用意してくれた音を録音するという西洋のカラクリ――5つ並んだそれから炎・水・雷・風・岩の呼吸の音が響く、最初は雑音ともとれる音でそれが徐々に1つになっていき、最後の方には1つの呼吸の音になった。

 

「これか……これが日の呼吸か」

 

「……なんとも穏やかで、そして力強い音か」

 

「本当に1つになるもんだねえ」

 

5つの呼吸の音はその全てが異なる。それが1つになったその音はまるで包み込むような暖かさを持ち、寄り添うような奇妙な音を立てていた。

 

「しかしじゃ、これは……無理じゃろう?」

 

「ああ、これは使えない…使う事を考える事ですら厳しいぞ」

 

全ての呼吸の型を使う際の最大の呼吸の音――それらを1つに重ねるというのは不可能に私に思えた。

 

「もしこの中で使えるとしたら、行冥と槇寿朗か。駄目元でやってみるか?」

 

「では私が」

 

この中で1番若い私が挙手し、左近次殿達から簡単に呼吸の指導を受けてから呼吸を始める。

 

「最初は水だ、どんな形にも変わる水から入る」

 

ヒュウウウウ……とまるで風が逆巻くような呼吸音が私の口から零れ、それと同時に大きく吸い込んだ空気が肺を大きく膨らませる。

 

「吐きながら鋭く呼吸を変えるんじゃ」

 

慈吾郎殿の助言を聞きながら徐々に呼吸の音を変えながら、息を吐くヒュウウウウ……という音が少しずつシィィイイっと言う鋭さを帯びた音へと変わる。

 

「そのままだ。そのまま、嵐のように大きく息を吐ききれ」

 

額から汗を流しながら風香殿の言葉に従い呼吸の音を更に意識して変えるシィィイイという音がシイアアアアに変わり始めた時。呼吸の音が変わった5つの音が重なった穏やかだが、厳しさを兼ね備えた音へと変わり始め、岩の呼吸に入ろうとしたその時だった。穏やかだったそれが私に牙を剥いた、まるでお前にはその資格がないと言わんばかりに、龍の逆鱗に触れたかのように私の中で空気が暴れ出した。

 

「げほっ! ごほっ! ごぼあっ!!」

 

身体が中から破裂すると思うほどの激痛に私は激しく咳き込み、その場に膝を突いた。

 

「ぎょ、行冥! 大丈夫か!?」

 

「げほっ……うぷ……だ、大丈夫です……」

 

槇寿朗様に大丈夫と返事を返しながらも私は立ち上がれなかった。

 

「やはりか……どうもカワサキの推測は正しかったようだな」

 

「ああ。日の呼吸は最強ではなく……未完成の物だったということか」

 

カワサキ殿の推測――それは当時の環境ではないか? と言う物だった。日の呼吸が最強ではなく、初めて鬼と有利に戦える術だったから最強と思われたのではないか? 不完全で、そして最初の全集中の呼吸の使い手のみが扱えたそれを、皆に使えるように、そして安定性を高める為に5つの流派に分けたのではないか? というのがカワサキ殿の考えだった。

 

「……俺もやってみよう」

 

「し、槇寿朗様……危険」

 

「いや、やって見ねば、納得が出来ん。初代炎柱が何故、日の呼吸を最強としたのか、俺はそれを知りたい」

 

私と同じ様に水、雷、風、岩と呼吸を繋げていく槇寿朗様。額から大粒の汗が流れ、そして最後の炎の呼吸に入った瞬間。全ての呼吸が1つになった音が零れ……。

 

「げほっ! ぐふう……な、なるほど……これは……きついな」

 

「槇寿朗! 大丈夫か!?」

 

「水、水だ! 風香、水を!」

 

「言われなくても判ってる!」

 

槇寿朗様も膝を着いて大きく咳き込んだ。音でしか私は判断できないが、左近次殿達の慌てようから不味い状況なのは良く判った。

 

「ははっ! いやいや、なるほどなあ」

 

槇寿朗様の楽しそうな声が響いた。しかし、その声には底冷えするような殺意のような物が混じっていた。

 

「カワサキが言っていた。太陽に近づきすぎれば地に落ちる……なるほど、その通りだ。だがしかして……諦める事叶わず」

 

「おいばか! 止めろッ!」

 

「ここで隊士としての命を終えるつもりか!?」

 

再び呼吸を使う槇寿朗様を止める左近次殿達だったが、風香殿は違っていた。

 

「やらせてやりなよ。この石頭は自分の限界を知らない限りは諦めないさ。初代炎柱が最強と謳った日の呼吸がどんな物か知りたい、その上で隊士として終わっても本望って言うならとめられない。そうだろ?」

 

 

「ふっ、流石良く俺を判ってらっしゃる」

 

「うるせえ馬鹿。その餓鬼みてえな石頭をもう少し緩めな」

 

「出来たら、こんな不器用な男には育っておりません」

 

誰が言っても槇寿朗様は止まらないのだろう。それならば見届けるしかない……左近次殿達の離れる気配がし、道場に槇寿朗様の呼吸の音だけが響き続けるのだった……。

 

 

 

 

 

風香さんに言われた少し手の込んだ料理と色々考えたが、まずは仕込み時間の問題で煮込み料理とかは無理。中途半端なビーフシチューなんて物は俺のプライドが許さない。かといっておかずを多数作るのもなんか違う……何か思いつかないかなあと思って戸棚とかを開け鍋とかの確認をしているとある物が視界に入り込んだ。

 

「……決まりだけど、あれが出来てるか確認しないとな」

 

何故か大量に買い込まれていた土鍋。しかもご丁寧に大きさまで異なるそれを見て、何を作るかを決めた。そうと決まれば、別の戸棚から壷を取り出して蓋を開ける。

 

「……うし、OK」

 

綺麗に漬け込まれた白菜のキムチ。辛さだけではない、たっぷりと旨みが出ているそれを味見して、作ろうとしている料理が出来ると確信し、早速調理に取り掛かる。

 

「もやし、ほうれん草、それと……お、あったあった」

 

灰汁抜きされているゼンマイを見つけ、これも使う事を決める。

 

「せいや」

 

バラバラの鍋でもやし、ほうれん草、ゼンマイを放り込み、茹でている間に手早く調味料の準備を始める。

 

「えーっと……確か」

 

アイテムボックスを開き、調味料を探す。目的の物はすぐに見つかった、ダシダと言う韓国の出汁の元みたいなそれを取り出す。

 

「ごま油、塩、ダシダ」

 

ボウルの中に完全で目分量で調味料を入れて混ぜ合わせる。感じとしてはごま油とダシダが同じ量で、塩は気持ち少なめ程度でいい。

 

「ほっと」

 

作った調味料を3つに分けて、1つは追加で醤油、もう1つはおろしにんにくとしょうがを加えて混ぜ合わせて漬けダレを手早く3種類仕上げる。丁度そのタイミングで茹で上がったので、もやし、ほうれん草、ゼンマイの水気をしっかりと切って、もやしはごま油と塩、そしてダシダのボウルの中に加えて軽く和える。ほうれん草は3等分にして荒熱が取れてから醤油を加えたもので和える。そして最後のゼンマイは3cmくらいで切り分けておろしにんにくを加えたタレと和えてサッと炒めて香りを立てる。

 

「うん、良い感じ」

 

手早く作れるのにナムルって韓国って感じがする料理だよなと思いながら仕上げた3色ナムルに蓋をする。

 

「えーっと……」

 

牛肉と豚肉の切り落としがあったので、これを鍋の中に入れて軽く湯通しする。そのままでも良いのだが、1回茹でて脂を落としておくと味がつけやすくなる。下茹でした牛肉と豚肉の切り落としを流水で洗ってザルに上げて、白菜のキムチと人参を千切りにする。

 

「ほいっと」

 

鍋の中に油を入れて人参の千切りを塩胡椒でサッと炒めて皿の上へ移し、今度は卵を割ってよく温めた鍋の中に流し込み薄焼き卵を作る。

 

「よし、次っと」

 

薄焼き卵の荒熱が取れるまでの間に下湯でした牛肉と豚肉を食べやすい大きさに切ってから鍋の中に入れ、醤油、酒、みりん、コチュジャンを大さじ1砂糖を小さじ1加え、おろしにんにくとしょうがを加えて水気が飛んで肉に良く絡むまで炒めたら、火の上から退かす。

 

「槇寿朗と行冥は大盛りで良いよな。後は普通で良いか」

 

準備さえ出来ていればすぐに作れるから絶対大盛りの2人以外は小さめの土鍋で仕上げる事にする。

 

「油を塗ってっと」

 

土鍋の中に刷毛でごま油を丁寧に塗りつけたら火に掛けて、土鍋が熱々になるまで暖める。これを5つ同時に行う、こういう時竃って案外便利だよな。

 

「準備完了」

 

良く温まったら1度火を止めて、ご飯を均等になるように土鍋の中に入れる。しゃもじで均等に広げたらご飯を少し土鍋に押し付けて、焦げ目を軽くつける。そしたら土鍋の縁の方から刻んだ錦糸卵、3色ナムル、人参、そして牛肉と豚肉を彩を考えて盛り付けご飯を綺麗に覆い隠し。真ん中の空いている部分に刻んだ白菜キムチを盛り付けて強火で3~4分加熱したら火を止める。後は余熱で美味しいおこげが出来ている筈だ。

 

「カワサキ特製土鍋ビビンバって所だな。良し、持ってくか」

 

温かい内に食べてもらおうと思い。蓋をした5つの土鍋を配膳台の上に乗せて道場に足を向けるのだった。

 

 

 

日の呼吸の再現は現状では不可能という結論が出た辺りで昼前だったのでカワサキが料理を持ってきてくれるのを待ちながら、何故失敗したのか? という事を全員で話し合っていた。

 

「根本的な肺活量が弱いのではないでしょうか?」

 

「後は体格かもしれんな」

 

カワサキの訓練で並みの隊士、いや柱よりも強い肺活量を持つ行冥と槇寿朗でも無理となるとやはりそこが問題だと思う。

 

「後はあれだね。やっぱり不完全な呼吸って線があると思うよ」

 

「しかし手記では……最強の御技とありましたが」

 

「そこなんじゃが、型じゃないのか? 呼吸は不完全だとしても型の完成度が高かったのではないか?」

 

不完全な型でありながら、いや、むしろその不完全な呼吸を生かすために卓越した剣術があったのではないか? とワシが言うと左近次もそれに同意した。

 

「ワシも慈吾郎の意見に賛成だ。呼吸ではなく、剣術が最強だったのだろう」

 

「最初の呼吸となると精度も甘いだろうしねえ……戦国時代で考えれば剣術って線は濃いね」

 

納得して無い雰囲気の槇寿朗だが、あれだけ繰り返し、そしてまともに動けないとなると体格や骨格が第1、次に剣術が強かったという線がかなり濃いと思う。

 

「うーい、お待たせー昼飯だぞぉ」

 

カワサキが台車の上に土鍋を乗せて入ってきた。……ん? 土鍋?

 

「土鍋? 鍋料理でも作ったのか?」

 

「ふふふ、それは開けてからのお楽しみだ」

 

カワサキはそう言うと鍋敷きを机の上に乗せて、その上に土鍋を1つずつ乗せる。

 

「縁はここな、どうだ、大丈夫そうか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

行冥の為に鍋の周りを叩いて鍋の大きさを教えるカワサキ。行冥は目が見えない分聴力が鋭く、あれだけで感覚や間合いが判ると言うのは正直に凄いと感心する。

 

「珍しい料理って言ってたけど、炊き込みご飯かい? ん、これは」

 

「韓国の料理で石焼ビビンバという料理になる。匙で下から引っくり返して混ぜながら食べてくれ」

 

土鍋という事で鍋料理かと思えば肉や野菜がたっぷりとのせられた飯料理だった。言われた通りに匙を手にして、釜のご飯を混ぜるような感じで下から引っくり返す。

 

「「「おおッ!」」」

 

綺麗なおこげがついたご飯が姿を見せる。ごま油の香ばしい香りとおこげを見ればその美味しさが伝わってくるようだ。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

作ってくれたカワサキへの感謝の言葉を口にして匙で米を持ち上げると具材が共に持ち上がってくる。

 

「見た目はちょっとあれかもしれないが、味はいいぞ」

 

最初の見た目からすれば下から混ぜ合わせたことで見た目は悪くなったが、それも仕方ないだろうと思い米と野菜を口に運んだ。

 

「美味い! なんだこれは、面白いな」

 

「確かに……これは美味い、そして面白い」

 

色んな野菜を混ぜ込んだ事で食べていると色んな味が姿を見せる。しかも味付けが異なっているので、口の中で味が変わるのが面白い。

 

「ふっふー……辛ッ!?」

 

「ああ、キムチは辛いぞ?」

 

しれっと言うカワサキ。だが辛い物を普通に混ぜないで欲しいのだが……と考えながら混ぜて匙を持ち上げる。

 

(これか!?)

 

赤い白菜の漬物……見た目からして辛そうだ、しかもその上に酸味のある独特な香りがする。

 

「いや、美味いじゃないか。うん、これくらいの辛さなら気にならないね」

 

風香は普通に食っているな……それを見てワシも口に運んだ。最初に感じたのはやはり辛味だ、舌を刺すような辛さ。しかしかみ締めていると白菜のしゃきしゃきした食感と香ばしい米の味でその辛さはあんまり気にならなくなる。

 

「美味い! なんだ、槇寿朗はこんなのが辛いというのか?」

 

「まだまだだな」

 

「むう……苦手な物は苦手なんです」

 

辛い物は苦手だと言って匙を持ち上げて大口を開けて頬張る槇寿朗。少しいじけているようなその素振りにいい年をした大人が何をしていると苦笑する。

 

「これは……美味い。カワサキ殿、この肉は一体?」

 

「豚と牛肉、それを甘辛く炊いたもんだな。ピリ辛で美味いだろう?」

 

「はい、とても美味しいです」

 

肉? ああ、そういえば最初に見たなと思い匙を動かし、肉と米を持ち上げる。

 

「時雨煮か」

 

「これは良いな。飯に良く合う」

 

濃い茶色になるまでしっかりと煮られた牛肉と豚肉、これは確かに美味そうだ。米と一緒に口にすると醤油と砂糖の甘辛い味が口一杯に広がり、ほんの少しの辛味が味に締りを加えている。

 

「美味い。これはこのまま飯の上に乗せても美味そうだ」

 

「そうだな。食欲のない時にも良いだろう」

 

甘辛い味に加えて肉なのに、思ったよりも脂っぽくない非常に食べやすい味付けをしている。これは握り飯とかに入れても美味いかもしれない。

 

「カワサキ! お代わりだ。今度はキムチはいらんぞ!」

 

「私もお代わりを」

 

あれだけ食べてお代わりかと思いはしたが、この甘辛く、様々な味がするビビンバは確かに美味い……。

 

「ワシも少なめで貰おうか」

 

「ああ、これは美味い」

 

少し食べすぎかと思いはした物のもう少し食べたいと思い、ワシと左近次もお代わりをカワサキに頼むのだった……。

 

 

 

 

 

 

夕暮れに照らされた煉獄家の道場――その中で座禅を組んでいる槇寿朗。その仕草自身は呼吸の鍛錬をしているように見えていたが、槇寿朗の口から零れる音は煉獄家に代々伝わる炎の呼吸の物ではなかった。もっと強烈に、そして激しく燃え盛る炎を連想させる呼吸の音――それが夕暮れの道場の中に響き続ける。息が止まり、もう1度と槇寿朗が息を吸い込もうとした時道場の扉が開かれた。

 

「父上! そろそろ夕食の時間ですよ!」

 

呼吸を更に深めようとした時、杏寿朗が道場の中に入ってきて、槇寿朗は閉じていた目を開いた。

 

「そうか、もうそんな時間か。すまないな」

 

「いえ! しかし父上、今の呼吸は一体?」

 

「聞いていたのか?」

 

「お邪魔しては申し訳無いかと思ったので、申し訳ありません」

 

「いや、別に怒っている訳では無い。興味を持つのは当然だ、あれはそうだな……新しい呼吸とでも言っておくか」

 

「なんと! 新しい呼吸ですか!? なんと言う呼吸なのですか!?」

 

「今だ完成とは言えぬ、未完成な物だ。何れ完成した時にはお前にも見せてやろう」

 

「はい! 楽しみにしております!!」

 

太陽には届かぬ、しかしてまだなお伸ばす事を諦める事が出来ぬ。人の思いを願いを背負い燃える炎ははるか頂を目指す事を未だまだ諦めず……。

 

 

メニュー37 クリームシチュー  へ続く

 

 




次回はオリジナル回になります。桃先輩が死んだと思ったカワサキさんVS童磨をやっと書いて見たいと思います。カナエさんの生存とかのイベントにも関わる話なのでややシナリオメインになりますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

カワサキさんがオラリオにいるのは……

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